表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/141

ゴブリンがゴブリンしてない

「は~い、ミナトで~す♡ 本日、V(RMMO)Tuberデビューを始めましたぁ♡ 初配信、楽しんでくれてますかぁ~♡」


 視聴者数は、いつもの7。


 早速、配信を開始すると、萌豚ファンからチャットが飛んでくる。


『姫、お気をつけくだされ。このふぁいなる・えんどなるげえむ、容易ならぬ相手と視ましたぞ』


 時々、僕の配信に顔を出す『豚浪士トンローシ』からだった。いつも、ボクが配信を始めると『ぶひぃ! ぶひぃ!!(素振り)』というコメントと共に、5万円のスーパーチャットを投げてくる魔人やべーやつだ。


豚浪士トンローシさん、豚小屋からコメントありがとぉ~♡」

『ぶひぃ! ぶひぃ!!(素振り)』


 豚浪士トンローシは、金払いも良いし、ちょろいのでボクのお気に入りである。


 一旦、配信のカメラ撮影を中止する。ある程度、上手くプレイ出来るようになってから、配信を再開した方がウケが良さそうだからだ。


 改めて、周囲を見回してみる。


 キャラクターメイクを行った草原から、鬱蒼とした森の中へと飛ばされていた。


 なぜ、ファンタジーゲームの初期地点は、いつも森の中なんだろう。テンプレ神みたいなのがいて、『森から始めろ……さもなければ、お前の家族を殺す』みたいな感じで、ゲーム業界が脅されているんだろうか。


 そう言えば、さっきの質問の結果、どうなったかな……気になったボクは、まず、ステータスを呼び出してみることにした。






 プレイヤー名:ミナト

 レベル:1

 職業:素人

 所持金:500ルクス

 HP(体力):1

 MP(魔力):8

 STR(筋力):6

 DEX(器用さ):10

 VIT(耐久):0

 AGI(敏捷):25

 INT(賢さ):0

 LUC(運):15


 スキル

 ☆なにが出るかな?

 ジャストガード


 装備

 左:なし

 右:木製の短剣

 胴:革のシャツ

 腕:革の腕甲

 足:革のズボン

 アクセサリー:なし






「……見間違いかな?」


 ボクは、目をゴシゴシと擦って、HPの欄を見直してみる。


 だが、何度視ても、そこには『1』としか書いてない。なぜ、ボクは、ゲームを始めた直後に、HP1縛りを強いられているのかな? バカかな?


 それよりも、なに、賢さ0って……あの問答で、ボクはバカ認定を受けたってことかな……初手、プレイヤーを小馬鹿にするって、クソゲー王たる証なんだけど、戴冠式に出席した覚えはないんですが……


「ま、まぁ、AGI(敏捷性)でバランスとってる感じかな。一度、適当に戦ってみたら、案外、勝てるようになってるんだろうし」


 丁度、目の前に、緑色の肌をもつ小型の鬼、『ゴブリン』が現れる。


 ゲーム内によく登場するモンスターとして、メジャー中のメジャーだろう。基本的には雑魚モンスターとして有名で、別ゲーでは、練習台としてお世話になった覚えがある。


 ファイナル・エンドは、明晰夢の原理を応用して、自分の手足を操る感覚で動ける『インタラプトVR』を導入している。小難しい解説はなしにするが、ゲーム上で、現実世界と遜色ない動作が可能ということだ。


「お! ほぼ、遅延がないじゃん。かなりのトリックプレイも出来そう」


 想像力がものを言うインタラプトVRでは、有名プレイヤーによる鮮やかなプレイが、動画データとしてネット上にばらまかれている。ゲーム内での感覚を掴むために、現実で、スポーツを始める人もいるくらいだ。


 というわけで、ボクも、別ゲーで培った鮮やかなプレイを見せてやりますかね。


 格好をつけたボクは、逆手で短剣を構える。


 くるくると手元で回転させながら、ゴブリンの背中に刃先を滑り込ま――凄まじい勢いで、ゴブリンが振り向く。


「えっ」


 ぐぉん。


 逆巻いた風、ゴブリンの長刀が閃いた。


 瞬く間に13連撃、ボクの身体を引き破る。蒼色のビット粒子が、胴体から弾け飛び、上半身が吹き飛んだ。


 ボクは、死んだ。




「いやいやいや!! なに、あの超反応!? どう考えても、後ろに目、ついてたよね!? なんで、チュートリアルエリアにいる雑魚モンスターが、当たり前のように13回攻撃してくんの!? ラスボスだって、遠慮して、そこまでしないよ!?」


 暗転して、初期地点に戻されたボクは、思わず声を荒げていた。


「普通、インタラプトVRのチュートリアルって、ターン制で攻撃し合うような優しいふわふわ空間だよね……なに、あの、比類なき殺意……あまりに攻撃が速すぎて、手元がバグってたけどアイツ……というか、アレ、バグでしょ間違いなく……」


 将棋で言えば、素人の3才児と対戦しようとしたら、初手、13回連続で駒を動かし始めましたみたいなもんだよ。相手が幼児だろうと、13回連続で行動するヤツ相手に、勝てるわけないだろ。ふざけんなよ、ナイツ・オブ・ラウンドかテメーは。


 恐らく、一体だけ、ソースコードのミスかなにかで異常強化されたんだろう。


 VRMMOは、世界を丸ごと作っているようなものなので、この時代にも関わらず、処理能力が追いつかずに遅延が出ることはたまにある。


 なので、こちらの遅延によって、敵一体の速度が尋常じゃないくらいに速くなることもあるだろう。


「つーわけで、再戦だゴラァアアアアアア!! 死ねやウラァアアアアアア!!」


 ボクは、正面から、ゴブリンに斬りかかって――


「ゴブぅ!!」


 愛らしいかけ声と共に、13回斬られて死んだ。




「仕様だわ」


 絶望したボクは、両手で顔を覆いながらささやいた。


「あのバグ自体が、仕様なんだわ……運営に『バグ発見しました』って報告したら、定型文で『仕様です』って返ってくるヤツだわ……死ねや、クソ運営……」


 しかも、あのゴブリン、なにが『ゴブぅ!!』だよ。マスコット気取りかよ。背後とったら超反応で反撃して、13回連続攻撃で命を刈り取ってくる存在を、人はマスコットなんて呼ばねーんだよ。お前は、剣の時代に生まれたマスケットだよ。


 いや、しかし、実際のところ、ココはチュートリアルエリアだ。勝てもしないバグモンスターを、設置したりするだろうか? 


 少しは脳みそを使えよBOYという、運営からの粋なメッセージなのではないか?


「……あぁ、そうか!」


 ボクは、閃く。


「遠距離攻撃だ!!」


 そう、簡単な話ではないか。ゴブリンは、弓をもっていなかった。つまり、遠距離攻撃手段をもたない。だとしたら、答えは明白じゃないか。


「やっぱり」


 ボクは、落ちていた石を持ち上げる。


 インタラプトVRにおける自由度は、ありとあらゆる設置物オブジェクトにも及ぶ……つまり、落ちている石を投げて攻撃することも出来るし、STR(腕力)を鍛えれば、大木を引っこ抜いて剣代わりにすることだって出来る。


 投石。コレだ、間違いない。


 ヒトは、最も上手に物を投げられる動物だと言われている。古来の狩猟の基本は、安全に反撃を受けないように、遠くから石を投げつけることだ。人類最古の攻撃法とも呼ばれ、確実な攻撃手段として名を残している。


 勝ったな……とは思いつつ、ココで油断しないのがボクだ。今までの流れから言って、ゴブリン側からも、投石を返される可能性は十二分にある。大木の陰に身を隠して、木陰から一方的に石を浴びせるのがベター。


「つーわけで、再戦だゴラァアアアアアア!! 死ねやウラァアアアアアア!!」


 ボクは、木の陰から、ゴブリンに投石して――


「ゴブぅ!!」


 愛らしいかけ声と共に、伸びてきた腕に、13回斬られて死んだ。




「……伸びるやん」


 地面に突っ伏したボクは、涙混じりにささやいた。


「腕、伸びるやん!!」


 ボクは、叫んだ。


「お前!! ふざけるのも!! 大概にしろや!! 綺麗なカーブ描いて、死角から攻撃してきやがって!! 腕が伸びるバグを、殺人術として、綺麗に昇華させてるんじゃねーよ!! 誰が予想できんだ、あんなの!? ワン○ースは、空島以降、読んでねーんだよクソがッ!!」


 ついには、積極的にボクを発見して、殺しに来る最強ゴブリンたちを見つめながら、もう辞めちゃおうかなとウィンドウを開き……びくりと、一瞬だけ、ゴブリンたちが動きを止めた。


「あ? なに?」


 その後、普通に動き出して殺される。


 死に慣れたボクは、ゴブリンたちにリスキルされながら、ログアウトボタンを探す。


 そして、そこに『スキップ』ボタンを見つけた。


「チュートリアル、スキップできるじゃん……最終問題、1億ポイントみたいなクイズ番組かな……死ねや、運営……」


 ボクは、スキップしようとして――手を止める。


「待てよ」


 ゴブリンに殺されながら、ボクはつぶやく。


「……コレ、勝てるんじゃない?」


 ボクの目線の先には、ウィンドウの“設定画面”が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がワンピースを空島以降読んでいないとこ [一言] 仲間だぁ仲間がいるぞぉ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ