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暴悪との決別

 ソファリアは薙刀を持つ手を固く握りしめ、一言も発さずにいた。堪えきれなくなったリョウマは、そうであってほしいという思いも込め、ラガトに反論する。


「う、嘘に決まってる。お前がタンガ族を裏切り、チョウガ族に下ったのはかなり昔だって言ってた。仮にソファリアさんがその剣を作ったにしても、お前らみたいな乱暴者が使ってたらもう使い物にならないじゃ…」


「並の奴が作ったモンならそうだろうな。だがタンガ族の鍛えた武具や防具は特別でな。どんだけ使おうと百年二百年はもつのよ。特にこの、お前が仕上げた剣は丈夫で切れ味がいいのなんの…。なぁソファリア?」

「………」


 ソファリアは何も答えず、更に拳を固く握った。リョウマは彼女の方を見ず、続けて反論する。


「…だとしても、責任はそれを使う持ち主であるお前だろ。この人が悪いわけじゃない…」


「本当にそうかぁ? チョウガの連中は見た通り、オツムの出来が悪くてな。アイツらじゃこんな得物はどう頑張っても作れねえのさ。例えば俺がただの棒っきれ振り回したって、コレほどの威力は出ねえはずだ。だからコイツらタンガ族がいなけりゃ、ああはならなかった。お前のお友達を死なせた原因は、コイツだと言えねえかな?」


 底意地悪くニヤつくラガト。リョウマはその言葉を振り払うように叫ぶ。


「そ、そんなの屁理屈だ! お前の罪を擦り付けようとしてるだけだ! それにそんな話、信じられるか…!」


「じゃあ聞いてみようじゃねえか。なぁソファリアさんよぉ。俺たちと違って素直で良い子ちゃんのアンタなら、ちゃーんと正直に答えてくれるよな!?」


 ソファリアは何も言い返せず、ひたすら沈黙を貫いていた。痺れを切らしたラガトは口を開く。


「ちっ、まぁいいや。黙ってるってこたぁやましいことがあるってことだろ。お前、こんな奴の助けを借りて今まで旅してたんだよな? 馬鹿馬鹿しいとは思わねえのか?」


 ラガトはリョウマに揺さぶりをかけようとしていた。リョウマもソファリアと同じく、何も言い返さず黙っていた。


「なぁ、どうなんだよ?」

「リョウマさん…」


 リョウマの次の言葉を待つ、元は同じ一族の二人。沈黙を破ったリョウマの答えはーーー。


「…俺はヴァルを、俺たちの大事な仲間を取り戻すためにここまで来たんだ。今までも、あいつが側にいたからやってこられた。その日常を乱す障害があるなら、叩き潰す。その障害が、今目の前にいるお前だ。だから、お前はずっと俺たちの敵だ!」


 リョウマの言葉が終わると、ラガトはつまらなさそうに頭を掻いた。


「それがテメーの答えってか。あーあ、期待外れだぜ。…だがまぁいい、どの道始末する予定だったからな」


 ラガトは大剣を構え、戦闘体勢をとった。リョウマも剣を、ソファリアも薙刀を構えた。


「リョウマさん、今さら言い逃れはいたしません。ですが今はこの者を…」

「わかってます。話は後で。まずは生き延びてからじゃないと…」


 二人の会話を断つように、ラガトは大剣を横に薙ぎ払った。リョウマとソファリアは屈んでかわし、リョウマはラガトの脇腹に剣の一撃を食らわせた。

 しかし、ラガトの身体はびくともしていなかった。その一撃は、強固な鎧に阻まれていた。


「…っ。これは…」

「残念だったなぁ。コイツもタンガの奴らが昔作った防具だよ。そんじょそこらの武器じゃ、傷一つつけらんねぇだろうな。ほらよっ!」

「うぐっ……!」


 ラガトの蹴りを食らい、リョウマは吹き飛ばされた。

 ソファリアは素早くリョウマの元へ駆け寄ると、彼の手を引いて通路の角を曲がり、陰に隠れた。


「きははっ、隠れたって無駄だぞ。どうやっても俺様を倒すことなんざできねえよ」


 徐々に近づいてくるラガトを警戒しながら、ソファリアはリョウマに耳打ちする。


「リョウマさん、私に策があります。信じていただけますか?」

「今はそうする他ないでしょう。あのラガトよりは信用できますからね。少なくとも」

「…ありがとうございます。では、大変申し上げにくいのですが、あの者の気を引いていただけませんか?」

「囮になれと?」

「そこまでは求めません。ほんの一瞬でいいのです。奴を誘導していただいた後、私が鎧に攻撃をします。あの鎧は、作った我々の技術でなければ破壊することは不可能です。…お願いできますか?」


 リョウマは少し考えた後、了承した。


「わかりました。頼みますよ」

「もちろんです」


 二人は通路を回り込み、ラガトの後ろ側へと移動した。


 二人が隠れていた物陰を覗き込み、ラガトは飄々とした態度で独り声を上げる。自らの絶対的な強さから来る自信が溢れているようだった。


「あれぇーおかしいな。どこに行ったんだぁ? このラガトさんが怖くなって逃げちゃったかな? きははははっ!」


 その背後から、リョウマは声をかける。


「んなわけないだろ。こっちだよ、元タンガ族の裏切り者さん」

「…おい、あんまりいい気になんなよ。その呼び名は、嫌いなんだよ!!」


 ラガトは駆け出し、リョウマに向かって一直線に突っ込んできた。リョウマは誘導し、通路の曲がり角を曲がる際に一言付け加える。


「ほらほらこっちだよ、仮にもチョウガ族の長がその程度かよ? もっと頑張れよ」

「テメェ…。調子に乗んなよ!! 獣も混じってねぇ、ただの人間風情が…!!」


 激昂しつつ、角を曲がったラガトは言葉が途切れた。そこには薙刀を構えたソファリアが待ち構えていたのだ。


「ラガト! 覚悟!!」


 避ける暇もなく、彼女の鋭い一撃がラガトの腹に刺さる。勢いよくぶつかり合う二人の力で、薙刀は確実に鎧を貫通していた。


「げはっ…。テメェよくもこんな…」

「卑怯とでも言いたいのですか? あなたにだけは言われたくありませんね」


 苦悶の表情を浮かべるラガトだったが、次の瞬間口元を緩め、不敵な笑みを浮かべていた。




「ああそうだな。俺は元々卑怯モンだからな!!」



 ラガトは自らの腹に刺さる薙刀を掴んで抜き、驚くソファリアの首を掴んだ。持ち上げられた彼女の身体は宙に浮いた。


「ぐっ…なぜ…。確かに鎧は貫けたはず…」

「ちょっと考えが甘かったなぁ。見ろ、これを」


 ラガトの鎧の下には、緑色の鱗があった。いとも簡単に鎧を打ち砕いた薙刀も、その鱗には傷はつけられていなかった。


「これはチョウガ族の鱗だよ。この鎧と同じかそれ以上に丈夫でな。まずお前らの武器じゃ勝てねえだろう。残念だったな」

「そんな…」


 力なく打ちひしがれるソファリアの首元に、ラガトは大剣を当てた。


「お前らの言葉、そっくり返すぜ。今ここで、引導を渡してやる…」

「くそっ、どうしたらいいんだ…。何かないのか…。なんでもいい、この場を乗り切れる何かを…」


 リョウマは打開策はないかと必死に考えた。作戦も道具も、役に立ちそうな物は何もないと思えたが、彼の脳裏にただひとつ、もしやと思える物が浮かんだ。


「死ねや、ソファリア!!」


 ラガトの凶刃がソファリアに襲いかかろうとしたその時、ラガトは開いた腹に鋭い感覚を感じ、大剣を落とし、ソファリアを離した。


「…っ! 何だ!? テメェ、何を…」


 自らの腹を見たラガトは、鮮血が滴り落ちていることに気づく。そこには、チョウガ族の牙が刺さっていた。


「あんたのお仲間の牙だよ。よく知ってんだろ? 同じ仲間の牙なら、同じ仲間の鱗も貫けると思ったんだ。忌々しいと思ってたけど、持ってて良かった」

「クソが…。テメェのような人間一人に…。ぐっ、熱い…!?」

「一人? そう思うか? 実際は二人だよ。お前に殺されたコイツの分も合わせてな」


 リョウマは左腕の宝石(ミーア)を見せた。宝石は熱を帯び、怒っているかのように赤く光っていた。


「は、ははは…。まさか俺がそんな…。自分らの牙でやられるなんてな…。とんだ…お笑いだ…ぜ……」


 ラガトはそれを最後に、どさりと崩れ落ちると一言も発さなくなった。

 動かなくなったラガトを確認すると、リョウマは呟いた。


「ふぅ…一か八かの賭けだったが、こいつには知られたくなかったからな。…っとそうだ、ソファリアさん、大丈夫か!?」


 リョウマは倒れたソファリアを起こし、揺さぶる。しかし彼女は気を失ったままだった。


 その時、牢獄内を地響きが襲った。天井から石や砂が落ちてくる。辺りを見回すと、奥からアスカとエクス、クアとザルドが慌ただしく駆け込んできていた。


「ウマ兄急いで! 誰かが罠を作動させたみたい!」

「ぼ、僕かもしれません。すみません…」

「今はそれどころではない。急ぐぞ」

「族長、いかがなされた!? 私の背中に乗せてくれ…」


 落下してくる岩を避けながら、六人は出口を探した。


 やがて上階へと続く階段を見つけると、一行は後先考えず、そこへ突入した。


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