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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
21/141

心とクソゲの関係性

「…………」


 戦士に転職してから、3時間が経過した。


 3時間、ボクは――一歩も動けずにいる。


『重量制限で動けません』


 ボクの視界を埋め尽くしているのは、赤色の大文字で書かれた“死の宣告(メッセージ)”。その禍々しい赤は、ボクを挑発するかのように光り輝いている。


 ステータスを確認して、ボクは、ようやく現状を理解した。






【レベル5】

 プレイヤー名:ミナト

 レベル:5

 職業:戦士 LV1

 所持金:800ルクス

 HP(体力):110

 MP(魔力):8

 STR(筋力):6(+5)

 DEX(器用さ):10

 VIT(耐久):0(+5)

 AGI(敏捷):25

 INT(賢さ):0

 LUC(運):20


 スキル

 ☆荒事専門

 ジャストガード

 突進 LV1


 装備

 左:粗野な大剣

 右:粗野な大剣

 胴:幻影の革鎧

 腕:黒鱗手袋ブラックスケイル

 足:薬液帯革ポーションベルト

 アクセサリー:☆大戦死のお守り






 転職後の強制装備変更……RPGではよくある仕様で、各職業(ジョブ)間の差異を明確化させる手段としておなじみだ。最もわかりやすい外見イメージで違いを分けるのは当然で、そのために職業(ジョブ)専用の装備品が設定されていたりする。


 屈強な戦士が杖を振るのはイメージとしておかしいし、射手が剣を振り回すのもピンとこない。だからこそ、戦士は杖を装備できないように、射手は弓しか持てないようにしたりする。


 それこそが、RPGのお約束、職業専用装備(なんらかの呪い)だ。






【大戦死のお守り】

 効果:極稀に、死を免れる

 重量:99999

 説明:たったひとりで、モンスターを万単位で葬り去った大戦士が身に付けていたお守り。戦士たちの誇りの証であり、戦士である限りは、コレを外すことは出来ない。






「本当に呪いの装備じゃねぇか!! 外せないし、重量99999ってなんだよ!! 重すぎるだろ!! 首から下げた瞬間に、頭ごと地球の内核まで突き進むわ!!」


 ボクは、両手を振り回しながら怒鳴り続ける。


「そもそも、何製だテメェ!! 地球上の物質で、ココまで重いものが作れてたまるかっ!! こんなゴミを誇りにするようなゴミ共は、このゴミごと根絶やしにしろや!! まずは、脳みその重量を増やせバァアアアアアアアアアアカ!!」


 つまり、ボクは、転職後の強制装備変更によって、この場に釘付けにされている。強制的に戦士専用装備に着替えさせられ、ファイナル・エンド世界の重力によって、輪廻転死クソループに陥っているのだ。


「そもそも、このゲーム、重量制限あるのかよっ!!」


 ゲームにおける重量制限は、バランス調整やバグの予防として用いられる。オープンワールドゲームなんかでは、おなじみのシステムだ。


 重量制限のあるゲームでは、アイテムごとに重量値が設定されている。


 プレイヤーの能力値(大抵は筋力(STR))によって、持ち運べる重量値が算出される。その限界重量値を基準として、プレイヤーは、持ち運ぶアイテムを取捨選択しなければならない。


 アイテム数が膨大なゲームでは、なんでもかんでもプレイヤーに持ち運びされては様々な面で問題が起きる(プレイヤーがアイテムを管理できなくなる、キャッシュが溜まって処理が重くなる等)。


 そのため、重量制限については文句はない。文句はないが。


「転職直後に重量制限かけるってどういうこと!? 余りある重力で、死へと導かれてるんですけど!? 開発者テメェ、地球でテストプレイしたことねーだろ!! 地球上の重力にのっとれば、職業変えたくらいで、動けなくなるなんてクソ仕様はねーんだよ!! ファイナル・エンド星の異星人エイリアンは、自分の星に帰って超新星爆発しろやクソゲーがよォ!!」


 転職直後に、強制で重量制限をかけるなんて聞いたことがない。


 転職したら詰みとか、どこのクソゲーかな?♡ おもちゃ売り場にこのクソゲーあったら、消費者団体が黙ってねーからな?♡


「コレ、マジでどうすればいいの!? 都市領域シティ・エリアだから、持ち物捨てられないし、捨てたところでどうにもならないことが感覚でわかる!!」

第0感(ファイナル・センス)

「人生において必要ない感覚だから、第0感ってか♡ やかましい♡ お前の家をたのしい森にしてやろうか♡」


 視聴者リスナーからは、次々と、お悔やみの挨拶と香典スパチャが届く。


 SNS上では『#Vtuberミナト 葬儀会場』がトレンド入りしており、粛々と葬儀は進行しているとの情報が入ってくる。ファイナル・エンド内でも、幾つかの領域エリアで、ボクの名前が刻まれた墓石が立てられているとのことだ。


 日常風景ファイナル・エンドだなぁ。


「いや、コレ、本当にココで詰みでしょ……」


 ボクは、一旦、配信を停止する。


 じっくりと考えてみるつもりで、目を閉じると――足音が聞こえた。


 カツ、カツ、カツ。ボクの前まで、誰かがやって来る。訪れた呼気が頬を撫でて、剣呑な気配が肌を刺した。


 音は止まって、目は開かれる。


「あはは、詰んでんじゃ~ん!」


 目の前には、大人気Vtuber――御心・ファッキン・妖華が立っていた。


 赤色の棒付きキャンディを舐める彼女は、ニタニタと笑いながらこちらを見下ろし、手元でナイフを弄んでいる。


 5色のマニキュアを塗った手元では、くるくるとナイフが回り続けており、その軌跡は一定の周期性をもっているようだった。


 目と目。


 ボク、間、彼女。


 その狭苦しい狭間で、不可視の火花が散った。


「ザッツ・ア・シンキンターイム!」


 両手の人差し指を振りながら、妖華は笑った。


「ミナトちゃんはさ~ぁ? ぶんぶんぶんぶん、小うるさい小バエが飛んでたらどぉ~する?」

「…………」

「普通はさ~ぁ?」


 目にも留まらぬ速さで――ボクの目玉の先に、刃先が突きつけられる。


「殺すでしょ?」


 ナイフをボクの瞳に向ける彼女は、口端を曲げてから凶器ナイフ退けた。


「殆どの人間は、そこに疑問は挟まない。道徳とか倫理とかおためごかしとか、面倒な疑問は捨て去って、“不快”だから殺す。徹頭徹尾、人間ヒトってのはそんなものでしょ。邪魔だから不快だから面倒だからって理屈をこねて、恐悦至極に死を練り出すの」


 なるほどと、ボクは理解する。


 コレが、彼女の“素”か。


「邪魔なんだよねぇ、ミナトちゃん」


 ナイフの刃先で自分の爪を弾きながら、つまらなそうな顔で彼女は言った。


「最近、私の視聴者リスナーも取り込まれつつあるし……いい加減、“お話”しなきゃなぁって思ってたんだよね~……ほら、妖華って、このゲームの公式Vtuberじゃん? 素人に横から、手も足も口も出されたくないんだよね~。

 あんたらが出して良いのは、献金スパチャだけ」


 ――主殿、入れ替わりの激しかったファイナル・エンド公式Vtuberは、ココ数年間、一度も代替えが起きていないのですよ


 豚浪士トンローシの言葉が、遅れて、ボクへと届いた。


「で? 毎回、ボクみたいに台頭たいとうしてきた新人に脅しをかけて、公式Vtuberの座を死守してるわけだ。出る杭は打ての精神ってヤツ? 

 クソゲーの中で、モグラ叩き(オールドゲー)してんじゃねぇぞ♡ 脳みそまで古臭い(オールド)だから、自分の実力不足も認められねぇのか♡ そのクソ認識力は、ファイナル・エンドでは重要項目だから、今後とも大事につちかっていってね♡」


 妖華の手が止まる。


「ペイン・コントロールって知ってる?」


 ナイフを回しながら、彼女はボクへと寄ってくる。


「VRMMOで、侵害受容器の刺激感知を模擬して、プレイヤーに対して現実感覚に酷似した痛みを与えられる機構システム

 ペイン・コントロールをONにすれば、このナイフで目玉をほじくった瞬間、ファイナル・エンドでもその激痛を享受できる」


 ゆっくりと、彼女は、動けないボクの目玉に刃先を近づける。


「どういう理由かは知らないけど、このファイナル・エンドにも、その機構システムは搭載されてるんだ~! 公式Vtuberの私は、そんな危ない機構システムをONにする権利が付与されちゃったりもしてる!」


 刃の放つ冷たい光が、ボクの瞳に差し込んだ。


「……その痛みを味わってからも、同じことをほざけるか試してやろうか?」

「あぁ、なるほど」


 ボクは、にっこりと笑う。


「ボク、お前のこと嫌いだわ♡」


 手を止めた彼女は、微笑んだまま刃先を止める。


「クソゲーってのは、クソクソ言いながらも楽しむもので、お前みたいに別の意味でゲームをクソにするヤツは要らねぇんだよ♡ もう既にこれ以上ないほどにクソゲーなのに、舐めたことしてクソ増ししてんじゃねぇぞ♡ 誰もクソマシマシなんて頼んでねーわ♡」

「なにも出来ない癖に、舐めた口叩くのやめてくれる? 一歩たりとも前に進めないのに、私に喧嘩売ったらどうなるかわかってんの?」

「おいおい、ボクを誰だと思ってる」


 ボクは、笑う。


「頭のイカれたクソゲ配信者だぞぉ!」


 目の前の笑顔を視て、彼女の顔がはっきりと歪んだ。


「遊んでいる人間の心を折って良いのは――」


 ボクは、眼前の刃を掴んで――


「クソゲーだけだ♡」


 脇にズラす。


「人生ではじめて、走ってくる地獄を視た」


 目の前の美しい顔立ちが、驚愕で彩られる。


初心者戦争ビギナーズ・ウォーって知ってるか?」

「まさかっ!?」


 彼女の両肩を掴んだボクは、スキルを発動する。


 青白い光で全身が包まれて、特徴的な効果音(SE)が鳴り響き、視えていた景色が線となって掻き消える。


 駆け走る刹那、ボクは高速移動体スピードランナーと化して――


突進くたばれ♡」


 凄まじい勢いで、彼女を壁に叩きつけた。

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― 新着の感想 ―
[一言] イカれる獅子の近くに上等なお肉がやってきたらおいしくいただかれるに決まってるじゃないのよさ クソゲーは理不尽やバグに怒って、嘆いて、悪態ついて、現実逃避して、諦めて、なんやかんやで無理矢理笑…
[良い点] やはり魔王の体の中の美少女勇者の体の中にいたのは魔王だったか [気になる点] こ《閲覧制限》 [一言] 《閲覧制限》もやはり頭《閲覧制限》でしたね。 さあ、《閲覧制限》ははたして《閲覧制限…
[良い点] 徹底抗戦だ!!
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