序章〈赤き鎖〉
誰かが言った。
素晴らしいストーリーだと。
なんと、精巧に作られた作品だと。
悲劇の傑作だと
まさに、超大作だと。
別の誰かが言った。
これは、悲劇だ。
あってはならなかった悲劇だ。
もう二度と起きてはならない、繰り返してはいけない悲劇だと。
少女は叫ぶ。ひたすらに。
口を限界まで開けて、今まで出したことのない腹から絞り出す悲痛な叫びを喉から絞り出す。
少女は涙を流しながら考えた。
この世界の意味を。存在している意味を。
童話の意味を。
主役が決まっている理由を。
だが、少女が泣いても、声を上げて叫んでも何も変わることはない。
何も生まれない。
もう起きてしまった悲劇など、消えてしまった彼女など、消えかけている彼らなど、起きてしまったことを変えることはできない。
この赤い噺も、黒い童話も次の主役の死に方も、今の場面も何も変わってくれない。
ならば壊そうこの世界を。
ならば狂わせようこの世界を。
見届けよう結末を。
少女は、最後の独りになることを望んだ。
殺される主役を見届ける役を選んだ。
死に逝く彼らを、見守る役を選んだ。
自らの手で。
その役を、掴み取った。
少女は立ち上がり、台本へと眼を向ける。
そして、手を伸ばすと台本へ、否、その彼らの血に触れた。
次の主役、光に包まれた少女はその印が刻まれた鍵に縛られた。
そして徐に手を上げると、手にしていた刃物を首に宛がい、思い切り滑らせた。
首から溢れ出る真紅の血が、彼らの血によって赤く染まっていた少女の衣服をさらに赤く染め上げた。
手から刃物が滑り落ちると、少女は妖艶に笑って倒れた。
誰かが言った。
素晴らしいストーリーだと。
なんと、精巧に作られたストーリーだと。
悲劇の傑作だと。
まさに、超大作だと。
別の誰かが言った。
これは、悲劇だ。
あってはならなかった悲劇だ。
もう二度と起きてはならない、繰り返してはいけない悲劇だと。
台本に刻まれた悲しい生き様。
封印されし、最高で最悪な台本の幕が今上がる。
それは人知れずに悲劇へと向かい始めた。
いや、持ち主の元へと歩み始めた。
悲劇と共に




