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大鼠駆除大会

 眼前に広がる青空。その真下には同じように広がる大地と、ヴァルたち五人。分身を空に放ち、意識を集中させるアスカにリョウマは声をかける。


「アスカ、どうだ? 見えたか?」

「ちょっと待ってよ。今探してるところだから…」


 五人が訪れたのは商人の世界『マケトルド』。ここにはアスカのみ一度来たことがあった。そのため、案内を彼女に任せていたのだった。


「お待たせ。見つけたわ。向こうの方角にたくさんの天幕が見える。行きましょう」


 商人たちのギルドを目指して、アスカを先頭に一行は歩き始めた。

 例の如く、秘薬の材料となる材料をこの地で手に入れることになるのだが、今回はそれまでと少し違っていた。


「それにしても、ここで手に入れる物、一体何なんだろ。なぁ、クア?」

「はい、デトワールさんからいただいた占いには、これしか書いてありませんでしたね」


 クアが広げた紙に欠かれていた今回の目的の物は、『獣を退けた証』となっており、その言葉からは全く想像がつかなかった。


「アタシ、占いには疎いけど、プロの占い師でもわかんないことはあるんじゃないの?」


 グロリアはアスカの横で、両手を頭の後ろに回して気だるげに言った。


「かもしれない。ともかく、行くべき場所だけでもわかってるなら、行くしかないと思うの」

「確かに、何かしなくては始まりませんね。でも、何か手がかりでもあればいいのですが」


 心配そうに言ったヴァルに、アスカは自慢気に返す。


「ふふん、心配しないで。手がかりではないけど、あたしに当てがあるの」


 そうしている内に、商業ギルドへと到着。人混みをかいくぐりながら、アスカは先へと進んでいった。




「こんなにたくさんの人の集まり、アタシ初めてだわ…。どうにも落ち着かないわね」


 すれ違う人々を避けたりぶつかったりしながら、グロリアはため息混じりに言った。

 クアも人混みは経験がないのか、戸惑いながら歩いていた。


「クア、大丈夫か? こっちも注意するけど、俺たちから離れないようにな」

「は、はい。気をつけます」


 クアはリョウマの後ろにピッタリと付いた。

 やがて、アスカは目的の場所へと到着した。店の者を探していると、奥から一人の男が顔を出した。


「はいいらっしゃい。何かお探しで…?」


 男はアスカの顔を見ると一瞬何かを思い出すように口をつぐみ、まもなく口を開いた。


「おや、エクスの旦那と一緒にいた方ですね? 確かお名前は…アスカ様で」

「そうよ。その節はどうもありがとう。すごいわね、ちゃんと覚えてるなんて」

「それは商人ですからね。お客様の顔や名前を覚えるのは朝飯前でやすよ」


 やり取りを静観していたリョウマたちを思い出し、アスカは四人に向き直った。


「紹介が遅れたわね。みんな、アキドという商人よ。エクスと一緒に行動してた時にちょっとお世話になったの。アキド、こちらはあたしの兄と友達よ。よろしくね」


 アキドとリョウマたちは互いに会釈をした。その後アキドは五人に、商品を勧めて来るのだった。


「ところで本日は何か? ちょうど新商品が入荷したばかりで。お安くしときますが?」

「ごめんなさい、今日はそんな余裕ないの。ちょっと聞きたいんだけど、この辺りで何か獣が出てくる所、ある? それとも何かの証…とか」

「獣に証でやすか…? 急に言われてもわかんないですね…。いや、待てよ」


 アキドは何か思い出したように言った。


「そういえばこの先の荒野で、大ネズミ退治のイベントが開かれるそうでやすよ。何でも優勝商品や参加賞もあるとか。それじゃないですかね?」

「なるほど、確かに獣に、優勝した証ね…。ありがとう。行ってみるわ。さぁ、向かいましょ」


 アスカが声をかけるが、グロリアは商品である服の陳列棚をじっと見、動かなかった。


「グロリアさん、どうされました?」

「ごめんごめん。ちょっと気になっちゃって。ねぇコレ、後で買いたいと思うんだけど、取っといてもらうことできる?」


 グロリアがアキドに尋ねると、彼は至極嬉しそうに言った。


「ええもちろん。お綺麗なお姉様でやすもん。喜んで!」

「やだぁもう、そんなに褒めてもコレしか買わないわよん」


 同じく嬉しそうにするグロリア。四人はそれぞれ呆れと困惑した気持ちで彼女を見ていた。




 その後、アキドに言われた通りに荒野までやって来た五人。そこには金属でできた網や柵で囲まれた、簡易的な施設ができていた。近くにある看板を見ると、『ビッグリネズミ駆除大会、開催中!! 参加料百ゼル』と書いてあった。


「どうやらこれみたいだな。アキドが言ってたのは」

「そのようですね。それにしても、害獣の駆除さえも大会にするとは、流石は商人の世界と言うべきでしょうか…」

「この造りも、急ごしらえで作ったみたいだものね。とりあえず、参加申し込みをしましょう」


 施設内に入り、受付へと進むと、小柄な男性が出迎えた。


「ようこそいらっしゃいました。イベントにご参加の方々ですね?」

「ええ。お聞きしたいのですがこのイベント、複数人の参加も可能ですか…?」


 アスカは控えめに尋ねたが、男は少しも気分を害する様子なく答えた。


「はい、全く問題ありません。ではチーム制のコースでエントリーさせていただきますね。ではこちら、本大会の注意事項です。大切な部分に印をつけてありますので、よく確認してください。読み終わりましたら、会場の方へどうぞ」


 リョウマは注意事項を受け取ったが、ざっと目を通して畳む。それを見たヴァルは戸惑った。


「よし、行くか」

「え? あ、あのリョウマさん?」

「どうした?」

「いえ、その、失礼ながらちゃんと読まれないのかなー、と思ったもので…」


 リョウマとアスカは顔を見合わせた。再び注意事項を開き、目を通す。しかし特に気になる点はなかった。


「ヴァル、特にないぞ。気にしすぎじゃないか?」

「こういうのはみんなしっかり読まないものよ。だいたい、何かあっても責任は負いませんよー、とかそんなのだから…」


 アスカは自身の言葉にハッと気づき、みたび目を通した。確かに受付が言った通り、薄くだが印があった。そこにはこう書かれている。


「『…鼠退治に使う武器、道具については規定のない物とする。有料になるがレンタルも受付している………回復・治療に関しては薬を用意している(有料)が、数に限りがあるため基本的に自己負担を推奨する。万が一、死亡するようなことがあった場合、私どもは一切責任を負わないものとする。その際、金の払い戻しなどは受け付けない…』ですって。もう、どんだけ搾取するつもりなのよ」

「死亡ってそんなに危険なのかよ…。まぁ、俺たちの世界の常識なんて通じないか」


 一気に気が重くなったリョウマだが、グロリアはいたって呑気だった。自作の薬の入った瓶を取り出して言う。


「大丈夫じゃない? 回復担当はヴァルと、アタシがいるし。二班に分かれて、鼠ちゃんを退治して怪我したら、アタシらでちゃちゃっと治してあげれば」

「あんた…自分は戦わないつもりかよ。いい気なもんだ」


 リョウマが呆れ気味に言うと、グロリアは平然と返した。


「そんなことないわよ。アタシはアタシの仕事を果たすだけ。みんなで戦ったら、回復の効率が悪いと思ったから提案したの。どう?」

「まあ一理あるわね。回復担当に倒れられでもしたら、それこそ大変よ。あたしは賛成する」

「では、私もそのようにします。クアさんは?」

「僕も皆さんのお手伝い、精一杯頑張ります。自信はありませんが…」

「仕方ないな。俺はどっちみち戦う側だし、治療の方は任せたぞ」


 グロリアの提案に全員が承諾した後、一行は会場へと足を運んだ。




「お集まりの皆さん、これよりビッグリネズミの駆除大会を開催いたします。準備はよろしいでしょうか!?」


 司会者の声が高らかに響き渡る。会場は古代の闘技場を思わせる、円形をしていた。そこにビッグリネズミと呼ばれる、大型犬ほどの大きさの鼠がせわしなく動き回っていた。


「名前からなんとなく予想してたけど、あんなにデカい鼠か…。本当に事前情報が少ないし怪しいな、ここの運営」


 ため息をつくリョウマ。グロリアとヴァルは、後ろの控えの席に着いていた。


「みんな、頑張ってねぇ。アタシたちのぶ・ん・ま・で」

「危険を感じたら、私たちの所まで戻ってください。くれぐれもご無理のないよう」


 二人の応援を受け、リョウマ、アスカ、クアの三人は身構えた。そして、司会者の号令で大会が始まる。


「それでは、ビッグリネズミ駆除大会、開始!!」

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