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今日一番の思い出

 ガラッ。


 今まさに俺が渡辺先生にマウントを取られ殺人が行われようとしていた時に保健室の扉が開かれた。渡辺先生の動きがピタリと止まり、皆の視線(笑っている一人を除いて)が開かれた扉に集まる。


「失礼します。ここに一年八組の生田君が運ばれとお伺いしたんですが……え?」


 重たそうな紙袋を二つ、両手に持ち保健室に入って来たのは俺の幼馴染の山形 春香だ。よく来てくれたマイスイートハニー!! もう少しで刑事事件か起こるところだった。


 俺が嘆願する思いで春香をうるうると見つめていると春香は何を思ったのか険しい顔でこちらを見つめる。


「いったい何が行われているの夏樹?」


 その綺麗な顔を険しく歪ませながらこちらに質問してきた。思い返せば彼女の疑問も納得だ。俺は顔から鼻血を流しながら正座をさせられており、一人は普通に立っているだけだがこの状況では腕っぷしの強そうなこのデブが俺をシメたように見えるし、もう一人は今だにお腹を押さえて笑っている。そして今まさに俺に掴みかかり拳を振りかざしている彼女は一目で教師と分かるからである。


 しかし、その教師である渡辺先生が鼻血を出して正座させられている俺に暴行を加えようとしていれば春香に関わらず常人ならば、この状況を理解するのには、さぞかし難儀することであろう。


「違うんだ春香。聞いてくれ、これには深い訳が……」


 そう言って俺は左手を春香の方に突き出したところで”はっ”と気づく。今俺の手にはどういう訳か渡辺先生のパンツが握られてあるからだ。


「ちょっと夏樹……。それはいったい……」


 春香は手に持っていた紙袋を床に落とすと両手を口の前に移動してプルプルと震える。


「夏樹が高校デビューしちゃった……。私のだけじゃ満足できなくなったのね!」


 そう言うと春香は廊下の方へ走り出す。なんてことだ! 俺がパンツを拝借していることに気づいていたのか!? ってそんなこと考えてる場合じゃない。俺は春香を呼び止めるべく声を張り上げる。


「違うんだ春香!! 聞いてくれ!! これには深い訳が!!!」 


 俺はなぜ今、浮気がバレた男の言い訳のようなことを言っているのだろうか……。隣で立っているメスゴリラが俺のセリフにクスリと笑った。その仕草を見て少しかわいいと思ってしまった自分が無性に腹立たしい。


「……ちょっと待て! 君! 話があるから取り合えず待て!!」


 先ほどまで放心状態だった渡辺先生が息を吹き返し、血相を変えて春香の行った方向へ走り去っていった。


 残された俺たちは呆気にとられたかのようにその場に立ち尽くしていた。他の二人、特にお腹を押さえ「フー、フー」とやっと息を整えている山本さんは見えなかっただろうが正座している俺は、立ち上がり走り出した渡辺先生のスカートの中身を今日一番の思い出にしようと心に決めた。


「アンタ、あんな可愛い彼女いるんだからあんまり変なことしないように気をつけなさいよ」


 クスクスと笑いながら俺に助言をするメスゴリラを可愛いと思ってしまった自分がどうしても憎い。


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