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3.アーニャはもふもふでセバスチャンは謎で

前回のあらすじ

姉がチートだった

 

「……そんで魔王城まで来たってわけ。」

「なるほど、かず君も色々あったのね」


 取り敢えず休憩をとることにした俺たちは魔王城のリビングルームに来ていた。元々はリビングなんて無かったらしいが、老朽化していた為リノベーションも兼ねて改築したらしい。なんという事でしょう!罠と怨霊蔓延(はびこ)る応接間が、匠の手にかかれば大理石輝く洋風のリビングに!因みにこっちの世界にはテレビはおろか殆どの家電製品は無い。まぁ魔法でなんとかなっちゃうしね。


「姉さんはどうして魔王なんかやってるんだよ」

「私もお義姉様のお話聞きたいです!」


 ユーディーは持ち前の人懐っこさでもうすっかり馴染んでしまっている。いるよな、初対面の人とでもすぐ仲良くなっちゃう奴。俺には絶対無理。


「私?えーっと、あんまり覚えてないけど……」


 姉さんの話をまとめるとこうだ。姉さんは俺よりも先にあの神に会ってかなり長い事話したらしい(俺のとき時間無かったのって姉さんのせいじゃん!)。そこで「1番頑丈な職にして欲しい」って言ったら魔王になったそうだ。それからは魔王城で魔王としての仕事を淡々とこなしながら、俺が来るのを待っていたらしい。


「でも転生者の勇者が現れたって聞いた時は本当に嬉しかったわ」

「姉さん……」

「嬉しすぎてその日は3回も致しちゃったわ」

「俺の感動を返して!?」


 仲間が居る前でそういう事を言うのは本当にやめて欲しい。


「お姉ちゃんも1つ質問いいかしら?」

「ん?何?」

「アーニャちゃんについてる尻尾ってあれ本物?」


 視線に気づいたアーニャが警戒心を強めたのがわかった。こちらはユーディーと違いまだ姉さんを完全に信用しきれていない様だ。まぁそれが普通だろうな。


「本物ですよ、アーニャさん達獣人族は獣の物と変わりない尻尾を持っているんです。中には複数の尻尾が生えてる人もいるんですよ」


 口を開かないアーニャに変わってユーディーが答える。確かにじっくりと触った事は無いがアーニャの尻尾はモフモフで触り心地が良いし、自由自在に動かせるので戦闘では3本目の足のようにして使う事も出来て便利だと思う。もっとも、アーニャ程の優れた運動神経があってこそ為せる芸なのだが。


「ねぇ、アーニャちゃん?ちょっと触ってみてもいい?」

「…………⁉︎」

「大丈夫、優しくするから」

「……え、あっ⁉︎」

「あら、可愛い反応するのね」

「……ぁ……んあっ!」

「ほれほれ〜ここがええんか〜」

「ぁ…………んっ……んぁ……あっ……ぁ……あっんっ……」


 アーニャが今まで聞いたことのないような声を出して悶えている。ナニコレ。


「尻尾触られるのって結構くすぐったいらしいですよ」

「そうなのか……」


 いやこれくすぐったいってレベルじゃないだろ。なんかもう恍惚とした表情を浮かべちゃってるし。


「ダーリン、私達もやりましょう!さぁ早く私をめちゃくちゃにして下さい!」

「やらねーぞ」


 無駄にハイテンションのユーディーをいなして姉さんに向き直る。


「あの……姉さんそろそろやめてあげてくれないか、くすぐったいらしいし」

「だってすっごくモフモフなんだもん!」


『なんだもん!』じゃねーよ!

 二十歳超えてんのにほっぺ膨らまして何言ってんだよこっちが恥ずかしいわ!


「かず君も触る?」


 え、いいの?


「あんまり強くしごかないでね?///」


 姉さんの腰、人間でいうと尾骶骨のあるあたりから生えた黒光りする尻尾がスッと動いて俺の前でくねくねと動く。


「……遠慮しとくわ。それよりアーニャがなんかもう涙浮かべてるから離してやってくれよ」

「そう、残念だわ」


 姉さんの腕から解放されたアーニャはハッと我に返り一瞬にして姉さんから離れると俺の背中に隠れてふるふると震えている。服をギュッと握ってくるあたり完全に怯えてしまっている。余計な事しかしないなこの人。


「ところでかず君達はこれからどうするの?」

「王国に帰って挙式を挙げます!お義姉様も是非いらして下さい!」

「挙げねーからな?それに王国に戻ってどうやって説明するんだよ、『魔王が身内だったんで帰って来ちゃいました』なんて信じてくれるわけないだろ。」

「そうですね……」

「『魔王倒しました』って嘘つくのは?」

「バレるだろ、多分魔王城に調査隊とか来るぞ」

「いっそお義姉様に王国に来ていただいて力でねじ伏せるというのは?」

「お前一応お姫様……」

「お言葉ですが、それは無理です」


 唐突に渋い声が割り込んできた。いきなり喋らないでよびっくりするじゃん。さっきお茶を運んでから部屋の隅の方で固まって動かないし、姉さんがアーニャの尻尾を触ってるときも眉ひとつ動かさないし、なんなんだよこの人……


「魔王様の力は瘴気があってこそのもの、

 瘴気の全く無い王都では力を振るう事が出来ません」


 あ、一応姉さんにも弱点があったんだ。でもそれって逆に言えば引きこもってれば最強って事だよね。


「そうなんですね……」

「そうでなければ王国などとうの昔に滅ぼしています」


 なんか物騒な事言いだしたぞ


「それと、僭越ながら私にご提案があるのですが……」

「セバスチャンさんでしたっけ?教えて下さい」

「カズキ様、私には敬語は不必要ですよ。勿論他の皆様もどうぞ気軽にお声掛け下さい。おっと、話が逸れてしまいましたね。それではご提案なのですが……ここ、魔王城にお住まいになってはいかがでしょうか?」


 え?俺たち魔王城に住むの?


「中々良い案が生まれないのであれば、取り敢えずは『魔王を倒すのに時間がかかっている』という(てい)で、良い案が思いつくまでの間、魔王城に滞在してはいかがでしょうか?勿論部屋も食事も用意致します」


 確かに、それも悪くないかもしれないな。体力はユーディーが回復してくれるが、このところ魔物との連戦が続いていた事で精神的にも疲弊しているだろうし……


「それがいいわ!お姉ちゃん大賛成!」


 姉さんもあんなに顔を輝かせてるし……


「じゃあそうしようかな……みんなはそれでいいか?」

「勿論です!久々にベッドで寝られるんですね!私ダーリンと一緒のベッドがいいです!」

「……カズキに任せる」

「そうか、じゃあ決ま……」

「ふざけんじゃないわよ‼︎」


 三人の意見が一致したその時、ドアを蹴破ってウィットが飛び込んで来る。


「なんで私が魔王城なんかで暮らさなきゃいけないわけ⁉︎」

「ウィット、お前寝てたんじゃ……」


 魔力が枯渇して気絶してしまったウィットは隣の部屋で寝かせてた筈だが、案外早く起きたらしい。


「セバスチャンと言ったかしら?あなた、そう言って寝ている隙に私達の事殺そうとしているんでしょう?それとも食事に毒でも仕込むのかしら?」

「その様な考えはございません。私はただカズキ様がご滞在されれば魔王様がお喜びになると思って……」

「そんなの信じられると思ってるの?あなたさっき私の事殺そうとしたのよ?」

「それはあなたが魔王様に危害を加えようとしたからであって……」

「ふん、どうかしらね」

「ウィット、お前の気持ちもわかるけど……」

「アンタに私の何がわかるっていうの!それにユーディーはともかく、アーニャもなんでそっち側にいるのよ!」


 確かにウィットの言うことも頷ける。今まで敵だと思っていた魔王が実は仲間だったとわかったところで、まず疑ってかかるのが普通だろう。そういう意味ではウィットの反応が普通なのであって、アーニャも反対していてもおかしくない。いや、警戒心の強いアーニャなら反対しそうなのだが……


「……私は、カズキを信用してるから」

「…………」


 予想外の答えに俺とウィットがフリーズする。

 そこまで俺の事を信じてくれていたとは……なんというか、熱いものが込み上げてくる。普段は自己主張をしないアーニャがはっきりと自分の意見を口にした事で、ウィットも少し戸惑っているようだった。あとひと押しでウィットを説得できるかもしれない……

 チャンスを逃すまいと口を開きかけたその時――― 


「ウィットちゃん」


 先に口を開いたのは姉さんだった。


「ごめんなさい。私……」


 それが逆効果だった。


「はぁ?今更何謝ってんの?あやまればあんたが謝ったところでもうどうにもならないのよ!」

「ウィット、一旦落ち着……」

「もういいわ。あんた達みんな死んじゃえばいいのよ。きっと魔王に操られてるんでしょ」


 吐き捨てるように言う。冷静に取り繕ってはいるが完全に激昂している。


「そんな事ありません。ウィットさん少し落ち着きましょう」

「うるさい!どうせ私が悪者なんでしょ!いいわよ、だったら全員まとめて灰にしてあげるわ!」

「ウィット!」

「黙りなさい!イグニス・エルぷ……」パタン


 手を構え詠唱を始めようとしたウィットだったが、その途中で意識を失い倒れてしまう。恐らく魔力切れを起こしたのだろう。強力な魔法を使ってまだ回復もしないうちにに2発目を撃とうとしたのだから無理もない。

 普段ならば魔力切れなどという初歩的なミスを侵すはずのない彼女だが、どうやらそうとう焦っていたらしい。


「ウィット様はお部屋に運んでおきましょう」

「……セバスチャンさん、ご迷惑おかけします」


 うん、取り敢えず一泊は確定だな。

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