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ミーアの故郷で

 フロズルドを後にしたリョウマたちが次に訪れたのは、熱気が辺りを覆い、遠くに火山が見える世界。ここにはリョウマとヴァルだけが、一度来たことがあった。


「ルケノリア、到着しましたね」

「ああ。そうだな…」


 アスカとクア、そしてグロリアは見たことのない風景と、感じたことのない暑さに興味をかられ、辺りを見回していた。


「ここが情熱の世界ルケノリアなのね。名前の通りの暑さね…」

「本当に暑くてかなわないわ…。早く次行きたいんだけど。こんなトコにいたらアタシ、干からびちゃう」

「あの、グロリアさん、暑いのはわかりますが、目的の物はちゃんと探さないと。ええと…」


 クアはメモを取り出し、目的物を読み上げた。


「ここでは、『マグマ鉱石』という物を取ってくることになっているようですね」

「マグマ鉱石ねぇ。どんな物なのかしら? ここでは、誰か知り合いはいないの? …そういえば、ここはミーアの…」


 アスカは思い出したように言い、そして兄の顔を恐る恐るうかがった。


「そうだ。ここはミーアの故郷だ。あいつと出会ってから一度も来てなかったし、今となってはできれば来たくなかったんだけど、いい機会だよ。挨拶がてら、あの人の所に行こう。何か教えてもらえるかもしれない」


 腕の宝石を見ながら話すリョウマ。ヴァルも彼に賛同した。


「はい。あの方にですね。場所はだいたい覚えています。行きましょう」


 何が何やらわからない様子のアスカたちをよそに、リョウマとヴァルは歩き出した。




 一行がやってきたのはとある村の酒場の前。リョウマとミーアの出会いの場でもあった。

 中へ入ると、以前は人が溢れていたが今ではまばらな客しかおらず、寂しい空気が漂っていた。


「らっしゃい」


 店内に入ったリョウマたちに、店主が声をかける。飲みに来たわけではなく、気づいていないと思ったリョウマは軽く挨拶をし、確認をした。


「どうも、久しぶり。俺のこと、覚えてる?」


 店主はリョウマとヴァルの顔を見て少し考えた後、口を開いた。


「あぁ、あん時の兄ちゃん姉ちゃんか。思い出したよ。ミーアが嬉しそうにあんたらのこと話してたからな」

「それなら良い。覚えててくれたなら話が早いから…」

「で、何の用だい? 当のミーアはいないようだけど」


 可能ならば避けたかった話題を振られ、リョウマは胃が落ち込むような感覚を覚えたが、覚悟を決めると腕の宝石を見せ、言った。


「あいつはここだよ。旅の途中で、危険な目に遭ってさ。俺たちを助けるために…命を…」

「そうか。なるほどな」


 全てを察したかのように言った店主とリョウマの間にヴァルは割り込み、懇願する。


「あの、店主さん。あまり責めないであげてください。私の力が足らないばかりにミーアさんは…」

「誰も責めるつもりはないさ。あいつも、いつ死んでもいい覚悟でやってたんだからな。トレジャーハンターってやつを」


 店主の答えに、リョウマもヴァルも驚いた。店主は更に続ける。


「ミーアは孤児でな。ある時俺が拾って、育てたんだ。だから親代わりみたいなモンだけど、血は繋がってねぇからな。あいつが好き勝手にお宝お宝って危険な真似しても、気にはしてなかったが、ついにそん時が来たってわけか…」


 店主の話を聞くと、リョウマとヴァルにはより一層申し訳ない気持ちが沸いて来ていた。だが構わずに店主は尋ねた。


「それで、用ってのは何だ? ミーアの報告だけなら、もう済んだだろ」

「すみません。あたしたち、『マグマ鉱石』っていうのを探してるんですが」


 二人を気遣ってか、アスカが店主に尋ねた。


「マグマ鉱石なら、あの火山にあるはずだ。でも、今行っても取れるかねぇ」

「ありがとう。じゃ、行ってみるわ。ほら、みんな行きましょ」


 怪訝な表情を浮かべる店主を置いて、アスカは強引に全員を引き連れ、酒場を後にした。




 火山への道中、会話もなくただ歩いていると、リョウマはおもむろに口を開いた。


「…ありがとな、アスカ。無理矢理にでも話を進めてくれて」

「別に。あの店の中の空気に耐えられなかっただけよ」

「それでもいい。とにかく助かった。やっぱりミーアのこともそうだけど、あの店の様子を見たら、罪悪感はあるからな」

「お客様、かなり減ってしまってましたね。ミーアさんがいなくなってからなのでしょうか…?」

「多分そうだろう。あいつ、すごい人気だったみたいだからな」


 グロリアは話についていけないことが気に入らないのか、もしくは気候が身体に合わないためなのか、イラついた口調で会話に割り込んだ。


「お話し中に申し訳ないけどさ、早く目的を達成しませんこと? アタシもうヘトヘトなのよ」

「…グロリア。大変なのはみんなそうなのよ。八つ当たりは止めてもらえる?」


 グロリアは何か言い返そうとしたが、そっぽを向いてしまった。珍しくアスカと険悪な雰囲気になったが、それでも仲間から離別することはなかった。



 不穏な空気になってから少し歩いた後、一行はエンの火山に到着する。そこは、以前リョウマとヴァル、ミーアが来た時とほとんど変わらない外観だったが、唯一大きな変化をしている箇所があった。


「あれ、この辺りに入口があったんじゃなかったっけ…?」


 斜面を登り、ミーアが案内をした場所を念入りに調べるリョウマとヴァルだが、ゴツゴツとした岩肌があるばかりで、入口らしき穴はどこにも見当たらなかった。


「おかしいですね。確かに前はこの辺に…。ん? あれは?」


 ヴァルは眼下に何かを見つけ、坂を下って確認をしに行く。リョウマたちも彼女の元に集まると、そこにあったのはひとつの立て札だった。


「看板か。でも前にもあった普通のやつだな」

「いえ。書いてある文言が違うようです。ちょっとお待ちください……」


 ヴァルは立て札に手をかざし、念じ始めた。たちまち、この世界の文字はリョウマたちの世界の文字に変わり、読めるようになった。


「ええとなになに…。『ここはエンの火山。先日の噴火の影響で、落石と噴煙が発生。危険により、何人たりとも立ち入りを禁ずる』っておいおい。まさか入口がないのは…」

「落石で塞がれた、と考えるのが自然な流れね。でも先日っていつかしら。タイミング悪かったわね…」

「だけど、どうしましょう…。壁を掘れば、中に入れますか?」

「それは止めときなよ、ボクちゃん。そんなことして岩が崩れてきたらどうするの? 危険なことはごめんよ、アタシは」


 進むべき道が塞がれ、途方に暮れる五人。その時、リョウマは腕に熱い感覚を覚えた。そして何かに導かれるように、リョウマは火山とは反対方向に歩き出した。


「ちょっと、ウマ兄どこ行くの?」

「いや、多分ミーアが…。こっちに来いって言ってる気がしてさ」


 リョウマは腕輪を肩の位置まで掲げ、どんどん先へと進んでいく。残りの四人も、後に続いた。


 リョウマが足を止めたのは、ひときわ大きい木の前だった。その根本には、荒く切り取られたような小さな木の板が刺さっており、そこだけ地面が盛り上がっているように感じられた。


「何だろこの板。何か書いてあるぞ。ヴァル、もう一度頼めるか?」

「はい。読めるようにしますね」


 再びヴァルの魔法で板の文字を変化させると、こう書いてあった。


『お宝。はじめての』


 それがミーアのものだと直感で理解したリョウマは、盛り上がった土を掘り始めた。すると中から、赤く光を放つ鉱石が二つ姿を現した。


「これ…目的のマグマ鉱石じゃない?」

「きっとそうだ。ミーアが昔手に入れたのを、とっておいてくれたんだ。良かった…。もうどうしようもないかと思ったぜ」

「ミーアさんに感謝しませんと。あの人には助けていただいてばかりですね」


 リョウマは鉱石が埋まっていた場所を見ると、荷物の中から何かを取り出した。それは、ミーアが生前に愛用していたボウガンだった。


「リョウマさん、それは…」

「ああ、ミーアのだよ。ずっと持ってたんだ。でも、ここにこうしておくのがいいかと思ってさ」


 リョウマはミーアのボウガンを穴の中に置くと、上から土をかけ、さらに木の板をその上に刺した。


「それ、ミーアのお墓のつもり?」

「そうだ。ないよりはあった方がいいだろ? あいつはいつも側にいると思うけど、これを作っておけばいつでもこの世界に戻ってこれるって、そんな気がするんだ。さて、一応やっておくか」


 簡単な墓を作り終えたリョウマは合掌して祈りを込めた。


「ありがとな、ミーア。ヴァルの言う通り、お前には助けられてばっかだよ。これからも俺たちのこと、見守ってくれよ」


 リョウマが祈りを終えると、アスカとヴァル、そしてグロリアとクアも同じようにした。


「アタシもやっていい? お兄ちゃん」

「俺は構わないけど、どういう風の吹き回しだ?」

「あの子にはおわびのひとつもできてないって思ったから。それに、生きてたらいいお友達になれたかもしれないし、これでも後悔してんのよっ」

「ぼ、僕も、ミーアさんにはお礼をしたいことがたくさんあったので。ここでありがとうを言いたいです」


 四人は墓の前にしゃがみ、合掌して目を閉じた。


「ミーア、ありがとう。あたしのことも時々でいいから、見守ってね」

「あなたのおかげで、旅も無事に進められそうです。本当にありがとうございます…」

「あの時はごめんなさいね。アスカたちの助けになるから、許してね」

「色々とお世話になりました。ありがとうございます」


 それぞれ伝えたいことを述べた後、全員の耳に、確かに聞こえる声があった。


『こちらこそありがと、ね』


 五人は声の主を探して辺りを見回した。しかし、周りには五人以外の人間は誰もおらず、その声の主と行動を共にしてきたリョウマたちには、聞き間違えるはずもなかった。


「今の、ミーアだよな?」

「そうだわ。間違いない。でも彼女はもう…」

「幻聴…ではありませんよね。皆さん聞いてらっしゃるということは」

「アタシにも聞こえたわ。仲間として認めてもらえたってことかしら」

「僕もです。なんだか、嬉しいですね」


 一行は暗くなり始めた空を見上げる。ミーアへの感謝を改めてすると、村へと戻るのであった。




「らっしゃい…ああ、またあんたらか」


 酒場へ戻ったリョウマたちを、店主は相変わらずぶっきらぼうに迎える。店内は夜になったためか、店主と五人以外は人一人いなくなっていた。


「やぁ。おかげさまで手に入ったよ。これ」


 リョウマは二つの鉱石を見せる。店主はまじまじとそれを見つめた。


「確かにマグマ鉱石だな。しかしよく手に入ったもんだ。もうあそこじゃ掘り尽くしたと思ったが。それに、中にも入れなかったと思うんだが…」


 ひとり呟く店主に、リョウマは手を差し出す。その手には、マグマ鉱石が一つ握られていた。


「何だ?」

「これ、あげるよ。俺たちには一つだけあれば十分だろうし」

「…いいのか? なぜ俺に?」

「これはミーアが初めて手に入れたお宝らしいから。付き合いの長いあんたが持ってた方が、あいつも喜ぶかなって思って、さ」


 店主は少し考えたが、黙って鉱石を受け取った。そして口元を少しだけ緩めて言った。


「ありがたく受け取る。大事にするよ。さぁ、もう用はねぇんだろ。早く行きな。これから、あいつの分までこの店の立て直し、頑張らなきゃならねえからな」



 店主に別れを告げ、村の外まで来ると、リョウマは四人に声をかける。


「よっしゃ、早く次行こうぜ。世界の破滅、救わねえとな!」

「あらら、お兄ちゃんたら、急に元気ね」

「ミーアさんのことがずっと気がかりだったのでしょう。とても仲がよろしかったですから」

「まぁ、こっちの方がウマ兄らしいかもね。クア、次の目的地を教えて」


 クアはメモを取り出し、読み上げた。


「次の目的地は…。黒の世界、ダクトリアという所です。初めて行く場所ですね。…あ、皆さん、ここで最後みたいですよ」

「ようし、それじゃラストスパート、頑張ろう」


 一行は、まだ見ぬ未開の地へと向かった。

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