11機目 ツバキ
細かな残骸をトラックに、大破した戦闘機本体をクレーンでトラックに牽引されているトレーラーに積んでいく。
作業が終わるころには正午をとっくに過ぎていた。
「手伝いサンキューな。じゃ、あたしは急ぎの仕事があるからこれで」
黒焦げの残骸を全て積み終わるとララはトラックに乗って去って行った。
『わざわざ遠くから何の用事でここまで来たんだろうね?』
不意にアリサが疑問を投げかけてくる。
起きていたのか……ずっと静かだったから寝ていたのかと思ってたぞ。
『さあ、なぜなんでしょうかね。詳しい事情は目が覚めてから中佐が聞くみたいですけど』
なんにせよあんな状態でしかも単機でここまで来たという事は何か異常事態があったとみていいだろう。
普通は最低でも2機の分隊で行動するのが基本だろうしな。
『ちょっと様子を見に行ってみようよ』
やっぱりアリサも気になっているらしい。
『いいですよ、俺も気になっていたんで行きましょうか』
アリサの提案に乗り医務室へと足を運ぶことにした。
医務室には中佐、テオ、ニーナがいた。
「様子はどうですか?」
「まだ目を覚まさないですね、負傷自体は軽度のものなので気を失っているだけとは思いますが」
少し心配そうな様子の中佐。
「そうですか……」
ベッドには御下げ髪の少女が横たわっている。
目覚めるまでまだかかりそうだ。
「にしてもあの時のテオはすごかったな。今まで見た中で一番早かったぞ」
あそこまで素早く動くテオを見たのは初めてだった。
「意地でも助けたいって思ったからからかな。実は必死すぎてさっきの事はあんまり覚えてないんだ」
照れくさそうに頬をかきながらテオは答える。
「……テオらしい勇気のある行動だった」
ニーナもテオを褒める。
「や、やめてくれよ2人とも」
テオはますます恥ずかしそうに顔を覆った。
「謙遜することはないんですよ。いざという時に他人の為に動けるのは立派な貴方の長所なんですから」
中佐までもテオを褒めにかかる。
「アイリス中佐まで……」
そうしてしばらくテオを褒めちぎっていると
「……う……ううん……」
小さなうめき声が聞こえた。
全員がベッドの方を向く。
先程まで気絶していた少女が薄く目を開けていた。
中佐が聞きなれない言葉で話しかける。
少女の方も始めはうわごとのように返答していたが徐々に言葉がはっきりとしてくる。
「アイリス中佐って桜国の言葉を話せたんですね」
「ええ、この御時世色々な国の言葉を話せないと不便ですからね」
さらりと言ってのける中佐。
色々って他にも話せる言葉があるのか……俺には到底できない芸当だ。
「彼女もこちらの言葉を話せるみたいですよ」
彼女とは桜国の少女の事だろう。
「それではまずお名前からお伺いしてもよろしいですか?」
中佐が優しく問いかける。
「……ツバキ……カワニシです……」
ツバキと名乗った少女はたどたどしくはあるが俺たちにもわかる言葉で話す。
「ツバキさんですね、所属をお伺いしても?」
「桜国海軍……第二航空戦隊……空母瑞龍所属です」
そういえば桜国では海軍と陸軍がそれぞれ航空部隊を持っていると聞いたことがある。
「こんな遠方までどのような目的でやってきたのですか? 差支えなければ教えてくださるかしら」
「……遠方……目的……ここはどこですか!?コルンブルーメは?ローザやリスはどこですか!?」
中佐が一番重要な質問をした途端、ツバキは起き上り、取り乱した様子を見せる。
「ツバキさん落ち着いて、落ち着いてください。ここはリスにあるコルンブルーメ空軍の飛行場です」
中佐がなだめるとツバキはしばらくしてようやく落ち着いた。
「やっと……やっとたどり着いたんですね……」
目に涙を浮かべながらもどこか肩の力が抜けた様子のツバキ。
「何があったか聞かせてもらえますか?」
中佐が再び質問をする。
ツバキはぽつりぽつりと語り始めた。
「私たち第二航空戦隊は東方の南西方面……西方との境目辺りでしょうか、その近辺の海域で活動していました」
「海域一帯の黒雲も時間はかかりましたがあらかた排除し終わりようやく本国へ帰投できると皆が安堵した時、悲劇は起こりました」
ツバキの表情が曇る。
「突如として黒雲の大規模な艦隊が出現し私たちに牙をむいたのです」
「数で圧倒され、優勢だった私たちは一気に劣勢へと追いつめられてしまった」
「空母や随伴していた駆逐艦も1隻、また1隻と沈められ最終的には瑞龍と駆逐艦の紅葉が残るのみとなってしまいました」
彼女は唇をかみしめながらも続ける。
「私たちは何とか島嶼群に退避することができたのですが完全に孤立、無線等も先の戦闘で大破してしまい、同じく南西方面で活動していた他の艦隊との連絡手段も失ってしまったのです」
「本国や他の艦隊に向けて連絡用に艦載機を飛ばしてみましたが未帰還……ですが私たちは諦めませんでした」
「再び連絡の為に艦載機を飛ばすことにしました。今度は本国だけではなく他の国にも向けて……私はそのうちの一つ、西方の国コルンブルーメに向けて飛び立ちました」
「艦長はコルンブルーメ海軍の方とも親交があったそうなので救援を求めやすかったようです」
艦長の事を思い出したのだろうか、少し表情が緩む。
「道中は非常に厳しく、長い道のりでした。幸い相手に空母は居なかったようでしばらくは敵戦闘機と会敵することはありませんでした」
「私は各地の放棄された飛行場で燃料を何とか確保しつつ西方の北部を目指し飛び続けました」
「西方北部まであと少しというところで私の運が尽きてしまったのでしょう。突然敵機が現れ、私は激しい攻撃にさらされたのです」
「燃料も残りわずかの為、応戦するわけにもいかずただただ逃げることしかできなかった……」
再び悔しそうな表情を見せる。
「何とか振り切ることはできましたが機体も敵の攻撃でボロボロ、エンジンも被弾して徐々に出力が落ちていく有様でした……あとは皆様もご存じのとおりです」
最後まで話し終わるとツバキは大きく息をついた。
「……そうでしたか、よくここまでたどり着きましたね……」
中佐が喉の奥から絞り出すように言葉を紡ぐ。
「あの、助けてもらっ……ひゃっ!な、なんですか突然」
「本当に……本当によく頑張りました……」
中佐は我慢ならんとばかりにツバキを抱きしめ、頭を撫でた。
「あ、ありがとう……ございます」
抱きしめられたままツバキは頬を赤らめる。
「それで、助けていただいてこのようなお願いをするのは気が引けますが、私をコルンブルーメ海軍の総司令部まで連れて行ってくださいませんか」
ようやく解放された彼女はこちらに向きなおり頭を下げる。
「頭を上げてくださいツバキさん。貴方の戦闘機も大破してしまったし、移動手段がない以上私たちが手を貸すのは当然ですよ」
中佐が胸を張り答える。
「ただし、まずは貴方の体力回復が最優先です。リリイさんの許可が出てから旅立つことにしましょう」
そういって微笑むと中佐は医務室を出て行った。




