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世界の巡回

「まあ…妹様とお会いすることができたのですね。私からも心より祝福いたします。本当に良かった…」

 双子の世界(ジェムニルド)でエクスと別れてから、リョウマたちはアスカの無事を伝えるため、訪れた世界を巡っていた。現在は試練の世界(タスクルド)で族長ソファリアに会っていた。

「はじめまして、アスカです。ヴァルたちから話は聞いています。私のことで色々とご心配をおかけしたようですね。ありがとうございました」

 族長と初対面であるアスカは丁寧に挨拶した。ソファリアは相変わらず柔らかな微笑みで応えている。その後、リョウマは気になっていたことを尋ねた。

「お手数おかけしました。俺からも御礼申し上げます。ところで族長様、お願いしていたあの件なのですが…」

 ソファリアたちタンガ族に作ってもらうことを約束していた、炎雷の剣を使えるようにするための装備。その進捗(しんちょく)状況を聞くためにもこの世界を訪れていたのだった。

「はい、あの剣を使うための武具でございますね。残念ながら未だ完成には至っておりません。もう半分ほど出来上がってはいますが、あと二日もあれば完成するかと思います」

「そうですか。わかりました、またその頃伺おうと思います。じゃ、行こうか。みんな」

 踵を返し、次の世界へと向かおうとしたリョウマだったが、ミーアが子供のように反抗した。

「えーもう行くの? 少し休もうよ。あの洞窟抜けてからずっと休んでないじゃん。流石のミーアさんもくたくただよ」

 アスカを見つけるまでついていくと言ったミーアだったが、なぜかまだリョウマたちと共にいた。

「あのな、遊びに来てるわけじゃないんだぞ。アスカを探すっていう目的は達成できたけど、また新しい目的ができたんだし…っていうかあんた、まだついてくるのか?」

「うん。言ったでしょ? お宝よりもスリルが楽しみだって。ドキドキの匂いがすれば、どこにだって行くよ。断られたってついていくもん、ね」

 平然と言ってのけたミーアに、リョウマはため息をひとつつき、観念したように言った。

「はぁ、仕方ねーな。勝手にしろよ。それじゃ気を取り直して、次行くぞ」

「あの、よろしければもう少しごゆっくりなさってください。我々のことでしたら構いません。宿をご利用になりますか?」

 事情を知らないソファリアは休息を勧めてきたが、アスカがそれを断った。

「お気持ちはありがたいのですけれど、あたしたち行かなきゃいけないところがあるんです。この子の故郷がわかったものですから」

「おーそうだった。ヴァルちゃんのお父さんに会いに行かないといけないんだった。わたしってば忘れちゃってたよ」

 ミーアはてへっと言葉を付け足し、わざとらしく舌を出しておどけた。

「そうでしたか。それも喜ばしいことでございますね。では私は、皆様の旅の成功を引き続き願うことといたします。これからもどうかお気をつけて」

「ありがとうございました。武具のこともありますしまた後で来ます」

 リョウマたちはソファリアに再び別れを告げ、次の世界へと向かった。


「さて、次に行くべきは氷の世界(フロズルド)かな。ここからならどう行けばいいんだ?」

 村の入り口まで来たところで、リョウマはヴァルに尋ねた。が、返事は返って来なかった。

「…ヴァル? 聞こえてるか?」

「は、はい!すみません、ちょっとボーッとしていました…」

 これまでになく、ヴァルの様子がおかしいと感じたリョウマはストレートに聞いた。

「大丈夫か? 兄さんと別れてからあんまり口数多くないような気がするけど。何かあったのか?」

「いえ、何でもありません。フロズルドへ向かいましょう。こちらから行けます」

 リョウマの心配を振り切るかのように、ヴァルは足早に次元の穴の方向へと歩いて行った。普段のヴァルらしからぬ行動に茫然としたところに、アスカが追い討ちをかける。

「女の子には触れてほしくないことがあるのよ。ちょっとデリカシーなさすぎじゃない? 全く、これだから男は…」

 そう言い残すと、ヴァルの方へ走って行った。何が起こっているのかわからないミーアは、立ち尽くすリョウマにそっと聞いた。

「ね、どうしたの? アスカもヴァルちゃんも様子がおかしいけど…」

「ああ…ヴァルはわかんないけど、アスカは多分アレだな。あいつの手帳を俺が勝手に持ち出したから、それで怒ってるんだ」

「ふーん。けっこう気難しいんだね、アスカって。ま、そんなに気にすることないと思うよ。わたしたちも行こ」

 ミーアに促され、リョウマも後に続いた。


 フロズルドを訪れた一行は、ヴァルの魔法で服装を変え、長老のいる屋敷へと向かった。寒々とした気候に慣れていないミーアは、服装を変えてもなお歯をカタカタと震わせていた。

「うぅっさむっ…。こんなところ初めてだよ。心臓止まるかと思った…」

「ミーアの世界は暑いところだもんな。無理すんなよ? 一度帰ってもいいんだぜ?」

「ううん、大丈夫。リョウマといれば平気だから」

 ミーアは、恥ずかしげもなくリョウマにくっついて来た。彼女の身体が触れると、リョウマは思わず身体が強ばった。

「お、おい、こんな時に何を…」

 そう言いつつアスカをちらと見ると、呆れたような表情で皮肉を述べた。

「仲のよろしいことで。良かったわねウマ兄。いいお友達ができて」

 アスカはヴァルの手をとり、先に行ってしまった。

「はぁ、あいつ、本格的にイラついてるな。なんとか機嫌を直してもらえないか…」

 寒がりながらもまだまだ元気のありそうなミーアを引き剥がし、リョウマはため息をついた。


 長老の屋敷に到着すると、前回訪れた時のように家族が入り口を守っていた。既に顔見知りだったヴァルたちは、問題なく通してもらうことができた。

 奥の間に入ると、長い髪と髭を蓄えた長老が出迎えた。目が不自由なため、家族が説明して事情を理解してもらうこととなった。

「ふむ、なるほど。探していた妹君が見つかったと。それは誠にめでたいことでございます。我々も村の周囲を探しておりましたが、道理で見つからなかったわけでありますな」

「すみません。あれからも探していただいていたとは…。色々とご迷惑をおかけしました」

 深々と頭を下げて詫びるリョウマだったが、長老は気にする様子もなく、首を横に振った。

「いえいえ、妹君がご無事だったことが何よりです。アスカ様とおっしゃいましたかな。私はこの村の長と呼ばれておる者です。ご兄妹とお会いできて、さぞご安心なさったことでしょう」

 長老に話しかけられたアスカは、一瞬考えた後、答えた。

「ええ。私からも感謝いたします、長老様。()()()会えて本当に良かったです」

 アスカは兄弟と、とは言わず、あえて家族と言った。未だにリョウマとの距離は離れたままだった。それが気にならなかったわけではないリョウマだったが、無視して話を進めた。

「それでは長老様。無礼を承知の上で、これで失礼いたします。先を急ぎますので」

「もう行ってしまわれるのですか。よろしければもう少しごゆっくりしていっても構いませぬぞ?」

 フロズルドの長老はタスクルドの族長と同じことを言った。アスカは同じように説明をした。

「ほほう、今度はヴァル様の故郷がわかったと。いやはや、良いことづくしでありますな。では我々が引き留める理由もありません。どうかお気をつけて。またお会いできることを願っております」


 長老に別れを告げ、村を出ようとした時、入り口付近で見慣れた顔に遭遇した。この世界で出会った姉妹、ニィヴとスニーだった。

「あっ、この前のお兄ちゃんお姉ちゃん!また来てくれたんだ!一緒に遊ぶ?」

「こら、スニーったらすぐそれなんだから…。ご無沙汰しています、皆さん…えっと、初めての方もいらっしゃるようですね。はじめまして。私はニィヴと申します。こっちは妹のスニーです」

 リョウマたちの中の誰よりも若いニィヴだったが、非常に礼儀正しく挨拶をした。アスカは少したじろいだが挨拶を返し、ミーアも後に続いた。

「はじめまして、ニィヴちゃん、スニーちゃん。あたしはアスカよ。覚えてね」

「こんにちは。わたしはミーアだよ。よろしく、ね」

 二人が挨拶を終えると、ニィヴは一礼をした。その頃スニーはヴァルの元にいた。

「お姉ちゃん、元気? あれから色んなところ行ったんでしょ? お話聞かせてー」

「止めなさいスニー。すみません、ヴァルさん。ご迷惑をおかけして…」

 しかしヴァルは、心ここに在らずといった様子で歩いていた。その姿を、ニィヴもスニーも不安気な表情で見ていた。

「ねぇ、ヴァル?」

「…はっ!はい、何でもありません!…すみません、少し考えごとをしていたもので…」

「ごめん、俺たち急いで行かなきゃならないんだ。また今度遊ぼう。約束するから、またね」

 心配そうに会話を聞いていたニィヴとスニーに別れの言葉を残し、リョウマたちは村を後にした。


 ニィヴ姉妹から離れた森まで来た一行は、一度身体も心も落ち着かせようと、木の切り株に腰を下ろした。

「ヴァル、あたしも細かいことは気にしないようにしたし、あんまり問い詰めてもいけないかなと思ったから何も言わなかったけど、やっぱりあなた様子がおかしいわよ。悩みがあるなら、あたしたちに話してくれない?」

 女の子には触れてほしくないことがある、と一度は言ったアスカだが、ヴァルの異変を目の当たりにすると聞かずにはいられなくなった。ヴァルはエクスに言われた、昔の自分自身についてのことを一番気にしていたが、話しても解決には至らないとも思っていた。

 実はもうひとつ、ヴァルは悩んでいたことがあった。今後の旅について、リョウマたちに迷惑がかかるのではないかということである。それについては、この場で打ち明けることにした。

「あの、思いきってお話しします。これからのことについてですが、ご存知の通り私はお父様の元へ行こうと思っています。行き方も思い出しましたので、あとは向かうだけなのですが…正直に言いますと、皆さんは元の世界にお帰りになって、私だけで行くのが良いかと思っているのです。謎の敵も現れたことですし、皆さんが危険な目に会うことも考えられますから…」

 全てを告白したヴァル。聞き終えたリョウマは、腕組みをしたまま重く口を開いた。

「なあ、ヴァルよ」

「はい…」

「もしお前が俺たちの立場だったとしてさ、良かったですねヴァル、お兄さんと出会えて。え? これから故郷に帰る? お父さんに会いに行く? 大変ですねー。じゃあ私たちはもう関係ないので、元の世界に帰らせていただきますね。一人で頑張ってくださいね……なんて言えるのか?」

「それは…」

 口ごもるヴァル。答えを聞く前に、アスカが代わりに答えた。

「そんなことできるわけないわよね。そんな薄情なやつ、叩きのめしてやりたいわ」

 絶賛喧嘩中の神宮司兄妹だったが、ここでは意見が合致した。ミーアも主旨は違えども、共に行動する意思を示した。

「そうだよ。水くさいじゃん。ヴァルちゃんはもっと甘えていいと思うよ。ちなみにさっき言った通り、わたしはついて行きたいからついて行くんだから。断っても無駄だよ」

 全員の想いを受け止め、ヴァルは黙って少し考えた。やがて、再び口を開く。

「あの、よろしいのでしょうか?」

「当然よ。今さら何を言うのかしら?」

 クールな返しだったが、アスカは優しい微笑みを見せた。リョウマとミーアは、何も言わず頷いた。ヴァルも笑みをこぼし、頭を下げて感謝の意を表した。

「皆さん、本当にありがとうございます。私も全力で皆さんをお守りしますので、どうかよろしくお願いいたします!では、次の世界へ参りましょう」

 ヴァルの案内で、一行は次なる冒険へと旅立っていった。



 次元の穴を抜けて、新たな世界に足を踏み入れたリョウマたち。そこはどこかの山の中であった。

「着いたな。今度こそヴァルの故郷というわけだ」

「いいえ。実はここでもないのです。ここは、大地と豊穣の世界『ランドリア』といいます。私の故郷、『ファンタティナ』に行くには、この世界を通る必要があるのです」

「つまり、この世界の先にヴァルの故郷がある。この隣の世界ってことよね?」

 その通りです、皆さん行きましょうと言おうとしたその時、女性の悲鳴が聞こえた。一同が驚き、声のする方向へ向かうと、この世界の住人と思われる中年の女性が腰を抜かしていた。その視線の先には、もはや見慣れてしまった不気味な怪物が対峙している。

「あ、ああ…誰か、助け……」

「カオスだ!こんなところにもいるのか…!」

「大変です、助けないと!」

 ヴァルは戦闘態勢をとり、槍を構えて両者の間に割り込み、風のように俊敏に、カオスの弱点である腹部の単眼に一撃をお見舞いした。攻撃を受けたカオスは動きを止め、塵になって消え失せた。

「ふぅ…大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう。助かりまし…!?」

 女性の身を案じ、手をさしのべたヴァル。女性は安堵の表情を浮かべ、差し出された手をとろうとしたが、彼女の姿を見ると顔色を変えて逃げるように去っていった。

「けほっ、どうしたんでしょう? あんなに慌てて…」

 女性が去る時に勢いでかけられた砂で咳き込みながら、ヴァルはその行動をいぶかしんだ。

「何事かわからないけど、恩知らずねぇ。大丈夫ヴァル?」

「はい。あ、そうです、皆さんこの世界の服装に変えましょう」

 ヴァルは魔法で、全員の服装を適応したものに変えた。リョウマたちの世界の、アジアの民族のような涼しげな服装になった。

「サンキュー。ここは暖かい気候みたいだな」

「いいねこの服。なんだか神様に使える巫女さんみたい。気に入ったよ」

 ミーアの服装は露出が多く、以前の服装よりも薄い生地でできていた。いかにも踊り子という姿にリョウマは思わず、目を背けた。

「よ、よしじゃあ行くか。ヴァルの故郷に通じる穴を探せばいいんだな?」

「はい。誰か人に尋ねるのもいいでしょう」


 ヴァルたちは次元の穴を探し、ランドリアを歩き始めた。

 しばらく歩くと、人の住む集落を見つけた。入り口の看板に、案内が書いてある。四人は近づいてその文字を読んだ。


『ようこそ、大地と豊穣の世界ランドリアへ。ここはティアラ村。かつてこの土地に恵みをもたらした、神様を祀る場所です』

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