検索欄に『運営の○し方』と打ち込むまでがチュートリアル
「ミナト! ばかっ! あんなのと正面切ってやり合ってんじゃないわよ!! あっちは、ファイナル・エンドで、PK一筋でやって来たプロフェッショナルなのよ!?」
「だいじょうぶ♡ ボクは、先輩一筋だよ♡」
先輩のちっちゃい手で、腹を殴られる。
「そんなことよりも、イベント情報の事前告知とやらを見ようよ。
ボクたち、公式Vtuberなのに、前もって詳細情報が流れてこないのおかしいよね♡ 死ね、運営♡」
温泉街に設置されているレトロ風・大型ディスプレイの前には、たくさんのプレイヤーたちが集まっていた。
運営の告知を楽しみにしているのか、どことなく浮足立っていて、そこら中からひそひそ話が聞こえてくる。
「なんの事前告知かな? ワールドボスの詳細?」
「イベントの参加報酬とかじゃないの?」
「案外、参加方法を話して終わりじゃね? ファイナル・エンドだし」
人溜まりの中で、噂話に耳を澄ませていると――急に、ディスプレイが点灯して、クラウドの姿が映し出される。
『諸君、お待たせし――』
「死ね、クソ運営がっ!!(歓迎の挨拶)」
「まだ、慰謝料振り込まれてねーぞ!!(歓迎の挨拶)」
「そのきたねぇ面ごと、クソゲー修正しろや!!(歓迎の挨拶)」
「ゲームだけじゃなくて、テメーの頭もバグってんぞ!!(歓迎の挨拶)」
「告知内容は『私の頭はおかしいです』か!? 知ってんだよ!!(歓迎の挨拶)」
大量の温泉卵が空中を飛び交って、あっという間に、ディスプレイが黄身だらけになる。武器を携えたプレイヤーたちは、ディスプレイを破壊しようと駆け寄って、とんでもない勢いで叩き始めた。
『…………』
ディスプレイの上部から、ミニガンが生え出てくる。
ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
「「「「「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」」」
光の明滅と共に、雨あられ、弾丸が降り注ぐ。頭やら手やら足やらが弾け飛んで、蒼ビット粒子と化したプレイヤーは消え去った。なにもしていない善人たちも巻き込まれ、ボクのようなクソ感知能力をもつ者だけが難を逃れる。
先輩を抱き抱えて、遮蔽物に身を隠していたボクは、弾痕と静寂が佇む街並みを眺める。
ディスプレイ上のクラウドは、満面の笑みを浮かべた。
『you BAN』
「炎上の能力者か、コイツ……?」
泣いている先輩をあやしながら、ボクは、生き残った少数と一緒に画面を見上げる。
『では、早速、今回のイベントの告知を行おう。
イベントへの参加方法は、実に簡単、ワールドボス出現時に温泉黄金郷に存在していれば良いだけだ』
髪を掻き上げたクラウドは、背中の大剣の位置を調整しながらつぶやく。
『ワールドボスは、諸君が今まで戦ってきた敵とは違う。恐ろしく強い。仲間割れをして、倒せる相手ではないことを理解して欲しい。ファイナル・エンド・プレイヤーの絆が試されるというわけだ』
「絆とかいう要素が、このクソゲーに実装されてるわけねーだろ♡」
ボクの声が届いているわけもなく、クラウドは話し続ける。
『ワールドボスは、HPの消耗率が25%、50%、75%に達した際に“特殊行動”をとる。対するプレイヤーたちは、その特殊行動に対する対応策を考える必要性があるだろう。
そのため、黄金御殿の頂上に簡易的な集会所を設置した。入室できる人数には限りはあるが、好きに使ってくれても構わない』
彼女は、肩を竦める。
『今回のイベントの運営委員として、公式Vtuberの『ミナト』と『くぎゅー』を割り当てている。彼女らは、イベントを盛り上げるだけではなく、ワールドボス討伐においても多大な貢献を上げてくれるだろう。
ちなみに、イベントの報酬だが……ワールドボス討伐において、最も功績を上げたプレイヤーには、誰もが欲しがる垂涎の代物を用意した。もちろん、別途、参加報酬も用意しているので楽しんで欲しい』
「なんか、割と普通のイベントになりそうだね♡ たのしそう♡」
「そうね、案外、拍子抜けかも」
泣き止んだ先輩は、嬉しそうに笑う。
「ファイナル・エンドのことだから、ヤバいイベントになるかもしれないって思ってたけど大丈夫そうね! プレイヤーの絆が試されるなんて燃えるじゃない! みんなで協力してワールドボスを倒せるように、あたしたちが引っ張っていきましょうよ!」
「うん♡」
ボクは、先輩に微笑みかける。
「がんばろうね、先ぱ――」
『言い忘れていたが』
クラウドは、そっと、つぶやく。
『イベント中、温泉黄金郷は、PVP領域になるから気をつけてくれ。
以上』
「「は?」」
とんでもないことを言い残して、クラウドは姿を消した。