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探検中の邂逅

 海辺で遊ぶアスカとミーアを置いて、リョウマとヴァルは周辺の探索を始めた。入り江の方に何かがありそうだと感じたリョウマは、ヴァルを連れてそこへ向かった。

 入り江は海辺よりもしんと静まりかえっており、鳥の鳴き声も聞こえず波の音だけがただ響くだけだった。

「静かだな、まるでここだけ違う世界みたいだ」

「確かにそうですね。ここに来てからほとんど人と出会っていないですし…。ただの偶然なんでしょうか?」

 船着き場にいた男以外、海辺にもどこにも、人の姿は見られなかった。その時は特に気にならなかったリョウマだったが、冷静になって考えてみるとおかしなことだと思えた。

「うん、言われてみれば妙だな。この世界って人はあまりいないところだったりするのか?」

「そのような話は聞いたことがないですね。もしかしたら、ここで何か大きな事件が起こったのかもしれません」

「マジかよ…。早いとこ明日にならないかな」

 ヴァルの言う大きな事件が思い過ごしでありますように、とリョウマは願いつつ、二人はさらに入り江の先へと進んだ。

 進んだ先には、大きな岩壁で挟まれた場所に出た。二人はその間を探ってみることにし、左右の壁を眺めながら歩いた。

「でっかい岩だなぁ。自然に出来たものなのかな…?」

 傍らのヴァルに話しかけたつもりが、彼女は側におらず、独り言になった。リョウマが辺りを見回すと、ヴァルは少し離れた壁をじっと見ていた。

「おーい、どうかしたか?」

 リョウマが駆け寄ると、壁に何かが書かれていることに気づいた。否、書かれているというよりは、刻まれているという表現が正しい。しかし、長い年月を経ているのか、文字はところどころ削られて消えていた。

「これは…文字なのか?」

「そのようです。でも、あちこち消えていて読むことは難しそうです」

「お前の魔法の力じゃ直せないのか? あの時、古い本を直したように」

「その手がありました。やってみましょう」

 その時、背後に何者かの気配を感じた。二人が勢いよく振り返ると、アスカとミーアの姿がそこにあった。

「な、なんだお前らか…」

「なんだとはご挨拶ね。二人がいつの間にかいなくなってたから探したのに」

「そうそう。わたしたちを置いてどっか行っちゃうんだもん、リョウマったらひどい」

「悪かったよ。色々探索しようと思ってさ。で、これを見つけたわけで」

 リョウマは後ろの岩壁を親指で指した。アスカとミーアはそこで文字に気づき、アスカは食い入るように文字を眺める。

「これは…興味深いわね。でも見たところボロボロに朽ち果ててる。ヴァルは直すことできないの?」

「今それをしようと思ってたところなんだ。頼むよ」

「わかりました。では…」

 ヴァルは岩壁に手を置き、文字を復元しようとした。だが、文字は何も変わることなく、そのままの状態を保っていた。

「…っダメです。何か不思議な力で書かれたようなので、これ以上どうすることもできません」

「そういえばそんなこと言ってたな。無理しないでいいよ。じゃあ、できるところまで読めるか?」

「はい。読んでみます。『…たしは、…に…す。あの……という…は、……どではない。まさしく……だ。………てはならない。これを読ん…者に、その……を伝…る。どうか私に……って……を頼む…』と、書いてあります」

 ヴァルが文字を読み終えると、その場の全員が黙ってしばらく考えていたが、誰一人答えは出て来なかった。リョウマはなんとか、読み取れる部分だけを整理しようとした。

「うーん、何がなんだかさっぱりだけど、最後の方はなんとなくわかるな。このメッセージを読んだ奴に、何か伝えたかったんだろうな。なんだか、何かをすごく怖がっているような感じだな」

「確かにそうね。誰がこれを書いたのかしら。それに、何のために…」


「や、やめてくれ、助け…うわぁぁぁ!!」


 突如、叫び声が聞こえた。方角はアスカとミーアが遊んでいた砂浜とみられた。四人はすぐさま、声のした方へ向かった。

 入り江を抜け、砂浜に出ると男が一人、砂浜に倒れ込んでいた。見ると、脚から血を流している。ヴァルは駆け寄ると、男の治療を始めた。

「な、なんだあんたら。まさかさっきの奴の仲間か!?」

「動かないでください。今、傷を治しますから」

 ヴァルの額の角が男の額に触れて間もなく、男の脚の傷はみるみる消えていった。男はそれを見ると、不思議な表情で尋ねる。

「怪我が治った? 一体何をしたんだ? ひょっとしてあんたの力か?」

「そうです。もう大丈夫ですよ。何があったのか、聞かせていただけませんか?」

 優しく聞き返すヴァルに、男は安堵したのか事の顛末を詳しく話し始めた。

「そ、そうなのか。悪かった、悪者みたいに言っちまって。オレ、エイノってんだ。実はオレも何がなんだかわからないんだが、妙な奴に襲われてな。なんだか向こうも驚いてたようだけど、何で攻撃してきたのかさっぱりなんだ…」

 何者かに襲われた、という言葉を聞いたリョウマは、ピンと来るものがあった。彼はヴァルとエイノの間に割って入り、問いただした。

「そいつ、変な水晶みたいな物を持っていなかったか?」

「さあなぁ。持ち物なんて注意して見てなかったからなぁ…」

 エイノの答えにがっかりしたような、ホッとしたような言い表し難い気持ちになる一同。その時、遠くから走って向かってくる人影が見えた。

「あ、あいつだ…! オレを襲ってきた奴だ」

 エイノの言っていた男は、一行の近くまで来ると立ち止まった。予想以上の人数に驚いたのであろう。ボロボロの衣服を纏い、屈強な体格をした人物だった。その見た目からは、獣混人かただの人間かはわからなかった。

「ハァハァ、この野郎…わざわざ追いかけさせやがって。大人しく死んでおけば良かったものを」

 男は息を切らしながら言った。ヴァルはエイノを守るように彼の前に立ち、いつでも戦えるように構えた。リョウマも剣を鞘に納めたまま構え、ミーアとアスカはエイノの両隣に付き、防御隊形が自然と出来上がっていた。

「なんだお前ら。関係ねえ奴は引っ込んで…ん?」

 男の目線が、ヴァルの額へと注がれる。今は何も着けておらず、角が顕になっていた。

「そこの女、その角、飾りじゃねぇよな? さては一角獣だな?」

「ええ、この角はれっきとした本物です。私は一角獣の獣混人です」

 はっきりと答えたヴァルだったが、その後ろでリョウマとアスカは焦っていた。相手にばか正直に正体を教えるものではないと思ったのである。しかし、額の角を見られたからには、誤魔化しも通じないだろう。こうなればとことんやり合うしかなかった。

「へへっ、こりゃいいぜ。ちょうどお前に用があったんだよ。特別恨みはねーが、ここで死んでもらうぜ」

「お断りします。行くべきところがありますので」

 男の言葉を、凛とした表情で突っぱねたヴァル。男は苦虫を噛み潰したような不快な表情を浮かべ、拳を手に打ち付けて威嚇の姿勢を取った。

「だったら力ずくだぜ。最も、最初からそうするつもりだったけどな。この俺の力を見せてやらぁ」

「気をつけてくれよ。オレの傷はあいつにやられたんだ。あいつ、獣混人なんだよ」

 後ろで守られているエイノは、アスカの腕を掴み警鐘を鳴らした。アスカは、男の気を反らすためか、男に問いかけた。

「あんたも獣混人なの? 一体何の生き物なのかしら?」

「気になるか? 教えてやんよ。聞いて驚くなよ。俺は…」

 男の攻撃が来るかもしれないと、全員が身構えた。男は自らの口を大きく開けると、鋭い牙を数本覗かせた。

「どうだ、鮫の牙だぞ? これで噛みつかれたら、ひとたまりもねえぞ?」

 男は恐怖を与えようとしたのだろうが、エイノ以外の四人は動じず、顔を見合わせていた。これまで様々な危険を乗り越えてきたためか、その程度のことでは驚かなくなっていた。そして、各々の口から思わず言葉が飛び出す。

「地味だな」

「地味ね」

「地味だね」

「地味…ですね」

 順番に出た四人の言葉を聞いた男は悔しがり、地団駄を踏んで怒り始めた。どうやらコンプレックスでもあったらしい。

「ち、ちくしょう、馬鹿にしやがって…! これのせいでいつも獣混じりだって信じてもらえねえんだ! お前ら後悔させてやるぞ。俺は今まで、この牙で何人もの人間を殺してきたんだ。すぐに同じ目に合わせてやる。俺は女だろうが子供だろうが容赦しねえからな!!」

 その話を聞いた時、アスカは眉をひそめ、再び男に問いただした。

「女子供って…、あんた本当にやったの?」

「ああそうだ。俺は報酬次第で何でもやる男だからな」

 話を聞くにつれ、ヴァルとリョウマ、ミーアも怒りがこみ上げてくるのを感じていた。

「なんて奴だ。ただの金で雇われたチンピラかと思ったけど、相当の悪人だな」

「ええ。私もとても許すことはできません」

「まったくだね。救いようのないクズだよ、こいつ」

 三人がそれぞれの得物を構え、戦いを始めようとした時、アスカはリョウマたちの前に立ちふさがり、叫んだ。

「待って。無駄よ、戦っても。この人には敵わない…」

 アスカは珍しく、瞳に涙を浮かべていた。

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