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バター牧場のオイシイ秘密

 再び、キッパリ断言しておく。これは、あくまでフィクションであり、現実とは一切無関係である。

  *

「さきほど、魔界牛から絞った乳は、このタンクに入れられ、不純物を取り除いたのち、次の工程に移ります」

 隙の無いスーツ姿の若い美男たちが、トロンとした焦点の定まらない瞳をした若者たちを誘導し、工場機器を説明している。よく見れば、その男は、さきほどの小悪魔たちと同じ顔立ちをしているのが分かり、若者たちも、さきほど映像水晶に映っていた人物と同一であることが判別できる。

「それでは、このあとは、工場の中に入って体験していただきましょう」

 そう言うと、男はドアを開け、持っている三角の旗を振って先に中へ入るよう指示する。すると、若者たちは何かに吸い寄せられるようにフラフラとした足取りで、一人また一人とドアの向こうへと消えていく。そして、最後の一人がドアの向こうへと消えると、男は口角をつり上げてニヤリと笑いながら、ドアを閉め、鍵をかけてしまう。

「ククッ。ごゆっくりどうぞ」

「ハハッ。うまくいったな」

「あぁ。これから何か待ち受けているかも知らないで、いい気なもんだ。それじゃあ、高みの見物と洒落こもうか」

「そうだな。無知というのは、恐ろしいものだ」

 そう言って男たちは、変身を解いて悪魔の姿に戻った。

  *

「ファ~。あれ? ここは、どこだ?」

 一人の若者は、目を覚ますと、大きな欠伸をして起き上がる。そして、周囲がガラス製の大きな牛乳瓶のような形になっているのに気づいた。そこへ、瓶の口に相当する天井部に備え付けられたスピーカーから声が聞こえる。

『お目覚めかな? どうだい、居心地は?』

「何の真似だ。早く、ここから出せ!」

 若者が湾曲したガラス面をよじ登ろうとすると、クツクツという笑いまじりの声がする。

『そう、慌てることは無い。すぐに瓶から出してあげるとも。それじゃあ、注入スタート!』

 グオーンという重低音とともに、瓶の口に太いパイプがセットされ、中から乳白色の液体が注がれ始める。若者は、それを頭からまともにかぶりつつ、叫び声をあげる。

「ぶはっ。何をするんだ!」

『言っただろう? この工場は、魔界バターを作るところだと』

「だから、どうした? ……はっ! まさか」

『気付いたかい? でも、もう遅い』

 瓶の半分ほどまで液体が注がれると、パイプが撤収されて口が密閉される。続いて、三ツ又のアームが二本伸び、注ぎ口と底をガッシリと掴んで固定すると、おもむろに左右へ振動させ始める。

「わ、わ、わ、や、や、やめろ、お、お」

『やめろと言われて、やめる馬鹿はいない。せいぜい、口を閉じて舌を切らないようにすることだな』 

 若者のくぐもった断末魔がこだまする中、徐々にアームの振幅が大きく、また速度が早くなっていき、いつしか若者の声は聞こえなくなり、姿も見えなくなっていった。

  *

「いかがですか、魔王さま。魔界牛のステーキのお味は?」

「悪くないわね。肉自体も美味しいけど、バターにコクがあるわ。やっぱり、作りたてが一番ね。材料が駄目人間だから、なおさらよ」

 料理の味を訊く小悪魔に対し、魔王は満足げに頷きながら答えると、小悪魔はお追従を述べる。

「さすがは、魔王さま。舌が肥えていらっしゃる」

「太鼓持ちは結構よ。それより、次のターゲットなんだけど」

「はっ。今度は、誰になさいますか?」

 居住まいを正して小悪魔が謹聴すると、魔王は天気の話でもするような気軽さで、指折り数えながらプランを話す。

「靴下の穴を指摘して指差すだけにとどまらず、穴を広げて足を引っ張り出さんとするような執拗な姿勢の報道関係者に、内輪ネタが多くて、関係性が見えない世代がテレビ離れする原因を作ってる放送関係者に、それから」

 ひと呼吸置き、小悪魔のような悪戯っぽい笑顔を浮かべて言う。

「まずは、頑迷固陋で偏屈な老害人間かな。きっと、一人二人いなくなったところで、誰も本気で探そうとしないから、楽に捕まえられるわ。ちょうどケルベロスちゃんの餌が足りなくなってたところだし、スポンジに挟んでショートケーキにしちゃいましょう」

  *

 オイシイ話には裏がある。みなさまも、怠惰を誘う甜言蜜語には、ご用心を。

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