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新たな仲間と

 次元の穴を抜け、幾度目かの試練の世界へと来た一行。到着した場所は故郷へと続く穴があったまさにその場所であり、目的地である集落はさほど離れていない距離にあった。

「無事、到着ですね」

「ああ。やっぱりまた来ちゃったかー。今さらだけど、夢じゃなかったな」

「当然じゃない。さあ、ソファリアさんのとこ、行きましょ」

 三人は、集落へ向けて歩き出す。


「お待ちしておりました、リョウマ様方。こちらがご依頼の装身具です。どうぞ、お納めください」

 集落に着き、ソファリアに再会した一行は、頼んでいた物を受け取った。銀のバングルに取り付けられた竜の爪のような装飾が、しっかりと宝石を掴んでいる。リョウマが左腕にはめてみると、バングルはちょうどいいサイズになった。リョウマは不思議と、腕が熱くなるのを感じた。

「すげえ。ありがとうございます。よく俺の腕のサイズ、わかってましたね」

「それはちょっとした魔法をかけているからです。装着した方の腕に合うようになっているのですよ」

 アスカはリョウマの腕のバングルをまじまじと見、興味深げに呟いた。

「なるほど…。詳しく聞かせていただきたいけど、今はそれどころじゃないか。あの、ソファリアさん、あたしたちがここを去ってから、どのくらい経ってますか?」

「ええと、だいたい一月弱ほどでありましょうか? 装身具は一日ほどで完成しましたので、待ちわびておりましたよ」

 やはり、時間の流れは違っていたのだ。三人はそう確信した。

「もうそんなに経ってたのか…。早いとこ、お前の故郷に行かないとな」

「そうですね。しかしここからだと、数日はかけて行かないといけません。焦らずに行きましょう」

「ああ…そうだったか。まぁ、気長に行くか」

 二人の会話を聞いていたソファリアは、おずおずと割り込んで切り出した。

「あの、ヴァル様のご出身は、確か幻の世界でありましたか?」

「はい、そうですが」

 ヴァルが答えると、ソファリアは嬉しそうに笑みを浮かべ、続けて話した。

「それでしたら、私どもにお手伝いさせてください。幻の世界までの近道を案内させます。数分もあれば到着するでしょう」

「本当ですか?それはありがたいですが…。そこまでしていただけるなんて申し訳ないですよ」

「いえいえ、お困りの皆さんを助けない理由はありません。お気になさらず、手伝わせてください」

 ソファリアは頭を何度も下げながら、笑顔で言った。しかし一瞬、彼女の瞳が悲しげに暗くなったとアスカは感じた。だがその場は気のせいかと思うようにした。

「そこまで言うなら…お言葉に甘えるか。なぁ?」

「はい。お気持ちはありがたく受け取りましょうか」

「かしこまりました。ただ今、使いの者を手配します。少々お待ちを…」

 ソファリアは三人の前から姿を消すと、間もなく一人の男を連れて戻って来た。男はリョウマたちがこの世界で最初に出会い、鎧や籠手を届けてくれたタンガ族だった。

「こちら、ザルドと言う者です。もうお会いはしていらっしゃるかと存じます。幻の世界まで、責任を持って案内させますので、ご安心ください」

「久しいな。紹介が遅くなったが、ザルドと申す。そなたたちを目的の地まで、我が名誉にかけて必ず送り届けよう。ついて来なさい」

 ソファリアに別れを告げると、三人はザルドの後をついていった。


 集落内に、その近道の入り口はあった。そこをくぐると、なんとも表現のし難い空間に出たが、足場はきちんと存在していた。

「ここは世界と世界を繋ぐ空間だ。蟻の巣を想像してもらえればいい。我々は『抜け穴』と呼んでいる」

 ザルドの説明を聞き、リョウマは辺りを見回した。足元と同じ色の空間が、ずっと広がっている。

「不思議なところだな。まさか、足を踏み外したらヤバいとかないよな…」

「それはないが、迷子になられたら面倒だ。私の後を必ずついて来るように」

「…へい」

 前にも似たようなやり取りをしたような気がしつつ、リョウマはザルドの言葉に従った。

 ソファリアの言った通り、幻の世界に到着するまで時間はかからなかった。着いた場所は、城下町の外れの路地裏のようだった。

「このような場所だが、無事到着だな。私の役目はここまでだ。これにて失礼する」

「はい。ありがとうございました。本当に助かりました。ソファリアさんによろしくお伝えください」

「うむ、では達者でな」

 ザルドは抜け穴に戻り、姿を消した。

「はぁ、なんだかああいうの、苦手だな。悪い人じゃないってわかってるんだけど」

 姿が見えなくなってから、リョウマはぼそりと洩らした。

「まあ仕方ないんじゃない。誰しも相性ってもんはあるわよ。それより、早く陛下のところに行きましょ」

 三人は、城に向かい歩き出した。


 城に到着すると、前回来た時と同じように中から誰かが出てきた。それは背中に小さな翼を持つ、ヴァルの義理の弟とも言えるクア少年だった。これまた同じように、たどたどしく挨拶をする。

「よ、ようこそいらっしゃいました。僕…私はここの案内人の……あ、この前の皆様…」

「こんにちは。お久しぶりね。皇帝陛下はいらっしゃるかしら?」

「ええと、お父さ…いえ陛下は今…」

 そこに、慌てて大臣が姿を現した。

「クア様、いかがなさいましたか?…おお、これは姫様、そして御付きの皆様。お久しゅうございます」

「ご無沙汰しています。皇帝陛下に例の物をお渡ししようと思いまして」

「左様でございましたか。しかし、陛下はただ今重要な職務のためにお出かけしておりまして。よろしければ私が受け取りましょう」

 リョウマは言われるがままに大臣に、チョウガ族の牙を渡した。

「確かに頂戴いたしました。…しかし、こう申し上げるのも大変失礼かと存じますが、ずいぶん時間がかかりましたな」

 言いづらそうに話す大臣に、申し訳なさを感じながらヴァルは弁明した。

「すみません、色々事情がありまして…。すぐに次の目的地に向かいますので多目に見てください」

「まあ、ご無事でお帰りいただけて何よりですな。では次の品物ですが…」

 と、そこでクアは一歩前に出ると大声を張り上げた。


「あ、あのっ、僕も連れていってはいただけませんか!?」


 予想外の展開に、全員が何も言えない時間が一瞬過ぎた。大臣は我に返ると、クアに尋ねた。

「クア様? 突然何をおっしゃいますか? あなた様も大切な我が世界のお方であらせられるのに…。お身体に何かありましたら陛下に何と申し上げればよいか…」

「で、でも、姉様たちにばかりご迷惑をかけるのは嫌で…。それに、僕は陛下から行くべき場所も教えていただいていますから、お役に立てるかと思ったので…」

「いやしかし…」

 気が揺らぐ大臣に、リョウマは説得を試みる。

「口を挟むのは良くないと思いますが、彼の気持ちを尊重してはどうでしょう。俺たちみんな戦う力は持ってますし、全力で守りますから。それにいちいちここに戻って次の目的地を聞くのも効率が悪いでしょう?」

 リョウマの提案には、アスカとヴァルも少し驚いていた。

 二人の説得を聞き、更に考える大臣だが、やがて答えを出す。

「承知いたしました。陛下には私から話しておきましょう。ただし本当にお身体には気をつけていただきますよう。クア様をどうかよろしくお願いいたします」

「わかりました。責任を持ってお預かりします。じゃ、行こうか。次の世界に」

「はい、よろしくお願いします。皆さん」

 大臣にも別れを告げ、クアも含めた一行は歩き出した。


 城下町の入り口まで来たところで、クアは三人の方を向き、改めて挨拶をした。

「あの、ありがとうございます。お仲間に入れていただいて。ご迷惑をかけるかもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします」

「そんなにかしこまらなくていいわよ。あたしたち、あなたのお姉さんの家族みたいなものなんだから。あなたも気を遣わなくていいんだからね?」

「は、はあ…。わかりました」

「でも、どうしてこの子を連れて行こうと思ったんですか、リョウマさん?」

 当の本人にも、その理由はわかっていなかった。以前城で出会った時から、不思議とクアを気にかける自分がいることを、リョウマは感じていたのだった。

「さあな。自分でもわからない。でも危険な目に会わせたいだなんて思ってないからな?」

「そりゃそうでしょ。まあ、いずれにせよ仲間が一人増えたのは心強いわね。こっちは実質一人欠けてるんだから」

 話を聞いていたクアは、三人をそれぞれ見た後でリョウマに尋ねた。

「あの、そういえばもう一方いらしたと思いましたが、尻尾のある女性の方は?」

「…ミーアのことか。残念だけどあいつはもう…」

 リョウマは左腕の宝石付きバングルを胸の前に掲げ、クアに説明をした。

「そうだったんですか…」

 寂しそうにうなだれるクアを不思議に思い、ヴァルは尋ねた。

「ミーアさんと何かあったんですか?ただ事ではない様子ですが」

「僕、あの人に優しくしてもらったんです。城下町を案内してほしいと言われたので、ご案内したらお礼にと旅の話をしてもらって…。またお会いした時にお礼返しができたらと思ったんです」

 クアはその時のことを思い出しながら、一層寂しそうに語った。

「そうだったのね…。再会が叶わなくて本当に残念だわ」

「だな。でも、君の気持ちは伝わってると思うよ。あいつはいつもここにいるんだからさ」

 リョウマは再び、バングルを見せた。日の光を浴び、宝石はキラリと光った。

「…そうですね。ありがとうございます」

「どういたしまして。ようし、じゃ次の世界へ行こう。どこに向かえばいいのかな」

「はい、次は…」

 クアは荷物の中から一枚のメモを取り出した。頭で記憶しているわけではないらしい。

「夢の世界、『ドリムラ』です。そこへ通じる入り口はこっちです」

 新たな仲間を加え、四人になった一行は新たな一歩を踏み出した。

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