悪夢からの脱出
どんよりとした空気の中、ヴァルは目を覚ます。時間にして朝のはずだったが、この世界の空は来た時と同じ、赤と青の絵の具を混ぜたような色をしていた。ここでは普段からそうらしい。
「朝…ですか。今まで私は何を…。そうです、夢の中で神様に…」
ヴァルは記憶を呼び起こすと、辺りを見回した。しかし部屋には隣のベッドで寝ていたはずのアスカさえもおらず、神の姿などなかった。
「あれは夢だったんですよね…。もしかしたら、私の勝手な想像が生んだのかもしれま…」
ただの夢だと片付けようとした彼女の視線の先に、見慣れない物があった。テーブルの上に、湾曲した小さな円錐形の物体が置かれている。
それは、紛れもなくジェネラス神が自身の耳につけていた物だった。
「これは…! やはりあれはただの夢ではなかったのですね。神様…」
ヴァルはその耳飾りを手に取ると、自分の片耳につけ、外に向かって呟いた。心なしか、ジェネラス神の無邪気な声が聞こえたような気がした。
荷物をまとめ部屋を出たヴァルは、扉のすぐ前で何者かと鉢合わせた。昨日、街の案内もしてくれた、宿の主人であった。
「おおっと…おや、あんたか。ちょうど様子を伺おうとしてたんだよ…」
主人は、つい昨日までの愛想の良さや気さくさがなく、別人のような態度を見せた。
「あ、おはようございます。おかげさまでよく眠れました。ありがとうございました」
礼儀正しく挨拶をするヴァルに、主人は大きく取り乱し、元の調子に戻そうとしていた。
「は? い、いえ。礼には及びませんが……。あなた、どこかおかしいところありませんか?」
「ええ。とても調子がいいですが…?」
「そ、そうですか。……。皆さん、下のテーブルでお待ちですよ。行かれてはいかがですか?」
「はい。では失礼します」
階段を降り、一階のテーブルまで行くと既に他の三人は席に着いていた。机上には何も置かれておらず、まだ朝食前と見受けられた。
「よぅ、おはようさん」
「おはようございます」
「おはよう、よく眠れた?」
「あ、おはようございます。おかげさまでよく眠れました。ありがとうございました…」
明らかに様子がおかしかった主人。ヴァルはそれに気づかなかったわけではない。自分の言葉に何かおかしなところがなかったかと、アスカには同じ挨拶を交わした。
「どうしたの、ありがとうございました、だなんて」
「いえ、宿のご主人にお会いして今のご挨拶をしたのですが、なんだか様子がおかしかったと言いますか…。私、何か変なことを言いましたか?」
「いや? 別におかしかないけど。そういえばご主人、部屋の前で鉢合わせたな。まさか待ち伏せしてた、なんてな」
リョウマは冗談混じりで話したが、アスカは声をひそめて会話に入った。
「…ウマ兄もだったの。あたしんところもそうだったのよ。なんだか昨日と違って嫌な感じだったし…」
「何か事情があるんでしょうか。ご主人に…」
と、そこに主人が戻ったため、四人は会話を止めた。
「皆様、お揃いになりましたね。では朝食の準備をいたします。お待ちください」
主人が店の裏に戻ったことを確認し、四人は再び会話を始めた。
「昨日と同じでしたね。僕たちが朝見たのは夢だったのでしょうか」
「うーん、でもみんな同じ夢を見たなんて考えにくいし…。そうよ、夢。みんな昨日はどんな夢見た?」
「俺は夢に親父が。それにミーアが…」
「私は、神様が…」
口々に話を始める一同。順番に、各々の夢の話をした。
「神様か…。まさかあの子供がそうだったなんてなぁ」
「私も驚きました。ミーアさんも、私たちのこと見守ってくださっているんですね」
「いつもなら、たかが夢って思えちゃうけど、その耳飾りがただの夢じゃないって証拠よね。それに、本当にみんな同じような夢を見てたのね」
「ってことは、アスカもか?」
アスカはそこで、少し言いにくそうに話した。
「あたしはね…。ウマ兄と同じくお父さんが出てきた。そこで色々酷い目に会ったけど、最後に出てきたのは…エクスだったの」
「お兄様が?」
「そう。でも、二人みたいに励ましてくれたわけじゃない。ただあたしの方を見て、頷いただけ。そこで目が覚めた。だけどあたしにはそれで十分。元気を出せって伝えたかったんじゃないかしら」
話を終えると、アスカは気まずそうに顔を背けた。主人の消えた店の奥を見ている。
「私たちは会話も交わしたのに、お兄様はなぜ頷くだけだったんでしょうか?」
「わからないけど、もしかしたら生きてるかそうでないかかもしれないわね。間違いなく、エクスは生きている人だし」
「そうかもな。ところで、クアはどんな夢見たんだ?」
リョウマは口数の少ないクアに話を振る。
「僕は…よく覚えていません。誰も出て来なかったと思います」
「クア、だなんて、あなたたちいつの間にそんな仲になったのよ…」
「まあ、色々と。大したことじゃないよな?」
「ふーん。羨まし…くなんてないけど。それにしても朝食、遅いわね。何かあったのかしら」
しんと静まり返った周囲を怪しむように、アスカはもう一度宿の奥を見た。
「言われてみればなんだか変だな。静かすぎるような…」
そこで、奥から主人が出てきた。盆に、四人分の木製コップを乗せている。
「皆様、お食事はもうしばらくお待ちください。こちら、当店のサービスでございますので」
主人はテーブルにコップを置き、そそくさと再び奥へと消えた。
四人はコップを自分の元へと寄せ、中を見た。およそ美味とは思えない紫色をしていた。
「サービスってこれ…どんな味がするんだろ」
「食欲はそそらないわね…。残したら悪いとは思うけど…」
「臭いも良いとは言えません…」
「僕、好き嫌いはない方ですが、これは…」
迷いに迷い、口を付けようとしたその時。
『ダメだよ!』
リョウマの耳、あるいは脳内に、聞き覚えのある声が響く。ミーアの声だった。同時に、腕の宝石が熱くなるのを感じた。
声が幻聴などではないことを悟ったリョウマは、慌てて三人に呼びかけた。
「みんな、ちょっと待て」
「な、何?」
「いや、今ミーアの声が聞こえて…。ダメだ、って。それにこれが熱くなったから多分マジだと思う」
それを聞いたアスカは、少し考えた後に三度宿の奥を見た。一瞬、主人の姿が見えた気がした。アスカは小鳥の分身を作り出すと、奥へと飛ばした。
「あの、何をしたのですか?」
アスカの能力を知らないクアは、興味津々の様子で尋ねた。
「これ? あたしの気を小鳥の形にして飛ばしてるの。今はあたしと分身の視覚と聴覚を共有させて、ご主人たちの様子を伺おうとしてるのよ…」
アスカと感覚を共有した分身は宿の奥に進む。気づかれないようにできるだけ低空飛行をし、厨房に到着。ゆっくり上昇すると、主人とその妻と思われる女性が見えた。
「ねえ、どういうことなの? あの客たち、ピンピンしてるじゃない」
二人の会話を聞くべく、アスカは分身を机の影に潜め、耳をそばだてた。
「俺にもわからねえよ。今までこんなことなかったしな。それに、眠り薬を入れた飲み物も飲みやしねえ。ここまで勘のいい奴らは初めてだ…」
もはや、主人の口調は以前とは全く違っていた。これが本性だと、アスカは悟った。
「おかしな客もいるものねぇ。あのお香、ちゃんと効いてるんでしょうね? もしかして、秘密を知って一睡もしてないとか…」
「んなわけねぇよ。俺が昨日案内した時、いい夢が見られるように焚いてるって言ったからな。本当は『酷い悪夢を見せて、精神がボロボロになった客から金目の物を奪い取る』だなんて、口が裂けても…」
『な、なんてこと…』
その時、妻の視線がアスカの分身に注がれた。慌てて消滅させたアスカだが、時既に遅しのようだった。
「みんな急いで! ここから出るわよ! …いや、もう戦う準備をした方が…」
「戦う? どういうこと…」
宿屋の夫妻はすぐに四人の元へ駆けつけた。手には料理に使うような棒や、鍋の蓋を持っている。
「…お客さん、なんだか知らないけど、全部知っちまったみたいで。普段ならこんなことしねえんだけど、仕方ねえ!」
主人とその妻は四人に襲いかかった。四人は咄嗟に避け、椅子に棒の一撃が振り下ろされた。
「おいおいおい、一体どうなってんだ!?」
「こいつら、最初から金が目当てだったのよ! 詳しい話は後にして今は戦うの!」
アスカは分身を大きくし、再び作り出した。襲いかかる女に目掛けてけしかけ、武器を弾き飛ばした。
リョウマも剣を抜き、主人の攻撃を受け止めると素早く受け流し、後ろに回りこんで峰打ちを食らわせた。さほど戦闘経験がないのか、あっさりと地に伏せられてしまっていた。
「あだだっ! ちくしょう、何でこんな…」
「それはこっちの台詞よ。よくも騙してくれたわね?」
壁に追い詰められ、降伏の手を挙げる主人と、床に伏せる女。決着は着いたかに思われた。
しかしその直後、宿屋の扉が開き、街の人間が数人、入ってきた。味方がきた、と思った四人だが、予想外の展開が起こる。
「カモが逃げるぞ! 全員逃がすな!!」
「なっ!?」
入ってきた街の住人は、畑の鍬やら斧やらを手に、リョウマたちに襲いかかった。わけがわからないまま、四人は戦闘を続けた。
「この人たちも敵、ですか!? どうして…」
槍を振るいながらヴァルが呟く。全員が手一杯で答える暇もなかった。住人は宿屋の夫妻と同じく、戦い慣れしていなかったようだが、次から次へと現れた。
数の多さに苦戦していると、宿屋の入り口からもう一人現れた。しかしそれは、この世界の人間ではない、アスカたちがよく知る人物だった。
「一体何事だ? ここで何をして…! お前たち!?」
エクスだった。住人をかき分け、アスカたちの方へ向かっている。
「エクス!? どうしてここに!?」
「お兄様! 今はどうかご助力願います! 後でゆっくりと説明を…!」
エクスは腰の剣を抜き、住人と戦闘を開始した。
「くっそ、こいつらどんだけ出てくるんだ。もうしんどい…」
何人目かの住人を退けた後、リョウマは言葉を漏らした。口にはせずとも、全員が内心そう思っていた。
アスカは分身を今度は小さくさせて大量に生み出し、自分の周りを旋回させて防御壁を作り出した。その間、何か突破口はないかと辺りを見回した。
そして、天井のひびが目に入った。衝撃を与えれば、壊れそうだった。アスカはハッと閃く。
「ウマ兄、炎雷の剣よ! それで天井をぶち抜いて!」
「な、何だって!? ぶち抜く?」
「前にチョウガ族んところでやったでしょ?それをあの天井に向けて…早く!」
一刻の猶予もないとわかってはいたが、リョウマは自信がなかった。第一どうすればあの時のような力が出るかわからない。しかし、考えている暇はなかった。リョウマは剣を天井に向けて、力を込めた。その瞬間、左腕の宝石も熱くなった。
「頼む、雷よ、出てくれ…!!」
剣の先から強いエネルギーがほとばしった。雷は光線のように天井を貫き、大きな穴を空けたのだ。そこにいた住人は全員恐れおののき、リョウマたちから後退りをした。
「今よ! ヴァルはウマ兄とクアを連れて飛んで!エクスはあたしと!」
「はいっ! リョウマさん、クアさん、しっかり捕まってください!」
ヴァルは背中に翼を出現させ、宙に舞い上がった。アスカは再び分身を大きな鳥の形にするとその脚に掴まり、エクスの手を取り飛び上がった。
「待てこら! 逃がさんぞ!」
「追え、追えーっ!」
住人たちは一行を追おうと、宿屋から出ようとしたが、他の住人の身体に足を取られたり、外の住人とぶつかったりで大混乱になった。混乱が収まった頃には、一行の姿は完全に消えてしまっていた。
住人たちを撒いて数分後、空を飛びながらエクスを含めた五人は、ようやく落ち着いて会話を交わすことができた。
「危ないところであったな。私が偶然あそこにいなければ押し切られてしまっていたやもしれん」
実際、この中で一番住人を退けていたのはエクスだった。
「本当ね。あなたのおかげよエクス。感謝してる」
「ああ。すごい助かった。ありがとう」
「ありがとうございました、お兄様。本当に助かりました」
「礼には及ばん。だが、ここは悪夢を見せ、旅人から金銭を巻き上げることで知られている場所だぞ。聞いてはいなかったのか?」
「聞いてないなそんな話。なぁクア?」
「はい。何も聞いていませんでした」
「話を逸らして申し訳ないが、その少年は何者だ?」
エクスとクアはこれが初対面だった。エクスが一族から離れた後にクアが城に迎えられたのであれば、面識がないのも頷ける。
「こっちはクアだよ。皇帝陛下が自分の養子にしたらしい。ヴァルの弟みたいなものなんだよな?」
「は、はい。クアです。よろしくお願いします」
クアは首だけを曲げてぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、よろしく頼む。ヴァルの兄、エクスだ。ということは、君も私の弟のようなものか。気兼ねなく接してくれて構わないぞ。…さて、そういえばまだここにいた理由について聞いてなかったな。なぜこのような危険なところにいたのだ?」
「あたしたちは…」
アスカはかくかくしかじかと、皇帝陛下から受けた任務の話をした。一族から離れて過ごしていたエクスにとっては、当然初耳のことだった。
「そんなことが…。確かに世界の滅亡を無きものにできるのであれば、これ以上嬉しいことはない。私も協力してやりたいが、しかし我々が共にいるのは良く思われないだろう」
「お父様には、お兄様のことは伝えてありません。旅は引き続き、私たちだけで続けていきたいと思います」
「そうか、それなら成功を祈ろう。ところで、虎の娘はどうした? 確かミーアと言ったか」
エクスにとっては何気ない質問だったが、全員が沈黙した。しかしリョウマは、自ら切り出した。
「あいつはもういないよ。でも、姿を変えて、ここに」
左腕を見せ、一連の出来事について説明をするリョウマ。エクスは聞き終えると、申し訳なさそうに言った。
「なるほど…。知らなかったとはいえ、無神経だった。すまない」
「いいんだ。俺、あいつと夢の中で話したんだ。あいつの気持ちも全部わかったから。それに、さっき雷を出すことができたのも、きっとミーアが力を貸してくれたんだと思う。あいつのおかげで、俺は生かされているんだ」
エクスは話を聞くと、少し考えた後、言った。
「夢の中に現れる者は、夢を見ている者と想い合っている者だという言い伝えもある。彼女と話をしたことはほとんどないが、ミーアとそなたは良い関係だったと、私にはわかる」
「うっ、ごほっごほっ!」
リョウマを気遣って言ったことだったが、アスカは激しく取り乱し、むせかえった。
「どうした、アスカ? 体調が優れないのか…?」
「ううん違うのよ、心配いらないわ」
「アスカさん、夢にお兄さ…」
「あああーっヴァル! それ以上言わないで!」
ヴァルはハッと気づき、そこから先は言わなかった。しかしリョウマは、タイミング悪く続きを話そうとしていた。
「そうそうアスカ、夢にあんたが出て…」
「…言うなっつってんでしょおがぁぁぁ!!!」
アスカは分身ごとリョウマに飛びかかり、顔面に膝蹴りを食らわせた。
「あだっ! おい止めろ、何を…」
「あ、危ないです、もう降ります…」
ヴァルはバランスを崩し、ふらふらと地面に向けて降下を始めた。
地に降りると、同じく降下したアスカは術を解くとリョウマに向かって突進。制裁の続きを始めた。
「ああー悪かった。許してくれよ…」
「この馬鹿ウマ兄! どうして、あんたは、そう、デリカシーが、無いのよ!!」
アスカはリョウマを押し倒し、馬乗りになって殴り始めた。
「いだだっ、お前グーは止めろグーは! …いやビンタも止めろ! …おい目潰しは勘弁して…」
壮絶な兄妹喧嘩を、離れて一角獣兄妹とクアはただ見ていた。
「何があったのだ? アスカは急に何を…」
「ええと、こちらのことなので気になさらないでください…」
怪訝な表情のエクスとクアを残し、ヴァルは二人の仲裁に向かった。
喧嘩をなんとか止めさせ、念のためリョウマの顔面の治療を済ませたヴァルたちは、これからのことについて話あっていた。
「さて、一刻も早くここを離れた方がいい。街からは離れたが、ここの住人たちの良い噂は聞かないからな。もしかしたら、この世界中の人間があのような悪人やもしれん」
「マジかよ…街ぐるみ、いや世界ぐるみであんなことやってんのか。早く行こう。クア、次はどこに行けばいい?」
唯一、行くべき場所を知るクアに尋ねるリョウマだったが、クアはそわそわとし、答えようとしなかった。
「どうしたの? メモ、持ってたわよね?」
「はい、あの、その…実は」
恐る恐る、アスカの耳元で囁くクア。話終えると、罰が悪そうにうつむいた。
「えっ…メモ、落としちゃったの?」
「はい。さっきの宿屋で。昨日の夜はありましたので、たくさん人が来た時にだと思います。…すみません」
「仕方ないさ。あんな大混乱じゃそうなるよな」
一層罰が悪そうにうつむくクアに、リョウマは優しく声をかける。
「まぁ今さらどうしようもないわね。でもどうしましょ。また街に戻るわけにもいかないし、これからどこに行けばいいのやら」
考えこむ一同。しばらくして、リョウマは以前ヴァルから聞いた話を思い出した。
「そういやヴァル、前に占い師がいるって世界の話をしなかったか? 占い師なら、探し物とか教えてくれるんじゃないか?」
「はい。占術の世界、タロトリアという場所です。占術の才を持つ者が生まれ、集まる場所とも言われています」
「その世界ならばここから少し離れているな。私が付き添おう。何、お安いご用だ」
「決まりだな。早速行こうぜ」
エクスの案内で、次の世界へと向かおうとするリョウマだが、アスカは引き止めた。
「ちょっと待って。ねぇ、あなた力が欲しいって思ったことない?」
アスカが尋ねたのはクアだった。
「力…ですか? 皆さんのお力にはなりたいと思っていますが」
「アスカ、急にどうしたんだ?」
「あたしね、今朝のこの子の話を聞いて思ったの。みんな悪夢を見た中で、夢に誰も出て来なかったってことは、あたしたちと比べ物にならないくらい、精神が強いんじゃないかって。だから、あたしと同じ修行を積めば、何か力が得られるかもしれないってね」
「修行の世界に連れて行こうというのか? 確かにここからなら近い。私が先に案内をしようか?」
修行の世界への道のりを知るというエクスは言った。
「ありがとう。お願いするわ。あなたもそれでいい? …あたしもクアって呼んでいいかしら?」
「はい。もちろんです。よろしくお願いします」
「わかったわ。よろしくね、クア。あ、ちょっと待ってね」
アスカはリョウマとヴァルの元へ行くと、二人の顔を寄せて囁いた。
「じゃ、行ってくるから。一応言っとくけど、さっきの話をエクスにしようものなら、絶対後悔させてやるからね? よく覚えときなさいよ?」
「わ、わかった」
「よろしい。ヴァルもわかってるわね? 他言無用よ…?」
「は、はいぃ…」
凄まじい殺気で詰め寄るアスカに、リョウマもヴァルも口答えできなかった。
「アスカ、どうした? 行くのなら、準備はできているぞ」
「なんでもないわエクス。今行くわぁ」
態度をコロリと変え、嬉しそうにエクスとクアの元に向かうアスカを見、リョウマとヴァルはやれやれといった表情で顔を見合せた。
「アスカとクアを送り届けてきた。今度はお前たちの番だな」
姿を消してから数十分後、エクスは二人の元に戻った。
「ありがとうございますお兄様。私たちに付き合わせてしまい、申し訳ないです」
「気にするな。実は私も占術の世界に行きたいと考えていた。むしろ好都合というものだ。では、参ろうか」
行き先が同じというエクスと共に、リョウマとヴァルは、占術の世界へと向かった。