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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
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女の子だらけのお泊りパーティー♡

 あおいにしこたま怒られた後、僕は、ソーニャちゃんを家に招き入れる。


 食卓には、三人分の夕食が並んでいた。


 ご飯、大根と玉ねぎの味噌汁、生姜焼きと付け合せのサラダ、アボカドの刺し身、デザートには手作りのプリンが付いている。


「…………」

「無言で、食卓にエナジードリンクを添えるのやめてくれませんか? 毎回、舌が赤色なの気持ち悪いんですが」


 ゲーマー御用達のエナジードリンク『灼熱・スプリンクラー』は、なにをとち狂ったのか、ファイナル・エンドとタイアップ企画を行っていた。


 色は灼熱、味は地獄、売上はゴミ、1本買うごとにガチャが引けて、ゲーム内アイテムが貰えるらしい。


「わ、私も頂いても良いんですか?」

「どうぞ」


 わざわざ、もうひとり分の材料を買いに行った葵は、子供には優しいアピール期間なのか優しく微笑んでいた。


「ソーニャちゃん、こんな庶民の食物しょくもつを口にして大丈夫……? 普段は、生ごみ処理機に投入するような代物食わされたって、社交界で大々的に愚痴ったりしたら怒るからね……?」

「そんな心配してるのは、世界でも有数の下衆ゲスだけなので大丈夫ですよ」

「す、すみません。フォーク、使っても良いですか?」


 頷いた葵の前で、ソーニャちゃんは、床に置いた旅行かばんを弄る。黄色のバンドが巻かれた猫さんのフォークを取り出して、嬉しそうに両手を合わせた。


「いただきます!」


 傍から視ていると、ソーニャちゃんは、実に可愛らしい。


 食べ方ひとつとっても、あっちにちょこちょこ、こっちにちょこちょこ、一生懸命に頬張って食べているので、小動物の冬備えを観察してるみたいだった。


「わ、私、あ、あんまり、パパとママと一緒にご飯、食べられないので! だ、大好きなミナトちゃんと、優しいアオイちゃんと食べられるの嬉しいです!」


 天使のように美しい笑顔で、彼女は僕たちに微笑みかける。本当に、豚浪士トンローシと同一人物なのだろうかと、疑うくらいに愛らしい発言だった。


「……こんな可愛い子を追い出すなんて、なにを考えてるんですか」


 僕に肩を寄せてきた葵は、耳元にささやいてくる。


「君は、まだ、ファイナル・エンドを知らない」


 僕は、真顔で、葵を見つめる。


「クソゲーは、容易に人格を捻じ曲げる」

「そんな拷問具みたいなゲームを市場に出して、問題になったりしないんですか……?」


 これから社会進出して、大問題に発展するんだよ♡ ファイナル・エンドの潜在能力ポテンシャルを舐めるな♡


 食べるのが遅いソーニャちゃんを見守ってから、僕は、葵と並んで食器を洗い始める。ソーニャちゃんがいるので、女装を解くわけにもいかず、KAWAII MINATO状態でお手伝い少女と化すことにした。


「葵ぢゃ~ん! 髪ぃ、じゃまぁ~!」

「そんなことよりも、ソーニャちゃんはどうするんですか? 泊まるなら泊まるで、御両親には連絡しないと」


 そんなこと呼ばわりされた長髪で、葵をペシペシ叩きながら、僕は苦笑する。


「いやいや、さすがに、泊めるわけにはいかないでしょ。

 窓から放り投げて帰ってもらうよ」

「なら、貴方には、高層ビルの上から地獄まで直帰してもらいます」


 両手の水気を切って、エプロンを外した葵はため息を吐いた。


「寂しいんだと思いますよ」

「葵には、僕がいるだろ(イケボ)」

「ソーニャちゃんが」


 映像端末スクリーンから、中空に投影されているTV番組。行儀正しく正座して見入っているソーニャちゃんは、楽しそうに身体を弾ませていた。


「私にも覚えがありますし……一泊くらい良いじゃないですか。小さな頃の記憶は、一生、付きまといますから。出来るだけ、楽しい方が良い」

「善人ぶるね~!! お前、ファイナル・エンドで生きていけね~ぞ!!」


 水滴で目を潰されて、僕は呻きながらうずくまる。


「いいから、とっとと電話してください」

「へ~へ~」


 僕は、ソーニャちゃんから番号を聞いて電話をかける。


 どうやら、我が家は監視されているらしい。僕の家の住所を繰り返されて、安全性が云々の解説があり、三交代制で警護するので安心してくださいと伝えられる。


 あっさりと、御両親からも許可をもらえた。むしろ、感謝感激されたので、僕はA5ランクの黒毛和牛が好きだと自己紹介しておいた(淑女の振る舞い)。


「泊まってもいいんですかっ!?」

「もちろんだよぉ♡ ソーニャちゃんと僕の仲じゃない♡ 次はねぇからな♡」


 余程、嬉しいのだろう。


 頬を上気させているソーニャちゃんは、その場で飛び跳ねる。中身がまともなら、本当に可愛い。


「そ、それじゃあ、ミナトちゃん!」


 僕は、ぎゅっと、両手を握られる。


「一緒にお風呂に入りましょう!!」

「えっ」


 そのまま、風呂場に連行されそうになったので、葵の腰に抱き着いてどうにかブレーキをかける。


「だ、ダメだよぉ♡ ぼ、僕、今日は、みそぎの日じゃないからぁ♡ ファイナル・エンドのけがれを祓うのは毎週日曜日♡ 毎週日曜は、禊の日♡ 悪霊クソゲー退散♡ 悪霊クソゲー退散♡」

「…………!!」

「テメェ、ゴラ、豚ぁ♡ 小学生ガキとは思えねぇパワー発揮してるんじゃねぇぞ♡ 力みすぎて、顔真っ赤じゃねぇか♡ そのまま、破裂しろや♡」


 ファイナル・エンド流のやり取りを唖然と視ていた葵は、ようやく手助けする気になったのか、そっとソーニャちゃんの両手を握った。


「ソーニャちゃん、一緒にお風呂はダメ。ひとりずつ入るようにしないと」

「なんでですか!? 女&女で、なぜ、NOTが挿し込まれるんですか!? 女女ジョジョの混浴は、日本国憲法にて合法ッ!! 合法ッ!!」


 ウィッグを外してやろうかとも思うが、さすがにココまで『ミナト』を愛している萌豚ファンを裏切るわけにもいかない。


「今日!! ソーニャちゃんと一緒にお風呂に入るなら、僕は、他の萌豚ファンとも一緒に風呂に入るからねっ!!」


 叫んだ瞬間、ぱっと両手が離れる。


 恐怖のままに、僕は葵に縋り付いた。


「ご、ごめんなさい……お、お泊りはじめてで……き、気持ちが高ぶっちゃって……ひ、ひとりで入ってきます……」


 恥ずかしそうに顔を覆った魔人やべーやつは、とてとてとお風呂に向かっていった。我が家の風呂場を知っている時点で、力づくで僕を連れ込もうと、当初から計画していたことが丸わかりで恐ろしかった。


「葵ちゃん……!」

「わかりました、私も泊まればいいんでしょ」


 嘆息を吐いた幼馴染に抱きついていると、数分後に蹴り飛ばされた。


 ソーニャちゃんと葵が入った後に、僕がお風呂から上がると、いつもの寝間着の代わりに謎のパジャマが置かれていた。


「……なにこれ?」


 僕の全身を包んでいるのは、白猫を模したワンピース・パジャマ。


 頭部の部分には猫耳まで付いていて、両手と両足を包んでいるもこもことした部分には、むにむにとしている肉球が形作られていた。


 すっと、ソーニャちゃんが膝から崩れ落ちる。


 涙を流しながら、倒れ伏すソーニャちゃんに、葵はビビりまくっていた。どう反応するべきなのか、葛藤している姿が面白い。


「しゃ、しゃいし!! しゃいし!!」

「う、うん……写真、撮っても良いよ……」


 僕は、黒猫のワンピース・パジャマを着ているソーニャちゃんと一緒に写真を撮る。鼻息が荒すぎて、僕の顔にかかりまくっていた。


「葵は着ないの?」

「有料なので」


 金庫から10万円を出して、顔面に叩きつけると、腹にミドルキックをぶち込まれる。


 御心・ファッキン・妖華をぶち殺す作戦はどうしたのか、連写しているソーニャちゃんを無視して、僕は腕輪型端末リング・ターミナルを立ち上げた。


 ミナトへと寄せられているアンチコメントのまとめ動画……宙空に動画を投影してから、僕は、リビングからポップコーンをもってくる。


「なにしてるんですか?」

「僕に対するアンチコメントの上映会。僕のファンからのコメントも混じってるせいか、目利きが流行り出してて面白い」

「メンタル、どうなってるんですか……?」


 僕は、ポップコーンを食べながら、アンチコメントを眺める。


「ていうか、普通、アンチコメントとファンコメントって区別つくでしょ?」

「なら、当ててみな」


 僕は、適当にコメントを拾い上げる。


『正気を異次元の彼方に置いてきた畜生』

「アンチコメントですよね」

「いや、コレは、ファンから」

「はぁ!?」


 また、別のコメントを拾い上げてくる。


『ブエノスアイレスで、路上の伝説になったゴミ』

「いや、アンチコメントでしょ……?」

「ファンからのコメントだね」

「嘘でしょ!?」


 他のコメントも拾ってみる。


『ファイナル・エンドの希望』

「いや、コレは、ファンコメントですよ」

「紛れもないアンチコメントだね」

「意味がわからないんですが……」


 ファイナル・エンドの希望とか、現実で口にしたら、殺されても文句言えないレベル。


 久しぶりに、自分のチャンネル登録者数を確認すると、53082という数字が飛び込んでくる。驚いたことに、前に確認した時から4万人も増えている。急上昇ランキングにも、何本か、まとめ動画が入っていた。


「光栄だねぇ……敵視してもらえて……♡」


 少なくとも、僕は、前のような木っ端ではなくなったということだ。大人気Vtuberに敵として認められたのは、喜びに値する。


 動画を確認していると、背中越しの体温を感じる。


 ぎゅっと、僕の服を掴んだまま、ソーニャちゃんが眠っていた。美しい寝顔を晒していて、黙っていれば、絶世の美少女なのだなと再認識する。


「一緒に寝てあげたらどうですか?」

「え~……」

「起こすわけにもいかないでしょ。私もこの部屋で寝ますから」


 そう言って、葵は、テキパキと床に布団を敷き始める。仕方なく、僕は、そのままベッド上で眠りに落ちることにした。


 電気が消えて数十分経ってから、腰元に両腕を回される感触を覚える。


 闇に慣れた目が、こちらを見つめている少女を捉える。ソーニャちゃんは、イタズラっぽく笑って、僕の胸(パッド入れてねぇ、やべぇ)に顔を埋める。


「ミナトちゃん……ありがとうございました……はじめてのお泊り、たのしかった……ミナトちゃんのために、たくさん、楽譜書いてきたのに……お披露目できなかったのが心残りですけど……たのしかったです……」


 胸パッドを入れていない僕の胸に、彼女は頭を擦り付ける。


「いつも、ミナトちゃんを想って曲を書いてました……私、あんまり、お友達いないし、パパもママも帰ってこないから……いつも、ひとりぼっちで……でも、ミナトちゃんがいたから……がんばれました……」


 ささやき声が、闇に揺れる。


「勝ちましょうね、戦争……私、ミナトちゃんのことをバカにする人は……ぜったいに、ゆるしませんから……ひとりぼっちの私に『ボクがいる』って……言ってくれたミナトちゃんのことを……今度は、私が……守る……か……ら……」


 ふと、記憶が蘇る。


 半年前、同時接続者数3人、そんな僕の配信に現れた彼女の長文の悩みに、気が高ぶって『ボクがいる』と答えた時のことを。


 僕は、あの時、ただ、少しでもファンを増やしたくて善人ぶっただけだ。


 でも、彼女はそのことをずっと憶えていて、僕を追いかけ続けてくれた。利益を求めた僕なんかとはちがって、ただ、純粋な心をもって。


「……ありがとう」


 僕は、感謝をめて、彼女の頭を撫でた。






 それはそれとして。


 次の日の朝に演奏してくれた彼女の曲は、この世の地獄みたいな曲調で、精神崩壊ファイナル・エンドを招きかけたこともあり封印することにした。

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― 新着の感想 ―
最低限ご家族は分かってますよねぇ……まさか、ミナト本人が分かってなかったり? もちろんソーニャ君の可能性はある……!
[一言] 個性が強すぎてこんなやついねぇよではなくて世の中にはこんなやべぇやつがいたりするのかもなぁ閉じまりしとこって思うレベル。まともなやつが幼馴染みくらいしかいない
[良い点] ミナトのアンチコメント上映会好きです。 クソゲーに対する強い憎しみを感じます。 [一言] 葵ちゃんみたいな幼馴染が欲しい人生だった…。
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