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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
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地獄には層がある

 巨大ヤドカリを殴り続けて3時間――ボクは、まともに攻略することを諦めた(そもそも、ヤドカリを囲んで殴り続けるのを正攻法とは言わない)。


 まずは、初心者領域ビギナーズ・エリアの脱出を検討してみた。


 たしかに、親切な女性プレイヤーの言っていた通り、『たのしい森』から別領域(エリア)への移動にはレベル制限がかけられていた。恐ろしいことに、レベル制限は戻る道にも施されており『ほのぼの丘』に戻ることすら許されない。


 次に、ボクは、別のモンスターを探してみた。


 最強ゴブリンでもなんでも良い。割りに合わない経験値(EXP)であろうとも、倒せるのであれば御の字だ。


 しかし、他のモンスターなんて、どこにも居ない。森には、デカいヤドカリしかいなかった。『ヤドカリン』とかいう名前が、こちらを煽っているようにしか思えなくて青筋が立つ。


 しばらくの間、ヤドカリンを観察してみたが、どうやら環境の影響を強く受けているようだった。


 ファイナル・エンドのゲームエンジンは、リアルタイムで気象を模擬シミュレートしている。


 金の無駄としか思えないが、ファイナル・エンドの気象は、GPV(米国海洋大気局等の気象予測モデルから算出した気象予測値)の情報(データ)を基にしているらしい。


 気候的に似通っている現実の場所を基礎ベースにして、有り得る範囲内での気象変異をゲーム内時間に合わせて演算しているとのことだ。こういった処理を切り分けするために、領域エリアを細かく分けているという背景があるのかもしれない。


 それが全領域オール・エリアに適用されているので、それなりに費用コストはかかっているだろうし、売りのひとつであることも間違いないだろう。


 気温が上がる日中、ヤドカリンは熱を避けているのか、大木の根本にある巣の中へと引っ込んでいた。


『もうコレ、詰んでね?』

「それなぁ……」


 力なく、切り株に腰を下ろしたボクは、視聴者リスナーの言葉にため息を吐く。


『外から知り合い呼んだら?』

「…………」


 黙り込むと、怒涛の如く、コメントが垂れ流される。


『えっ、友達いないの!?』

『トイレでご飯食べても、お腹壊さないんですか?』

『こんなクソゲーやってるヤツに、友達なんているわけないだろ!!』

『コイツ、クソゲーの話になると早口になるよな……』

『学校には通わずに、ファイナル・エンドには通った女』


 今まで、黙ってた癖に、嬉々としてコメントし始める視聴者コイツら……クズどもがよォ……!


「いや、友達いるから」

『誰?』

「く、枢々紀(くるるぎ)ルフスちゃん……」


 一瞬、コメントが止まった後、凄まじい勢いで流れ出す。


『もうちょっと、頑張ってみようぜ!』

『いつも、配信視てます!! 応援してます、頑張って!!』

『ミナトちゃん、いつもかわいい! 応援してます!!』

『がんばれ~! 応援してるぞ~!!』

「嘘認定して、急に優しくなってんじゃねーぞ!! クソどもがよォ!!」


 叫んでスッキリしたボクは、プレイヤーが即身仏と化していく様子を見せてくれた初心者ビギナーに声をかける。


「薬物って、やめられないって言うわよね」

「出合い頭に、薬物中毒者扱いしないでください……」

「一緒に殴る?

 貴女、可愛いから仲間に入れてあげてもいいわよ」


 虚ろな瞳で、ヤドカリンを殴っている集団を指して、彼女は地獄へと誘ってくる。


「いや、ちょっと、ボク、思いついたんだけどね」

「なに?」

「ココ、PVP領域(エリア)なんだよね? 即身仏を殺して、レベル上げしてみたらどうかな?」

「成仏ね」


 既に固有名詞が付けられてる……。


「ファイナル・エンド世界では、人殺しなんて挨拶みたいなものだから、殺したところで経験値(EXP)なんて得られないわよ。今までに、同じ発想に至って、即身仏を殺害……つまり、成仏させるプレイヤーはいたけど、誰もレベルは上がらなかった」


 B級映画でも、挨拶代わりに人を殺したりしないよ?


「確認したいんだけど、ヤドカリンって、レベル1なの?」

「そうね」

「ヤドカリンは攻撃を避けてるんだよね?」

「そうだけど」

「それじゃあ、攻撃が外れているというよりは、外されているって表現が正しいわけだ」

「……なにか考えてる?」

「アイディアはある」


 ボクは、ため息を吐く。


「インタラプトVRだし、クソゲーだからいけると思うんだけどね……ちょっと、気が咎めるというか……それに、もうちょっとアクセントが欲しい……」

「な、なにする気?」

「…………」

「なにする気、貴女ァ!? ねぇ!? 初心者戦争ビギナーズ・ウォーみたいなことするつもりじゃないわよね!? やめてよ!? ねぇ!? お願いだから、やめてよ!? 頼むから!!」

「君は、親切にしてくれたから教えてあげる」


 満面の笑みで、ボクはささやく。


「地獄には層がある」


 ささやかれた彼女は、びくりと震えた。


「ココは、まだ、最下層じゃないんだよ……」


 呆然と立ち尽くしている彼女を残して、ボクは、使えそうなモノがないか森の中を見回った。落ちている木々を拾い上げながら、平たいものと棒状のモノを見繕う。


 革のズボンの紐を解いてから、ふと、即身仏に気づいた。


「…………」

「お、コレは、死んでる」


 どうやら、即身仏化(放置)してから、ある程度の時間が経つと、強制ログアウトの前に死亡扱いされるらしい。


 気になったボクは、その死体の肌に触れてみて――


「おやぁ♡」


 身震いしながら、喜悦の声を漏らす。


「ええやん、これぇ♡」


 全ての準備は整った。


 今から、地獄を――掘り進めよう。

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― 新着の感想 ―
よくわからんけど罠的なやつとか、ケツから手ぇ突っ込んで奥ばグリグリしたら当たるんとちゃうのん?
[一言] あ〜はいはい、SO☆KU☆SI☆N☆BU☆TUが成仏すんのね
[一言] ビギナー狩ったら経験値2倍キャンペーンあったよね… 0に何をかけても0なんだよ運営さん… なんとも意味の無いことする運営だなぁ 最高かよ!
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