ネタバレ:大人気暴力ヒロインの登場
『破邪六相は、領域能力を発動した。
破滅が世界に満ちる……領域内のプレイヤー・LVが制限された!
消滅が世界に殉じる……領域内のプレイヤー・治療が制限された!
法滅が世界に奉じる……領域内のプレイヤー・職業が制限された!
撃滅が世界に命じる……領域内のプレイヤー・能力が制限された!
灰滅が世界に爆ぜる……領域内のプレイヤー・交渉が制限された!
滅滅が世界に癒える……領域内のプレイヤー・変動が制限された!』
大量のメッセージが流れ出して、ウィンドウに溶け落ちる。
『破邪六相は、静かに祈り始めた……破滅願いのカウントダウン!』
空に浮かび上がる24:00:00という表示、1秒後には23:59:59へと変じる。なにが起こるのかはさておき、24時間の制限時間が設けられたことは、誰の目から視ても明らかだった。
「初手、強制下降補正かよっ!! カウントダウンまでついて、お得ですね♡
って、誰も望んでねーんだよ!!」
ボクのツッコミに対して、初撃の生き残りたちから阿鼻叫喚が上がり始める。
「おい!! 俺のレベル、5にまで下がってるんだけどっ!?」
「僕のポーション、全部、腐ってるんですけどぉ!? 不良品ですか、コレぇ!? お金、返してぇ!?」
「はぁ!? 私、上級職から初級職に戻ってるんだけどぉお!? このクソゲーで、ココまで職業レベル上げるのに、どれだけ時間かけたと思ってんの!?」
「待て待て待てぇ!! 一部の能力、発動すらしねぇぞ!? クールダウンタイムとかってレベルじゃねぇ!! まず、発動しないんですけどもぉ!?」
「外部とのチャットが繋がらなくなったぞ!? そもそも、アイテム交換ウィンドウが開かねぇ!!」
「かかってた上昇補正、全部、消えたんだが……かけ直しても、かかる気配がないんだが……?」
下降補正の効果なのか、ありとあらゆるプレイヤーに対して“有利行動”が制限されているらしい。24時間という制限時間も相まって、早々に諦めたプレイヤーが『クソゲーしようぜ!!』と叫んで愉悦を始めていた。
「み、ミナト、どうすんのよコレ……?
お、おうち、かえ――なんで、おうち、燃やしたのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「う、うん……ごめんね……」
ガン泣きしながら、服裾を引っ張ってくる先輩は、涙目でボクのことを見上げた。小さな子をいじめて喜ぶ趣味もないので、頭を撫でて落ち着かせてあげる。
「とりあえず、プレイヤーを統率するのは後かな。アドレナリンまみれのアイツらを、数人、適当にぶっ殺しても言うこと聞かないだろうし。
あのワールドボス……破邪六相だか知らないけど、一発目にぶちかまされて、精神的優位に立たれたのは痛いね。でも、ボクは痛くないから無問題♡」
勇猛果敢に破邪六相に挑んでいくプレイヤーもいたが、無策であるがゆえに、ぷちぷちと指で潰されていた。あたかも、アリを潰すかのような無残さで、そもそも攻撃が届いてすらいない。
「…………」
指を動かして作業していると、不安気な先輩に腕を引っ張られる。
「ミナト? なにしてるの?」
「ん~? ちょっとね」
ボクは、チャット欄に書いた『運営:初撃ボーナスで、貢献値100ポイントGETとなります♡ 頑張って、攻撃してくださいね♡』という文字列を見せつける。
「え? 初撃ボーナスなんてあるの?」
「あ? ねぇよそんなもん♡」
満面の笑みを浮かべたボクに、先輩は「……は?」と口を開ける。
「勘が当たったの♡ ボクたち、公式Vtuberとして、今回のイベントの運営委員に任命されてるでしょ? ある程度の統率が取れるように、チャット欄では、運営扱いされたりするんじゃないかなって」
「あ、本当だ、文字色が変わってる……」
適当に先輩が打った文字列が、同じようにして、運営を示す赤色の文字に切り替わっていた。
「なので、嘘情報流して、兵隊に突っ込ませてるの♡ もうちょっと、ボスの行動パターンを視ておきたいしね♡」
「人の命をなんだと思ってるの……?」
「リサイクルできないゴミ♡」
ファイナル・エンド・プレイヤーは、不燃ゴミどころか処理場から引取り拒否される厄介ゴミなので、クソゲー内で処分できるなら処分しておくべきである(マハトマ・ガンジー)。
ボクは、次に『運営:諸注意。ミナトおよびくぎゅー、両名の運営委員への攻撃もしくは敵対行動と見做される行動をとった場合、本イベントの貢献値が大幅にマイナスとなります。荒らし目的と見做される攻撃/キルが多発した場合は、該当プレイヤーのIDをBANする処置を行う可能性もあります。ご留意ください』……長文を書いて、数分ごとに繰り返し送信した。
「とりあえず、コレで救うべき命は全て救った♡」
「最初に死ぬべき人間が、命の選別を行うなんて皮肉すぎない?」
『運営:くぎゅー殺害ボーナスイベントを開始します』
土下座した先輩の頭を足の裏で愛でてから、文章を消したボクは動き始める。
さすがのファイナル・エンド・プレイヤーでも、BANには逆らえないのか、内なる殺意を抑えながら道を開けた。
殻ごと温泉卵を貪り食っていた害悪プレイヤーたちは、口の回りを黄身でべとべとにした状態で、無表情のままボクたちの横断を見守る。
「「「「「…………」」」」」
「ミナトぉ……! ミナト、こわいよぉ……!」
「しっ、視ちゃダメ! 害悪プレイヤーなんか視たら、SNS上でのマウント合戦にマイナス補正が付くようになっちゃうわよ! 上手いのは台パンと誹謗中傷だけで、書類送検RTAで競ってるような連中なんだから!」
くちゃくちゃと、口の中で殻を舐め回しているプレイヤーたちは、蒼ビット粒子のついた武器を引きずりながら姿を消した。
恐怖で、ボクの下腹部に抱き着いたまま移動している先輩は、ボロボロと涙を流しながら訴えかけてくる。
「ミナトぉ……どぉして、害悪プレイヤーは生まれるのぉ……そも、なぜ、人は生きねばならない……世界は、斯くも欺瞞に溢れているのか?」
「クソゲーがァア!! 恐怖のあまりに、先輩が、幼児通り越して似非哲学者みたいになっちまっただろうがァ!! 絶対に許さねぇからなァ!!」
「あれ?」
憤怒に燃えているボクを、道角から、ひょっこりと可愛らしい笑顔が覗く。
「もしかして、ミナトおねえちゃん?」
肩の辺りまで伸びている白銀の髪の毛、純白の修道服を来て、逆さ十字を身に着けた少女は、往来にぴょんっと飛び出して九字を切った。
「かっぷんか~!」
笑顔のエレノアは、片手を上げて――
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! エレノア様だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ボクは、先輩に抱き着いて、恐怖の叫び声を上げた。