13機目 Intermezzo
「おはよう、クリス」
眠気を必死にこらえながら朝食を食べているとテオがやってきた。
「ああ、おはよう」
「なんだか眠そうじゃない?」
「昨日は遅くまで整備長様のお手伝いをしていたからな。ほとんど眠れていない」
「それはまた大変だったね」
欠伸を噛み殺している俺を見てテオが気の毒そうな表情を浮かべる。
「それよりツバキの様子はどうだ?」
昨日の今日でそうそう変わることはないだろうがつい聞いてしまう。
「昨日はあの後そんなにしないうちに眠っちゃったよ、やっぱり疲れていたんだろうね」
それはそうだ、何日もかけて長大な距離を飛んできたのだ。疲労困憊もいいところだろう。
話しているうちにテオはそそくさと朝食を済ませる。
「今日は早いな、何か用事でもあるのか?」
「これから医務室に朝食を届けてあげようかと思ってね」
ああ……なるほどねぇ。
「まぁ、頑張って来いよ」
にやけながらからかった瞬間テオの顔が真っ赤になる。
「そ、そんなんじゃ……ぼ、僕はこれで! またあとでね、クリス」
テオは真っ赤な顔のまま食堂を駆け出して行った。
「ふふ、友人をあまりからかってはダメですよ」
一部始終を見ていたらしくアイリス中佐が笑いながら歩いてくる。
「おはようございます。アイリス中佐」
「はい、おはようございます」
中佐は俺と向かい合った状態で席に着き、朝食をとる。
「昨晩は遅くまでお疲れ様でした」
パンを小さくちぎりながら中佐が言う。
「ありがとうございます。正直役に立てたかは分かりませんが」
未だにララが俺を指名してきた理由が分からない。
昨日も完璧なサポートとは言い難かったし。
「クリスは気づいていないかもしれませんがララは貴方の事を結構気に入っているんですよ」
え、そうなの?
「そもそもあまり他人に頼み事をしない娘ですからね。必要な事とはいえ個人的な用事を手伝わせているのはお気に入りの証拠です」
自信満々に言い切ると今度はレンズ豆のスープを丁寧にすくって食べ始める。
「それで、整備は完了しましたか?」
「はい、大きな問題もなく無事完了しました。後は実際に飛ばすだけですね」
ララ曰く長いこと稼動や整備をしていなかったらしいのだが長期間放置されていたとは思えないくらい状態は良好だった。
ある程度整備を済ませただけで何の問題もなくエンジンは稼動した。
ただ、細かい調整にこだわりすぎて結局深夜までかかってしまったのである。
「そうですか、ツバキさんが見たらどんな顔をするか楽しみですね」
確かに祖国の戦闘機が遠い異国で魔改造された姿を見てどんな顔をするのかはある意味楽しみではある。
「そうだ、アイリス中佐って桜国の言葉を話せますよね?」
「ええ、それがどうかしたのですか?」
「あの、よーかんって食べ物は聞いたことありますか?」
アリサから話を聞いてから気になっていた事を尋ねてみる。
中佐なら知っているかもしれない。
「ごめんなさい、聞いたことはないですね」
「そうですか、すみません突然変なことを聞いてしまって」
流石に中佐も分からなかったか……
「桜国の事ならツバキさんに聞いてみては如何でしょうか」
確かにそうだ、よく考えてみたらツバキが一番詳しいじゃないか。
「そうですね、後で聞いてみることにします」
「よーかん? ああ、羊羹ですか。もちろん知ってますよ」
よーかんについて尋ねるとツバキは即答する。
彼女は何やら紙を折っていた。
「なんなんだその食べ物は?」
「アズキを使ったお菓子ですよ」
アズキ?なんだそれ。
「悪い、アズキがもう分からん」
「赤い小さな豆ですよ」
うん? 豆でお菓子を作るの?
何だそれは、とても美味しくなさそうなんだが。
「アズキとカンテンで作るんです」
「カンテンなら聞いたことあるぞ。培養で使うやつだ。でもあれって食べられるのか?」
「もちろん食べられますよ」
さも当然のように答えるツバキ。
結局ツバキに聞いても余計に混乱するだけだった。




