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5.ウィットは大人で子供は俺で

前回のあらすじ

姉とベットの上で大運動会した


「おはよう」


 俺が食堂の扉を開けると、既に姉さんとユーディー、アーニャは席に着いて楽しそうに談笑していた。まるで何年も前から友達だったみたいな仲の良さ、女子ってこういうとこすげーよな。


「おはよございます、ダーリン」

「カズキ…おはよう」

「カズ君おはよう、ちゃんと眠れた?昨夜はとっても激しかったわね///」


 おっと早速爆弾ぶっ込んで来やがったな?


「は?カズキさん?」ゴゴゴゴゴゴ

「いや、姉貴が俺のベッドで寝てたからほっぽり出しただけだぞ」

「ベッドの上だとカズ君とっても乱暴なのよ」

「カズキさんまさか私以外の女とも寝たんですか?」ゴゴゴゴゴ

「寝てねーよ!ちゃんと人の話聞け!それにお前とも寝た事ねーからな?」


 起きて早々コレである。朝からこの調子じゃあとても夜まで体力が持たない、取り敢えず腰を下そう。

 所謂お誕生日席に姉さんが座っていて、両脇にウィットとアーニャが座っている。俺は取り敢えずウィットの隣に腰を下ろした。3人は早速ガールズトークに華を咲かせているようだ。

 野宿は肌が荒れるとか、魔界はかわいい服が無いとか、浄化魔法の応用でスキンケアをしてるだとか、女子の美容やファッションにかける情熱には見上げるものがあると思う。尤も俺はそんな事には微塵も興味はなく、装備も王国から貰った一式をそのまま身に付けている。

ユーディーにはもっと外見を気にしろと言われているが、これが一番防御力が高いので換えるつもりはない。そもそもこのパーティー構成では盾役に徹するのが俺の役割であり、見た目重視の安っぽい装備ではすぐにボロボロになるのが目に見えているので、ユーディーも強くは言ってはこない。勇者だったら圧倒的な剣技で敵を一網打尽とかチートスキルで敵を意のままに操るとかそういう派手な事もしてみたかったが、まぁ味方を守り抜く騎士というのもなかなか悪くないよね?

 朝に弱い俺がぼんやりとそんな物思いに耽って大きな欠伸をしていると


 ギギー


 扉が開かれ、それまでの和やかムードは一転してその部屋にいた誰もが凍りついた。


「……おはよう」


 静まりかえったリビングにソプラノの声が小さく響く。

 ウィットは無表情のまま俺の対面の席に腰を下ろす。


「お、おはよう」


 返事って自然に返そうと意識するとかえってぎこちなくなるよな。役者ってすげーわ。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 沈黙が続く。気まずい。何か話した方がいいのはわかっているんだが、何を話せば良いかわからない。パッシブスキル「コミュ障」発動!


「ウィットさん!今ちょうどスキンケアの話をしてたんですよ。ウィットさんの水の魔法で保湿出来るんですよね!」

「……うん」

「あれ、どうやってやってるんですか?」

「…………また今度教えてあげるわ」


 気を利かせてユーディーが話かけてくれたが、返ってきたのはぶっきらぼうな生返事だけだった。

 そしてまた沈黙が続く。今度こそ俺が話かけなければ。


「あのな、ウィット。昨日はすまなかった。久しぶりに姉さんに会えて気持ちが動転していて冷静な判断が出来ていなかったと思う。昨日は無理な事を言ったと反省してる。本当に、ごめん」


 そう、ウィットからしてみれば、こんな事到底受け入れられるわけがない筈だ。仇敵に施しを受け、その根城に住まうなどウィットにとっては屈辱と言う他ない事だろう。俺はそんな事も考えられていなかった。ウィットを傷つけてしまったのは、勿論気が動転していたのも大きいが、俺の未熟さが招いた事でもある。今俺ができるのは、誠心誠意ウィットに頭を下げることくらいだ。


「……顔上げなさいよ」

「ごめん。本当に反省してる」

「別にあんたが悪いんじゃないでしょ。私だって子供じゃないのよ、私1人だけいつまでも我儘いってたってしょうがない事はわかってるわ」

「……許してくれるのか?」

「……というか寧ろ謝らなきゃいけないのは私の方よ……カズキ、アーニャ、ユーディー、昨日は意地を張って迷惑をかけてしまったわ、ごめんなさい」


 そう言って寂しげに頭を下げた。ウィットは俺なんかよりもずっと大人だった。自分の気持ちを抑えて、俺たちに足並みを合わせようとしてくれている。初めてみるウィットの殊勝な態度に、アーニャもユーディーも少し戸惑っているようだった。


「ウィット……」

「ウィットさん、私の方こそごめんなさい。ウィットさんの気持ち、真剣に考えられていませんでした……」


 ウィットが神妙な面持ちで顔を上げる。初めてみるその表情は何処か大人びて見えた。


「……ウィット、なんか変……。変なものでも食べた……?」

「食べてないわよ!失礼ね!」

「ふふっ」

「何よ!」

「いやぁ、なんかいつものウィットに戻ったなぁって思って」

「ふふっ、そうですね」

「はぁ?なんで私がいつも怒ってるみたいになってるのよ!」

「怒ってるじゃん」

「アーニャ!あんたねぇ!!」


 取り敢えず一件落着ってとこか。いつも通りの雰囲気になってひとまずは安心だ。姉さんも微笑ましそうにこちらを見ている。


「……でも」


 ウィットは姉さんの方に体を向けつつ敢えて目を合わせずに言う。再び空気が張り詰める。


「あんたの事はどうしても許せないわ。あんたが私の両親を殺したわけではないのかもしれないけど、それでも私の気持ちは変わらない。だから――――」


 ぐぅ


「……ウィット、お腹鳴った」

「ちっ、違う!これはその……」


 顔を真っ赤にして慌てふためくウィット。折角の真剣な雰囲気が台無しだ。まぁお腹が空くのも無理はない。昨日はみんな疲れきっていて、夕飯も食べずに寝てしまったのだ。


「話の腰を折るようで悪いのですが、朝食の準備ができました。続きは食べながらお話になっては如何でしょう?」


 突然現れたセバスチャンさんにびっくりした。音も無く現れるから心臓に悪いよホント。


「ええ、そうしましょう」

「畏まりました」


 パチン


 セバスチャンさんが指を鳴らすと、厨房から何枚もの食器が飛んできてテーブルに綺麗に並んでゆく。念動能力を見たのは初めてではないが、同時に動かせるのはせいぜい1つや2つだった。同時に10個以上のものを動かせるあたり、この人(?)も只者では無さそうだ。


「はい、じゃあみんな手を合わせて」


 姉さんが音頭を執る。

 テーブルに並んでいるのは馴染みのない料理ばかりであったが作法は日本式らしい。


「いただきます」

「「「「いただきます」」」」


 こうして俺は初めて魔界料理に舌鼓を打つのだった……20分後、酷い下痢に襲われるとも知らずに。


 朝食中にウィットが唱えたのは意外にも魔王城に居住するという事だった。曰く、ウィットは姉さんの事を絶対に倒したいが、今のままでは絶対に倒せない。そこで、一緒に生活すれば、必ずや弱点や隙が見えて来る筈。そこをすかさず討つ!という事らしい。

 なんかセコい感じもするけど、姉さんは「それで憂いが晴れるのなら好きなだけ不意打ちしてくれて構わない」とのことだったので当事者達にお任せすることにした。まぁあのチート能力を持った姉さんが死ぬなんて事はないだろうし、当分の間は魔王城ライフが続くだろう。それでも万が一姉さんが倒されそうになったら時にどうするかはこちらでじっくり考えておかなきゃな……姉さんのチートっぷりを考えると、そんな事になる前に寿命が尽きそうだけどね。


 アーニャもユーディーも久々の休暇を満喫する気満々で、さっそく新生活の用意をしたいと言い出す始末。姉さんが魔界にもショッピングセンターが有るといったら2人とも目を輝かせていた。まぁみんな年頃の女の子だしなぁ……あ、ちなみにウィットは16歳、ユーディは俺と同い年の18歳、アーニャは少し離れて13歳だ。


 というわけで、今日は早速魔界のショッピングセンターに行く事になった。


「カズキ、早く!」

「アーニャ、ちょっと待ってくれよ……」


 俺とウィットは下痢のせいで行く前から既にぐったりしていた。対照的にピンシャンしているのは種族的に身体が丈夫なアーニャと宝珠の加護で護られているユーディーで、はやる気持ちを抑えれないといった感じだ。


「はい、じゃあこれこっちの通貨ね。遠慮なく使っていいから。いってらっしゃい」

「あれ?姉さんは一緒に行かないの?」

「お姉ちゃんはこれからちょっと仕事があっるの。ごめんね一緒に行けなくて。帰ってきたらいっぱい甘えさせてあげるからね」

「いや、それは遠慮しておく」


 セバスチャンさんも申し訳なさそうに歩み寄ってきた。


「カズキ様、私もこれより業務がありますので道案内は別の者を付けさせようと思うのですが宜しいでしょうか?」

「そうでしたか、ご迷惑おかけしてすみません。全然大丈夫ですよ」

「いえいえ、迷惑だなんて滅相も御座いません。ご理解有難うごさいます。こちらライムでございます」


 そう言って紹介されたのはおかっぱ頭の小さな女の子だった。姿かたちは人間そのものだったが、人間と大きく異なる点が1つ。顔の真ん中に大きな目が1つだけあるのだった。所謂単眼っ娘である。


「おじーちゃん、この人達を案内すればいいの?」


 おじーちゃん?


「こら、ライム。『この人達』じゃないでしょ。『お客様』と言いなさい」


 という事は……


「カズキ様済みません。ご明察の通りライムは私の孫であります。未だ不束者ではございますが、今城にいて人語を解する者は私とこの子しか居ないのです。どうかお赦しください」


 成る程ね。人語を理解できる魔族は貴重な存在らしい。


「ライムだよ!人間のおにーちゃん!よろしくね!」


 そういってそのおかっぱの女の子はニカっと笑ってみせた。


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