2機目 歓迎会
歓迎会そのものは何の変哲もないごく普通なものだった。
ニーナはヘンシェル中佐ととても楽しそうに話している。
何の話かは分からないがどうやら意気投合しているようだ。
俺とテオはというと、先ほどの男とフィーゼラー少佐に捕まっていた。
「俺様達が相手にしている連中、まあ平たく言えば敵ってヤツか、お前ら見たことあるか?」
ポテトにフォークを突き立てながら男は問いかけてきた。
「いえ、訓練課程で教えてはもらいましたが実際にはまだ」
今から15年前、世界を大きく揺るがす争いが勃発した。
各国の思惑が交錯したこの大戦は6年という長い歳月をかけてようやく終結した。
終戦後、人類はようやく訪れた平和に安堵し復興への道を歩みだす。
その平和が仮初のものとも知らずに……
事態が急変したのはそれから半年と経っていない頃の事だった
世界各地で突如、正体不明の勢力が侵攻してきたのだ。
先の大戦で疲弊しきった軍隊では対処しきれず、徐々に押されていく
このままでは国のそして世界の存亡に係わると感じた各国はそれまでの敵味方関係なく協力して侵略者に対抗する事を決定したのだった
「まあそりゃそうか」
「ところでえっと……」
「ああ、まだ名乗っていなかったな。エーミルだ エーミル・アラド よろしくな新入り。」
そういってエーミルは手を突き出す
「ええ、よろしくお願いします」
「それで何の話だったかな…… そうだ、俺様達の敵な こいつらがまた不気味な野郎共でな」
「不気味、というのは?」
とテオが質問をするとエーミルは嬉しそうに答えた
「まず、神出鬼没すぎる びっくりするぐらいにな。最近は電波探信儀ってやつのおかげで敵の探知が楽になったんだがこいつでも奴らは姿を見せるまで探せない。おかげさまで未だに敵さんの基地や拠点といったものが見つけられていない」
「次に奴らが姿を現す時なんだが必ず黒い雲とともに現れる。黒雲とか不吉すぎるぜ」
「最後に奴らの武器、俺様達が使っているのとまったく同じなんだ。歩兵の兵装から戦車、戦闘機、艦船に至るまでの全てがな」
まるで自分自身と戦っているみたいだぜ、とエーミルは肩をすくめる。
「そんな連中に僕たちは勝てるんですかね……」
不安そうになるテオ。
「だがな、敵がいくら不気味でも俺様の前ではスズメも同然だぜ! なんせ俺様はあと1機撃墜でエースパイロットなんだからな」
自慢げにエーミルは胸を張る。
「おい、エーミル あんまり調子に乗るんじゃねえぞ。お前いつも調子に乗って痛い目にあってるのにまだ懲りてねえのか」
ビールの瓶を煽りながらフィーゼラー少佐が囃し立てた。
「なんだよぉ、確かにおやっさんやアイリスちゃんには勝てねえけどよぉ」
おやっさん? アイリスちゃん? 誰の事だろうか……
「おやっさんはそこのゴリラみたいな副隊長、アイリスちゃんは隊長の事だ。アイリスちゃんはこの部隊を家族同然と扱っている。だから名前で呼ばれるのを凄く喜ぶんだ」
疑問に思っているのが顔に出ていたらしい。
「誰がゴリラだこの野郎」
フィーゼラー少佐がエーミルにヘッドロックをかます。
「ぐあああ! いでででで! もう言わない! 言いませんからやめてぇぇ!!」
その後もしばらく技を決められ続け、気絶寸前になったところでようやく解放されていた。
「……そ、そういえばお前らの中にとびぬけて操縦が上手いヤツがいるらしいじゃねえか……う、噂はきいているぜ」
息も絶え絶えになりながらこちらに戻ってくるエーミル。
俺らの中で操縦が上手いと言ったら……
「それは多分彼女の事じゃないですか」
俺が答えるよりも早くテオがニーナの方を指しながら答えた。
「あの娘か、へぇ……。結構可愛いじゃん、ちょっと俺様行ってくるわ」
そういうとエーミルはニーナのところへ向かっていった。
「あいつも懲りねえヤツだな」
今度はウォッカの瓶を持ったフィーゼラー少佐が呆れながらやってきた。
「あいつがここに来たばかりの頃だったかな、アイリスに同じようにナンパしてな。普通にやっても相手してもらえなかったんで空中戦の模擬戦を申し込んだんだ。模擬戦に勝ったらデートに付き合ってくれってな」
まあ、一方的に追い掛け回されて惨敗してたがな。
と少佐は苦笑する。
「気になるようだったら様子でも見に行くか?」
少佐に誘われ、俺たちはエーミルとニーナの様子を見に行くことにした。
「なあ、ニーナちゃんさあ 今度街の方へ遊びに行かない?俺様美味しいレストラン知ってるからさ一緒にどうよ」
「……いえ、興味ないのでお断りします」
「そんな事言わないでさぁ~、絶対楽しいから行こうよ」
「……嫌です」
そこには予想していた通りのやり取りをしている2人の姿があった。
数分ほど押し問答を続けているとエーミルがあることを提案した。
「ねえニーナちゃんって空中戦が得意なんだって? ならさ、俺様と勝負して俺様が勝ったらデートに付き合ってよ。俺様が負けたら諦めるってことでどう?」
「……それは、ええと」
ニーナは悩んでいるようだった。
確かに得意といっても新米であることに変わりはない。
経験値の差からしてもベテランのエーミルの方が上だ。
『ふぁああ ねえクリス、何が起こってるの?』
間の抜けた声でアリサが聞いてくる。
さっきからやけに静かだとは思っていたがどうやら寝ていたらしい。
『ニーナがデートをかけて模擬戦を申し込まれたんです』
『へぇ……なるほどねぇ、へへっ、いいこと思いついた』
アリサが楽しそうに笑った途端、とてつもなく嫌な予感がした。
全力でこの場を離れようとするも体を勝手に動かされてしまう。
自分の意思に反して体はニーナとエーミルの間に割り入っていた。
「あぁ、なんだよクリス。邪魔すんのか?」
こちらを睨みつけるエーミル。
こ、怖えぇ……
謝って全力でこの場を離脱しようと思い謝罪の言葉を口にした。
「ニーナと勝負するんならその前に俺と勝負してくださいよ」
……え? ちょっと待ってくれ! 俺はそんな事喋るつもりは
「もし俺が負けたらなんでもいうことを聞きますよ」
ちょっと、アリサさん!! 何勝手なこと言ってるんですかぁ!!
「もしかして新米の俺に負けると思ってるんですか?」
……あぁ、挑発までして……
「なんだとぉ!上等だコラ、お前を完膚なきまでに叩き潰してやるよ!」
完全にスイッチの入ったエーミル
普通だったはずの楽しい歓迎会は儚く消え去っていった。