妹? 16
俺は、春香に連れられ台所に顔を出すと、そこでは既に、秋穂がハンバーグのタネを成形している最中だった。秋穂は自分の手のひらに収まるぐらいのタネを両手でリズミカルにキャッチボールする。不審者が家に上がり込んでいるというのに、妹は鼻歌を奏でながら上機嫌で作業を続ける。そう言えばこいつは料理が好きで
昔からよくお母さんの手伝いをしていたな。最近では、春香と同じくらいの頻度でご飯を作ってくれている。もしかしたら、家族以外の人に手料理を振る舞えるのが嬉しいのかもしれない。
俺は黙々と人数分のハンバーグを作る秋穂の背中を軽く叩いて「偉いぞ秋穂ー、俺のハンバーグはデカいの作れー」と口を挟むと秋葉は「嫌、めんどくさい」と一蹴する。
秋穂と軽いスキンシップをすると俺は”トントントン”と野菜を手慣れた手つきで刻む春香に声をかける。
「さあ春香様、ワタシャー何をすればよろしいでしょうか?」
俺が春香に何のお手伝いをすればいいか要求する。春香は目線を切っている食材から離さず沈黙をしており、少し考えているように見える。十秒ほど彼女の手元からは”トントントン”と音だけがリズムよくしていたが、急にその音はピタリとやむ。春香は手の動きを止め、キョロキョロと台所周辺を確認すると俺に視線を向ける。
「あー……、特にやることないから、そこで待機してて」
そう言うと彼女は”トントントン”と食材を切り刻む作業に戻った。ふむ、どうやら彼女は特に俺に手伝わせることがないのに俺を呼んだらしい。まあ、食卓で淫行が行われていたら鬱陶しいよね。もし、逆の立場だったらどこぞのお笑い芸人張りに『代われ』て言ってるもん。あー、春香のお〇〇〇にお〇〇〇〇擦り付けたいんじゃ~。
手持ち無沙汰になった俺は、目新しい制服にエプロンを身に纏った春香を後ろから眺めていると、後ろから厄介者が声を掛けてきた。
「お兄様、私も何かお手伝いできることはありますか?」
大文字が背後から俺の背中をなぞるように体を密着させ、耳元で囁く。わあ、おっぱいが当たってるよぉ!
「なんもないよ! お客様は座ってな。てか、離れろ」
俺がそう言って大文字の顔を手で押して引き剥がそうと試みる。しかし大文字は「そんなことを仰って、本当は嬉しいくせに」と、やけに強気なことを俺の手で圧迫され歪む顔で言う。
(コイツ、さっきのことで調子づきやがったな)
俺は、いつまでも離れようとしない大文字を本格的に引き剥がそうと躍起になっていると、台所から聞こえていた”トントントン”と包丁を走らせる音が止んでおり、代わりに”ドン”という、鈍い音が響く。
その物音の先には、やはり春香がこちらを見ており、何やらブツブツと呟いている。だが、すぐにいつもの女神さまのようなすべての人を包み込む笑顔へと戻り、こちらに声を掛けてくる。
「大文字さん、ちょうど今、手を貸して欲しかったところなんです。こちらで野菜を切ってもらってもいいですか?」
そう言って春香は大文字に呼びかける。あれれー? おかしいなあ。俺が聞いたときは、何もなかった気がするけどなあ?
俺が(そうか、春香の奴、俺が女の子とベタベタしているのが気に入らないんだな。へっへっへ、可愛い奴め)と、自分に都合のいいように解釈していると、大文字が俺から離れ、彼女の額に一筋の汗が這う。
「ええ、いいでしょう。さあ、いったい何を私に切れと?」
まるで今までにない強敵に会い、勝負に挑む少年漫画の主人公張りの表情を引っ提げて彼女は春香の側まで歩み寄る。俺は美少女二人が台所に立つのを見て、今スカート捲ったらどうなるんだろうか? と良からぬことを考えていた。
(ん?)
俺は先ほどの”ドン”という音がなんだったのか気になった。音の発生源は春香の方からしたなと、まな板をふと見ると、まな板が真っ二つに両断されていた。俺は、どうしたものかと秋穂のいた場所に目を向けると既に秋穂はその場所から姿を消していた。ついでにリビングに居た冬樹もいない。作りかけのハンバーグを見るに逃げたようだ。
俺は、やれやれと肩を竦めて、ハンバーグの下へと向かった。




