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やさぐれスライムの勇者育成日誌  作者: 夜明けまじか
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埋められました

 目の前が、真っ暗でした。

 ワクワクしながら転送の終わりを待っていたスライムは、自身の状態に愕然としました。

「~~~~~~~~ッッ(な、なんっじゃこりゃあああああッッ)!!?」

 視界どころか、口を開くことすらできません。全身が石膏で塗り固められたかの様に身動きできず、明らかな異常事態でした。

 思い当たる可能性は、ただ一つ。

(あんのクソババア何しやがった!?)

 別れ際、女神様のさわやかな笑顔の意味がようやく解りました。こうなる事が分かっていたに違いありません。おそらく、地面か岩山にでも埋め込まれてしまったのでしょう。

 今のスライムならば無呼吸でも数日は生きていられるため、驚きこそすれど焦りはありません。

 それでも不快な事に変わりなく、スライムは内心歯軋りします。

(やってくれやがる……!)

 初っぱなからこんな嫌がらせをしてくるくらいですから、これから先にも色々待っているに違いありません。

 スライムは早くもやる気をなくしつつありましたが、しばらく考えて思い直しました。

(確かにいきなり驚かされたが、しばらくあんババアの魔の手から逃れるチャンスには違いねえ。とりあえずこの場さえ乗り切れれば、あとは好きにしていいはず!)

 確信と言うより、自分に言い聞かせるようでしたが、なんとか気力が持ち直しました。

 無駄な動きを全てやめ、静かに全身に力を溜めていきます。するとスライムの体を固めている何かに、次々と亀裂が生じていきます。

 どうやら脱出自体はさしたる困難ではなさそうですが、問題はその後です。脱出した先が、必ずしも安全とは限りません。女神様の性根の曲がり具合を考えればむしろ、何も無い方がおかしいくらいです。

 ドラゴンの群れか――海底か――もしかしたら雲の上という事すらあり得ます。経験上。

 スライムは思い出しただけで涙が浮かんでくる回想と共に覚悟を固め、そこから飛び出しました。

「ぬらああああああああああああっっ!!」

 予想より乾いた衝撃の直後、体中に大気の流れを感じ、すぐに着地できました。どうやら海の底や空中浮遊ではなかったらしく、まずはひと安心です。

 しかし、まだ気は抜けません。

 スライムは着地と同時に猛ります。

「おらあああ! ドラゴンだろうが神獣だろうがかかってこ――――」

 言葉を最後まで紡げなかったのは息苦しかったせいではありません。


「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ! 魔神様がご光臨なされたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

「ひゃっはああああああああああ!! 今夜は宴だぜえええええええええええええええええっ!!」

 

 あまりに大きな歓声に、掻き消されてしまったからでした。

 何百人はいそうな人々が、老若男女問わず諸手を上げてフルスロットルです。こんな光景は、女神様の無茶振りの中でも見たことがありません。

 空気についていけず、スライムがぽかんと口を開けているところに、一人の初老の男性が近づいてきました。

 メガネを掛け知性的な佇まいを見せるこの男性が、彼らのリーダーなのでしょう。

 スライムが身構えていると、目の前まで歩み寄ってきた男性はおもむろに跪きました。

「ようこそおいでくださいました。我らが救世主様」

「救世主だぁ?」

「さよう」

 男性はスライムの背後を指し示します。そこには、先ほどスライムが埋め込まれていた物と思われる岩の破片が散らばっていました。

「魔王が現れはや十年……一日欠かさず皆で祈りを捧げて来ましたが、時の流れには勝てず諦めかけておりましたところ、この節目となる年に、御神体から貴方様が飛び出してこられたのです。これは神のお導きに違いありません!」

「いいえ。ものすごく人違いです」

「どうか、無力な我らの願いを聞き届けてはいただけないでしょうか?」

「…………」

 面倒事の気配をありありと感じたスライムは即座に否定しましたが、男性はちっとも気にしてくれませんでした。どうやら人のはなしを聞かない民族のようです。

 どうやら敵意はなさそうですが、このままとどまっていたら何をやらされるかわかったものではありません。

(こりゃとっととトンズラした方が良さそうだな)

 スライムは逃げ出すべく心の準備を整え――


「ところで今夜は救世主様歓迎の宴で酒に料理に、盛大にもてなそうと思うのですが」

「この救世主に何なりと頼むが良い。はっはっはっ!」


 あっさりと前言を翻すのでした。

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