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5. バジルリスク戦 1

 知らない王国名の王女の救いの手にメリルはすがった。

 相手の肩書を思い出し、メリルが平伏するべきかと思ったその刹那、


「《全快》」


 王女の小さな口が開き、メリルの聞いたことのない言葉が流れた。


……なんて言ったのだろう?


 聞き逃したことを嘆いていると、すぐに目の前の愛馬が金色こんじきに光る薄い膜に包まれる。覆っていた輝きは細かい光の粒子となり淡雪のように消える。

 突然愛馬はいななき、何事もなかったかのように立ち上がった。メリルはあまりの出来事に口をポカンと開けたまま言葉を失う。


 深い傷を負いその命を救えるのは、豪奢な祭服に身を包む高司祭と呼ばれる存在だけと広く認知されている。

 なので、王女の言った言葉も、司祭や他国の神官が使う傷を防ぐのみの効果のあるポーションを与えてくれるものとメリルは思っていた。


……それでもあれほどの血を失えば高司祭でも五分五分……いやもっと低いはず。しかも急激な運動はしばらく不可能なはずなのに。


 先ほどまで死の淵にいた愛馬は脚の調子をみるかのように力強く大地を蹴っている。バジルリスクから受けた傷は目視でも分かるが傷跡すらないようである。

 メリルはふと気になり愛馬に触れる。


……ここも。ここにもあった古い傷跡が全て消えている!? どういうこと?


 馬体を調べていると、


「しまったー。やっぱり、こう手を出したほうが魔法を使ってるぽいよね」


 と数回左手を突き出す仕草をしていた獣人の王女が、パンと手を叩く。


「さてと。それじゃあ」


 別れの予感を覚えたメリルは慌てて平伏し声をかけた。



◇◇◇



 微小だと思うがカルマのプラス値も上昇したはずだ。次の行動として、バジリスクを狩りに行こうとすると声をかけられた。

 振り向くと健康的な小麦色の肌をした女騎士が片膝を付き、かしづいていた。慣れた手つきで兜を脱ぐとミディアムくらいの長さの髪が蒸れてしっとりとしている。頭を垂れるとダークブラウンの髪が太陽の光を受けきらきら光る。

 まるでファンタジー映画のワンシーンである。


「私の馬を治していただきありがとうございます!」


 思わず魅入っていたため対応が遅れる


「あ、いえ、いえいえ。そんな大したことでは」


 やっぱり馬に回復魔法をかけるでストーリー的に正解だったんだなと思いつつ、ぱたぱたと手を振って答えると女騎士が驚いて顔をあげた。


「そんなことあります! 大ありです! し、失礼いたしました。普通軍馬とはいえ王族の馬でもないのに魔法でなんて治してくれませんし、何よりあの癒しです! あれほどの魔法初めて見ました!」


 凄いです凄いですと何やら興奮している。そんな主の様子を優しい眼差しで見ている馬の姿とが対照的だ。興奮さめやらぬ彼女は続ける。


「それとですね、王女様! 魔法で空を飛んでこられましたよね?」


 こんな質問を受けたのは初めてであるため飛んできたことを正直に言っていいのか戸惑う。


……制空権的なものなのか? この辺り飛行禁止とか?


 どう答えるのが正解かと考えていると、再びバジリスクとの戦いの方から悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「ああ! そんな事よりあちらが大変!」


 指さす方角に女騎士の視線を誘導する。


「早く助けに行かないと全滅しますよ。協力しますから、早く早く!」


 言いつつ駆け出し誤魔化すことを選んでみた。なので時間短縮のため本当は飛んで行きたいのだが止めておく。後ろからああ、とか王女様とか言ってるのが聞こえるが、ここは無視が一番だと思っていたらすぐに背後から蹄の音が近づいきたため振り返ると、


「王女様! お手を」


 女騎士が左手で手綱を持ち右手を差し出してきた。


……ええ!? 格好いいシーンだけど、馬に乗ったことがないし…どうしよう?


 速度を抑え恐る恐る手を出しながら迷っていると女騎士に手を掴まれ一気引っ張り上げられ、無意識に身体が動いて容易に飛び移れた。だが、女騎士の前に跨る格好となってしまい手でワンピースを押さえないとスポーツタイプの赤色のインナーがチラチラ見えるため男ながらに非常に恥ずかしい。


「ご乗馬されるのですね。見事な体捌きでした」


 全くしたことないよと思いながら、ははっと力なく笑ってみた。あの動きは戦士からの派生職である騎士のものなのかは不明だが勝手に身についてるようである。


「王女様バジルリスクはご存知ですか?」

「バジルリスク?」


 バジリスクじゃなくて? 言い間違い? 亜種? 方言? 色々な疑問が浮かんでいると、知らないと判断されたようでやや早口で説明された。今までのバジリスクでは爪はダメージを喰らい続ける毒だったが、これは麻痺とのことなのでやはり亜種だった。


「噂ではもっと弱いと思っていたのですが、私の魔力の限界まで《マナディム・ジャベリン》を放ちましたが、仕留めることはできませんでした。王女様の魔力の凄さは知ってはおりますが大丈夫でしょうか?」


 どの魔法のエフェクトを見てみようかな~、などと考えていたら背後から心配した声音こわねで質問されたので安心させたほうがいいと判断して答える。


「大丈夫! 遊ばないから」


 後ろを振り向き親指を立てると、小麦色の女騎士が引き攣った笑みを浮かべた。



お読みいただきありがとうございます。

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