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黒の世界の騒動

 最後の目的地である黒の世界『ダクトリア』を目指す一行。今まさにダクトリアの町に到着したところだったが、全員が疲労困憊の状態だった。


「はぁ…やっと着いたか。長かったな…」

「ええ…。ここに来るまでどんだけ歩いて来たかしらね」


 疲労の理由はたどり着くまでの道のりであった。いくつもの異世界を経由し、ようやく到着したのである。


「数えただけで五つほどですね。情熱の世界から海の世界、森林の世界、大地の世界、占いの世界に夢の世界、それからここ、黒の世界…。確かに長い道のりでした。でも、ここで最後ですから、もうひと頑張りですよ」

「そうね。さっさと済ませて終わらせましょうよ。ボクちゃん、ここでは何を探せばいいの?」

「はい、最後の品物は……。えーと、これは?」


 クアはメモを読んだが、途中で首を傾げた。


「んもう、どうしたのよ。読めない字でもあるの?」

「いえ、そういうわけでは。ただ、これはどういう意味なのかなって…」


 クアはアスカにメモを見せた。アスカも同じく、読み進めるうちに首を傾げてしまった。


「目的物は…『真実』? 本当にどういうこと? すごくざっくりというか、漠然としてるけど」

「何かの例えとかか? それとも『真実』っていう物がこの世界にあるとか…。ヴァルとグロリアは何か心当たりないのか?」

「知らない。薬の材料でも聞いたことないし」

「私にも心当たりはないです…。でもこの世界の方に聞けば何かわかるかもしれません」


 一行が現在いる場所は、至って普通の家々が並ぶ、何の変哲もない町だった。生活をする人々も特に変わりはなく、中には動物の耳や尻尾を生やした獣混人も見受けられた。


「ここは色々な種族が共存してるのね。差別みたいなのはなさそうで良かった」

「ええ。私も、これを気にせずにいられそうです」


 ヴァルは前髪をかき分け、額の角を露わにした。

 それから一行は、近くの町人に探し物をしている旨を伝えた。町人からは何も情報は得られなかったが、長老であれば何か知っているかもしれないと、その屋敷の場所を教えられた。リョウマたちはそこへ向かう。


 到着した屋敷はひときわ目立つ建物で、大きな門が庭の入口に設置されていた。外から見ただけでも、相当な広さということが窺えた。

 門の前には番をする人間が二人おり、リョウマたちは話しかけた。


「すみません、こちらがこの町の長老さんのお屋敷ですよね? ちょっとお伺いしたいことがありまして」

「長老様に? 一体何を聞きたいと申す?」

「それはえーと、探しているものがあって…」


 探し物が『真実』という、自分たちでもよくわかっていない物だと考えながら話すリョウマは、はっきりしない口調になった。それが相手に不審感を与えてしまったようだ。


「何やら話せない様子だが? それにその剣と鞭は何だ?」

「これは護身用というか。あ、あなた方に危害を加えるつもりは全くないですよ」


 腰の剣を後ろに隠し、リョウマは慌てて言った。グロリアはと言うと、鞭を隠そうともしていなかった。


「まぁ見たところ、悪い人間ではなさそうだな。長老様は寛大なお方だ。話を聞いていくとよかろう。だが、その武器は預からせてもらうぞ」


 リョウマとグロリアは門番に剣と鞭を渡すと、案内されるがままに屋敷の中へと足を踏み入れた。


「なんとか入れてもらえたな。それはそうとお前、あんまり敵意を持たれるようなことをするんじゃないよ…」

「初めての場所で警戒を怠らないのは当然でしょ? それに、ちゃんと素直に渡したじゃないの」

「そりゃそうだけど」

「ま、いざとなったらあたしやヴァルがいるし。心配しなくても大丈夫よ。長老さんも悪い人じゃなさそうだし」


 話しているうちに、一行は大部屋の前に到着する。


「こちらが長老様のお部屋だ。くれぐれも粗相のないように」


 長老は胡座をかいたまま眠っていた。五人が長老の前に出ると、門番は長老の耳元で囁いた。客人が来たことを知らせているのであろう、長老は目を開け、リョウマたちを見た。


「旅の方々か。何か御用かな。このコスタに話せることならば、教えてしんぜよう」


 コスタと名乗った男は、長い髭を顎に蓄え、顔にたくさんの皺を刻んだ老人だった。しかし耳はなく、代わりに魚のような(ひれ)が付いていた。音が聞こえているのか疑問だが、耳に代わる器官がどこかにあるのだと思われた。


「長老様…コスタ様ですね。私たちはとある物を探して旅をしているのですが…」


 ヴァルは一歩進み出て本題を切り出したが、コスタはそれを遮った。


「その額の角…、まさかお前は…」

「はい、これは本物の角です。珍しいかもしれませんが私は一角獣の獣混人でして…」



「出ていけ…」



 その言葉が終わらないうちに、コスタは言い放つ。ほんの数秒前とは別人のような口調だった。


「…え?」

「出ていけと言うておる! 一角獣混じりなんぞに話すことなど何もない!! 早うわしの目の前から失せよ!! …ぐっ、ごほっ」

「長老様! お身体が…」

「構うな。 それよりもそやつらを…」


 ヴァルたちと同じく、当初は困惑していた家族や使用人たちだったが、主に言われた通りに五人を部屋から追い出し始めた。


「ちょ、待ってくれ! どういうわけで…」

「我々にもわからないが、長老様の命令だ。悪く思わないでくれ…」


 抵抗虚しく、五人はあっという間に屋敷から追い出されてしまった。


「ちょっとぉ、何なのよあのジジイ! いきなり出ていけだなんて!」


 埃を払いながら怒り心頭で吐き捨てるグロリア。全員が状況を飲み込めていなかった。


「一体どうしたのかしら…? 突然だったわよね」

「ぼ、僕、また何か失礼なことをしたでしょうか…?」

「そんなことはないと思いますが…。でも、明らかに私の角を見て怒っていました…」


 ヴァルは自らの角に触れながら、屋敷を見上げた。動揺が隠せないのか、僅かに身体を震わせていた。


「…まあ、もう一度中に入るのは難しそうだし、ここで考えてても仕方ないし。どこかで一息つかないか」

「それどころじゃないとは思うけど、今はそれしかないか。これからどうするか、作戦を練りましょ」



 五人はそれから、屋敷から離れた宿屋まで行き、テーブルを囲んで食事をしながら話し合っていた。


「それにしても、『真実』ってのは一体何なんだろな。未だにわからん」

「読み方が違うっていう可能性もあるわね。例えば『真実(まことのみ)』って読むとか…。そういうのはないの、グロリア?」

「聞いたことないわね。第一、そんなのがあったら先に言ってるわよ」


 話し合うリョウマたちをよそに、クアは黙々と食事をしていた。だが、宿屋の入口に目を移すと、そこに釘付けになった。


「クアさん、どうかしましたか?」

「あの人…、さっきの」


 クアの指す方向には、先刻の屋敷の使用人がいた。手にはリョウマの剣と、グロリアの鞭を持っていた。

 門番はリョウマたちに気づくと、五人のいるテーブルに近づいてきた。


「今さら何? こっちはすっごく不快なんだけど」

「先ほどは失礼をいたしました。まず、これを返し忘れていましたので」


 そう言いつつも、使用人は武器を返却せず、後を続けた。


「ですが、お返しするのは後になります。あなた方に、コスタ様はもう一度お会いしたがっていらっしゃいます」

「はぁ? どういう風の吹き回しよ。あんなことされて、行くとでも思ってんの?」

「グロリア、まずは話しを聞きましょうよ。長老様は何とおっしゃっているのですか?」


 早るグロリアを諌め、アスカは使用人に尋ねる。


「私どもは何も。しかし、先ほどのように怒られてはいません。ただあなた方の話を聞きたいとだけ、伺っております」


 リョウマたちは顔を見合わせた。使用人は一言だけ伝え、屋敷へと去っていった。


「本日はもう遅いですし、明日の朝まで待ちます。どうかお休みになられて、屋敷へとおいでください。こちらにもあまり時間はありませんゆえ、何とぞ…」




 翌朝、リョウマたちは屋敷の前にいた。一晩考えた結果、長老の話を聞くことにしたのだった。


「結局来ちゃったわね。アタシは今の今でも反対なんだけど」

「決まったことには文句言わないの。それに、あなたとウマ兄の武器、返してもらわないとでしょ?」

「アタシは別に思い入れないしいいんだけど。いいわよ、アタシだけ一人待つのもやだし、付き合うわよ」

「それでは、入りますよ…」


 五人は再び、屋敷へと足を踏み入れた。

 庭を過ぎ、玄関まで行くと、宿屋に来た使用人に出会った。


「皆様、お越しいただき感謝いたします。私の後に続いてください」


 使用人に続き、長老の部屋へともう一度案内される一行。二度目に相見えたコスタ長老は、最初に会った時の落ち着きを取り戻していた。


「旅の方々、先日は失礼しましたな。それなのにわざわざ来ていただき、申し訳ない」

「いえ、元々は自分たちがお尋ねしたんですから。お気になさらず」


 グロリアは小さくふんと鼻を鳴らし、相変わらず不機嫌な態度を崩さなかったが、リョウマは気にせず進めた。


「かたじけない。して、お尋ねしたいこととは何か?」

「はい、それが…。この世界で『真実』を探しているのですが…。お分かりになりますかね?」


 コスタは少し考えたが、やがて全てを悟ったかのように答えた。


「そう…真実か。やはりその時が来たと考えるべきなのだろうな。…そちらの、一角獣の方」

「は、はい?」


 ヴァルはドキリとした。また騒動の火種になることを恐れ、ここに来るまで一言も発していなかった。


「一角獣の獣混人というのはそうそういるものではない。もしや、幻の世界ファンタティナの皇族ではないか?」

「はい。その通りです」

「やはりな。では今こそ話そう。わしの過去、ファンタティナの皇帝に、一介の兵士として使えていた時のことを」


 ヴァルは驚き、目を見開いた。

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