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捜索、そして合流

「男の人? 見なかったわねぇ。見つかるといいわね」

「そうですか…。ありがとうございます」


 行方を眩ませたリョウマを探し、道行く人々に聞き込みをするヴァル。気がつくと、広場の外れまで来ていた。

「リョウマさん、一体どこへ…。万が一、早まってしまったら…でもあの人に限ってそんなことは…」

 脳内によぎる最悪の展開を必死に振り払おうとした時、ヴァルの耳に男の話し声が聞こえた。

「なぁ、さっきの男、止めた方が良かったか?」

「杞憂ってこともあるだろ? 気にはなるけどよ」

「だけどなぁ…。何か起こってからじゃ遅いかもだし」

 会話を聞き逃さなかったヴァルは、二人組の男の元へ行き、尋ねた。

「す、すみません。今のお話、詳しく聞かせていただいても…」


 二人の男の話によれば、林を抜けた先にある崖の辺りに、男が一人いたという。ヴァルはそこへ急いだ。微かな希望を抱き、一刻も早くリョウマを見つけるために。

 指定された場所に着くと、話の通り、男が一人、空を見上げていた。後ろから近づくと、気配に気づいた男は振り返り、正体を確かめると口を開いた。

「…ああ、お前か。どうした? 息を切らして…」

 男はリョウマだった。彼の言葉が終わらないうちに、ヴァルはリョウマの胸に飛びついていた。

「ぶわっ、ヴァル何を…! 危な、後ろ、崖…」

 慌てふためくリョウマだが、ヴァルはそんなことを意に介さず、思いの丈をぶつけた。

「もうっ! 心配したんですよ! こんなところにお一人でいたら…勘違いするじゃないですか!」

「…ああそういうことか。悪い、大丈夫だよ。ここから飛び降りなんてしないからさ。ただちょっと、一人になりたかっただけだ」

「…それなら良かったです」

 安心したためか、ヴァルはリョウマから離れると、恥ずかしそうにうつむいた。

「にしても、お前がそんなに感情的になるなんてな。初めて…いやあの時、俺とアスカが喧嘩した時以来か」

「そうですかね。私だって、怒る時くらいありますから」

「そりゃそうだよな。…ちょっと二人で話さないか」

 リョウマは座り込み、自分の隣の地面をポンポンと叩いた。ヴァルはそれに応じ、同じく座り込んだ。


「俺、やっぱりふっ切れてなかったんだ。…あいつが死んだことをさ」

 デトワールから宣告された事実。自分がミーアの運命を変えた、言わば障害という存在だと言われれば、仕方のないことだった。

「まだ、気にしていらしたんですね。ミーアさんのこと」

「ああ。俺自身、もうあいつのこと忘れられたと思ったんだけどな。でも内心はそうじゃないらしい。変だよな。自分の心の中のことなのにわからないって」

 ヴァルは黙っていた。何と言葉をかければいいのか考えていたのだ。リョウマは更に続ける。

「ヴァルにこんなこと言ったって仕方ないけどな。俺の気持ちなんて、わかりゃしないんだから…」

 言葉が口を離れてから、少し嫌味ったらしかったかとリョウマは後悔した。


「はい。わかりません」


 予想していなかった答えを言ったヴァルを、リョウマはまじまじと見つめた。

「ヴァル?」

「私、前から考えていたんです。人の心を理解するのは難しいと。きっとリョウマさんは今、複雑な思いを抱いているでしょう。その全てを理解していると答えるのは、例え嘘でも失礼ではないかと思ったんです。でしたら正直に、お気持ちはわからない、と答えるのが正解かと…」

 そこまで話したヴァルは言葉を切り、申し訳なさそうに続けた。

「すみません、偉そうに…」

「いや、正論だと思う。てか、俺の方こそ嫌味っぽくなってごめん。お前に当たってもどうしようもないのにさ」

「そんな…。そうです、デトワールさんからの伝言があるんでした。リョウマさん、よく聞いてください」


 運命とは空。人の命は木の葉のようなもの。途中に障害があれば、運ばれる命もそこで止まり、地に落ちる。

 リョウマたちはミーアの運命にとって、確かに障害だった。だが、その障害によって風向きは変わり、命は延ばされたとも言える。と。

 これが、デトワールから伝えられた話だった。


「命が、延ばされた…ってな、どういうことだ?」

「はい。リョウマさんを探している時、思い返してみました。あの時、ミーアさんと火山に登りましたね? そこで、二人以上いないと閉じ込められる洞窟に入りました。もしミーアさん一人では、あそこで行き詰まってしまったと思うんです。それに、なんとか切り抜けられたとしても、山頂には怪物、カオスがいました。初めて見る相手に、下手をすれば殺されてしまったかもしれません。つまり私たちがいたことで、ミーアさんの運命は変えられた、という見方もできるのではないかと」

 ヴァルの見解を聞いたリョウマは、脳内を整理すべくしばらく黙っていた。やがて、確認するかのように尋ねた。

「ってことは、ミーアは本当はあそこで死ぬはずだったけど、俺たちのおかげでチョウガ族のところまでは生きられた、ってことかな」

「そういうことです。自分のせいだなんて、思わなくていいんですよ」

 ヴァルはリョウマの不安を取り除こうと懸命だったが、当の本人は上手く飲み込めていない様子だった。

「そうは言われてもなぁ。なかなか受け入れられるもんじゃないからな…」

 そう言いながら、左腕の宝石を見る。

「お前は、どう思ってる? 俺たちと一緒に旅できて、良かったって本気で言えるか?」

 しかし、夢の世界での時のように、宝石から声が聞こえることはなかった。

「はは、ダメか。もう、話しすることはないって夢で言ってたしな。あの時が本当に最後だったのか…」

 諦めかけたリョウマだが、その時確かな声が聞こえた。

「そんなことないよ、リョウマ」

「…ミーア? お前なのか?」

「うん、そうだよ。私、あなたのせいで死んだなんて思ってないから、心配しないでよ、ね?」

 再びミーアと会話が出来たと思ったリョウマは、笑顔が溢れてきた。続けざまに、宝石に語りかける。

「そうか。ありがとう。俺、もう迷わないよ。これからもアスカやヴァルと…」

 リョウマは横を見たが、ヴァルの姿はそこにはなかった。いつの間にか、彼女は自分の背後に回っていた。二人の視線が合った瞬間、リョウマは全てを察した。

「あ、あのあの…」

「…もしかして、さっきまでのミーアの声、お前がやってた…?」

「すすす、すみません! リョウマさんにどうしても元気を出していただきたくて、馬鹿な真似を…」

「そういえばミーアの声、ちょっと変だなって思ったんだ。なるほどそういうことか…」

 ヴァルは酷く怒られると思い、覚悟を決めた。しかし、リョウマは小刻みに身体を震わせると、大声で笑い出したのだった。

「ぶっ、あはははは! まさかお前がそんなことするなんてな!いいねヴァル、面白いことしてくれるじゃん」

「お、怒っていらっしゃらないのですか?」

 予想外のことに戸惑うヴァルをよそに、リョウマは彼女と肩を組んで笑い続けた。

「俺のためにしてくれたんだろ? 怒りゃしないよ。ありがとう。おかげで元気出た」

「はぁ、それなら良かったですが…」

「人の気持ちは難しいなんて言ってたけど、お前なりに理解しようとしてるんだな。いいと思うぜ。そういうの」

「き、恐縮です…」

「よし、じゃあそろそろ広場に戻るか。エクスも占い終わった頃だし、アスカとクアも待たなきゃいけないし…」

 その時、後ろに物音を感じた。二人が振り返ると、木陰から顔を覗かせる人物がいた。

「何やってんのよ。こんなところで二人だけで」

 アスカだった。後ろについてくる、クアの姿も見える。

「アスカ? もう帰ってきたのか」

「そうよ。タイミング悪かったかしら? いい雰囲気だった?」

「そんなんじゃねぇって。ただ思ったより早かったなって思って。それによくここの場所がわかったな」

 アスカたちと別れてから、半日ほどしか経ってはいなかった。アスカはその疑問の答えを用意していたかのように、すぐに答えた。

「ここの場所はあたしの分身を飛ばして、位置を探ったのよ。世界間を移動できるからね。修行の方は、あたしも想定外だったんだけど」

「修行は無事、受けられたのですか、クアさん?」

「はい。あっという間に終わりました」

「そうなの。あたしの時は二日もかかったのに、この子は半日で終わらせたのよ。思った通り、精神が鍛えられてるんだと思ったわ」

 アスカはクアの頭に手を乗せ、誇らしげに言った。弟を自慢する姉のようだった。

「へぇすごいな。で、どんな能力が身に付いたんだ?」

 そこでアスカもクアも、急に口をつぐみ、何か意味ありげに、顔を見合せた。

「どうした?」

「それがね…。修行は無事終わって、力も身に付いたはずなんだけど、何も出なかったのよ」

「何も出なかった…?」

「うん。あたしみたいに、自分の分身を作り出すこともないし、魔法のように火や風を操ることもなかった。あっちの世界の人たちもわからなかったみたいで」

「すみません。僕のためにわざわざ一緒に行っていただいたのに」

 クアは申し訳なさそうに言った。

「いいのよ。元々あたしが言い出したことなんだし。そろそろエクスと合流しましょ。そういえばエクスはどこ?」

「お兄様はあちらの広場です。もう占いも終わっている頃で…」

 その時、人の悲鳴が聞こえた。ちょうど、広場の方角だった。

「今の、人の声よね?何かあったのかしら…?どのみち、エクスもいる。行きましょう」

 四人は、広場へと向かった。

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