やったー! 転職だー!!
「転職案内を表示するね、お姉ちゃん!」
特徴的な効果音とともに、ウィンドウが表示される。疲弊しきったボクの視界に、職業案内が浮かび上がった。
【戦士】
役割:TANK/Van-DPS
特化能力値:耐久、筋力
転職必要値:筋力5以上
職技能:揉め事専門
能力報酬:耐久+5、筋力+5、
解説:闘争を糧に生きる武装民族。幻影平原にて、敵を相手取り戦いに明け暮れている。食事・性交・睡眠よりも戦闘を重視しており、餓死・絶滅・眠断を招きかけている。
【騎士】
役割:TANK
特化能力値:体力、耐久
転職必要値:耐久5以上
職技能:肉盾
能力報酬:体力+50、耐久+10
解説:遺城に服している妄臣。簒奪された王座に縋り、かつて、栄華を誇った王国の夢に浸る。忠を尽くした王は死に、愛した民は失われ、守護という名の妄執だけが残った。
【治癒師】
役割:HEALER
特化能力値:筋力
転職必要値:賢さ5以上
職技能:来世に期待♡
能力報酬:筋力+10
解説:戦場を駆け回る慈愛の女神。かつて、各国間の分断を招いた独立戦争にて、数多くの命を救った一流の傭兵集団。彼/彼女らのお陰で命を救われた者たちは、口々に『天使を視た』と言ってはばからない。
【射手】
役割:Ran-DPS
特化能力値:器用さ
転職必要値:器用さ5以上
職技能:フリーシューター
能力報酬:器用さ+10
解説:祖種より受け継ぎし秘技を用いて、弓矢を手足のように操る者。彼らの影を視た瞬間に、音もなく射抜かれ、姿を視ることなく即死する。一部の国では、影歩きとも称される。
【魔術士】
役割:Ran-DPS
特化能力値:魔力、賢さ
転職必要値:賢さ10以上
職技能:術解
能力報酬:魔力+50、賢さ+10
解説:かつて、人類と敵対したことで、絶滅した魔術師の“血”を受け継いだモノ。その姿は、人のようで人ではない。この世の理を覆すことで、識すらも裏返し、あの世の術すらも解する。
【魔物使い】
役割:検閲制限
特化能力値:検閲制限
転職必要値:検閲制限
職技能:検閲制限
能力報酬:検閲制限
解説:検閲制限
【付与術士】
役割:検閲制限
特化能力値:検閲制限
転職必要値:検閲制限
職技能:検閲制限
能力報酬:検閲制限
解説:検閲制限
【忍者】
役割:検閲制限
特化能力値:検閲制限
転職必要値:検閲制限
職技能:検閲制限
能力報酬:検閲制限
解説:検閲制限
【侍】
役割:検閲制限
特化能力値:検閲制限
転職必要値:検閲制限
職技能:検閲制限
能力報酬:検閲制限
解説:検閲制限
「……こわい」
まともな職業解説を前にして、ボクは震えている。
「たいしたツッコミどころがないところが……こわい」
なにせ、このファイナル・エンドは、超弩級のクソゲーである。ついさっきも、美少女の往復ビンタで殺人教唆を受けたばかりだ。
――大人の人と一緒に読んでね
呪いの言葉が脳裏をよぎって、ふつふつと、煮えたぎるような怒りを覚える。
あんな説明文を付け加えるようなクソゲーが、まともな職業を用意しているとは思えない。恐らく、この中の数個は糞職だ。『☆なにがでるかな?』レベルの職業技能があってもなんらおかしくはない。
「みんな、コレ、どれが正解なの……?」
『ファイナル・エンドをやめるのが正解』
「当たり前のことを我が物顔で言うな♡ ブロックするぞ♡」
視聴者は、役に立たないと即時に判断する。
額から汗を流しながら、ボクは、職業一覧を前に唸り声を上げた。両目を左右に動かして、どこかにヒントがないかと探し回る。氷河期世界において、誤ちや失敗は死を意味する。
どこだ!? ボクを導いてくれる導師はどこにい――おすすめ職業は、『戦士』だよ!
「天啓……!」
そうだ、ボクには力強い味方がいた。
御心・ファッキン・妖華……チャンネル登録者数120万人を誇る大人気Vtuber、このクソゲー世界でまともな頭をもった女性。
脳と糞が直結されておらず、『なんで、○○なんですか?』という質問に対して『ファイナル・エンドだから』以外の回答を導き出せる才媛。
信じよう、彼女を。
ボクは、このクソゲーを通じて、人間の醜さを学んだ。誰も彼もが悪魔の面をしていて、地獄に誘ってくると思っていた。
だが、きっと、そんなことはない。
人間の本質は、“善”だ。だって、ボクらは光の下で生きている。
人間は、火によって成り立ってきた。闇の中には身を置かず、あたたかな光明に生を見出した。
だったら、信じるべきだろう。
人の、心を。その、善を。
ボクは、正しい人間で在りたい……だから、この答えを選ぶ。
「『戦士』に転職しまぁす!!」
「は~い! じゃあ、転職ダンスしま~す!」
エレノアは笑って、ぐーにした両手を上下に振りながら踊り始める。
歌付きだった。犬さんがわんわんとか、猫さんがにゃーにゃーとか、オタクを殺しにきている踊りだったが、普通の人間には効きはしな――ボクは、キモオタだったので即死した。
萌え死んでいる間に、踊りは終わっている。
「うわっ!」
突然、ボクの身体は光に包まれて、まばたきのうちに衣装が変わっていた。
全身を包んでいる革鎧に、背中にくくりつけられている大剣……首には剣を重ね合わせた首飾りが、黒色の穴空きグローブに、ポーションらしき瓶が腰回りに結びつけられていた。
注意深く観察してみても、どこも、おかしいところはない。
ボクは、あまりの感動に、一筋の涙を流した。
「信じて……良かった……」
心から、そう思う。
御心・ファッキン・妖華を信じて良かった。やっぱり、人は清い心をもって生まれてくるんだ。ボクは、今日、女神を垣間見た。
これからは、正しい道を歩もう。地獄のような世界でも、きっと、善人は報われる。
そう信じて、歩き出そう!
ボクは、笑いながら、一歩目を踏み出――『重量制限で動けません』。
「……は?」
『重量制限で動けません』
ボクは、一歩も動けずに、ただ立ち尽くす。
『重量制限で動けません』
目の前に表示された死の宣告を視ながら――
『重量制限で動けません』
ただ、棒立ちしていた。