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機械仕掛けの龍は大空を翔る  作者: ニコラシカ
8/15

8機目 日課

早朝、日課のランニングから戻ってくると兵舎の戸口にニーナがいた。


「おはようニーナ」


「……おはようクリス」


眠たげに挨拶をする彼女は小銃を肩に提げている。


「ライフルなんか持ってどうしたの?」


「……射撃の訓練をしようと思って。……これから射撃場に行くところなの」


「え、ここ射撃場あるの?」


驚きのあまり思わず聞いてしまった。


設備充実しすぎじゃないかこの飛行場。


「……うん、アイリス中佐が教えてくれたの。誰も使わないから自由に使っていいって」


ニーナはこくりと頷く。


そりゃそうだ、小銃や拳銃なんて俺ら戦闘機乗りはめったに使わないもんな。


「……あの、お願いがあるのだけれど」


「うん? 何かな」


「……射撃訓練、付き合って貰える? ……弾着を見てくれるだけでいいから」


双眼鏡を差し出される。


「朝食の時間まではまだけっこうあるし俺でよければ付き合うよ」


こうして俺はニーナの射撃訓練に付き合うことにした。




2人で射撃場へ向かう。


「で、どうしてまた射撃訓練しようなんて思ったの?」


「……集中力を鍛えたいって思ったのと、純粋に射撃があまり得意ではないから個人的に訓練したかったの」


ニーナは射撃が得意じゃないのか。


なんでもそつなくこなすイメージがあったから意外だ。


「個人的に訓練だなんてニーナは努力家なんだね」


「……そ、そんなことない」


俺がそう言うと首をブンブンと横に振って否定する。


お、照れてる。ニーナが照れるなんて珍しいな。


「……つ、着いたよ。ここが射撃場」


そんなこんな話しながら歩いているうちに到着したらしい。


そこは滑走路の脇だった。


確かに遠くまで平坦で射撃にはもってこいの地形だ。


「とりあえず30発でいい?」


「……うん」


弾薬の入ったケースを2つ、雑嚢から取り出し机に置いておいた。


俺が的を設置している間、ニーナは小銃に弾薬を装填していく。


「さて、準備はいい?」


「……大丈夫、準備できた」


ニーナは伏せ撃ちの姿勢になりながら答えた。


「それじゃあ始めようか」


彼女の隣で双眼鏡をのぞく。


まずは1発目


射撃音と同時にバックストップに小さな砂煙が上がる。


「残念、外れ。的の下を通ってた」


「……難しい」


少し悔しそうな声を上げつつ次弾を装填する。


隣でボルトを操作する小気味の良い金属音が響いた。


2発目


放たれた弾は的の枠を少し抉る。


「おしい、的の上をかすめた」


「……むう」


ニーナは小さく呻く。


3発目


的の端、右上部分に穴が開く。


「おっ、命中。ただ大分端の方だね」


「……ようやく当たった」


少し安堵した様子のニーナ。


その後、5発毎に装填を挟み25発目まで撃ち続けるも命中はあまりなく弾着も右上に偏るといった結果になってしまった。


「……やっぱり難しい」


「たぶんスナッチ・トリガー・リリースになってるんだと思うよ」


ため息をつくニーナにアドバイスをする。


「引き金を急激に引っ張るように引くと弾着は右側に寄るんだ、あと撃つ時に腕や肩に力が入っていると上方向に弾着が集中する。しばらくドライファイアを繰り返して体を慣らした方がいいかもね」


「……そうなんだ、ありがとう」


その後、ニーナは少し考えた様子を見せるとこちらに小銃を差し出した。


「……お手本、見せてほしい」


お手本か、最近撃ってないから当たるか心配だな……でもあれだけ高説を垂れておいて自分はやらないのも悪いしな。


「分かった」


そういって俺は小銃を受け取るとケースに残った弾薬を装填していった。


伏せ撃ちの姿勢をとり、銃を構える。


「……クリスは左利きなの?」


銃を構えた俺を見てニーナは聞いてくる。


「ああ、そうだよ。だからあまり参考にならないかも」


俺は左手でグリップを握っている。ボルトが操作しづらいがこれが一番しっくりくるからだ。


両足を軽く広げ、左足だけ内側に曲げておく。


照準越しに的を見つめ、ゆったりと呼吸を繰り返し体をリラックスさせる。


引き金をゆっくりとゆっくりと絞るように引いていく。


逆鉤が外れ撃鉄が落ちる感覚と共に肩に反動がくる。


乾いた射撃音が響きバックストップに砂煙が舞った。


ここからでは命中したかは見えないな。


そう思いつつボルトを操作し排莢、装填を行う。


そうして俺は最後の5発を撃ちきった。


「……クリス凄い、ワンホールショットなんて初めて見た」


双眼鏡をのぞいたニーナが感嘆の声を上げる。


良かった、腕はまだ鈍っていなかったみたいだ。


「……どうしてそんなに上手なの?」


尊敬の眼差しでこちらを見るニーナ。


「いや、親父が陸軍の将校で……昔から色々叩き込まれたから銃の扱いは少し慣れてるんだ」


俺の親父は陸軍の人間だ。


親父は陸軍に入ってほしかったらしく昔から銃器の扱い方等をかなり教え込まれた。


そういえば俺が空軍学校に行くと知った時は相当残念がっていたな。


「……あの、ええとその」


少しもじもじした様子のニーナ。


「何、どうかした?」


「……もしよかったら……これから私に射撃を教えて下さい」


今にも消え入りそうな声でお願いをされた。


「上手く教えられるか分からないけど、俺でよければ喜んで引き受けるよ」


特に断る理由もないので引き受けることにした。


ニーナは嬉しそうな表情を浮かべる。


「……ありがとう、これからよろしくね」


こうして俺の朝の日課がひとつ増えた。

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