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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
22/141

戦争は誰が正しいかを決めるのではない。誰が生き残るかを決めるのだ

 NO DAMAGE!!


 鮮烈な蒼飛沫エフェクトと共に、警告メッセージが迸る。


「ぐっ……!」


 ペイン・コントロールだかスペイン・コンキスタドールだか知らないが、ファイナル・エンドの世界では痛みは表現されない。


 その代わりに、衝撃減衰ショックアブソーバーという機能によって衝撃を感知し、個々のプレイヤーが苦痛に思わない程度に減衰してから調節して返却(フィードバック)する。


「こ、コイツ……!」

「綺麗な顔が歪んでるぞ♡ 化粧のノリが悪いんじゃないの?♡」


 そのため、壁に叩きつけられたり殴られたりすれば、それなりの“衝撃”が全身を襲う。綿密に計算シミュレートされた、文句クレームを付けられない程度の衝撃ショックが。


 減衰されていたとしても、その衝撃ショックは無視できないレベルだ。御心・ファッキン・妖華の歪んだ顔を見れば、どの程度の“不快感”を与えられているのかは察しがついた。


「ぶんぶんぶん♡」


 ボクは、彼女を壁に押さえつけたまま笑う。


「ハエ、ぶんぶん♡」

「し、死ね、このクソ底――」


 突き出されたナイフを右掌で受ける。


「は……?」


 唖然とした妖華の前で、ボクは、己の右手に突き刺さっているナイフを見つめた。


「なんだ、痛みなんて感じないじゃん」

「あ、あんた、さっきの説明聞いてたの!? あ、頭、おかしいんじゃない!?」

「いや、なんで、敵対してる相手の説明なんて信じるんだよ。ペイン・コントロールなんて機能が導入されて、口も頭も悪い公式Vtuber如きに提供されてたら、レーティング機構が黙ってねーつーの」


 ナイフごと、ボクは拳を握り込む。


「生まれてこの方、ボクは、自分のことしか信じたことないんで。唯我独尊、自己中心、相手の話は聞かずに殴りつけるがモットーね。

 つーわけで」


 笑顔を向けると、彼女の顔は見事に引き攣った。


「覚悟は良いか、こら♡ もう二度と、化粧できねーつらにしてやる♡」

「ひっ! や、やめ――」


 無言で真っ直ぐ、右ストレート、風を切り裂いて――妖華は、急激にしゃがみ込み、ボクの背後へと回る。


 思い切り、背中を蹴りつけられ、顔面を壁に強打する。


 NO DAMAGE!!


 痛みはないが、強烈な衝撃ショックに顔が歪んだ。


「へぇ」


 ボクは、手の内にある彼女の“服”を見つめる。


 ゆっくりと視界を回して反転すると、薄着になった無表情の妖華が、二本のナイフをくるくると回していた。


「さすが、もぐら叩きに慣れてるだけはあるね♡」

「……殺す」


 殺意に彩られた顔面、妖華は、勢いよく踏み込んで――カウンター――予想外、いとも簡単に、ボクの拳が彼女の顔を叩いて――


入力指定コマンド、GMコール」

「は!?」


 目の前に映る景色が掻き消えた。






 丘の上。


 突然、見知らぬ領域エリアに飛ばされたボクは、混乱しつつも周囲を見回す。

 

 幾重もの真っ白なキャンバスが立てられた緑の丘上きゅうじょうに、黒色の絵の具で汚れた純白ワンピースを纏った少女が立っていた。


 吹き抜ける風、揺れるのは、蒼色の髪の毛。


 どこかで視たことのあるような顔をした彼女は、ボクの姿を認めると、笑顔でこちらに手を振ってくる。


 手を振り返すと、今度は、手招きを返される。


 そよぐ風に身を任せながら、ゆっくりと、草原を上っているうちに気づく。


 昼の世界を、夜が支配していた。


 午下ごかの世界に、月がのぼっている。


 銀色の光を差しているまるい月は、煌々と世界を照らしていて、そこにある矛盾には露聊つゆいささかも気づいてはいない。足元のあしについた水滴は、銀の涙を流しながら、月明かりの下で光り輝いている。


 銀の緑夜に立つ少女は、ボクの前で闇に濡れている。


「こんばんは」

「……夜なの、ココ?」

「ううん。昼でも夜でもないよ。そういう世界に設計したの」

「キミ、ゲームマスター?」


 嬉しそうに、彼女は頷いた。


GM(ゲームマスター)コールって、そういうことか……あのファッキン・クソ女……ふざけやがって……」


 GM(ゲームマスター)コール……このゲームの支配者、つまり運営に通報して、ゲーム内の違法行為を咎めてもらう行為のことだ。


 『NO DAMAGE』のメッセージの通り、都市領域シティ・エリアでは、他のプレイヤーに対して傷害ダメージを与えることは出来ない。だが、ボクの拳には、豚浪士トンローシや妖華を殴った感触が残っている。


 都市領域シティ・エリアでは、攻撃行為自体が禁止されているわけではないのだろう。


 つまるところ、じゃれ合いくらいなら許されるが、本格的な傷害行為にまで及べばGM(ゲームマスター)コールでOUTになるらしい(※運営からの傷害行為は除く)。


「とりあえず、運営さんさぁ! なんで、こんなクソゲー作っちゃったの!? カワイイ少女の姿を模してれば、プレイヤーからの文句クレームが弱まるとか考えてんじゃねぇだろうなぁ!? 甘いんだよ、この全身ファイナル・エンドが!! 頭の先から爪先までクソゲーでコーティングされて、呼吸できるのしゅごいでちゅねぇ!?」

「か、カワイイ少女……」


 前髪を弄りながら、ゲームマスターは、恥ずかしそうに頬を染めた。


 言葉の本質を捉えられていない……その反応を視たボクは、彼女の胸ぐらを掴んで、顔面を近づける。


「キミが悪いわけじゃない!! 勝手に、ボクは、有名になるためにこのクソゲーやってるからね!! キミが悪いわけじゃない!! でも、この溢れ出る感謝の気持ちが、貴様ファイナル・エンドを壊せと訴える!! 血潮が!! 沸き立ちながら、貴様ファイナル・エンドを倒せと叫んでいるッ!!」

「ごめんね、巻き込んで」


 申し訳無さそうに、彼女は謝った。


「たぶん、もう、お姉ちゃんは止まらないと思う……こんな理由で……ごめんなさい……」

「オラァ!! BANしてみろやァ!! ビビってんのか!! こちとら、お前んところのクソゲーのせいで、心がタングステン化しとるんじゃあ!! 折れるもんなら折ってみろや!! クソゲーが、人類を舐めるなよゴラァ!!」

「お願い」


 月の光が、彼女の顔に差し込む。


 そこで、ようやく、ボクは――


「もう、ゲームにはログインしないで」


 彼女の顔が、ミナトと同じであることに気づいた。






あるじ殿っ!! 起きてくださいっ!!」


 身を揺さぶられ、ボクは、エフェンシアの片隅で目を覚ました。


 視たくもない豚浪士トンローシの顔が、視界に飛び込んでくる。最悪の目覚めを体験し、ゆっくりと身を起こした。


「最悪だ……GMを殺し損ねた……」

「そんなことを言っている場合ではありません!! 視てくださいっ!!」


 開かれた、青色のウィンドウ。


 そこには、ボクが妖華を壁に叩きつけて、脅し文句を突きつける様子が映されており――コメント欄には、大量の誹謗中傷が書き込まれていた。


「やられました、あのファッション・クソゲ女……」


 豚浪士トンローシの顔は、焦燥で引き攣っていた。


「我々よりも先に火をつけた」


 投稿されたばかりなのに、再生数10万回を超えているお気持ち表明。涙ながらに、ボクに襲われたと訴える御心・ファッキン・妖華に拍手を送る。


 ぱち、ぱち、ぱち。


「なるほど」


 首を真横に倒して準備運動、ボクは、笑いながら立ち上がり――


「戦争だ♡」


 豚浪士トンローシの顔が、喜悦に歪んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この欄を上手く使えば攻撃方法に使えるのでは? [気になる点] この欄も上手く使えば攻撃方法に? [一言] 全勢力の戦争、いいですね! はぁ…さいっこぉ♥️ 豚ちゃん凄く可愛くて助かりました…
[良い点] さすがファイナルエンド [気になる点] 頭ファイナルエンドだね(定期(?)) [一言] おう、偏向報道みたいななにかか。 脅してるとこだけ切り取りゃ"か弱い女の子(有名人)を脅すやべーやつ…
[良い点] ヒャッハー!戦争じゃぁ!ボケぇ!
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