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占い師を探して

 アスカ、クアとしばし別れ、エクスと行動を共にすることになったリョウマとヴァル。人気を避けて次元の穴を見つけてはくぐり、一行が到着したのは『占術の世界』と呼ばれる場所だった。どこかの森の中にたどり着いたらしい。日は傾き、辺りは夕闇に包まれていた。

「無事、到着かな。ここはまともなトコだといいけどな」

 伸びをしながら、呟くリョウマ。たくさんの住人を相手に、命からがら危機を脱したのはまだほんの少し前のことだった。

「大丈夫ですよ。…おそらくは。ここの人たちの悪い話は聞いたことがありませんから。そうですよね、お兄様?」

 再び会うことができ、一緒に行動ができて嬉しい、と言わんばかりに、ヴァルは兄に尋ねた。

「そうだな。少なくとも、先ほどの住人たちとは違うだろう。だが過信も良くはない。自分の身には十分気をつけるのだぞ」

 三人は、目的の占い師を探して、歩み始めた。

 しばらく進むと、大きく拓けた広場に出た。テントが立ち並び、ひとつひとつ明かりが灯っている。

「ここに占い師が集まるって本当なんだな。だけどどこに行けばいいやら」

 一軒一軒訪ねていけば時間も手間もかかる。狙いを絞って話を聞くことが一番いいというのが、リョウマの考えだった。

「そうですね。一番信頼できる方にお聞きするのがいいと思いますが…。どう致しましょうか」

 ヴァルにも、どの占い師が一番いいのかまではわからなかった。

「私が聞いた話では、デトワールという希代の才を持つ女の占い師がいるという。私はその者を訪ねに行こうと考えていたのだ。特に当てがないのなら、彼女の元に行ってみてはどうか?」

「デトワール…。すごい占い師だっていうなら、頼りにしてもいいかもな。よし、じゃあその人を探そう」

 その時、ひとつのテントから女性が出てきた。赤褐色のフードを被り、いかにも占い師というような風貌だ。

「あの方にお聞きしてみましょうか。私、行ってきます」

「あっ、ちょっと待てヴァル…」

 リョウマの静止が間に合わず、ヴァルは女性に近づくと、単刀直入に尋ねた。

「すみません、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「占いかい…? 申し訳ないが、後にしてもらえないかね…」

「あ、いえ、私たち、デトワールさんという方に占っていただきたく…」

 それを聞いた占い師は顔をしかめた。追い付いたリョウマはヴァルを引き止め、相手に弁明しようとしたが、時既に遅しだった。

「すみません、連れが失礼しました。よければ占っていただいても…」

「あんたら、デトワールさんに用事があるんだろう? だったらあのテントにいるよ。さっさと行ったらどうだい? こんなところで油売ってないでさ! ……全く、こっちだって占い師だってのに…。みんなデトワールデトワールって…」

 女性は明らかに気分を害し、先へと行ってしまった。

「あ、あの、私何か失礼なことを言いました…?」

 流石に異変を感じ取ったヴァルは、リョウマに尋ねる。

「いやぁ…失礼っちゃ失礼だったかもだけど。占い師に聞くもんじゃなかったかな」

 周囲を見渡しながらリョウマは言った。一般の客と思われる人々があちこちにいた。中には何かの獣の耳を生やした獣混人もいる。

「占い師と言えど商いだからな。自らのプライドというようなものはあるだろう。例えるなら、入った飯屋で『もっと美味い飯屋はあるか』と聞くようなものだ」

 エクスも間に入り、自分なりの解説をする。理解したヴァルは顔を赤らめ、申し訳なさそうに言った。

「うぅ…すみません、私、軽率でした。先ほどの方に今から謝ってきます」

「いいよやめとけって。余計気まずくなる。さっきの人だって、ちょっとヒステリックな人っぽいし。それより、言われた通りあのテントに行こう」

 謝罪に行こうとしたヴァルを促し、三人はデトワールがいるテントに向かった。人気の占い師の話は本当なのか、行列が並んでいた。


 行列に並び、もうすぐ自分たちの番になった時、エクスは二人に言った。

「お前たち、先に見てもらうといい。私は私で、聞きたいことがあるのでな。別々にした方がよかろう」

 エクスは二人を先に、自らは一歩後ろに下がった。

「そうか? じゃあお先に。すみません、お邪魔します」

 やっと自分たちの番が回ってきたリョウマたちは、幕をくぐって中に入った。

 デトワールは漆黒のローブとフードを纏い、顔は何故か片目だけを覗かせたベールで覆われていた。ほぼ全身が黒かったが、僅かに見せる肌は白く、ローブの各所にはきらびやかな宝石が散りばめられていた。

「…ようこそ。要件を聞こう。座れ」

 デトワールは冷たい口調をしていた。無駄話を嫌うかのように、二人を席に着かせた。

「…お前たちは、別世界の者か。それに、お前は獣混じりだな?」

 デトワールの指摘に、二人はドキリとした。ヴァルは額の角を前髪で隠していたが、それも見抜かれていた。

「あの…はい。確かにそうですが。何か問題が…」

「よい。見ての通り、ここは様々な人間が集まる場所。占う対象を選んでいては商売にならん。ただ確認したまでのこと。して、何を見てやればいい?」

 デトワールは占いで使うらしい道具を整えながら言い放った。リョウマは戸惑いつつもホッとしていた。

「ではお話します。自分たち、とある物を探して旅をしてるんですが、次に行くべき場所も、探す物もわからなくなってしまったんです。それを占いで教えていただけないかなと…」

 リョウマはデトワールの気に障らないようにと、できるだけ堂々と話した。しかし、デトワールの答えは予想外なものだった。


「それは無理だな。()()


「む、無理…ですか」

 はっきりと否定され、リョウマは絶望的な気持ちに浸った。だが、ヴァルは言葉の一端を聞き逃さなかった。

「今は、とおっしゃいましたね。また時を改めれば、占っていただけるということでしょうか?」

 デトワールは唯一見せている片目をヴァルに向けた。鋭い眼光に、ヴァルは一瞬たじろいだ。

「よく聞いていたな。ここであきらめて帰ってしまうようでは、そこまでの人間だということ。だが、お主はただの人間ではないらしい。否、獣混じりではあるが」

 デトワールは、お前たちを試した、と言わんばかりに言った。

「その者の言う通り、今は見てやることはできん。だがそれは今が闇夜であるがため。明日の朝にでもなれば占うことができよう」

「夜だから…ですか?」

「左様。我が占術は『月の昇る時に過去を』、『日の昇る時に未来を』見ることができると決まっておる。探し物と言えば、未来のことであろう。故に今は見ることができぬ、ということだ」

 デトワールの説明に、リョウマとヴァルは顔を見合せる。二人の様子を見たデトワールは話を続けた。

「しかし、せっかく来たのだ。おまけでお前たちの過去を見てやってもよい。どうする?」

「だったら、こっちを先に見てもらえませんか?記憶喪失なんです。今はずいぶん思い出しているんですが」

 リョウマはヴァルを優先させた。自らの過去が気になる彼女自身も、言葉に甘えて占ってもらうことにした。

「どれ……ふむ、なるほど。お主、なかなかの修羅場をくぐり抜けてきたと見受けられる。…何者かを殺めたこともあるな?」

 神の命を一度は奪ったという事実を、ヴァルたち以外は知らないはずだった。それを言い当てるデトワールの才能は本物だと二人は確信した。

「あの…はい、その通りです…」

「そのように縮こまる必要はない。それぞれ事情があるのだろう。言った通り、ここには様々な人間が来るからな。いちいち過去を詮索していてはきりがない。さて、もう少し遡ってみようか…」

 デトワールは占い道具を使い、更に続けた。

「…うむ…これはどうしたことか。お主の生まれた頃の情景が浮かんで来ぬ。お主、相当長く生きているのか?」

「はい。細かくはわかりませんが、少なくとも百年以上は」

「なるほど。ならば納得がいく。だがそうなるとこれ以上占うことは難しい。申し訳ないな」

「いえ。仕方ありませんよ。では次はリョウマさんを」

 ヴァルは横に退き、リョウマがデトワールの前に座った。デトワールは同じように占いを始めた。

「ふむ…お主は見たこともない場所で生まれたのだな。妹が一人いる、両親は既にいない…か。家出をした妹を探し、異世界の旅を始めた…」

 完璧にリョウマの過去を言い当てるデトワールだが、そこで言葉を切り、沈黙した。


「それから、情熱の世界で一人の女と出会う、その者と共に旅を続けるが、そのため、命を落とす…」


 リョウマはそこで、密かに心残りだったことを尋ねた。

「あの…その女のことなんですが、自分たちと旅をしたことで……死んでしまったっていうことはあるんでしょうか…?」

 デトワールは目を閉じて少し黙ったが、やがて答えを出した。

「そうだな。そうとも言えるだろう、運命というものは、空のようなもの。人の命が木の葉だとすれば、風向きが変われば行く先も変わり、途中に障害があればそこで止まる。言うてみれば、お主はその女にとって障害でもあったということだ」

 重苦しい沈黙が流れた。次に口を開いたのはリョウマとデトワール、ほぼ同時だった。

「だが、しかし…」

「そうですか…。ありがとうございました…」

 リョウマはデトワールの話が終わらないうちに、フラフラとテントを出てしまった。

「あっ、リョウマさん? どちらへ…」

「…まだ話は途中だというのに、あれでは誤解していることだろう。お主、頼みがある。今から私の言うことをあの者に伝えてくれるか」

「はい、わかりました…」

 ヴァルは一刻も早くリョウマの元に行きたいと逸る気持ちを抑え、デトワールの言う頼みを聞いた。


「おおヴァル、もう終わったのか?」

 テントを出たヴァルは、順番待ちをしていたエクスとぶつかりそうになった。

「あっ、すみませんお兄様。リョウマさんはどちらに行かれました?」

「リョウマ殿ならば、向こうに行ったぞ。私に目もくれず、魂が抜けたような様子だったが…。何かあったのか?」

「大丈夫です。デトワールさんからのお話の続きをお伝えすれば。…失礼します!」

 怪訝な顔をしたエクスを残し、ヴァルは兄の言われた方角に急いだ。

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