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別れ

 崩れ落ちるように倒れたミーアの元へ、三人は慌てて駆け寄る。

「お、おい、しっかりしろ。冗談、だよな…」

「ちょっとミーア、驚かせないでよ。さっきまで元気だったのに…」

「ミーアさん…尻尾が…」

 ヴァルの言葉通り、ミーアの尻尾は先端から半分ほど、なくなっていた。短くなった尻尾の先端からは、血が滴っていた。

「あはは、多分、さっきリョウマをかばった時かな…。避けきれなかったんだと…思う…」

 ミーアは消え入りそうな声で話す。三人の不安はますます高まるばかりであった。

「お前、隠してたのか…? 何で…」

「だって、わたしのせいでみんな死んじゃったら、申し訳ないもん…。でも良かった。三人とも助かって…」

 三人とも、という部分を、アスカは即座に否定した。

「三人じゃないでしょ。四人よ。間違えないでよ…」

「そうだよ。お前、まだまだお宝探して冒険するんだろ? ドキドキしたいんだろ? こんなところで諦めんなよ…」

 リョウマの言葉に、ミーアは少し口元を綻ばせて答えた。


「いや、いいんだ。だって…さ。もう、一生分くらいのドキドキを経験した…もん。…貴方(リョウマ)と会った時から、ね」


 途切れ途切れにされたミーアの告白を聞いたリョウマは、時間が止まったように固まってしまっていた。やがて、我に返ると彼女に問いただした。

「な、何だよそれ…。もっとちゃんとわかるように言えよ…」

「もう…鈍感だね本当に…。それより、三人と約束したいことがあるの。聞いて。わたしの、声が、出なくなる…前に…」

 ミーアの様態はますます苦しそうになっていく。アスカは彼女の手を取りながら呼びかけた。

「ミーア、無理しないで。嫌よ、あたし、もっとあなたとお話したかったのに…。色んなこと聞きたかったのに…」

「わたしもだよ。もっとアスカのこと知りたかった。…でも、残念ながらそうはいかないみたい。じゃ、まずはアスカから約束、ね」

 アスカは涙を浮かべ、ミーアの言葉を待った。

「アスカは気が強くて気難しいところはあるけど、ホントは優しいってこと知ってる。貴方のこと、好きでいてくれる人がいる。だから、自分は独りだなんて思わないこと。…いい?」

 アスカは目元を手で拭い、黙って頷いた。

 次にミーアは、ヴァルの方を向き、口を開いた。

「次、ヴァルちゃん、ね。貴方はすごく頑張り屋さんで、自分のことより他人のことを考えてて偉い。でも、もう少し二人に遠慮しなくていいと思う。もう、本当の家族みたいなものなんだから…」

 ヴァルも、何も言わずに頷いた。目には涙を浮かべてはいなかったが、必死に堪えているかのようだった。

 ミーアは最後に、リョウマに向き合った。

「ラスト、リョウマ、ね。貴方はちょっと頼りないとこあるけど、何があっても、二人のことを守ること。でも、無理しちゃダメだよ。助け合って、頑張ってほしい。…わかった?」

 リョウマは状況の整理ができていなかった。自分のために、ひとつの命が消えかけていると思えば、無理もないかもしれない。

「そんなの…急に約束なんかできねえよ。それより、自分のことを…」

「ふ、ふふっ、しょうがない人だね。もう時間ないっていうのに…。じゃあ今約束してくれなくてもいい。後で思い出してもらえれば…」

 そこでミーアは、苦しそうに顔を歪めた。三人は彼女に寄り添い、更に身を案じる。

「ミーアさん…。本当に、ありがとうございました。あなたがいなければ私たちは…」

「わたしは何も誉められるようなことしてないよ。でも、最後の最後に役に立てて良かった。…これ、受け取って」

 ミーアはチョウガ族の牙を持ち上げ、リョウマの手に渡した。

「確かに渡したよ。それじゃ、本当に最後の約束。…必ず、世界を守って。わたしと皆が過ごした、大切な、世界を…」

 ミーアはそこで一度目を閉じると、再び目を開け、三人を見た。


「約束、忘れないで、ね…」


 ミーアはそれだけ伝えると、静かに目を閉じ、眠りに就くように動かなくなった。


 ミーアが深い深い眠りに就いてから、リョウマたちはしばらくその場で呆然としていた。いざとなると、目の前の現実が受け入れ難いのは、三人とも同じだった。三人とも、記憶の中では人の死の瞬間を間近で見るのは初めてだったのだ。

「なぁ、どうしたらいいと思う…?」

 沈黙を破ったリョウマは、アスカとヴァルに問いかける。言葉の意味を理解できなかった二人は、リョウマを見たまま黙っていた。

「ミーアの身体だよ。ここに置いていくなんてできないし、俺たちの世界だったら埋めるか焼くかだけど、俺そんなことしたくないよ…可哀想で」

「…そうね。あたしもできればしたくない。でもどっちかやらなきゃいけないわよね」

 二人が考えあぐねる中、ヴァルはひとつの提案をする。

「あの、私に心当たりがひとつだけあります。確実な話ではないのですが…」

 リョウマとアスカの視線がヴァルに注がれる。ヴァルは背筋を伸ばして続きを話した。

「我々の世界ではどこかに、死者が向かう世界があると言われているんです。そこで、魂か肉体を用意できれば、新しい命を生まれ変わらせることもできると言われています」

「そんなところがあるのか?だったら早く行こう。どこにあるんだ?」

 ヴァルはうつむき、申し訳なさそうに切り出した。

「その、実はどこにあるかはわからないんです。そもそも存在自体が疑われているので…」

「天国か地獄みたいなものだもんね。ないと考えた方がいいかも」

「ええ。しかし、『必要とするところ、転生への扉、その者の前に開かれる』という言い伝えもあるんです。もしかしたら近くに…」

 と、その時、近くの茂みから、大きな影が姿を現した。

「オマエラ…ヨクモヤッタナ…!」

 リョウマたちが最初に出会った、チョウガ族の兵士だった。大口から血を流し、血走った目で三人を睨んでいる。

「こいつ…しまった、忘れてた」

 リョウマはミーアを担ぐと、逃げる準備をした。

「ウマ兄、大変よ。あれ…」

 アスカの指す方向に、土煙を巻き起こしてやってくる何かが見えた。追っ手が追い付いてきたらしい。

「まだ追いかけて来てたのか…くそっ、うっかりしてた」

「どうしましょう、挟まれてしまいます…」

「とにかく逃げるしかねえ。こうなったら逃げ道は限られてるが…」

 その時、三人の近くに空間の裂け目が現れた。距離にして数メートル、考えている暇はなかった。

「ここで食われるよりマシだ。行くぞ!」

 リョウマのかけ声で、三人は裂け目に飛び込んでいった。


 気がつくと、暗闇の中にいた一行。お互いの姿は認識できるものの、辺りの様子は全く見えていなかった。

「ここは…どこなんだ?」

「さあ。とにかく、危機は脱出できたと思う。もしかしてここが、その死者がたどり着く世界なの、ヴァル?」

「わかりません。私も来たことはありませんから…。あっ、どなたかいらっしゃいましたよ」

 一行の前に、どこからともなく一人の美しい女性が現れた。白いローブを纏い、羽もなく宙に浮いているように見えた。

「迷える魂、よくぞここまで。…おや、生身の方もご一緒とは珍しい。しかし良いでしょう、同じくご案内します。ここはリンネラ。転生の世界と呼ばれる場所です」

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