婚姻届の提出
先生の愛車である軽自動車に乗り、市役所に向かう。ここは駿河県さざめ市。関東の内陸県のNo.2都市といっても過言ではない。今日は私の籍を移しに来たのだ。
あっ、申し遅れました。私、小楢深春といいます。よろしくお願いしますね!
私の旦那さんは小楢和樹、25歳。現役の塾講師さんです。勤め先は藤花学舎という塾。
「さぁ、着いたよ!」
ちょうど着いたようだ。レトロ、というと聞こえがいいが、単に古いだけの庁舎に入っていく。
「婚姻届出すのってどこ?」
「ここじゃないですか?婚姻届の交付もここですし。」
「ああ、ここか。ありがとうね。」
「いえいえ、行きましょう。」
ちょうどお取り込み中のようで、呼び出しの番号は結構後ろだった。先生と並んでソファーに腰掛ける。
「今日はこのあとさざめ本部でしたっけ?」
「うん。ごめんなぁ、こんな日まで仕事で。」
「こうやって午前中だけでも一緒なら寂しくないですよー。」
「本当に新婚さんって感じしないんだよな。」
「したいんですか?」
「うんまぁ。」
『73番の方、どうぞ。』
私達の番号だ。
「こんにちはー。」
「こんにちは。今日はどのようなご用件ですか?」
「婚姻届の提出に来ました。あと妻の住民票を移しに。」
「……。ああ、はい。こちらの方が奥さんですか?おめでとうございます。では処理の方させていただくのでここでお待ち下さい。」
いそいそと職員のおばさまが奥へと消えていく。すんごいジロジロ見られた。やだなぁ。制服じゃダメなの?
「…。はい。確かに承りました。」
「ありがとうございました。」
くるっと後ろを向いて歩き出す。
自動ドアが開いて、市役所の前の桜並木の下を2人、一定の距離を保って歩く。
すると突然先生が振り返った。
「なんで隣歩かないの?」
「だって先生ですもん。」
「そんなこと言ってたら、いつまでもそのままだよ?」
先生は私のところに駆け寄って、私の右手を取る。そして不意打ちの恋人繋ぎ。
「なっ…。」
「もう先生と生徒じゃないよ?夫婦なんだから。やったって構わないでしょ?」
何も言えない。真っ赤な顔で俯いて、先生に半ば引っ張られるような形で歩き出した。