1.俺が勇者で魔王が姉で
「みんな、今まで……本当に有難う」
目の前には凶々しい門。
最後の決戦を前に、仲間を振り返る。連戦明けで疲労が溜まっているにも関わらず、それを感じさせない熱意のこもった真剣な表情に俺は改めて感謝を述べる。
「ん?カズキ、何か変なモンでも食べたのか?」
猫の様な耳をピクピクさせてアーニャが言う。
アーニャは獣人で、耳や鼻、爪が猫に似ているし、尻尾も付いている。職業は武闘家だが、フィールドではその耳と鼻で索敵を行い、いざバトルになれば人並み外れた俊敏性で相手の背後に回り死角を突いたりと、幅広い活躍をしてくれている。
彼女が魔物の位置を察知してくれたお陰で敵の不意打ちに会うこともなく、常に安定的な戦いを続けてこれたわけで、彼女の功績は計り知れない。
「そーゆーのは勝ってから言いなさいよ!それとも今更弱気になってんの?バッカみたい」
妙にツンツンとした態度でそう言ってきたのは魔法使いのウィットだ。
彼女は西方の言わずと知れた魔術士一族の末裔で、その実力は大陸でも指折りと言われている。
右手に持った古めかしい杖から放たれる魔法は広範囲を攻撃する事ができ、ボス以外との戦闘なら大体彼女一人で済んでしまう。
俺とは違い、敵に囲まれてしまっても優位を崩す事のない彼女の存在は何者にも代え難い。
「魔王なんてさっさと倒して早く結婚式を挙げましょうね?ダーリン」
そう微笑みかけてくれるのはこの大陸を統べる王国の第三王女、ユーディーだ。
以前魔物に襲われていたところを助けた事があり、それ以降俺に病的なまでの好意を寄せてくれており、王族でありながら親の反対を振り切って俺達と行動を共にしている。彼女はこのパーティーの重要なヒーラー役であり、王家の血を引く巫女である彼女だけが使えるアイテム"神託の宝珠"を使ってどんな傷でも癒してしまう。
いくら体力を削られようと彼女が回復してくれるという安心感はメンタル面で大きなアドバンテージとなる。彼女無しにここまで辿り着く事は出来なかった筈だ。
(本当に良い仲間を持ったな……それにしても魔王城でかすぎだろ、東京ドーム何個分だよコレ……)
彫刻の彫られた立派な門に、高さ20メートルはありそうな塀が連なり、奥には本丸と思しき灰色の城が建っている。
草木も枯れる一面の荒野の中に佇むその建物は来る者を拒むような荘厳な雰囲気を醸し出している。
この時の俺には、まさかこの魔王城に自分が住むことになるとは知る由もなかった。
俺が転生されてきたこの大陸は丁度真ん中で南北に分断されている。
北側は「魔の地」と呼ばれる魔物の世界で、その中心にそびえ立つのがこの魔王城だ。
南側は「ローズ王国」が統治する人間の世界で、数は少ないが獣人やエルフなどの人間に友好的な種族の生活の場でもある。
勇者として転生した俺は王都で国王の命を受け、縁あって出会った仲間と共に数多の試練を乗り越え、今こうして魔王城に辿り着いたというわけだ。
「これだけ広いと中にも魔物が沢山いそうだな。アーニャ、頼む」
「わかった……」
アーニャの鼻がピクピクと動く
「あ……」
「どうかしたのか?」
「魔王、すぐそこ。門の向こう」
「え」
「ええええ!ちょっと!早く準備しなきゃじゃない!カズキ何ぼーっとしてんのよ!」
「ウィットさん落ち着いて下さい!マントが裏表逆ですよ!」
「よ、よし!みんな取り敢えず落ち着け。これが最後の闘いだ、失敗は許されない。
魔王を見つける手間が省けたんだ、準備が済み次第一気に畳み掛けるから落ち着いて戦闘準備をしてくれ。」
門の前で休憩とっていたところなので、それぞれ装備を付け直さなくてはならない。
ユーディーの装備は王家の紋章のついた白装束で、ストレートロングの黒髪にぱっちりとした黒目、人形のように整った顔立ちと合わせてまさに清楚系美少女といった容姿をしている。胸元に光るのは"神託の宝珠"をはめ込んだネックレスだが、それよりも目を惹くのは宝珠を挟まんとする2つの豊満な脂肪の塊である。
ウィットは黒を基調としたチュニックとミニスカートに対照的な真紅のマントとブーツをといった衣装で、セミロングの黄金の髪にいかにも魔女といった感じのとんがり帽子を被っている。
風の魔法を使うにも関わらずショーツを履かないので背後からモロに見えているというのは本人には内緒。
どこかあどけなさが残るアーニャは皮膚でも魔力を感知できる為、かなり露出度の高めな服装をしている。布面積が狭いにも関わらず防御力が変わらないところが異世界というかRPGっぽい。
浅黒の肌によく映えるショートの白髪とぶっきらぼうな物言いがボーイッシュな印象を与えるが、出るところはウィットよりも出ており、露出度の高い服装も相まって倒錯的な魅力を備えている。
「よし、みんな準備できたな。ウィット頼む」
「言われなくってもわかってるわよ!風よ吹け、テンペスタース!」
ゴゴゴゴゴ……
音を立てて扉が開いていく。
「……今日はピンクか」
「何か言った?」
「いや、なんでもない」
もっと見ていたかったが今はそんな余裕は無いので剣を構えて門の奥に目をやる。
人型が見える、思ったよりも大きくない、俺と同じか少し小さいくらいだ。瘴気を纏っているようで顔はよく見えないが、髪は長く女性のような体格をしているように見える。
「あれが……魔王……」
仲間が緊張しているのが気配で伝わってくる。恐怖心を振り払い魔王に向かって走り出したその時……
ヒュン
一瞬にして魔王の姿が消えた。
「ッ!?」
視界が真っ暗になる。気がついた頃には魔王は既に眼前に居た。
(もう駄目か……まぁ元の世界よりは楽しかったかな。そういや結局姉さんは見つけられなかったな……何処かで元気に暮らしてればいいけど……ごめんよ姉さん、俺はここまでみたいだ)
「!」
「カズキ!」
「ダーリン!」
痛みに備え思わず目を閉じる……が、
ポヨン
当たったのは柔らかいなにか、勿論痛みなど感じはずもなく……
「かず君!無事でよかった!会いたかったのよ?」
「「「「!」」」」
え、かず君?
俺の事をそんな呼び方で呼ぶのは……
むにむに
体に当たる柔らかな感触……もしかして俺、抱きしめられているのか?
「あら、どうしたの?お姉ちゃんのこと忘れちゃった?」
え
突然の事すぎて理解が追いつかない。
「姉さん……なのか?」
恐る恐る目を開けるとそこにあったのは馴染みの顔だった。
「かず君、久しぶりね。お姉ちゃんずっと会いたかったんだから!」
そう言って俺の体に顔をうずめてくるのは紛れもなく俺の実姉、霜月萌花だ。
(え、でもなんで姉さんが魔王城に……それに魔王は何処へ……)
急展開すぎて頭が追いつかない。
「……」
「ちょっと!カズキ、どうゆう事よ!説明しなさいよ!」
「いや、説明と言われても、俺にも何がなんだか……」
「ダーリン?なんで私以外の女の人と抱き合っているんですか?」ゴゴゴゴゴ
なんか一人髪の毛が逆立ってるんだが?
「いや待て、これは俺の実の姉なんだ。な、姉さんも説明してくれ」
姉さんはユーディー達をみて「あら!」と声をあげる。どうやら俺しか見えてなかったらしい。
「はじめまして、かず君の姉の萌花です。皆さんはかず君のお友達かしら?いつもかず君がお世話になってます。」
「すみません!お義姉様でいらっしゃいましたか。私ったらつい早とちりしちゃって……
義妹のユーディットと申します。今後ともよろしくお願いします。」
誤解が解けたのはいいが俺はお前を嫁にした覚えはないぞ?
「……アーニャ」
「ウィットよ、それより何でカズキのお姉さんがこんなところにいるのよ!」
そう、問題はそこだ。
ここは魔の地、果てし無く広がる荒野だ。魔王城以外何も無い。
「なんで姉さんがここに?」
「なんでって、私がここに住んでるからよ?」
そう言って魔王城を指差す。
(どうゆう事だ……もしかして魔物に拉致されてここに閉じ込められていたのか?)
「ここで立ち話するより、取り敢えず中に入りましょ?」
「中って……魔王城の中にか?」
「ええ、それ以外どこに入るって言うの?」
「いや、でも……」
「大丈夫、お姉ちゃんについてきて」
そう言って姉さんは前を歩いて行く。姉さんの後ろ姿には元の世界の時には無かった黒く艶やかな羽と尻尾が生えていた。よく見れば頭の左右からツノらしき物も生えている。
どうやら姉さんは人間ではない種族に転生してしまったらしい。
(あの尻尾は獣人?……いや吸血鬼か?)
思い出してみれば胸もかなり大きくなっていた気がする。実の姉なので興奮こそしないが、恐らくユーディーのそれよりも大きいだろう。
そんな事を考えながら姉さんの後をついていこうとすると、ウィットが近寄ってきて耳元で囁いてくる。
「カズキ、中に入って大丈夫なの?」
「まぁ、姉さんが大丈夫って言ってるし……」
「何言ってんのよ!ニセモノかもしれないでしょ!」
そうか!容姿は似ているからと言って、目の前にいる吸血鬼(?)が姉さんとは限らない。本当の姉さんは魔王城に囚われていて、俺を油断させるためにわざと姉さんのふりをしているのかもしれない。
どうやら久しぶりの再会に感動して、冷静な判断ができていなかったらしい。
「ウィット、ありがとう」
「ふん!別にあんたのために言ってやった訳じゃないんだからね!」
踏み出そうとした足を止め、姉さんに呼びかける。
「姉さん、待ってくれ。姉さんが本当に俺の姉さんだって証明する事はできるか?」
「証明?そうねぇ……」
吸血鬼(?)が考える素振りを見せる。
「例えば……『俺と姉さんしか知らない事』とか」
「私とかず君しか知らない事?あぁひとつあるわ!」
如何にも「はっ!閃いた!」みたいな顔をするところが姉さんっぽい。
「かず君の本棚の昆虫図鑑、あれカバーだけ変えてあって中身は実はエッチな本だよね」
え
俺の中の時計が3秒くらいフリーズした。
「なんで姉さんが知ってるんだよおおおおお!!!!」
「かず君の部屋を掃除してる時に偶々、ね?」
「…………うわー」
「カズキサイテー、引くわー」
「……」
「ち、違う!ユーディー!ウィット!そんな目で俺をみるな!アーニャ!無言で距離を開けないでくれ!」
姉さんいくらなんでもそりゃあないでしょ。
「コスプレイヤーっていうのかしら?かず君は巫女さんとか魔女っ子とか猫耳とかが好きなのね、そこのページだけ開きやすくなってたわ」
「……私達の事そういう目で見てたのね」
「ごごご誤解だ!俺は単純にお前らの実力を……」
「ダーリン、誤魔化さなくてもいいんですよ?ダーリンも健全な男の子ですからね」
「おぉ!ユーディーわかってくれるのか!」
「もちろんですよ。なので二度とそうゆう事が出来ないように、邪魔なおてては切っちゃいましょうねー?」
「怖い怖い怖い怖い!何処から取り出したんだそのでかいハサミ!しかも切るのはアレじゃなくて手なのかよ!」
「はい……だって私との子供が出来なくなっちゃうじゃないですか///」
「そのハサミのせいで雰囲気なんか微塵もないからな!あとアーニャはそろそろ帰ってこーい!」
姉さん、わざわざご丁寧に追撃までどうも。お陰で俺のライフはもうゼロだよ。
「カズキが仲間をもいやらしい目でみる変態万年発情期野郎だって事はわかったわ……でも私達の目的、忘れてないわよね?」
「目的?…………はっ!そうだ!」
危ない、本来の目的を見失うところだった。ウィットはいつもツンツンしていて機嫌をとるのも一苦労だが、実はこういう時に1番冷静な判断ができる賢い奴だ。
「なあ、姉さん」
「ん?どうしたの?」
「さっきまでここに魔王が居たんだが、知らないか?」
「魔王?目の前にいるじゃない?」
え
ここに居るのは俺と姉さんとウィット、それに目をギラつかせながら巨大バサミを構えるユーディーに、500メートルくらい遠くで胸を隠すように両腕を組んでいるアーニャだけだ。
「え、目の前って何処に?」
「ここにいるじゃない」
振り返って近づいてきた姉さんが自分の胸のあたりを指差して言う。
すごく……大きいです……
じゃなくて
「もしかして姉さん……」
「うん」
大胆なスリッドの空いた漆黒の衣装を身に纏い元の世界にいた頃よりもどこか妖艶なオーラを放つ姉さんが、上目遣いで俺を見てそのふっくらとした唇を開く。
「お姉ちゃん、魔王になっちゃったの」
初投稿です。
ヒロイン紹介回でした。
次回、主人公とメインヒロイン?である姉の紹介です。