妹? 22
「ただいまー!!」
軽快な女性の声が家の中に響く。やたらと頭の悪そうな声で「お母さんが・帰って来たぞ・お迎えは?」などと靴を脱ぎながら呟いている侵入者は何を隠そう、俺と秋穂の母親の生田 楓子だ。母は、俺に気づくと分厚いファンデーションで加工された顔をニコリと歪ませて、年の割に張りのあるデカい胸を揺らしながらパタパタと駆け寄ってくる。
「ナツ君~ただいま~♥ 出迎えてくれるなんて、お母さん嬉しい♥ 今日から高校生になったから甘えたくなっちゃったのかな? ママと一緒にお風呂入るぅ~?」
偉く若作りした金切り声でそう言うと俺の顔に胸を押し付け身を絡めてくる。
「うるせえぇ、ババァ! うっとおしいぞ」
俺は罵声を浴びせるように言うと押し付けられた胸を鷲掴みにして放り投げる。
「いやん!」
弾力のある母の胸がバインバインと揺れ身をよろめかせる。
「おばさん! お帰りなさい!」
冬樹が威勢よく母に迎えの声を掛ける。
「あら、冬樹君来てたのね。お出迎えしてくれるなんてカエデ超幸せ♥ でも、私のことはおばさんじゃなくて、カエデお姉さんて呼ぶようにしなさいって言ったでしょ♥」
母はそう言うと人差し指で冬樹のデコを突いた後、頬に軽く口づけする。
「わかったよカエデおばさん!」
冬樹はそう言って顔を赤くするとニコニコと笑顔を返す。
「まあ、この子ったら、この年で私の心を弄ぶなんて……ふふ♥」
何を思っているのかうっとりしている母を深く軽んじていると母と目が合う。
「どうしたのナツ君? あッ! もしかして妬いちゃった~? 大丈夫、お母さんはナツ君一筋だから♥」
「……」
取りあえず無言で目線を逸らすと母はお腹を押さえて「うッ、子宮が」と体を身震いさせている。大丈夫か、このおばさん?
「お母さんお帰り」
秋穂がおずおずといった様子で顔を出すと母を出迎えた。
「あら、秋穂? お風呂に入っていないようだけどどうしてかしら?」
先ほどとは一変して母は冷淡な態度になり、詰問する。答えあぐねる秋穂の代わりに冬樹が答える。
「今まで皆でゲームをしてたんだよ」
秋穂が「あッバカ……!」と小さく呟くと同時に母が「秋穂!」大きな声を出す。
「ノートを出しなさい」
母の威圧に身を震わせた秋穂が「はい……」と言ってどこからかノートを取り出す。
「秋穂、これはどういうこと? 私の出した宿題が半分も終わっていないじゃない。それにこのページが空白? どういうこと! 春香は! 春香はいったいどこにいるの!?」
母が血相を変えて春香の名前を呼び出したところで二階から寝巻の春香が降りてくる。
「はい。カエデ様」
そう言うと春香は母の前で傅く。
「今はいいから立ってこちらに来なさい」
母が春香と秋穂を連れ俺から距離を取るとこそこそと話し始める。
「どうして……ないの……今日……一から……」
「それは……でして……教室が……それと……」
「……!?……女教師? ……ブチコロ……!」
物騒な言葉が聞こえたが軽く流しておくと、背後から大文字がリビングから廊下へ出てきた。
「あのー、そろそろよろしいでしょうか? 私、大文字……」
その声聞こえたと同時に、井戸端会議の如く輪を作って会話していた三人の声が止み、その輪の中心人物が凄まじい形相で振り返る。
「あッ?」
「ひッ!?」
もはや別人と言っても差し支えない程度には鬼の形相をした母が振り返り、その怪物の注目を一身に浴びた大文字は身じろぎし、思わず声を上げた。
「なんだオメエは?」
肝の据わっている女だと思っていた大文字が母のドスの利いた声で一気に動揺し、しどろもどろになり答えれない。
「チッ」
これでは埒が明かないと思ったのか、母は秋穂と春香に「こっちで話すぞ」と言って顎でジェスチャーすると大文字の首根っこを掴んで客間の方へと連れて行った。一瞬暴れて俺に助けを求めた大文字であったが、一瞬で母に絞め落とされ、だらんとした様子で引きずられる。秋穂と春香もそのあとを追って行くがその表情はどこか暗い様子だった。まるでお通夜の参拝客のようだ。
春香と目が合った俺は、今おっぱい触っちゃダメな空気だな。と顔に出さずに考えていると春香はどう思ったのか少し柔らかい表情で返してきた。
「冬樹、リビングでゲームしようぜ」
「え!? いいの? じゃあ、あれやろうよ。メタルギアソウル!」
残された俺と冬樹はゲームで時間を潰すことにした。




