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敵陣潜入

 タンガ族の住む集落。夜も更けた頃に、鎧を纏った兵士の一団が訪れた。ソファリアと対面した、隊長と思しき男は言う。


「タンガ族の族長、ソファリア殿とお見受けする。我々は幻の世界の者だ。ここに、別世界からの男三人と女二人が来なかっただろうか?」

「遠い所をわざわざご苦労様です。お力に添えず申し訳ありませんが、そのような方々はおりません」

「そうだったか。ならばそれ以上用はない。これにて失礼する」


 しかしソファリアは、兵士を引き止めた。


「…つかぬことをお伺いしますが、何故その方々をお探しに?」

「皇帝陛下のご命令ゆえ。あの方のお考えに疑問を持つことは許されない。我々はただ従うのみ。それだけだ」


 兵士は一礼をすると、今度こそ帰っていった。

 兵士の姿が完全に見えなくなってから、ソファリアは一軒の民家へと向かった。


「皆さん、もう大丈夫です。外に出てください」


 ソファリアが声をかけると、地下へと続く階段からリョウマたち四人が現れた。念には念を入れた方がいいとアスカが提言し、ソファリアが薦めたことだった。


「ありがとう、助かりましたソファリアさん。だけど本当に追手が来るとはな」

「あたしの勘は当たってたわね。あれだけ強引にヴァルを奪っていった人たちだもん、あたしたちのことも放っておくことはないと思った」

「でも、あの時はなぜ見逃してくれたんでしょう? あそこで僕たちを捕まえてもおかしくなかったのでは?」

「あの時はあくまでヴァルを連れ帰ることが目的だったためやもしれん。我々の始末は後でもできるからな。或いは、油断させておいてから一網打尽にするつもりだったのか…」


 全員の話を聞き、リョウマは心に何か違和感のような引っかかるものを感じていた。しかしそれが何かはわからなかった。


「ウマ兄、どうかした?」

「いや、なんでもない。早く行きましょう、ソファリアさん。時間も経ってるし、あいつがどうなってるか気がかりだ」

「わかりました。私も準備はできています。すぐに出発を」


 ソファリアを含めた五人は集落内の、以前も通った空間の裂け目の前に向かった。そこにはかつて案内役を務めた、タンガ族のザルドがいた。両手に一本ずつ、薙刀のような得物を持っている。


「皆、準備はいいのだな。今回も私が同行する。族長もお前たちも力の限り護る所存だ。よろしく頼む」

「ああ、またお世話になりますよ」

「こちらこそよろしく、ザルドさん」

「以前に会った時から変わりないようだな、ザルド殿。その武勇、頼りにしている。よろしく頼むぞ」


 ザルドとは初対面であるクアはぺこりと頭だけ下げた。ソファリアは申し訳なさそうに付け加える。


「本来であれば、他にも護衛を連れていくところですが、此度は隠密行動が第一ですので、できるだけ少人数で向かおうと考えています。ご了承ください」

「それがいいと思います。こっちも戦いは避けたいんで」

「承知しました。…では参りましょう」


 ザルドとソファリアを加え、六人となった一行は、空間の裂け目をくぐった。


 リョウマとアスカは前にも経験した、不思議な空間を歩く六人。終始無言のまま、時間だけが過ぎていった。

 しばらく歩いた後、出口と思われる裂け目が見えた。ザルドはその前で全員に声をかける。


「もうすぐ出口だ。まず私が出て、周囲の安全を確かめる。少し待っていてくれ」

「わかった。気をつけてくれよ」


 それからザルドは薙刀を一本、ソファリアに手渡した。


「族長もこちらを。万が一の時にはご自身で御身を護ってくだされ。無論、私が全力でお護りするのですが」

「わかっております。信じていますよ、ザルド」


 ザルドは頷き、最初に裂け目から身を乗り出した。間もなく、裂け目から顔だけを覗かせて言った。


「問題ない。今のうちに外へ」


 リョウマたちは素早く、静かに裂け目をくぐった。


 そこは、リョウマとアスカにとっては三度目の、クアにとっては数日ぶりの、エクスにとってはとてつもなく懐かしい風景が広がっていた。


「間違いなく幻の世界、ファンタティナね。本当なら、昼間の明るい時に来たかったけど」

「それな。ここ、綺麗なところだったんだけど。今じゃ心なしか淀んで見えるような気がする」


 エクスは深呼吸をひとつすると、腕組みをして顔をしかめた。


「うむ、紛れもなく我が故郷の空気だ。だが確かにどこかおかしい。匂いというべきか、または何か別の違和感か…」

「違和感…ですか?」

「そんな気がするだけだ。心配するな、クア。構わず行こう。まずこの場所はと…」


 一行が出た場所は、木々が生い茂る森の中だった。しかし、以前リョウマたちが来た時とは違う森のようだった。


「ここは城の裏の森だな。まだ私がここに住んでいた時に来たことがあるので間違いない。この道を道なりに進んで行けば城に着く。では慎重に行こうか」


 六人はなるべく音を立てないように、周囲に気を配りながら歩き始めた。



 しばらく進んだ後、近くに人の気配を感じたエクスは、全員を茂みに隠れさせた。反応が早かったため、気づかれずに済んだようだった。


 気配の正体は城の兵士二人で、近くにお尋ね者がいることも知らず、会話を始めた。


「にしても、こんなところまで見張りさせるなんてなぁ。もう城の周囲は取り囲んでるんだし、意味ないと思うが」

「言葉に気をつけろよ。もし陛下や大臣様の耳に入ったらマズいだろ」

「おっといけねえ。そうだな。あの方のお考えに逆らうなんてできないよな」

「世界の平和と秩序の維持のため、ご自身の大切なものをも犠牲とする。昔からそうして平穏な日々を守ってこられたのだ。本当に偉大なお方だよ…」

「全くだ。そんなお方に仕えることができて良かったよな。誇りに思うぜ」


 兵士たちはその場を離れた。話し声が聞こえなくなってから、リョウマはできるだけ抑えて声を出した。


「ふぅ、見つかるかと思ってヒヤヒヤした」

「息が詰まりそうだったわ。それにしても、あの人たち全然疑問に思ってなかったみたいね。いくら平和のためだとしても、家族まで犠牲にして…。しかもそれが良いことだって思ってるみたいで……」


 ソファリアも、心を痛めていた。皇帝のやり方には疑問を持っているようだった。


「私も一族の平和を常日頃から願っていますので、その点は理解できます。しかしその代償に失うものが出ることは、本来であれば忌むべきことなのです。もちろん、やむなく犠牲が出てしまうこともありましょう。ですがそれならば、失うものに対して哀悼の意を示すことが普通であるはずなのですが…」

「やっぱり色々とおかしいわね。早くヴァルを見つけて、それから皇帝陛下に問いただしましょう」


 六人は更に前へと進み、やがて目的地の城が見えてきた。

 しかし、全員の足が止まった。先刻の兵士の話の通り、城の周囲は完全に見張りで固められていたのだった。見える範囲だけでも、ざっと百人はいた。


「参ったな…。本当に取り囲まれてるぞ」

「こうなれば戦うことも仕方ないか…。だがあの数だ。すぐに応援を呼ばれるだろう。誰かが囮になったしても、ヴァルの元までたどり着けるかどうか…」


 一行が考えあぐねている中、リョウマは左腕に熱を感じた。見ると、ミーアの魂の込められた石が熱を発し、光っている。更に、今までにない感覚をリョウマは覚えた。


「ウマ兄、どうしたの? もしかして、ミーアが何か?」

「あ、ああ。何かわからないけど、こっちに来いって言ってる気がするんだ」


 ミーアの導きにより、城から離れていくリョウマ。ザルドはわけもわからない様子で言った。


「城と反対方向ではないか。本当にこちらでいいのか?」

「皆さんを信じましょうザルド。私はあのお二人の絆を信じています」

「はぁ、左様ですか」


 その後リョウマが足を止めたのは、古い井戸の前だった。もう何年も使われていないほど朽ち果てていたが、水が枯れていたことにより、穴の底は見えていた。


「井戸だ。縄もあるし、もしかして下に降りられるんじゃないか?」

「そういえば、僕が前にミーアさんとお話した時、この森を探検するとおっしゃってました。その時に見つけたのかもしれません」

「井戸か。確かに隠し通路になっている可能性は高い。ここまで来たら悩んでいる暇はない。これに賭けてみよう」


 意を決した六人は、一人ずつ縄を使い、井戸の中へと入っていった。

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