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再び、双子の世界にて

「あ、あのグロリアさん、どうか気を悪くなさらず…。あの方も悪気があったのでは…」


 今にも爆発しそうな危険物を取り扱うかの如く、ヴァルはグロリアをなだめる。当の本人は、つんとそっぽを向いたまま歩いていた。


「べ・つ・に、気を悪くしたわけじゃないわよ。ただ、少し不愉快なだけ」

「それが気を悪くしてるって言うんだよ…。はぁ、本当に連れてきて正解だったのか。なぁ?」


 困り顔のリョウマは、アスカの顔をちらと見る。彼女自身も、腕組みをして顔を逸らしていた。

 この状況に至った理由は、少し前まで遡る。





 グロリアの故郷を後にし、一行は双子の世界へと再び足を踏み入れていた。ここはグロリアを除く、四人が一度来たことのある場所だった。


「さて到着か。クア、ここでは何を手に入れればいい?」

「はい、こちらでは…。『片割れの石』を取ってくるようにとのことですね」

「片割れの石、ねぇ。一体どこに行けば手に入るのかしら」


 全員が黙りこくってしまい、答えが出ないところに、グロリアが口を出した。


「アンタたち、前にここに来た時はどこに行ったのよ?」

「それはエクス…ヴァルの兄さんな。その人の案内で街に行ったな。そこから分身の洞窟ってとこに行って…」


 リョウマはそこであまりいい思い出がなかったことを思い出し、その後が言えなかった。


「だったら今回もそうすればいいんじゃない。探す物も分かってるんだし、聞いた方が早いわよ」

「確かにごもっともね。街の場所はだいたい分かってるし、行ってみましょう」


 一行は、以前の記憶を頼りに街を目指して歩き始めた。


 しばらく歩いた後、目的の街『メリソス』に到着した。中に入ると、以前と全く変わった様子がなく、同じ顔が何組も生活をしていた。


「なーるほどねぇ。ここに来たのは初めてだけど、本当に双子ばっかりなのね」


 グロリアは物珍しげに辺りを見回す。アスカは経験者であることを誇りに思うのか、やや得意気に話した。


「時間があれば、色々案内するわよ。面白い物、たくさんあるんだから」

「ありがとね。でも、目的達成が一番でしょ。例の物、早く探さないと」

「そうだったわね。とりあえず、誰かに話を聞きま…」


 とその時、一組の双子が近づいて来た。以前来た時にも進んで案内を買って出た双子だと、リョウマはすぐに気づいた。


「「旅の方々ですね。我々はここの案内人です。よろしければ、街の各所を案内します」」


 今回も見事に揃った口調で話す双子に、リョウマは尋ねる。


「ああすいません、ちょっとお尋ねしたいんですが。『片割れ石』って知ってますか?」

「片割れ…」

「石…でございますか」


 双子は口調が揃わなかったが、今度は見事な連携で言葉を続けた。その様子から、石のことは何も知らないようだった。


「ご存知ない、ですか」

「ええ、申し訳ありません。お力になれず。しかし…」

「この街には、この辺り一帯の歴史に詳しい者がいるのです。そちらへご案内いたしますか?」

「本当ですか? じゃあお願いしたいです」

「「承知しました。では我々の後をついてきてください」」


 再び口調を合わせた双子の案内人の後に、五人は続いた。


 案内されてやって来たのは、一件の民家だった。周囲の家々とは変わりのない、至って普通の建物だった。


「こちらに住むデュオという男は、古くからこの街に暮らしている男性です」

「もしかしたらですが、お探しの石について何か存じているかもしれません。確証はありませんが」

「いや、案内していただけただけでありがたいです。後は自分たちで聞いてみます。さぁ、行こうぜ」


 リョウマは双子の案内人に感謝を伝えると二人は一礼をし、街のどこかへと姿を消した。

 家の扉を叩くと、しばらく経ってから杖をついた老人が中から出てきた。褐色の肌で顎髭を生やし、大きな帽子を目深に被った男だった。


「何かご用かな。…この辺りじゃ見かけない顔だが」


 案内人の言ったデュオと思われる男は、五人を舐めるように見た。


「あの、デュオさんでしょうか。少しお伺いしたいことがありまして、参りました」

「いかにもわしがデュオだが。しかしあんたらに教えられることなぞ、あるとは思えんがなぁ」


 髭を撫でながら、デュオは言った。ヴァルは探している片割れ石について尋ねた。


「ふむ、片割れ石か。それならば知っておらんこともない」

「本当ですか? どんなことでも構いません。どうかお教え願いたいです」


 興奮して迫るヴァルに、デュオはやや戸惑いを見せた。ヴァルは我に返ると、体勢を整えて律儀に謝罪をする。


「あ、ごめんなさい。つい興奮してしまいまして…」

「いや構わんよ。だが、その石を取ってくるのは簡単ではないぞ。多少の危険を伴う。それでもよろしいか?」

「きっと大丈夫ですよ。俺たち、結構な修羅場を乗り越えて来てるんで」


 デュオはリョウマの持つ剣や、グロリアの持つ鞭などに目を移した。少し考えると、答えを出した。


「いいでしょう。わしもその石の取れる場所まで同行します。詳しい事はそこでお話しよう」

「ありがとうございます。ご案内、よろしくお願いします」

「うむ。ではさっそく行こうか。こちらも早く済ませたいのでな…。そちらの、お嬢さん」


 よろよろと杖を付きながら一歩進んだデュオ。グロリアは呼ばれたものと思い、真っ先に歩み寄った。


「はーい、アタシね。何するの?」


 だがしかし、デュオの回答はというと。


「いえ、そちらの()()()()()()です。ちょっと手を貸してくださらんか。少しばかり足が悪いもので。ここの段差さえ降りられればいいので」


 アスカとヴァルは顔を見合わせると、グロリアの脇を通り、デュオの身体を支え、小さな段差を降りさせた。グロリアは石のようにしばらくの間固まっていた。


「では行きましょうか。お探しの片割れ石は、この街を出た先の『映し身の洞窟』にあります」





 映し身の洞窟へ向かう道中、グロリアの機嫌が良くなることはなかった。


「全くもう、失礼しちゃうわ。子供がいるとはいえ、まだ若いんだからアタシ。そういえば、あのミーアって娘にもおばさん呼ばわりされたことあったわね…。周りからどう見られてるのかしら」


 ぶつぶつと愚痴や独り言を呟くグロリア。全員が話しかけづらく、無言でデュオの後ろを歩いていた。

 そんな中、不意にクアがアスカに声をかけた。


「あの、アスカさん。ちょっと気になったのですが」

「何かしら、クア」

「ここは双子の世界で、住んでいる人はみんな双子なんですよね?」

「ええそうよ。人だけじゃなく、動物も植物すらも双子で産まれてくるって聞いたわ」

「では、あの方はここの人ではないのでしょうか。お家にも、ご兄弟はいらっしゃらなかったと思うので」


 クアは後ろからデュオを指して言った。声を落とすことなく尋ねたため、本人に聞こえたかもしれない。アスカは慌ててクアに言い聞かせた。


「クア、そういうことは思ってても口に出すのは控えた方がいい。人には触れてほしくないことが多かれ少なかれあるのよ」

「触れてほしくないこと、ですか…?」

「そう。そっとしておくのも時には必要なの。今のグロリアみたいにね」


 デュオの耳には会話が入らなかったようだが、グロリアの耳には届いていたらしい。グロリアは二人に近づくと、眉間にしわを寄せて言った。


「ちょっとぉ、聞こえてるんだけど。アンタたちもアタシのこと年増だと思ってんの?」

「そんなつもりはないわよ。グロリアお…姉さん?」

「今おばさんって言いかけたでしょ? もうっ、アスカまで年寄り扱いして!」

「ごめんなさーい。でもキャラとしてはいいと思うわよ~」


 逃げ回るアスカとそれを追いかけるグロリア。喧嘩ではなく友人、もしくは姉妹のじゃれ合いのようだった。リョウマもヴァルもその様子を見、苦笑いを浮かべていたが、場の空気はいくらか緩和された。

 やがて、一行は洞窟の前にたどり着いた。デュオは五人に向き直ると、出発の時から黙ったままだった口を開いた。


「さて、ここですな。ではこれから石を手に入れるため、二班に分かれます」

「二手に分かれるのですか?」

「左様。石がある洞窟の最深部には、恐ろしい化物がいるのです。そやつらを倒すにも外と中、両方に人が必要なのです」


 デュオは五人に、作戦内容を伝え始めた。


「では話した通りです。あなた方が中に入った後、我々は崖の上に登り、指定の場所で合図を出しますので、そうしたら思い切り天井を貫いてくだされ」


 相談の結果、内部にリョウマ、クア、グロリア。外部にはアスカ、ヴァル、そして指示役としてデュオが付くことになった。


「私の飛行能力で、デュオさんを崖の上までお連れします。皆さん、どうかお気をつけて」

「あたしの分身で、外から内部の様子を確認するわ。合図もあたしが出す。本当に気をつけてね」

「ああ。そしたら俺の剣で天井を破壊するんだな。信用してるから、頼んだぞ」


 それぞれの役割を確認して、リョウマたちは洞窟の中へと足を踏み入れた。

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