ここからが、本番《クソゲー》です
――クソゲーは、儲かる
現在、大人気のVRMMOを中心にライブ配信する『Vtuber』なる存在が、注目を集めているらしい。
その中でも、クソゲーカテゴリが大ブームだ。開発者の正気を疑うようなゲームを、頭ハゲそうになりながらプレイする様子がウケているらしい。
僕にも、身に覚えがある。
他人が苦しんでいる姿を視るのは面白い……中でも、ツッコミどころ満載のクソゲーで苦役に足掻く姿は最高だ。一時期、クソゲをおかずに小麦粉食べてた。
なので、僕は、うかつにもクソゲー界へと足を踏み入れた。
「ファイナル・エンド……」
枢々紀ルフスから聞いたクソゲー界の王、『ファイナル・エンド』をネットで検索すると、数百万再生されている『ファイナル・エンド あだ名・罵倒集』なる動画が10件以内にヒットした。
『最クソ』、『ソドム』、『PTSD』、『カスダナーサービス』、『幼少期に見る悪夢』、『サバト』、『悪党の義務教育』、『Welcome to the KUSO』、『赤ん坊に見せたら泣き死んだ』、『日本のクソ心』、『地獄界 第十圏 ファイナル・エンド』、『サタン、アンリ・マンユ、ファイナル・エンド』……そこには、この世の地獄みたいな文句が、ズラズラと並んでいた。
詳しく調べてみると、続々と、恐怖の調査報告書が見つかった。
傍目から視れば、壮大なテーマをもつ王道ファンタジーのようにも思える。プレイヤーから『疑似餌』と呼ばれているパッケージ絵は、有名イラストレーターの最高傑作と呼ばれるだけあって、心躍り胸が弾む冒険を予感させた。
実際には、心病んで胸が止まる(死)。
このゲームをプレイした人間の感想は、二種類に分かれる。
『この世で最も神ゲーに近いクソゲー』か『もう二度と、戦争を起こしてはいけないと思いました』、だ。
後者を吐いたプレイヤーは、アンチスレへの通院を余儀なくされ、日常生活に戻るのに数週間はかかるらしい。
ココまで調べても、覚悟を決めた僕は引き返すことはしなかった。
誇張表現だと思ったのだ。
本当に……そう思っていたのだ。
『ようこそ、ファイナル・エンドの世界へ!』
僕はゲームが好きなので、もちろんVRMMOをプレイしたことがある。
おなじみの蒼色のウィンドウ、そこにはお決まりの文句が並んでいた。並んでいたのだが。
「……なんか、フォントサイズ、おかしくない?」
白抜きの文字の『ようこそ』が、明らかに大きすぎて、ウィンドウを突き抜けていた。まるで、ウィンドウという名の牢獄をぶち破って、自由を求め飛びたった白鳥みたいな荒ぶり方だった。
『キャラクターメイクを開始します』
「は~い、よろしくお願いしま~す♡」
事前にモデルデータを作成出来るタイプだったので、僕は、完璧な『ミナト』の分身を創り上げていた。
蒼色の長髪に小柄な体躯、男性を惑わせる蠱惑の瞳は銀色で、微笑む姿は女神の如き美しさをもっている。
母なる海を主題として完成させた彼女は、こだわりにこだわり抜いたお陰もあって、芸術品とも言える完成度を誇っていた。
分身は出来ているので、後はゲーム内の個人情報を決めるだけ……僕は、小首を傾げながら、項目を眺めていく。
「えっ」
そして、幾らスクロールしても終わらない職業欄を見つけた。
「しょ、職業、多すぎない? だいじょうぶ?」
異様なまでに、職業が多い。というか、多すぎる。どう考えても、バランスがとれるとは思えない数だ。なんでもかんでも、量を増やせば良いってもんじゃないということは、ゲーマーであれば誰でも知っている。
「あ、でも、初期職業は『素人』固定なんだ……飽くまでも、これから、色々な選択肢がありますよっていう提示ね。憎い演出で良いじゃん」
僕は、そう納得しておく。
『では、これから、幾つか質問に答えて頂きます。その答えによって、あなたの初期パラメータが決定します』
「おっ、いいね~! 普通にSTRやらAGIやら振っていくよりも、選択肢でプレイヤーの適正を試す感じが好きぃ♡」
初期職業が固定されているのもそうだろうが、あまりゲームに慣れていないプレイヤーでも、スムーズにゲーム世界へと入っていけるような配慮だろう。
意外とヌルゲー……いや、優しさの溢れるゲームなのかもしれない。
よくある質問は、『道端で、お婆さんが倒れています。あなたは、どうしますか?』などと、倫理観や道徳観を探ってくるものが多い。
こういった質問で、積極的に前方で戦うのか、後方で支援を行うのか、プレイヤーの好みを調査するのだ。
『道端で、お婆さんが倒れています』
「はいはい、テンプレテンプレ」
『なんで、殺したんですか?』
「待て待て待てぇ!! テンプレにかこつけて、とんでもない叙述トリックかますなっ!! なんで、当たり前のように、僕が殺したことになってんの!? 第一問で、倫理の極限を突くのはやめて!!」
『では、第2問』
今のツッコミ、まさか、回答としてカウントされてないよね? まるで、何事もなかったかのように進むんだけどこのゲーム。
『よく、アニメを視たりしますか?』
「いや、あの、この質問でなんの適性がわかるの……まぁ、たまに、視たりもするけど」
『へぇ、結構、オタクな感じ?』
「なんで、急にフランクになってんの? 距離の詰め方が下手くそなオタクか?」
その後も、意味があるんだかないんだかの質問が続いて、ようやく初期パラメータが設定されてキャラクターメイクが終わった。
『お疲れ様でした。
では、これから、あなたをチュートリアル・エリアに誘います。そこで、このファイナル・エンド世界を学んでください』
案内人の言うことには、ひとつ足りとも、嘘偽りは存在していなかった。
僕は、チュートリアル・エリアでファイナル・エンドを学ぶ。
1036回の死によって、徹底的に、世界を学習させられる。
ココからが、本番だった。




