初めては夜の公園で。
昼の騒がしさとは真逆の静まり返った道。いつもとは違う雰囲気を見せる深夜の町を歩くのが僕の趣味だ。高校生のとき、お茶を買いに深夜のコンビニを買いにいったあの日以来、これは僕の日課となっている。
さて、今日も自動販売機でお茶を買って公園のベンチで一休みしようか。
昼はいつきても誰かが座っているベンチだが、夜は誰もいない。もちろん公園にも誰もいないから、まるでこの広い公園内を独り占めしているようだ。僕は公園の柵のようなもの(あのカラフルな小さいやつ)をよけてベンチへと向かった。
あれベンチの真ん中に本を読んでる女の子がいる
僕は別に悪いことをしたわけじゃないが、ドクン!と心臓が飛び跳ねるような感じがした。冷や汗はぶわぁっと出てきてお茶は手の汗のせいで落としてしまいそうだ。最近痴漢とかいっぱいあるし僕も痴漢で訴えられるかもしれない。女の子が「痴漢です!」って言ったらあっというまに逮捕されてしまう。そしたら・・・僕の人生真っ暗だ!勘違いされるまえにアパートに戻ろう・・。そんなことを考えてて、僕は戻ろうとした。
「あ、ごめんなさい。邪魔でしたよね ?」
女の子がこっちに気づいたみたいでベンチの端によってくれた。せっかく寄ってくれたのでこのまま帰るのも悪いと思い、僕はベンチの女の子がいない方の端に挙動不審になりつつも寄った。
「あ、あの・・・ありがと、うござい・・・ます」
「そんな、良いんですよ。私が真ん中にいたので・・・あぁ!!」
「えっ」
女の子が僕を指さし急に大きな声を出した。え、え、知り合いだったっけこの女の子。いや、こんな子がいたらものすごく印象に残ってるはずだろ。はっ!もしかして悪い感じであの子におぼえられてるとか!?悪いこと・・・したっけ。万引きとかそういうのはもちろんしない・・・。もしかして、自動販売機のおつりから100円とったのがばれたとか・・・!あの時はラッキーくらいでとっちゃったけど・・・やっぱり100円でも自動販売機からお釣りをとるなんてやっちゃダメだよなぁ・・・。
そんなことを考えつつ僕が一体どんなことを言われるのかびくびくしていると。
「それっ!それっ!逆転にゃんこ係長のストラップですよね!好きなんですよ!私!」
逆転にゃんこ係長・・・?女の子が指差しているところを見ると、確かに僕の腰ポケットに入れていた鍵につけてる逆転にゃんこ係長のストラップがついている。
「あーこれ、友人にもらったんですよ。なんでもコンビニのくじで貰ったとか」
「えっ!それ一番いいやつですよ!ラストワン賞ですもん!」
へぇ。そんなレアなものだったのか。その割にはあんまり豪華じゃないけど。ラストワンって言ったらなんかフィギュアとかそういうのじゃないのか。
「原作のえま先生が首都圏のコンビニチェーン各1店舗限定でデザインしたんですよ!しかも同じデザインは世界に一つもないんです!」
女の子は顔を真っ赤にして目をキラキラさせて熱く語っている。そんなに好きなのか。マニアってやつだろうか。
「そんなに欲しいならあげようか?これ」
べつに好きってわけじゃないし、このストラップも欲しい人にもらわれていった方がいいだろう。鍵につけるストラップなんていっぱいあるし。
「えっ!あ、あの・・・そんな・・・」
「いいからいいから。ね?」
女の子は首をぶんぶん振って否定している。ちょっとかわいい。
「た、ただで貰うなんてなんかこう、ラッキーすぎません?裏があるんじゃ・・・」
「そんなのないよ!?ただで貰うのが嫌なら・・・じゃあ明日も来てくれる?ここに。」
「そんなことでいいんですか!なんかこう・・・同人みたいなことかと・・・・・」
なんかいまもにゃもにゃ聞こえたけど気にしないでおこう。
「ていうか、いまさら気づいたけどこんな夜遅くまで女の子がいて平気なの?今物騒だし、痴漢とか・・・。」
「だーいじょうぶです!なんたって私には防犯ブザーがありますから!なんなら鳴らして見せましょうか?」
「いや、いいよ・・・。そんなことされたら絶対僕逮捕されるでしょ」
さっき僕が言ったことで少しは時間が気になったのか、女の子は腕時計を見た。ピンクでとてもかわいらしいく、女の子らしい。
「あー・・・そうですね。遅いですね。あ!係長のストラップを忘れたとは言いませんよ!」
最初の謙虚さはなんだったんだ。別にいいけど。
僕は女の子にストラップを渡した。女の子は大事そうにそぅっと持つとカバンの中にそっとしまった。
「それでは、おやすみなさーい!また来ますからね」
ではではーと言いながら小さく手を振って帰っていく女の子を見届けた後、僕は自分の手の熱ですっかりぬるくなってしまったお茶を飲み干し、ゴミ箱に捨てた。
帰るかな。
ストラップがなくなって少し違和感のある鍵をなでながら、僕は自分のアパートへと向かった。
つづくよー
初!なのでおかしいとこあったらごめんなさい