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クソゲー配信で、大人気Vtuberになってもいいんですかっ!?  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第二章 なんで、クソゲーなんてやるんですか?
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クソゲーに神はいるか?

 領域エリア――たのしい森。


 上陸作戦ノルマンディーを攻略(壊滅)させたボクが辿り着いたのは、初心者領域ビギナーズ・エリアと称される領域エリアだった。


 このファイナル・エンドとか言うクソゲーは、蜂の巣状に領域エリアが分け隔てられている。


 領域エリアの端にまで近づくと、プレイヤーの視界には赤色の点線が表示され、その切れ目に接近することで、個人情報パーソナルデータの照会が行われるようになっていた。


 こうすることで、初心者ビギナーを見分けたり、ゲーム内の犯罪者ロウブレイカーを判別して、立ち入り制限を設けたりしているらしい。


 つまり、現在いま、ボクがいる初心者領域ビギナーズ・エリアである『たのしい森』は、初心者ビギナーしか立ち入ることが出来ない。頭のおかしい経験者がいないので、安全ということだ。


 ビギ刈りを推奨しておいて、こういう細かいところに気を配るとか、サイコパスとして優秀すぎるだろ♡ ほまれをもって、自害しろ♡


 現在、ボクのレベルは『1』である。


 通算プレイ時間が150時間を超えてるのに、レベル『1』とか、意図しないと出てこない数字だ。現在、ボクは、運営によって、レベル1、オワタ式、狂った視聴者リスナーという縛りプレイを強要されている。


 とりあえず、なにをするにしても、レベルを上げなければ始まらない。


「はい♡ というわけでぇ、本日は、レベル上げ配信をしていくよぉ♡ スパチャの投げ時だよ、みんな~♡

 ゲーム内でして欲しいことがあったら、気軽にリクエストし――『黙れ、運営のメス犬が』で赤スパ投げたヤツ、お前の金で住所特定するからな。覚悟しろよ」


 クソゲー配信だけあって、クソみたいな視聴者リスナーが、クソいリクエストばかりを投げてくる。


 そんな中でも、豚浪士トンローシのコメントが目についた。


『姫!! お気をつけくだされ!! たのしい森は、ただの森では(ココで、文字は途切れている)』

「どういう意味? おしえて?」

『…………』

「おいゴラァ?♡ 豚ぁ?♡」

『ぶひぃ!! ぶひぃ!!(素振り)』


 豚浪士トンローシは、一度、素振りをしたら配信から姿を消す。聞き出そうにも、酢豚(素振りをした豚の略)になったら戻ってこない。


 諦めたボクは、先に進むことにした。


「というか、この森、チュートリアル・エリアのコピペなんだけど……最強ゴブリンはいないんだよね?」

『…………』

『…………』

『…………』


 視聴者コイツら、こういう時は押し黙るんだよな……一丸になって、ボクの精神に衝撃を与えようとするクソイズムを感じる。


「おっ」


 森の中を進んでいると、奇妙な構造物オブジェクトが出てくる。


 どうやら、人の形をした置物らしい。等身大の人間の形をした置物が、頭をもたげて結跏趺坐けっかふざで座り込み、両手のひらを合わせて、微動だにせずに拝み続けている。


「き、きしょくわる~! なんで、こういう森にこんな構造物オブジェクト配置しちゃうかなぁ……センスが悪いんだよ、センスが」


 顔をしかめて、先に進む。


 進めば進むほどに、人型の置物は増えていった。ぴくりとも動かないので、モンスターというわけではないだろう。


「…………ぃ!」

「ん?」


 声が聞こえる。


 人の叫び声だ。森の奥から、甲高い人の声が聞こえてきていた。


「……ぃ!!」


 ボクは、好奇心から、その声を辿って奥に駆け出す。


 そして、視た。


「「「「「死んでください!! 死んでください!! 死んでください!!」」」」」


 初心者ビギナー装備で身を包んだ5人のプレイヤーが、泣きじゃくりながら、一匹の巨大なヤドカリを囲んで殴り続けている光景を。


「…………」


 しゃこしゃこと、小さなハサミを動かして、地面を弄っているヤドカリは、5人のプレイヤーの方を見向きもしない。対する人間様ことプレイヤー様は、5人がかりでヤドカリを囲んで、嗚咽を上げながらヤドカリの殻を斬りつけていた。


「「「「「死んでください!! 死んでください!! 死んでください!!」」」」」

「…………」

「「「「「死んでください!! 死んでください!! 死んでください!!」」」」」

「…………」

「「「「「死んでください!! 死んでください!! 死んでください!!」」」」」

「…………」

「「「「「死んでください!! 死んでください!! 死んでください!!」」」」」

「…………」


 新手あらての宗教かな?


 いたたまれない気持ちで眺めていると、ひとりの女性プレイヤーが、ボクのことを見つけて駆け寄ってくる。


「お願い、神様はきっといるから!! 一緒に祈って!!」

「落ち着いて、脳の回転数を正常に戻してください」

「神様はいるの!!」


 このクソゲーに神がいたら、こんな世界、とっくの昔に滅ぼしてるよ。


「なにからなにまで、正気の沙汰とは思えないんだけど、キミたちはさっきからなにをしてるのかな? こんなゲームでも、カルト宗教団体は、規約でログイン禁止だよ?」

「あ、貴女、ミナト!? 頭、おかしいわね!!」

「初対面の意味を拳で教えてやろうか?」


 初心者戦争ビギナーズ・ウォーの配信を視たことがあったのだろうか……ボクのプレイヤーネームを視て、驚愕していた彼女は、数回の深呼吸を終える。ようやく、落ち着きを取り戻したらしい。


 血走っていた目が、徐々に、優しげな光を灯していった。


「ココは、地獄よ」

「周知の事実を確認するな♡」

「違うの、この『たのしい森』がよ。皆は、まだ、このクソゲーを楽しんでいたのに。いつの間にか、皆、ただの無機物へと変わっていった」

「今、ゲームの説明してる?」

「お祈りゲーなの」


 ボクは、小首を傾げる。


「たのしい森に生息しているのは、あのヤドカリのモンスター『ヤドカリン』だけよ。そして、ヤドカリンの敏捷(AGI)は65535」

「は?」


 ボクは、静止する。


「は?」

「お察しの通り、敏捷(AGI)は回避率に直結する……あのヤドカリは、ほぼ100%の確率で、プレイヤーの攻撃を避けるのよ。HPは1らしいから、当たりさえすれば倒せるんだけど、その一撃すら通せない」

「いやいやいや、待ってよ!! これ、インタラプトVRでしょ!? アクション性が売りなんだから、無理矢理にでも当てればいいじゃん!!」

「視て」


 彼女は、今もヤドカリを殴り続けている4人を指す。


「「「「死んでください!! 死んでください!! 死んでください!!」」」」

「…………」


 攻撃された瞬間――ほんの一瞬、ヤドカリの身体がブレた。


「避けてるのよ、アレ」

「…………」

「でも、このゲーム、かなりの低確率で“確定ヒット”が発生する。だから、あのヤドカリが逃げられないように囲んで、5人でひたすらに“お祈り”してるってわけ」

「…………」

「来て、見せてあげる」


 彼女の後をついていくと、別のグループがヤドカリを殴っていた。


「「「「死んでください……死んでください……死んでください……」」」」

「お祈り開始から、1~5時間程度のグループよ。まだ、彼らは、正気を保っていて、ヤドカリを殴り続けている。ログアウトする意思もあるわ。

 次は、こっちよ」


 道順を完全に把握しているらしい彼女に付いていくと、今度は、虚ろな瞳をヤドカリに向けているグループを見つける。


 彼らは、ぼうっと突っ立っていて、たまに気がついたかのようにヤドカリを殴っていた。


「お祈り開始から、5~10時間程度のグループよ。なぜ、自分がココにいるのか、考え始めている。まだ、ログアウトする意思も残っているわ」


 颯爽と歩く彼女に付き従う。


 今度は、ヤドカリを囲んで、両手を合わせているグループを見つける。彼らの目は爛々と輝いていて、ブツブツと何事かをつぶやいていた。


「お祈り開始から、10~50時間程度のグループよ。もう、殴ることはやめて、ただ祈るようになる。ログアウトする気も失せているわ」


 進み続ける彼女を追いかける。


 次に着いた場所には、ボクが道中で見つけていた人型の置物が並んでいた。


「50時間以降のグループよ。ついには、くう会得えとくして、ヤドカリを前にすることなく祈り始める。彼らは、ゲームの中に神を見出した」

「コレ、構造物オブジェクトじゃなくて、プレイヤーなの!?」


 近づいてみると、呼吸音が聞こえてきて、思わずボクは後ずさる。


「即身仏と呼ばれているわ。

 人気欲しさに、クソゲーをプレイした者の末路よ」

「もう、監禁罪で訴えれば勝てるでしょコレ」

「そのうち、強制ログアウトされるから大丈夫よ。ちなみに、もう、米国アメリカで訴えられてる」


 でしょうね。


「まぁ、大体、わかった……説明してくれて、ありがとう」


 ボクは、微笑む。


「じゃあ、ボク、とっとと、この領域エリア抜けるから……」

「無理よ」


 立ち去ろうとしたボクは、ぴたりと歩を止める。


「この初心者領域ビギナーズ・エリアを囲んでいる他の領域エリアへの侵入は、すべて『レベル2以上』の制限がかかっている」


 うっすらと、彼女は微笑を浮かべる。


「祈らなければ、前には進めない」

「お疲れっした」


 ボクは、クソゲーをやめて、ログアウトした。

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― 新着の感想 ―
[一言] えぇぇぇぇ…
[一言] 良い感じに狂ってて草 ヤドカリ殺しはゴブ神剣会得できれば1チャンあるのでは…?
[一言] 敏捷値65535… 必中の攻撃を置いておき、65535が"回避率(/65536)"として… 1/(2^16)の確率でしか死ななかったらそりゃ無理だよね。…あれ、攻撃を1回/秒で与えられたら確…
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