表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/141

楽しい転職、霊王マラソン

 戦士が一歩も歩けず戦死する理由――それは、職業専用装備こと大戦士のお守りに起因する。


 その重量99999、重量制限によって歩行を禁じられる魔のアイテムだ。本来は、アクセサリー欄にデカデカと書かれており、戦士である以上、外すことができない筈のソレはいつの間にやら外れていた。


 数分前に、別れを告げたエレノアを問い詰めると、彼女はあくびをしてから答える。


「いや、だって、大戦死のお守り外せるし……」

「お前、それ、無同意殺人だからな?」


 話を聞いてみれば、転職時に、職業専用装備は外すことも出来るらしい。なぜ外さなかったと聞けば、誰にも頼まれなかったからとの回答が返ってきて、クソダナーサービスの片鱗に触れ身体が震えた。


「ちなみに、長時間、アクセサリー欄を空けたままでいると勝手に再装備されちゃうんだよね……サプラァイズ!!」

「NPCって、倫理観を定期的にフォーマットしてんの?」


 下手すれば、死んでいたところだ。のほほん言ってやがるが、大事おおごとである。にも関わらず、エレノアは、全く気にした様子はない。信者たちに両手両足をマッサージされながら、頬まで膨らませて見せる始末だ。


「んもー! なんで、ミナトお姉ちゃん、怒ってるのぉ? そんなに文句あるんなら、他の職業に転職させてあげるよぉ!」

「当たり前だろ♡ ボクの怒髪天が、テメーの心臓を貫くわ♡

 戦士以外なら何でも良いから、とっとと転職させてくれ」

「え……本当に、なんでも良いの……?」

「嘘嘘嘘ぉ!! ちょっと待って!! そういや、ココ、ファイナル・エンドだった!! まともな職業があるわけないわ!!」


 ボクは、ちらりと、待機しているタオに目をやる。


「とりあえず、魔術師は頭がおかしい。戦士は自殺前提。治癒師は死ね。忍者と侍は論外。騎士と魔物使いはファイナル・エンド。付与術士は死刑リンチに遭うし、射手はゴミ」

「やだー♡ 片っ端から、全部、クソ職じゃん♡」

「ミナトちゃんって、自分で自分の首を締めて死ねたりします? だったら、治癒師がオススメですよ」

「一生、ボクのオススメ欄に出てくることはないね♡ 死ね(低く評価)♡」


 結局、ボクは、射手を選ぶことにした。


 他の職業とは違って、比較的ヤバい要素が少ない上に、職業専用装備がないので防具の自由度が高い。弓を装備しないとまともにDPS(1秒あたりに与えたダメージの効率)が出ないらしいが、遠距離から安定して攻撃出来るのは強い。


 さくっと、転職ダンスを堪能してから、今度こそエレノアに別れを告げる。


 ファイナル・エンドは、プレイヤーの動作を重視するアクション性の高いインタラプトVRに属する。初期装備でも、テクニック次第では、なんとでもなるということで、金もないしそのままで行くことにした。


「で、とりあえず、セオリーとしては周辺でレベル上げ?」

「そんなことしたら死にますよ」


 Q. なんで、MMORPGなのにレベル上げしないの?

 A. ファイナル・エンドだから


「霊王が健在なら、霊王マラソンで稼いでたんですが……」

「なに、その、霊王マラソンって」


 目を細めたタオは、淡々と答える。


遺城カストルムは、王座を埋めることで……つまり、霊王を指定することで、城全体の防御パラメータを上げることが出来るんですよ。だから、クラウドはプレイヤーの中から霊王を選んで、遺城カストルムの防衛兵器としていました。

 霊王に選ばれたプレイヤーは、エネミーとして扱われて攻撃出来るようになります。その霊王の経験値が美味い、ジューシー、何杯でもイケる!! ってことで、タオちゃんたちは、喜び勇んで霊王を狩ってました」

「いや、でも、プレイヤーは一度死んだら終わりじゃないの? 何回も狩れなくない? マラソン不可じゃない?」

「いえ、霊王は、城と命運を共にするので、城が壊れなければ何度でも生き返ります。城自体が保全されていれば、むしろ、この世界で最も安全な存在と言えますよ。

 だから、クラウドは、豚ちゃんの保護にも、霊王と言う立ち位置を用いたんです」


 なるほど。


 ようやく、ソーニャちゃんが、なぜ『霊王』の立ち位置に甘んじていたのかわかった。命の恩人(クラウド)に説得されて、上手いこと言いくるめられたのだろう。


 それは、アラン・スミシーの命令だったのか、クラウド自身の意思だったのか……今更、確かめようとも思わないが。


「霊王を殺し続けて、経験値を荒稼ぎするのが霊王マラソンね。そういや、君のギルドのお仲間みたいなのが、城の中にいたけど?」


 ――お前、ふざけ……同じギルドだろーが……!


 城の広間。


 シャンデリアの上に隠れていたプレイヤーが、必死にタオへと呼びかけている姿を思い出し、なんとなしに聞いてみる。


「タオちゃん、いちおー、ギルドマスターなので。略して、ギーなので」

「そんな略し方するヤツ、視たことねーよ」

「一時期は、クラウドちゃんとガチで殺り合ってたフシもあります。仲間を呼び寄せて戦争フッカケようとしたら、入出国制限を設けられたレベルのガチ具合です。どやぁ」


 真顔で胸を張るタオに、ため息を吐きかける。


「あの入出国制限、お前のせいかよ……」

「ちなみに、入出国制限に用いられたおみくじは、タオちゃんの仲間を判別する装置になっていて、『大吉』が出たプレイヤーは遺城カストルムの地下牢に転送されます」


 アレ、地下牢に召されてたのね。


 被害をこうむってきたボクは、諸悪の根源が目の前にいることに憮然ぶぜんとしつつ、同時に胸の中で疑問が膨れ上がるのを感じた。


「そもそも」


 ボクは、唇を舐めて、言った。


「なんで、クラウドと敵対してんの? ほぼ、喋ったりしてなかったよね?」

「さて」


 人差し指を口の前で立てて、タオは、嫣然えんぜんと一笑した。


「なんででしょーか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おはこんばんにちは、私です。 1.戦士が・・・歩ける・・・!!!??? 2.大丈夫??その職業地雷仕掛けられたりしてない??? 3.タオちゃんかわいいなぁ(脳死 4.この世界で死なないと分か…
[良い点] 死んでも復活するからあえて王に… なるほど、狙われてもどちらにもメリットがあるということか さすが、性別負傷トマトパスタ先生だ!!! [気になる点] 一言だけ、言わせてください [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ