プロローグ
TAROです。
小説を書くのはおよそ7年ぶりになります。その説はお世話になりました。
リハビリ含めて少しずつ書いていきますので、お気軽に読んでいただければと思います。
感想はなるべく返したいですが、ストーリーのネタバレになりそうな部分についてや時間がないことなどによりお返しすることができない場合がございますので、予めご了承ください。
『事故で死んだ俺が異世界でハーレムやります』
『死んでしまったと思ったらチートもらって人生大逆転』
『転生してもらった能力がチートすぎる件』
『チートで勇者になっちゃったからとりあえず世界救ってみる』
「チート、チート、チート……俺TUEEE系小説多すぎだろ」
栗山孝は小説投稿サイトのランキングページを見ながら呟いた。
ランキングの上位に並ぶそれらの小説はいずれも異世界転生チート系の小説である。
「そんなにみんな異世界に転生して俺TUEEEしたいのかねぇ」
なんとなく流されるように生きてきた彼には、あえて注目を浴びて好き勝手やることがお約束の俺TUEEE系ジャンルに共感できなかった。
いや、むしろ言葉の端々には嫌悪すら感じられる。
「どうせ元の世界で大したことなかった奴が元の性格持ち込みでそんな突然大活躍できるようになるわけねーだろ」
孝は画面に向かって呟きながら小説の感想欄を眺める。
『主人公のチートがもっとみたいです!』
『周りのヒロインが即惚れるのがいい』
「人間そんなに簡単じゃないよな」
ある程度感想を流し見たところで孝はランキング1位となっている『俺が異世界にいったら急にモテモテチートの極みアッーーーーー』というタイトルの小説、の感想を書き込んだ。
『主人公性格変わりすぎ。取り繕ってるけど実は中身おっさんのしょうもない男。ヒロインもこんな主人公に惚れるとかご都合主義すぎる』
「こんなもんか」
感想を書き終えた孝は家を出た。
「投稿サイトがダメなら書店にいかないとな」
「今日もいい本なかったな」
書店からの帰り道、持って出た時と重さの変わらない財布を持ちながら歩く孝。
掘り出し物があれば、と思って出かけた孝だったが結局気になる本が見つからなかったのだ。
「最近並んでるのも、ネット小説発とかばかりだしな」
新刊の帯やポップに書かれているお決まりテンプレート、ネット小説PV○○!といった宣伝は、孝の購入意欲を削ぐことに対して十二分に効果を発揮していた。
「他のジャンルの小説がもっと読みたいんだけどな」
異世界転生俺TUEEE系なんかなくなればいいのに、とぼやきながら歩く。
自宅まであと少しと迫った時、孝の前に人影が現れた。
若干小太り気味の、上下スウェットを着た男だった。
「お、おまえがTAKASHIか・・・?」
「……そうだけど」
人違いです、と言いかけた孝だったがどこかそう言わせない雰囲気を感じて素直に答える。
「お、俺の好きな小説の感想を荒らしてるのはおまえだろ」
孝は少し考える素振りを見せたが、気付いた。
「もしかして、さっきコメント書いた小説のことか?」
男は頷く。
「そ、それだけじゃないが、それもある」
「で、俺がコメントしたら何かまずかったのか?」
別段おかしなことをしているつもりはないと言わんばかりの素振りを見せる孝。
「俺の好きな小説を馬鹿にする奴は許さない」
「あなたは作者さんとかですか?」
「書けもしないくせに文句ばかりつけやがって」
矢継ぎ早に言葉をぶつける男。
「思ったことを書いたまでだし、そんなに無茶な非難はしてないんだから文句を言われる筋合いはないよ、しかも作者に言われるならまだしも――」
「う、うるさい!ふざけやがって」
孝は状況を見誤っていた。
ひとつは、相対している男がなぜそんなにも激怒しているのかを察せなかったこと。
そしてふたつめは、その小説に対する男の依存がどれほどのものだったのかである。
突然走って迫ってきた男が孝にぶつかり相対する。
「痛っ……」
ぶつかった痛みではない、刺すような痛みを感じた孝はぶつかった部分を見る。
赤い。
街灯も少ない暗がりではあるが、自分の服がじわじわと赤みがかってくるのが見える。
「う、うわぁぁぁぁあ……」
先ほどまで孝の目の前に迫っていたスウェットの男は後ずさりながら走り去っていった。
その場に立っていられなくなった孝は腹部を抑えうずくまった。
激しい痛みに襲われているのか、その表情は苦悶に満ちている。あまりの痛みに声も出せないようだ。
「あの、クソジジィ………」
段々と瞼が閉じていく孝。夏真っ盛りで、今夜も確実に熱帯夜の予報が出ていたにもかかわらず、どことなく寒さを感じる。
「本当に最悪だ、俺TUEEE系……」
足元に広がる血だまりに倒れこんで呟いたその言葉が、彼のこの世界での最期の言葉となった。
******
ある神は言った。
世界を救うには勇者が必要だと。
ある賢者も言った。
魔王を倒すには異世界の勇者を呼ぶべきだと。
ある巫女も言った。
終わらない戦いを終わらせるために、神託によりもたらされた異世界召喚を行うべきだと。
そして神々は悟った。
世界を救うために作ったこのシステムが、世界を壊してしまうことを。
******
孝は周りが真っ白な場所に立っていた。
ぼんやりとしていた視界が整うと、孝は自分の腹部を確かめる。
服は赤く染まっている。
刺されたところも穴が開いているが。
「傷が……ない?」
孝の腹部は無傷であった。
「確かに刺されたよな、俺……」
「貴方は確かに刺されました」
困惑する孝の目の前が突然の光によって明るくなる。
光が収まったとき、孝の目の前には女神と形容して差し支えないような美しさを持った女性が立っていた。
「あんたは……誰ですか?」
孝の知人ではない。無論、会っていれば思い出せる。それだけの強い存在感を放っている。
「私は、時を司る女神。ティルミア=フォルトゥーナ。貴方にお願いがあって、輪廻に向かう前に引き止めさせていただきました」
時の女神と名乗った女性に対し、孝は疑問を抱かなかった。目の前の存在が神ではないことなど在り得ないと孝は思っていた。
それほどまでに、ティルミア=フォルトゥーナは神々しく、そして美しかったのである。
「女神さまが俺に何を願うのですか」
俺は生き返りたいんですが、と訴える孝に対して女神フォルトゥーナは答えた。
「貴方に、世界を救って欲しいのです」
ついにはじまってしまった・・・。
見切り発車感が否めないですが、次もお楽しみに。