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闇の遭遇

 暗く、ジメジメとした場所に降り立つ一行。月の光も差し込まない井戸の中は、真っ暗で一寸先も見えなかった。


「なんとか足は着いたみたいだな。みんな、大丈夫か?」

「あたしは無事よ。…って言ってもお互い姿が見えないと心配ね。待ってて。今、分身で照らすから」

「私も灯りを持ってきていますので、ただ今照らしますね」


 小鳥の分身と、ソファリアの持参したランタンの光で、辺りは明るくなった。そこで初めて、全員の顔と周囲の様子が確認できた。

 入口から底までは狭かったが、六人が着地した空間は全員が手を広げてもぶつからない程度の広さがあった。そしてただひとつだけ、奥へと通じる穴があった。


「うむ、方角としては合っているようだな。城への隠し通路とみて間違いないだろう。気を引き締めて進むとしよう」


 エクスは僅かに見える星空と穴を交互に見、確証を得たらしい。六人は先へと進んだ。


 その様子を、怪しい影が見ていた。あの死神だった。一行に手を出すこともなく、ポツリと呟くと、一瞬で姿を消した。


「侵入者、確認。直ちに報告を…」




 狭く暗い、足元もおぼつかない道をしばらく進むも、眼前に変化はなかった。クネクネと曲がりくねった道は、城への道のりを想像以上に遠く感じさせていた。


「なかなか着かないな…。それにしても誰がなんのために作った通路なんだか」

「先人がいざという時のために作ったものやもしれん。だが、我々の世界では必要がないと思うがな」

「どういうこと?」


 言葉の意味を理解できなかったアスカは聞き返した。


「父上は秩序の乱れを何より嫌うお方だからだ。ゆえにいかなる争いも好まなかった。民には豊かな暮らしを与え、誰一人苦しい生活をさせないようにと尽力なさっていた。もちろん、城の兵士たちにもな。だからこそ、反乱や謀反などは起こり得なかったということだ」

「つまり、逃げ出したり攻め込んだりするための通路は必要なかった、ってことね?」

「その通り。しかしあくまで私があそこで暮らしていた時の記憶に過ぎないが。…クアはずっと城にいたのだろう? 父上はお変わりなかったか?」

「はい、今お話された通りです。いつも大臣さん方とお話して、世界を良いものにしようとおっしゃっていました」

「…そうか。やはり私の知る父上なのだが、どうにもな。まだ心の底では信じられないという想いが、な」


 エクスは悲しげな面持ちでこぼした。アスカは彼を気遣い、フォローをした。


「無理もないわよ。自分の父親が娘を連れ去って、しかも命を奪おうとしてるなんて…。それもずっと会ってないんだし、複雑な気持ちにもなるわよ」

「ありがとうアスカ。大丈夫だ。私もあの方の長男として、しっかりせねばな」


 アスカは微笑んだが、照れくさそうに顔を背けた。


 間もなく一行は、狭い通路を抜け、石造りの空間に出た。鉄格子の扉が付いた小部屋が並ぶそこは、まさしく牢屋だった。


「いわゆる地下牢ってとこか。クアが言ってた隠し通路かな?」

「きっとそうよ。じゃあ無事に城に到着したってわけね」


 その時、その場の全員、ソファリアとザルドも聞き覚えのある声が響いた。


「無事にぃ? そりゃ違うなぁ。これから俺たちが食っちまうんだからよぉ」


 そこにいたのはラガトと、チョウガ族の兵士たちだった。ざっと見ただけでも、数十人は確認できた。


「ちょっと、またあんたらなの!? なんでまたこんな所に…?」

「なんでかなー? 俺たち、実はお互いに引かれ合ってんのかもな。嬉しくねぇけどな、きはははっ!」


 ソファリアは前に進み出るとこれまでに見せたことのない冷たい口調で言い放った。


「久しぶりですね、ラガト。相変わらず、品のかけらもない様子で」

「…ほう、どっかで見たことある奴がいると思ったら、ソファリア族長じゃあねぇか。いや、俺にとっては『元』族長か。これは予想外だぜ」


 ザルドはソファリアの横に出ると、薙刀を構えて言った。


「お前のことは、一族の恥として一日とて忘れたことはない。族長に触れることは私が許さん。今ここで、引導を渡してくれよう」

「テメーも相変わらずだな、ジジィ。こっちこそ、忌々しい過去にけりをつけてやろうと楽しみにしてたんだ。ちょうどいい機会だぜ……お前ら、かかれ!!」


 ラガトのかけ声で、チョウガの兵士たちが一斉に飛びかかった。リョウマとエクスは剣を抜き、アスカはクアを庇って後ろに下がりつつ、後方から小鳥で援護をした。


 ソファリアとザルドは薙刀を振るい、チョウガ族たちに対抗。狭い地下牢で、激しい戦いが始まった。



 リョウマはエクスやアスカの援護もあり、なんとか兵士を退けた。一方のエクスはリョウマの援護をしつつも、身に降りかかる兵士を切り倒しており、高い身体能力を見せつけていた。


 タンガ族の二人は、相手が自分たちと元は同じ一族の存在ということの躊躇いは一切見せず、次々と兵士をなぎ倒していた。


 チョウガの兵士たちは少しずつ数を減らしていたが、後から代わりの兵士がどんどん現れていた。

 このままではらちが明かないと判断したアスカはリョウマの耳元まで近づき、囁いた。


「ウマ兄、あたしらがこいつらを足止めしてる間にラガトの所に」

「…お前は大丈夫なのか?」

「大丈夫…とはいかないかもしれないけど、あいつをどうにかしないとこの状況は乗り切れないと思うの。統率がとれなきゃ、こいつらは大したことないと思うから」

「わかった。お前らのためにもってことだな」


 リョウマは剣を納め、いつでも駆け出せる体勢をとった。エクスは作戦に気づいたのか、兵士たちの気を引かせ、リョウマの前から遠ざけさせた。


「いくわよ。分身をできるだけ増やして、一体一体に攻撃させるつもりで…」

「僕も力になります。気をつけてくださいね…」

「おう。後は任せたぞ」


 クアの能力で増幅されたアスカの分身たちが、一斉に兵士たちへ向かう。ひとつひとつが大鷲ほどの大きさになった分身は、チョウガ族を圧倒した。隙ができた集団の間を縫い、リョウマはラガトの元へ走った。


 その様子を見たソファリアは、ザルドにそっと耳打ちをした。


「…ザルド、ここは任せてよろしいですか?」

「本来ならばお止めすべきところですが、あなたの意思を尊重しましょう。くれぐれもお気をつけてくだされ」

「ありがとう。頼みましたよ」


 ソファリアも、ラガトに向かって駆け出した。

 合流したリョウマはソファリアに、以前から気になっていたことを尋ねた。


「ソファリアさん、ずっと引っかかってたんだけど、なんで俺たちに協力して…」

「お話は後にしましょう。今は奴に集中してください」

「ああ…うん、そうだな」



 牢屋の奥へと逃れたラガトを追い、遂に対峙した二人。ラガトは普段の薄笑いがなくなり、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「はぁ、面倒くせえことになったな。こうなることは聞いてなかったんだが」

「お前…誰かに依頼されてんのか? それで俺たちを狙って…」



「ああそうだよ。俺らの故郷にのこのこやってきた時からな。この城、いや世界のお偉いさんから、テメーらを始末するように頼まれてんのさ。たんまり報酬は貰ってるものでね」



 リョウマはその話を聞き、合点がいった。黒の世界でヴァルが攫われた後、すぐにラガトとチョウガ族が現れたことを。タイミングを見計らって襲撃するよう、皇帝から依頼されていたに違いないと悟った。


「じゃあ最初から、俺たちはあの皇帝に弄ばれてたってわけか…」

「そういうことになるなぁ。まったくめでてぇ奴らだぜ。きはははは…」


 ソファリアはラガトの高笑いを遮り、先刻の冷たい口調で言い放った。


「その不快な口を閉じなさい、ラガト。これ以上この方を蔑むことは許しません。さもなくば、私の怒りを思い知ることになるでしょう」

「ケッ。偉そうにすんじゃねぇよ。だいたいお前は……」


 ラガトは何かを言いかけたが、少し考えた後に薄笑いを浮かべ、口を開いた。


「いや待てよ…そうだ。おい兄ちゃんよ。お前知ってんのか? このタンガの族長様は、元々俺たちの仲間だってよ」

「馬鹿にすんな。もう聞いてる。ずっと昔に、タンガ族とチョウガ族に別れたって。というか、お前こそ元はタンガ族なんだろ」

「そうだな、そりゃ事実だ。ならタンガ族は独自に鍛冶の技術を持ってるってのも知ってるな?」

「知ってるよ。何が言いたい?」


 ラガトはますます邪悪に笑み、背中の大剣を抜いて地面に刺し、続けた。




「じゃあ、この剣を作ったのがそこの族長だってことは知ってんのか? お前の大事な大事なお友達を死なせた、この剣を」




 想定外の言葉を聞いたリョウマは衝撃を受けた。ソファリアは動揺しているらしく、二人から視線を逸らしていた。

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