○し方は、クソゲーが教えてくれた
「『素人』は罠職だよ」
「だろうね♡」
突然、ボクの前に現れた御心・ファッキン・妖華は、既に気づいていた真実を丁寧に教えてくれた。
「Wikiとか視ないタイプ? ファイナル・エンドで初期職に縛られるとか、前世は大量殺人鬼?」
「そこまで言われるようなことをした覚えはないんですが……」
「今後もクソゲーやるつもりなら、エレノアちゃんのところで転職してこなきゃ!」
召喚獣を引き連れた御心・ファッキン・妖華は、腰に手を当てこちらを指差し、お姉さん気取りで忠告してくる。
「エレノアちゃん……? 人みたいな名前した敵だね」
「い、いや、ふつーに善良なNPCだから。ファイナル・エンドで、一番、有名な女性NPCだよ。人気もあるから、『エレノアちゃん教会』って言うギルドが存在してて、ギルド員たちは日がな一日彼女の護衛をしてる」
集団ストーカーをギルドと呼称するのはやめなさい(仏の導き)。
「転職教会、わかりにくいところにあるし、良かったらわたしが案内しよっかぁ? どーせ、暇だし」
「は? 暇だからって、親切行為を働くとか……人間か?」
「に、人間だけど……ど、どういうこと……?」
普段、豚浪士のような魔人を相手にしているせいか、目の前の彼女がまともに視える。このファイナル・エンドに生息している普通の人間は、彼女くらいかもしれない。
親切な妖華に連れられて、ボクは、街の中央部にまでやって来る。
エフェンシアは、内壁で六つの領域に分かれている。ボクたちが今いるのは『城街領域』だ。
中世ファンタジーの世界観を主題とした領域で、レンガ造りの家と緑に溢れ、中央部には純白の城が建てられている。
「目の前にあるのが、遺城だね」
城へと続く跳ね橋の上で、妖華は、目の前にある城を指した。
雄大な姿で佇立するお城は、表面を撫でるように銀幕がかけられており、どこからかそよいでくる風によって、ひらひらと銀色が揺れていた。
「転職教会は、この城の中にあるんだよね~。地図上の案内だと、遺城を指してるから辿り着けない人が続出。転職できないまま、素人としてレベルを上げ続けて、この世界に絶望するまでがチュートリアルって言われてるの」
最早、選ばれし人間しかできねーだろ、このゲーム。
NPCらしき長槍をもった門番は、城へと入ろうとしたボクたちをちらりと一瞥する。瞥見するだけで、なにもしてこなかったので、クソゲーの癖になんて模範的な態度をとるんだと驚いた。
妖華の後について入城すると、城の中には行列が出来ていた。
紋章の刻まれた大盾や歴代の王の肖像画が飾られた廊下、赤いカーペットの上に立って、無言で待ち続けているプレイヤーがいる。彼らは、黙々と、目の前に並んでいる人の背中をナイフで刺していた。
「なに、この行列……そして、なぜ、当たり前のような顔で、刃傷沙汰が起こってるの……クソゲーか……?」
「エレノアは、ユニークNPCだからね。ファイナル・エンド世界にはひとりしかいないの。転職するだけなら、他の教会員に頼んでも問題ないんだけど、彼女の人気が飛び抜けてるんだよね~。
運営の人たちが、プレイヤーをただ待たせるのは申し訳ないって言って、この間のアップデートで、前に並んでいる人を刺せるようになったの」
「申し訳ないのは、運営の頭だろ♡
ココは、教会だぞ?♡ どこの神から神託を受けたら、行列待ちの暇つぶしが刺殺になるの♡ 邪教徒のオフ会かな♡」
「ミナトちゃん、コメント、おもしろ~い!」
褒められてるのに、嬉しくないのはなぜでしょうか?(正解:クソゲーだから)
せっかくなので、ボクは、エレノアとかいうNPCと会っておくことにする。外で待っていると言う妖華は「おすすめ職業は、『戦士』だよ!」とボクにアドバイスをしてから、城外へと出ていった。
待っている間、確かに暇だったので、試しに前に並んでいる男を刺してみる。
『MAVELOUS!!!!』
視界に巨大な虹色の文字が飛び出てきて、小さな花火が打ち上がり、気持ちの良い効果音が鳴り響いた。
「…………」
ボクは、背中側から、急所と成り得そうな箇所を刺してみる。
『AMAZING!!!!』
男の背中から虹色の閃光が迸り、小さな小人のキャラクターたちが出てきて、満面の笑みで拍手をしてくれる。頭上にくす玉が出現して、大仰な音を立てて割れ落ち、七色の花吹雪がボクへと降り注いだ。
「…………」
目の前の男の腕をもち、固定してから連続で突き刺す。
『HAPPY NEW HELL YEAR!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
廊下の端から端まで、美しいメイドと執事が出現して、一斉にボクへとクラッカーを炸裂させる。廊下を破壊しながら、象に乗った謎のインド人が現れ、大声で歌いながらキレキレのダンスを披露してくれる。
インド人を囲んだインド人たちが、音楽に合わせて踊り始めて、謎の黄色い花を撒き散らしながらボクへと笑顔を向けてくる。
「…………」
ボクは、謎の黄色い花を、頭から浴びながら思った。
神ゲーやん、コレ……。
ボクは、夢中になって、自分の順番が来るまで目の前の人を刺し続けた。