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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
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お手軽10分間戦争

 手首に着けている腕輪型端末リング・ターミナル……宙空に投影されている画面モニターには、御心・ファッキン・妖華の過去動画が映っている。


 彼女は、短期間で、成り上がった猛者だった。


 元々、才能はあったのだろう。活動開始当初はたどたどしい喋り方だったものの、たったの数ヶ月程度で流暢に話せるようになっている。


 いち早く、ファイナル・エンドに目をつけた点からも、彼女の勘の良さを窺えた。


『え? 好きな人? やっぱり、視聴者ファンのみんなかなぁ? え? 嘘つくな? いや、嘘じゃないって~!』

「…………」

『う、うん……ほ、本当にありがとう……み、みんな、お、応援してくれたから……ほ、ホントに……あ、ありがとうございました……』

「…………」


 泣き方が違う。


 ファイナル・エンド内で、視聴者ファンと一緒に豪邸を作り上げた時に涙を流した妖華は、かつて僕に襲われたと訴えた時とは泣き方が異なっていた。どちらが嘘泣きなのかは、状況等からして容易に推察がつく。


「……ミナト?」


 暗闇の中で動画を視ていると、合鍵で家に入ってきたらしい葵に声をかけられる。


 振り返った僕の顔を視るなり、彼女の表情が険しくなった。


「なにするつもり?」

「う~ん?」


 僕は、自分ごと椅子を回転させながら微笑む。


「酷いこと♡」

「やめて」


 葵は、辛そうな顔でささやいた。


「なんで、前みたいな顔してるんですか……ただ、バカみたいなゲームやってるだけの筈でしょ……そんな顔……やめて……」

「葵ちゃん、お使い頼まれてくれる?」


 僕がメモ用紙と代金を手渡すと、彼女は顔をしかめる。


「こんなモノ大量に……なにに使うつもりですか……そもそも、このお金はどこで……」

「大丈夫、今まで、いっぱい稼がせてもらったから。安い買い物よ。

 奉納金スパチャがいっぱいあるから、ミナトちゃんは無敵なのだ♡」


 メモを片手に、立ち尽くしている幼馴染へと微笑みかける。


「ま、もう、潮時かなとも思ってたし。丁度良い機会でしょ」

「本当にそう思ってるなら」


 怒りで彩られた両目が、僕のことを真っ直ぐに射抜く。


「そんな顔……するわけないでしょ……」


 お使いは頼まれてくれるのか、いつもよりも足音の大きい葵は、振り返りもせずに部屋から出ていった。


「……さて」


 準備を整えた僕は、ゆっくりと伸びをする。


「やるか」






 接続ログインした瞬間、僕を待ち受けていた豚浪士トンローシは、無言で自分のスキルをウィンドウで展開する。






刺激式爆薬変換クリエイト・シミュボム


 習得条件:爆発術士ボマーレベル15

 リキャストタイム:60秒

 最大レベル:10

 説明:対象の目標物オブジェクトを爆薬に変換する。何らかの刺激を加えた瞬間に、その爆薬は爆発する。爆発の規模と威力、爆薬への変換時間は、対象となる目標物オブジェクトの体積とスキル・レベルに応じて変化する。

 爆発は、対象に設定した目標物オブジェクトにのみ効果を発揮する。






「仕込みは上々。全て、あるじ殿の言う通りにしました。

 確かに、主殿の仰られる通り、私の爆発術士ボマーの能力を用いれば、御心・ファッキン・妖華の家を丸ごと爆薬に変えることが出来る……他人の家で実験して確かめましたが……まさか、住宅領域ハウジング・エリアにあるモノすらもスキルの対象になるとは……なぜ、わかったんですか?」

「この前、妖華のタペストリーを爆発させてたでしょ? アレを視て、家具が目標物オブジェクト足り得るのは確信した。このクソゲーなら、一軒家ハウス丸ごと爆薬に出来るような仕様バグがあっても、おかしくはないと思っただけだよ。

 ていうか、当然のように他人の家で試すな♡」


 目を伏せていた豚浪士トンローシは、意を決したかのように顔を上げる。


「確かに、このスキルを使えば、妖華の家を燃やすことは可能でしょうが……やめませんか、こんなことは……どうして、ココまで……」

「ボクはね」


 微笑して、ボクは、目の前のファンを見つめる。


「たった7人のために、1年間、配信を続けてきたんだよ」

「…………」

「かけがえのない7人だ。それだけは言える。

 だから――」


 豚浪士トンローシは、悔しそうに唇を噛んで顔を伏せる。


「ヤツの家を燃やして、格の違いを見せてやるんだよぉ……ぐえっへっへっ……!」

「…………」


 いや、笑えや。無言で泣くなや。ボク、バカみたいじゃんか。


「そ、それが……貴女の選んだ道ならば……」


 ソーニャちゃんは、泣きながら笑って見せる。


「お、お供します……最後まで……だ、だって、自分で自分に約束したもん……」


 彼女は、ファンとして、ボクの手を握る。


「今度は、私が、ミナトちゃんのことを守るから」

「……ありがとう」


 頭を撫でると、一生懸命に、両手の甲で彼女は両目を拭った。


「あ、主殿! しかし、あの女の家を燃やすのも容易な道ではありません! なにせ、刺激式爆薬変換クリエイト・シミュボムで、あの家を丸ごと爆薬に変えるとなると、おおよそ10分はかかると考えて頂きたい!」

「手は打ってきたから安心しなさい♡ 余は、クソゲのびとぞ♡」


 ボクは、松明に火を点けて、薄暗い住宅領域ハウジング・エリアを照らした。


「さぁて♡」


 深呼吸をしてから、ボクは、配信を開始する。


「じゃんじゃん、燃やすぞぉ♡」


 大量のコメントが火を吹いて、たった10分間の戦争が始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クソのクソによるクソのための大戦争……!
[一言] ば、爆弾…
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