表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/141

交わらぬ道

 どっかの廊下で、天使を倒しても勝利を得たわけにはならない。


 所謂いわゆる、局所的勝利ってヤツである。


 同時に、連続で、遺城カストルムの各所は攻撃されていた。


 ボクらが、ひとつの廊下で天使Aを倒したところで、大局が変わるようなことはない。だからこそ、ボクの勝利宣言は、ちょっとした気休めのつもりだった。


 気休めのつもりだったが――


「ミナトちゃん」


 大勢のプレイヤーを引き連れたクラウドは、天使の大群相手に勝利を収めて、ボクを驚愕の眼差しで見つめていた。


「なぜ……なぜ、戻ってきたんだ……」

「忘れ物しちゃった♡」


 ウィンクしたボクに、クラウドは絶句する。


「言ったでしょう」


 クラウドの背後から、ぬっと姿を晒したタオは、あくびをしてからささやく。


再見つぁいちぇん


 ボクが取り込まれた、レア・クロフォードの過去。


 あの過去が正しければ、タオは、シャルから『ミナト』の話を聞いていた。そして、ボクとシャルの繋がりも。


 ボクと彼女の縁は、断ち切られることはなく、引き寄せられた。


 タオの思い描く通りに。


「わかってるのか……最後の……最後の機会チャンスだったんだぞ……! どうしてっ……!? どうして、戻ってきた……!?」

「言ったでしょーが、忘れ物だって」

「シャルを救いに来たのか……!?」

「違うね」


 クラウドの言葉に、ボクは微笑で応える。


「ボク自身のために来た」


 ――ミナト


 ボクは、決着ケリを着けるために――ココに居る。


「ふふ、ミナト・チャンは、面白おかしいヒトですね。哺乳類ですね、類人猿ですね。ホモ・サピエンスみたいな面ァしてますねぇ。猿は猿らしく、感情に従って、騒ぎ踊るのが正しいことだと思いますよねぇ」

「タオちゃん、君、随分、昔と比べてお喋りになったね」

「はれ? もしかして、タオちゃんの過去を視ました? だから、片目が潰れちゃってる?」

「あぁ、視たよ」


 ボクは、失った右目を撫でる。


「タオ、お前、なにを求めてココに居る。シャルのかたきは取ったろ。なんで、まだ、シャルの夢の中にいる。いい加減、目覚めて働けや、クソニート」

「勘違いしないで欲しいんですがね」


 お目々を閉じて、可愛らしく、両手を擦り寄せたタオはつぶやく。


「タオちゃんは、アランの側にいるわけではありませんよ。そこに居るクラウドとは違ってね。タオちゃんはタオちゃんの心に従って動きます。そして、女心と秋の空ってのは、様変わりしやすいもんなんです」


 両手で。


 胸の中心でハートマークを作って、タオは、蠱惑的に目を細める。


「そして、あなたがたは真理を知り、真理はあなたがたを自由にします……って言ったりもするじゃないですか」

「私は」


 宣言するように、クラウドは言った。


「私は、アランの味方だよ、ミナトちゃん。でも、もう、借りは返したと思っている。レアにもシャルにも世話になったが、もう、コレでお手伝いはお終いにする。だから、私は私の行動理由を持つし、ミナトちゃんを救いたいと思っていた。

 でも」


 悔しそうに、彼女は歯噛みする。


「君は戻ってきた」

「あいるびーばっく……って、言い忘れた♡」


 ふたりに敵意がないことを知って、ボクは、武器を引っ込める。ようやく、クラウドは、緊張を抜いて笑った。


「でも、戻ってくるような気はしていたよ」

「で、ミナト・チャンは、これからどうするんですか? なんか、面白いことするんでしょう? このクズ野郎が」

「急に罵倒するな、クソ女ぁ♡

 なんだか知らんが、君らは、この城を守ってくれるんでしょ? だったら、ボクは、終着点ファイナル・エンドを目指すよ」

「やめておいた方が良い」


 ハッキリと、クラウドは、ボクを止める。


「レアは……アランは……もう、手遅れだ。シャルはもう居ない。

 ミナトちゃん、君が終着点ファイナル・エンドを目指す理由はひとつもないんだ」

「何度、言わせんだテメー♡ レアもシャルも、関係ねーんだよ♡ ボクはボクのために、終着点ファイナル・エンドを目指すんだ♡ 一度、出発した電車が、社畜のために下がってきてくれたことあんのか♡」

「……私はね」


 実在しないなにかを掴もうと、躍起になるみたいに。


 目を伏せたクラウドは、視線の下にある右手を、何度も握っては、開く。


「シャルの敵を討ちたかった。日本にいて、なにも出来なかったからね。レアは、己の信念に従って、シャルのために行動を起こした。対する私は、レアの後ろにくっついて、敵討ちをするフリで己の心を満たすことしか出来なかった」


 ゆっくりと、彼女の顔中に苦渋が広がる。


「羨ましいよ、君たちが……私は、ただ、この最後の安息地を……遺城カストルムを守っているだけだ……なにをしているんだろうな、私は……矛盾しているのはわかってるんだ……レアの邪魔をしているだけだと……でも、この城は……この城だけは……守りたいんだ……」


 苦笑して、クラウドは、ボクに向かって片手を挙げる。


「頑張れ、ミナトちゃん。応援してるよ」

「さんきゅー」


 ボクは、彼女に背を向けて――


「ミナトちゃん」


 その声に振り向き、彼女の哀しそうな笑顔を見つめた。


「この城はね、シャルが企画して、私がデザインしたんだ」


 今にも泣きそうな顔で、彼女は笑う。


「私が……」


 彼女は、ささやいて。


「私が……デザインしたんだよ……」


 知ってるよ。


 ――ちょっと、クラウド! ぜんっぜん、わたしのコンセプトと違うじゃん!!


 シャルの笑い声も。


 ――クラウドは、絵は上手いんだが、画が下手なのが難点だな


 レアの皮肉も。


 ――デザインのはみ出し方が、人間性のはみ出し方と同じですよ


 タオの悪態も。


 ――ミナトちゃん!!


 君の。


 ――どうだ、このデザイン!? 最強じゃないか!?


 笑顔も。


「知ってる」


 クラウドは、大きく目を見開いて――


「そうか……」


 重荷を下ろしたみたいに、表情筋を緩めた。


 ボクは振り向かず、クラウドも振り向くこともなかった。


 ボクらは、道をたがえて、互いに進むべき場所へと進んで行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とまとすぱげてぃニキネキ(性別不明)の書くなろうはもっと伸びていいだろ!どんな脳みそしてたらこんな神作品かけるのかわからん。お願いだから書籍化して欲しい…アルファポリスくんはこっちで見れなく…
[一言] どうも❤️仕事とかetc…で忙しくて最近家に帰って寝るだけの生活送ってた私です❤️肩と腰がクソ痛いです。 1.一気に消化しましたけどなんか、あの普通に良い作品じゃねぇか…(困惑 2.得体の知…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ