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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
23/141

ソーニャ・スカトレフ襲来

『ミナトちゃん、妖華ちゃんと戦争するんですかぁ?』


 スピーカー越しに聞こえてくる枢々紀(くるるぎ)ルフスの特徴的な声。


 疲れ切っていた僕は、ゲーミングチェアの上でため息を吐いた。


「まーね。平和主義者の僕の火蓋を切るとは、あの女、なかなかに煽り能力が高いよ。

 前世は、うちわかな?」

『こっちで、潰しておきますぅ?』


 チャンネル登録者数350万人超……御心・ファッキン・妖華にトリプルスコアを付けている彼女は、平然とそんな凶悪なことをのたまう。実際、ルフスが妖華の手順を真似れば、彼女を終わらせるのは簡単だろう。


「こらこら♡ 子供ガキの喧嘩に、保護者ママが出てきちゃダメでしょ♡」

『やぁん♡ 自然ナチュラルにママ扱いは嬉しぃ♡』

「おぎゃあおぎゃあ(今週の生活費、振り込め)」

『やぁん♡ 生まれ落ちた瞬間に、扶養を金銭で求めてくるぅ♡』


 いつものファンサービスをしてから、僕は本題に入ることにした。


「ルフスちゃん、ファイナル・エンドでGMに会ったことある?」

『現実で、そのゲームの名前は出さない方が良いですよ』


 ゲーム界のヴォルデ○ートか?


『うーん、ルフスはファイナル・エンドをやるとイメージが悪くなるから、プレイしてるわけではないんだけど……なにかあったの?』

「なんか、僕と同じ顔をしたGMがいたんだよね」


 唐突に、耳下音響装置マイクロ・スピーカーから流れていた音が掻き消える。人の気配が消えたというか、存在感が失せたというか、繋がりが断ち切れた感じがした。


「あれ? もしもーし? もしもし?」


 回線が切れたのかと思って、僕は慌てて、何度も呼びかける。


『……ミナトちゃんは、そのアバター、どうやって作ったんだっけ?』

「いや、夢で出てきた姿を、そのまま模写しただけだけど……萌豚ファンなら、僕の配信で何度も聞いたことある話でしょ?」

『うんうん、知ってる知ってるぅ! 確認しただけでぇす!

 たぶん、自分の姿を見つめ直せとか、そういう反省の機会を与えるために、プレイヤーの姿を真似たんじゃないかなぁ?』

「あーなるほど、確かに、それなら納得がいくわ」


 ファイナル・エンドにしては、まともな措置をとってくるなぁとは思いつつ、納得がいって頷いた。


「でも、あのGM、なんか変なことも言っ――」


 チャイムの音が響き渡る。


「ごめん、ルフスちゃん、誰か来たから通話切るね」

『はぁ~い♡ また、じゃんじゃん、お金、むしり取ってくださいねぇ♡』


 相変わらず、闇が深すぎる彼女との通話を切断する。


 階下に下りていき、僕は、画面モニターに移るその姿を視て――


「ぐべぇっ!!」


 思わず、汚い声を上げてしまう。


 しきりに、前髪を気にしているソーニャ・スカトレフは、あまりに美しい顔立ちを画面モニターに向けていた。


 緊張で両手をぎゅっと握り込み、上目遣いでこちらを見つめる彼女は、可愛いとしか言えなかったが……その中身は、魔人やべーやつだった。


「…………」


 僕は、ゆっくりと、画面モニターから離れ――ピンポーン。


「お客さんですから、とっとと出てくれませんか」


 二度目のピンポンを鳴らしたのは、うるわしの幼馴染だった。いつもの鋭い目つきで、こちらを睨んでいる柚浅ゆあさあおいは、庶民的な買い物袋をぶら下げて、こちらの居留守を見抜ききっていた。


「あ、あの……す、すみません……」

「大丈夫。あの人、人見知りだから。私が鳴らせば、直ぐに出てきますから。

 東陽日輪女学院だよね? 初等科?」

「は、はい……そ、そうです……」

「可愛い制服だね」


 微笑んだ葵に、うつむいたソーニャちゃんは、こくりとうなずきを返す。


 そんな心温まる光景を前にして、僕は、裏口から脱出を図ろうとしていたが、三度目のピンポンにビビって画面モニターに向き直る。


「はい、居留守ですが……」

「貴方の名字は、居留守なんて珍しいモノではなくて、白亜はくあの筈ですが。

 早く開けてください。重いので」


 覚悟を決めた僕は、仕方なく、重い玄関扉を開けた。


「は、は~い、葵ちゃん、いらっしゃ~い!」

「貴方、家の中でも女装してるんですか? 違和感を感じなくなってる自分に、嫌気が差してくるのでやめてください。

 ほら、お客さんですよ」

「み、ミナトちゃん!!」


 とんでもない大声で、顔を真っ赤にしたソーニャちゃんが叫んだ。目を丸くしている葵の横から、ずいっと身体を前に出して、アピールしてくる。


「せ、戦争の準備をしましょう!! あ、あの女性ひと、ぎ、ギッタンギッタンのボッコンボッコンにしましょうっ!!」

「は? 戦争?」

「い、いやいやいや!! ソーニャちゃん、なぁにを言ってるのかなぁ!? ゲームと現実の区別もつかないガキは、焼却処分されるって法律知ってるよねぇ!? 刑法にも、クソガキ即火炙りって、ちゃぁんと書いてあるよぉ!?」

「貴方、どこの地獄に住んでるんですか?」


 僕は、葵の手を引っ張って、廊下の奥にまで連れ込む。


「……あの子、ミナトの知り合い? いつから、小学生に手を出すような男に変化へんげしたんですか、クレイジー・ボーイ」


 皮肉気に笑む葵は、髪を掻き上げて、ピアスを付けた耳を露出させる。珍しく、手を握ったままなのに文句を言ってこなかった。


「耳、貸して」


 廊下の奥の暗がりで、葵は身を寄せてくる。


 嗅ぎ慣れた、シャンプーの良い匂い。イタズラ心に突き動かされて、思わず、僕は彼女の耳に「ふーっ」と息を吹きかける。


「…………ッ!」

「いだいいだいっ!! 的確にスネを蹴るのはやめてください!! 骨が!! 骨が砕け割れる!!」

「次、やったら殺しますよ」


 耳を赤くした葵の殺意を恐れて、僕は、きちんと経緯いきさつを彼女の耳に吹き込む(多少の改ざんも有り)。


「……意味がわからないんですが」

「だろうね」

「まず、『ぶひぃ!! ぶひぃ!!(素振り)』のくだりですが」

「そこは、100年かけても、葵には理解できない箇所だから諦めて。正直、僕にも理解できない。頭丸ごと、深淵に突っ込んでる人間の所業だよ」

「まぁ、貴方の言うことだから信じますが」


 意味がわからないのに、信じるんかーい!! 相変わらず、態度には表れないのに僕にはゲロ甘だな!!


「気持ちはわかりますが、話くらいは聞いてあげたらどうですか? ゲームの話はよくわかりませんが、あの子にも言い分があるだろうし。あんまり、女の子の気持ちを無下にするのはどうかと思う」

「いや、まぁ、ねぇ……」


 もじもじと、こちらをうかがいながら、玄関に立ち尽くしているソーニャちゃんを見つめる。今日は、なにを用意してきたのか、両手で重そうな旅行かばんを抱えていて、あのまま立ちっぱなしにさせるのも気が咎めた。


「夕飯は、適当にこっちで作っておきますから」


 市販のエプロンを身に着けて、髪を縛った葵は平板な口調でつぶやく。


「どうするかは、貴方が選んでください。私は、貴方の意思を尊重するので。追い返したところで、特に思うところはありませんよ」

「葵ちゃ~ん! ずぎぃ~!」

「私は、嫌いです」


 泣きつこうとした僕に微笑みかけて、葵はキッチンへと消える。


 幼馴染の心のもったアドバイスを受けて、僕はソーニャちゃんの元へと向かった。さすがに、追い返したりはしない。葵だって、そのことをわかっているから『貴方が選んでください』なんて言ったんだ。


 僕にも、善心はある。


 こんな風に、僕の家に尋ねてきちゃった困ったちゃんではあるが、彼女はまだ小さな子供だ。大人である僕が保護するべき存在だ。高嶺の花が手折たおられないように、丹精込めて、水をやらなければならない。


 なるべく、優しく迎え入れてあげよう。


 微笑んだ僕は、慈愛を籠めて、ソーニャちゃんに声をかける。


「久しぶりだね、ソーニャちゃん。また、会えて嬉しいよ。

 ほら、上がって。まずは、その重い荷物を下ろしてもらってから話を聞くよ」

「あ、あの! ミナトちゃん!! 私、今日は!!」

「うんうん」

「ミナトちゃんの家に、泊まりに来たんで――」


 僕は、ソーニャちゃんの背をそっと押して、外に追い出してから鍵をかけた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おかえりくださ~い。出口はこちらで~す。
[一言] いいか、この世で大切なものはアポイントメントだ いきなり家に押しかけて「来ちゃった」とか「サプライズ!」とかやって許されるのは妄想と聞き分けのいいタイプのセールスと友人関係(笑)だけだぞ こ…
[良い点] 『はぁ~い♡ また、じゃんじゃん、お金、むしり取ってくださいねぇ♡』 キャラが濃ゆいのよ [一言] 「葵ちゃ~ん! ずぎぃ~!」 そうだね。 ところで、葵ちゃんは実はファイナルエンド脳…
2020/11/24 23:04 退会済み
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