皇帝との謁見
皇帝はベールの向こうから姿を現すと、ゆっくりと階段を降り、ヴァルたちに近づいてくる。周囲の侍者たちは、心配そうに伺いを立てていた。
「陛下、誠によろしいのですか? 姫様をお連れしていただいたとはいえ、見ず知らずの者たちとこのようにお近くで…」
「だからこそよいのです。私の、いやこの世界の大切な姫を守っていただいた方々なのですから。気遣いは無用ですよ」
皇帝はその問いに丁寧な口調で答えた。この世界で最高の身分であるにも関わらず、侍者たちと対等かのように接している。
「承知いたしました。ですがせめて、お座りになってくださいませ。こちらに…」
侍者たちは数人がかりで大きく立派な椅子を持って来ると、皇帝の後ろに置いた。皇帝は拒否することなく、その椅子に座るとヴァルたちを見、語りかけ始めた。
「はじめまして、皆さん。私がこの世界、ファンタティナの初代皇帝です。まずはお礼を申し上げなければいけませんね。私たちの大切な娘を守り、そしてここまで共にお越しいただき、本当にありがとうございます。民たちを代表し、ここに感謝の意を…」
「お父様…」
皇帝が深々と頭を下げたのを見て、リョウマとアスカ、そして大臣や侍者たちも慌てて頭を下げた。ヴァルだけが、長い間会うことの叶わなかった父親を目の前に、そのままの姿勢でひとつ呟いた。
皇帝は、よそ者であり明らかに身分の低いリョウマやアスカにすら、やはり低姿勢で話す。それが彼らにますます緊張を感じさせていた。だが、次に更なる緊張を感じることになる。
「我が娘の命の恩人ですから、相応のおもてなしをさせていただくことが礼儀でしょう。平時は許されていないのですが、私と直に話すことを許可しましょう」
大臣を介して会話すると言われていたため、リョウマにとってこの展開は完全に想定外だった。胸の鼓動がとたんに激しくなるのを感じていた。
「ちょ、直接、皇帝陛下と話すの…!? 大臣さん? 話が違いますけど…」
「ははあ…。よろしいのですか陛下?」
「ええ。こちらの方々にはいくら感謝してもしきれません。巨万の富、食べきれないほどの食事、それではふさわしくないと思うのです。ならば何がふさわしいのか。これ以上ない特別なことを施すことこそ、最高のおもてなしだと考えているのです」
別に巨万の富でも、美味い食事でもいいけどな。むしろそっちの方がずっとありがたい。そんなことを考えていたリョウマは、大臣の声で現実に戻された。
「申し訳ありませんリョウマ様。陛下のおっしゃることはこの世界の決定事項。直接、お話くださいませ」
何度も頭を下げられながら懇願され、リョウマも断り切れなくなってしまった。兄の心情を察したアスカは、リョウマの腕を掴むと耳元で囁いた。
「大丈夫よウマ兄。あたしも一緒にって言ったでしょ。助け船は出してあげる」
「…ありがとよ。よし、やってやるぞ…」
口調は冷静だったが、アスカの手は汗ばんでいた。彼女も内心では緊張していると感じたリョウマは、長男特有の責任を感じながらも覚悟を決めたのだった。
「では、最初にそちらから質問を許しましょう。皆さん、何か私にお聞きしたいことはございませんかな?」
何を聞かれるのか考えていたリョウマは、逆に質問はないかと聞かれ、頭をフル回転させた。一方のアスカは、早速あたしの出番かとばかりに、一歩前に出ると皇帝に質問をした。
「皇帝陛下、私、アスカと申します。お言葉に甘えて質問をさせていただきます。この子…ヴァル姫が失踪した日のことです。もしお許しいただけるのであれば、その時のことをお聞かせ願えますか?」
側で聞いていたリョウマはそれがあったか、という表情でアスカを見た。アスカはやれやれ手がかかる、という表情でリョウマを見返した。
「ふむ…やはり気になりますよね。よろしい。全てお教えしましょう。あの日、この子に何があったのかを」
皇帝は一度目を閉じ、その日のことを思い返した。そして重々しく語り始めた―――。
「あれは今から数えること数百年ほど昔になるでしょうか。私たちは平和な日々を過ごしていました。その日も何事もなく終わる、誰もがそう思っていたことでしょう。…しかし、運命の歯車はそこで狂い始めた。この子はその日、突然姿を消したのです。運の悪いことにその場に私はおらず、何人かの兵士がその様子を見たと言います。それによると、娘はとても驚いた表情をし、何者かに連れ去られていった、と聞きました。…それから長い長い時が流れ、今こうして再会できることが夢のようなのです」
皇帝の話を聞き終えたリョウマは、頭の整理をするのに必死だった。獣混人が長寿だとはミーアから聞いて理解したつもりだったが、その話が本当ならばヴァルは自分たちより相当の歳上ということになる。その事実だけでも彼にはなかなか受け入れ難かった。
アスカは話を呑み込めたのか、次の質問をぶつけていた。
「そういうことだったのですか…。私たち、こちらに来るまでに何度も襲われたんです。相手は獣混人で、黒いローブに身を包んだ死神のような人も現れました。ヴァル姫をさらった人たちと関係があるのでしょうか?」
アスカの質問を聞いた皇帝は、静かに頷くと、再び語り始めた。
「やはり…。この世界は私の政策により、他人を疑わないことを第一に生きていました。それが平和な世界に向けての第一歩だと考えたからです。しかし、それでも心の邪な人間はいなくはならないようです。私の命を狙う輩がいるという噂は前から聞いていました。この子を連れ去ったのも、おそらくその人々でしょう」
重苦しい話題に、少しの間沈黙が流れた。皇帝暗殺のために、ヴァルは人質にされた。そう考えるのが妥当であろう。
「さて、他にご質問はありませんかな?」
「あの、陛下は先ほど、この世界の初代皇帝とおっしゃいましたが、陛下も長く生きていらっしゃるのですか?」
アスカの問いに、皇帝は口元を緩めて笑い、答えた。
「ええ。自分でも数えきれないほど歳を重ねています。そうですな…。少なくとも数千、いや数万歳といったところでしょうか」
「す、数万歳…」
スケールの大きさについていけなくなってきたリョウマが思わず漏らす。皇帝は彼を見ると、声をかけてきた。
「そちらのあなた」
「はは、はい。…私ですか?」
突然自分のことを指摘され、リョウマは戸惑った。
「そうです。あなたから質問がありませんでしたので。何かお聞きしたいことはないですか?」
アスカと皇帝が対話している最中、リョウマは質問を考えていなかったわけではなかったが、特に思い付いていなかった。しかし、せっかくの機会に何も聞かないのは失礼だと思い、なんとか絞り出した。
「えっと…あの、こちらへ来る前に、クアという少年に会ったのですが、あの子は?」
言ってしまってから、なぜこの質問をしたのかと若干の後悔をしたリョウマ。横ではアスカが、それ今ここで聞くのと言わんばかりの表情を浮かべている。しかし皇帝は、それにも真摯に答えた。
「ああ、あの子ですか。彼はずっと昔、この世界のとある場所にたった一人でいたところを私が見つけましてね。聞くところによると親も兄弟もいないと言うので、私の養子にしたのです。まだまだ世間知らずで人見知りなので、あのように城の案内係をさせているのですよ。お前も覚えているでしょう? あの子と一緒に遊んだ日々を」
話を振られたのはヴァルだった。名前を呼ばれていなかったため、自分のことだと気づくのに一瞬の間があった。
「は、はい。その…実は私、記憶が…」
「陛下、説明をすると長くなるのですが、実は姫は記憶を失っているのです。今はある程度取り戻しているのですが…」
ヴァルに代わって説明をしたアスカ。その言葉に、広間の人々はざわめき始めた。大臣はこの中で一番驚いた様子でヴァルたちを見ながら尋ねた。
「き、記憶がないと!? まさかそんな…私どものことも忘れられてしまったのですか?」
「いいえ、アスカさんのおっしゃる通り、ある程度の記憶は取り戻しているのです。あなたやお父様、城の方々のことはほとんど思い出しています。でも、あの子のことはまだ……」
大臣はほっとした表情を浮かべたが、すぐに落胆し、自らの額に手をやり頭を振った。
「なんということ…あれほど仲の良いお二人だったのに…。まるで本当の兄妹のようでした。運命とはかように残酷な…」
「ふむ…これも、我が娘の存在を好く思わない者たちの仕業なのか。こちらからも何か手を打たなければいけないやもしれません」
そこで、あることを思い出したアスカは、皇帝に質問をした。
「私たちを襲ってきたやつらは、姫に神聖なる制裁を加える、と言い残しました。何かその…秘密があるのでしょうか?」
アスカが聞き出そうとしたのはエクスから聞いた、『滅びの伝承』についてのことだった。エクスとヴァルが一度出会っていることを話すのは良くないと感じた彼女は、そのことを伏せ、何も知らない素振りで聞き出そうとしたのだった。
「それはおそらく、『滅びの伝承』でしょう。我が世界に伝わる、不吉な予言のようなものです。娘からお聞きかもしれませんが、この子には兄がいましてな。その兄妹が出会う時、全ての世界はたちまちに滅亡の危機に陥るということなのです。私は民たちに不安をかけないようにと、心を鬼にして息子を城から追い出し、親類に預けたのです。たかが予言、伝説だとお思いかもしれませんが、万が一にもそのようなことがあってはいけないと思い、そうしたのです」
エクスから聞いた話とほぼ同じであった。その話が終わると、再び沈黙が流れた。そして次に口を開いたのは、皇帝だった。
「さて、重い空気を換えましょう。今度は私からひとつ質問させていただいてよろしいかな?」
「はい。もちろんです」
リョウマは、皇帝の目が自分に向いていると感じ、姿勢を正して返事をし、何が来ても答えられるように心の準備をした。
「ありがとう。では、あなた方の職を教えていただけますか?」
「へ? しょ、職業…ですか?」
どんな質問が飛んで来るのかと身構えていたリョウマは、面食らい、思わず変な声が出てしまった。
「そうです。私の娘を育てていただいた方ですから、さぞ徳の高い方なのだろうと思いましてね。差し支えなければ、お教え願えますかな?」
とてつもない期待をかけられている。そう感じたリョウマは、更に答えづらくなっていた。自分の職業…学生だなんて答えていいものか。無職なんて答えたら、どんな顔をされるか。アルバイトはしてきたが、どう表現すればいいのか…?
「ウマ兄、ウマ兄」
アスカがリョウマの身体をこっそりつつき、注意を引き付けている。彼女の方を見ると、アスカは声に出さずに口を動かしていた。母音のオ、ウ、イの形をしていた。
リョウマはそれを解読しようとしていたが、全く見当がつかない。二人のやり取りを見ていた大臣が、心配そうに尋ねてきた。
「リョウマ様、アスカ様、いかがなされた?」
「いえ何も。こちらのことですので」
そう言うとリョウマは、アスカを引き寄せて自分に近づけた。ヴァルも心配になったのか二人に近づき、リョウマは二人だけに聞こえるように話を始めた。
「なあ、今なんて言おうとしたの? 申し訳ないけど全然わかんなくて」
「…逆になんて言ったと思うのよ。言ってみてよ」
自分のしたことが伝わらなかったアスカはイライラをにじませていた。リョウマは頭に浮かんだことを口に出した。
「えっと……こ・う・し…かな」
「なんだ、わかってるじゃない。そう言ったのよ」
「え? 合ってんの?」
「…は?」
きょとんとした面持ちでアスカを見るリョウマ。それに対ししかめ面をするアスカ。両者の考えていることは明らかにずれていた。
「…どうも会話が噛み合わないわね。今考えてること、全部言ってみなさい」
「いやだって、子牛ってさ。俺、牧場のバイトなんてしたことないし…。嘘つくわけにはいかないだろ?」
アスカは一瞬、ポカンとした表情を浮かべたが、すぐに真顔になると声を潜めながらも語気を強くして言い放った。
「おバカ。そんなことあたしが一番知ってるわよ! あたしが言ってるのは塾の講師よ。ティーチャー、せ・ん・せ・い!!」
リョウマの耳を引っ張って囁くアスカ。リョウマは自分の勘違いに恥ずかしさと笑いがこみ上げてきた。
「あ…ははは、そっちか。なるほどね」
「まったく、どうしてそんな間違いするのかしらね」
「緊張してんだよ。だからちゃんと頭が回らないんだ」
「くすすっ」
ヴァルが小さく笑いをこぼしていた。
「おおい…ヴァル姫様よう…」
「すみません、つい」
一連のコントのようなやり取りのおかげか、リョウマはずいぶん緊張がほぐれていた。皇帝の方を向き直すと、はっきりと答えた。
「陛下、失礼いたしました。私は講師を務めさせていただいております。人に物事を教える仕事をしております」
「ほう、講師ですか。なるほど、私の娘がここまで立派に育ったのは、あなた方のおかげなのですね。人の上に立つべき者、と言えるでしょう」
「いや、そんな…恐れ入ります」
皇帝から直々にお褒めの言葉を受け、満更でもない表情を浮かべるリョウマ。アスカはやれやれ、とため息をつき、ヴァルはほっと胸を撫で下ろしていた。
場の空気が落ち着いた時、ヴァルは心にずっと引っ掛かっていたことを聞くことにした。
「あの、お父様。私からもお聞きしてよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。遠慮せずに聞きなさい」
ヴァルは一度目を閉じて深呼吸し、決意を固めると口を開いた。
「先日、隣の世界に通りすがった時です。そちらで崇められていた神様を…とある一角獣が殺してしまったと聞きました。その一角獣というのは……わ、私の、ことなのでしょうか?」
ヴァルの質問が終わると、広間は不思議なほど静まりかえった。あたかも、全員がその事実を承知しているかのようだった。
「…そうか。知ってしまったのだな。確かに大地の世界の神を亡き者にしたのは一角獣。しかしそれはこの私だ。お前は私と一緒にいただけなのだよ。おそらくどこかで言い伝えが変化していき、お前が神を殺したと伝わってしまったのだろう。お前は何も気に病むことはないのだよ」
優しく語りかける皇帝だったが、未だ腑に落ちなかったアスカは割り込む形で尋ねた。
「横から失礼いたします陛下。大地の世界の神の命を奪ったのは、何か理由あってのことなのですか?」
「はい。先にも申した通り、私は長い時を生きる者。その過程で、不思議な力を得たのです。それは予知の力。ある程度ですが、先の未来を見透すことができるのですよ」
「予知…ですか」
「そうです。その力で、あの神が強大過ぎる力を制御できず、近い将来に世界ひとつをを滅ぼすということを知り、未然に防ぐためにやむなくそうした、ということです」
流石のアスカも、全てを理解できたわけではないようだったが、ともかくヴァルが神を殺したのではない、それが明らかになっただけで、三人の肩の荷はかなり軽くなったのだった。
「良かったわね、ヴァル。あなたのせいじゃなかったのよ」
「え、ええ。そうですね…」
「さあ、そろそろ質問は終わりにしましょう。盛大にお祝いをしなくては。あなた方も、どうぞご遠慮なく。ゆっくり楽しんでいってください」
皇帝の一言で、広間の人々はあわただしく動き始めた。宴の用意をするらしい。ヴァルの世話係と思われる女性が、準備が終わるまでこちらでお休みください、と三人を案内し、リョウマたちはそれに続いた。
部屋へと続く長い廊下を歩きながら、リョウマはアスカに尋ねた。
「なあ、アスカ」
「何? ウシ兄」
「…おい」
「ごめん、思い返したらちょっと面白かったから。で、何?」
「あの皇帝陛下の話だけど、全部理解できたのかなって。俺はこういうの疎いからさ。正直まだわからないことが多くて」
前を歩く世話係には聞こえないよう、声を潜めて聞くリョウマ。アスカは少し考えた後、自分の考えを述べた。
「そうね。あたしも全部が全部理解できたわけじゃない。でもとりあえず、ヴァルの失踪と、あの神様殺しの事件の真実がわかっただけでも良かったと思う」
「そうだよな。あとは滅びの伝承とかいうやつもあるし、まだまだ謎は多いってわけか。…そういえば」
謎という単語で、リョウマは気になったことがあった。
「どうかしましたか? リョウマさん」
「いや、お前のお父様、皇帝陛下のお名前を聞いてなかったなと思ってさ。教えてもらってもいいか?」
ただ何気なく聞いたリョウマだったが、ヴァルは答えなかった。いぶかしんだリョウマはもう一度聞いた。
「どうしたんだヴァル?」
「いえ、それがその、お父様のお名前を思い出せないのです。まだ取り戻せていないのでしょうか…?」
そこに横槍を入れたのは、世話係だった。その部分の会話が聞こえていたのだろう。
「陛下のお名前でございますか? それは誰も存じ上げないのですよ。大臣閣下をはじめ、位の高い方々も誰一人存じていらっしゃらないと思います」
さらりと言ってのけた世話係に、リョウマとアスカ、そしてヴァルも驚いた。
「し、知らないんですか? 自分たちの陛下の名前を?」
「はい。陛下は以前から、民たちを集めておっしゃっていました。個々の名前というものは我々が勝手につけるもの。この世に生を受けた者にとって、それはかりそめの呼び名でしかない、我々は等しくあらなければならない、我々は誰でもなく、ただ一人の『人間』であるのだ、と。…お部屋に到着しましたね。ではこちらに。どうぞごゆっくりなさってください」
世話係は、深々と頭を下げると、広間の方に戻って行った。部屋に入ると、ベッドが二人分用意されていた。リョウマとアスカはここで、ヴァルは自室で眠ることになるようだ。
ベッドに腰を下ろしたリョウマは、世話係の話について切り出した。
「名前はかりそめのものだってさ。変わった考えだな。どう思う?」
「確かに極端だとは思うけど。でもそれが陛下のお考えなら仕方ないわよ。そういう思想があってもいいと思う」
同じようにベッドに腰掛け、考える人のような姿勢でアスカは答えた。
「相変わらずアスカは冷静だなぁ。お前の言ってた話と真逆だから、気を悪くしたんじゃないかと思った」
「あたしだって子供じゃないんだからそんなことないわよ。それに、異なる価値観を例え受け入れられなくても、そういう考え方もあるって認めることは大切だと思うの。それができなきゃ、ただの独裁者になっちゃうわよ」
その時、部屋に世話係が戻って来た。二人は会話を止め、世話係の方を見た。
「申し訳ありません皆様、突然のことだったので宴のご用意が間に合いませんでした。それに本日は日が傾いて参りましたので、今夜はこちらで夜を明かし、明日存分に楽しんでいただきたいとのことです。姫様はご自分のお部屋でお休みくださいませ。お父上も、二人だけでゆっくりと話がしたいとおっしゃっています」
「は、はい。では…。リョウマさん、アスカさん、遠慮せずにゆっくり休んでくださいね」
「ああ。お前も楽しんでこいよ」
「そうよ。あたしたちのことは気にしないでね」
世話係に連れられ、ヴァルは自分の部屋へと戻って行った。
残された二人。リョウマは大きく伸びをすると、ベッドに横になった。
「寝るの?」
「うん…。色々あったし、わからないことばかり考えたら疲れた。腹も減ってるけど、それよりも眠りたい…」
「そう。あたしはもう少し色々見てみたいから、ちょっと出てくるわね」
「ああ、わかった…」
答えながらリョウマは、深い眠りへと誘われて行った。