表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/141

聖罰騎士団《ジャッジメントキラー》

 早速、ボクたちは、イベントの準備にいそしむ。


 ボクらがイベントを主導するということを周知するために、温泉黄金郷エルドラド・スプリングを練り歩くことにした。


「あ、ミナトちゃんだ!! かわい~!!」

「ありがとう♡」

「ミナトだぁああああああああああああああああああああ!! うわぁああああああああああああああああああああああ!!」

「○すぞ♡」


 ボクに対する反応は、見事なまでに両極端であり、『カワイイ』か『オソロシイ』の二択だった。


 ボクは、ゆっくりと周囲を見回す。


 風情ある街並みが並んでいる温泉街。その一部は、温泉に浸かっており、歩くだけで足湯を堪能できた。格子窓や欄干で周囲を彩る建造物は、『大正ロマン』という言葉がピタリと当てはまる。


 朱色の橋の上には、なにやらプレイヤーが集っていた。


「……ん?」


 橋からは、なにかがぶら下がっている。


 目を凝らしてみると、直ぐに、なにが下がっているかはわかった――人だ。


 縄で胴体をぐるぐる巻きにされたプレイヤーが、両手両足を封じられて吊るされている。真下には、底の見えない温泉が広がっており、不気味にも深淵を覗かせていた。


 日本建築に似つかわしくない白色の鎧。


 橋上きょうじょうを占拠している騎士たちは、揃いの紋章を鎧の肩口に刻んでいて、剣呑な光を帯びた長剣をいている。


 林檎を喰らう蛇……毒々しい色合いの紋章は、夕暮れに照らされて、不吉の象徴として映った。


 彼らは、規律正しく橋を占拠しており、集まってきたプレイヤーたちに睨みを利かせている。


「げっ」


 先輩は、顔を歪めて、近くの建物に身を隠した。


聖罰騎士団ジャッジメントキラー……なんで、こんなところにいるのよ……み、ミナト! こっち! 早く隠れて!!」


 温泉まんじゅうを食べていたボクは、手招きしている先輩に引っ張り込まれる。建物の陰から騎士たちを見守っていると、彼らは、なにかを探すかのように辺りを見回していた。


「先輩、こしあん派? つぶあん派?

 ボクは、こしあん派……回答によっては殺すけど……?」

「まんじゅうで殺し合ってる場合じゃない……! 視なさい……アレ、聖罰騎士団ジャッジメントキラーよ……! ミナトを探し回ってるとは聞いてたけど、イベント中にやらかすつもりじゃないでしょうね……!」

「なに、聖罰騎士団ジャッジメントキラーって?」


 ボクは、ポケットの中から、温泉卵を取り出して食べ始める。ファイナル・エンド上でも、しっかりと味覚は感じるものの、お腹は膨れないので、なんだか虚無感を感じた。


「ファイナル・エンドで、最大級の規模をもつPKギルドよ。公式どころか誰もなにも言ってないし頼んでもないのに、ゲーム内の自治活動という名のPKを行ってるの」

「ふーん……どちらにせよ、都市領域シティ・エリアなんだから、手出しなんて出来ないじゃん。

 放っておけば良いんじゃない?」


 パックに入った醤油ダレを垂らして、ボクは、とろける温泉卵を口に放り入れる。黄身が口中でとろりと崩れて、温かさと醤油の味わいが口いっぱいに広がった。


「あのね!

 アイツらは、そんなレベルじゃ言い表せな――」

「2キログラムだ」


 底冷えするような声音――騎士たちは、無言で身を引いて、中心で死体プレイヤーに腰掛けている“ひとりの騎士”を見せつけた。


 癖っ毛だらけの金髪、目元に色濃く出たくま、爛々と光り輝いている赤色の瞳……痩身の女性騎士は、死者に腰掛けたまま、ささやくように苦笑した。


「人の命の重さの話をしている。道徳の授業だ。是非とも、けいらに聞いて欲しい。我々は、命について語り合いたい」


 たっぷりと沈黙を溜めてから、彼女は口を開いた。


「拳銃の引き金(トリガー)の重さは、たったの2キログラム……ボールペンをノックするくらいの気軽さで、人の命を奪えるということを理解して欲しい。

 我々は、けいらのもうひらきたいのだ」


 彼女は、長剣の柄を指先で叩く……ノックノックノック


 立ち上がった彼女は、橋の高欄こうらんへと飛び上がる。音もなく着地し、死の訪れを予感させる黒猫みたいに、身を揺らしながら話した。


「殺人とは、古来より用いられてきた交流コミュニケーションである。人間同士が出逢って、最初に行われる“会話”は、口ではなく刃で紡がれる。歴史の教科書を読み返せば、けいらは、雄大な交流の記録を鑑みることが出来るだろう」

「ふ、ふざけるんじゃねぇ!!」


 橋に吊るされていた男が、叫び声を上げる。


「あ、頭おかしいんじゃねぇのか!! な、なにが『的を射殺せキル・ユア・マーク!!』だ!! 急に襲いかかってきやがって!!

 俺は、ただ、ゲーム内でゴミを捨てただ――」


 彼女は、仲間の騎士から縄を受け取って――離した。


 水音を立てて、彼の頭が、温泉の中へと沈んだ。酸素ゲージが表示され、藻掻いていた彼は、ろくに抵抗も出来ずに溺死する。


 橋の上にあった死体の上に、引き上げた溺死体を積み上げる。一段高くなった死の椅子に、彼女は腰掛けた(アイスクリームかよ)。


「ポイ捨ては、死罪だ。死によって、もうひらかれた。

 ちなみに」


 彼女の赤い目が――


「こしあん派も死罪だ」


 真っ直ぐに、ボクを射抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うぽつでした! うぽつです!(恐らく一時間後に次の話があがるため) ゴミはゴミ箱に捨てないとダメだぞ⭐️ じゃないと…死あるのみ!!!!
[一言] 「まんじゅうで殺し合ってる場合じゃない……!」 結果まんじゅうで殺し合うことに…(?) ちなみにわたしは芋餡がいいな(?)
[良い点] 流石はファイナル・エンド! イカレタ奴らの見本市だぜ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ