石ころ
僕は今サボっている。もちろん仕事をだ。
とてもよく晴れていて、昼寝をするにはピッタリのいい天気だ。真っ青な空とそこをゆっくりと流れる雲を眺めながら、サボっている僕に気付かず畑仕事を熱心にしている親父を横目で見てつぶやいた。
「すごい魔法が使えたらこんな仕事一瞬で終わるんだろうなぁ……」
口に出して言ったところで現実の物になるはずがないのはわかっていても、ついついぼやいてしまう。
それというのも、来る日も来る日も親父と二人で畑仕事。豊作だろうが凶作だろうが、食うに困るほどではないものの収穫物のほとんどは税として持っていかれてしまう。こんな小さな村の農民の家に生まれてしまったことに僕は言い知れぬやるせなさを感じていた。
「はぁ、ちょっとゴロゴロするか」
と、ひとりごちながらお気に入りのサボりスポットである草むらに向かった。
このお気に入りの場所は畑のすぐそばだが、斜面になっているので親父のいるところからは見えなくなっている。サボりから戻るのにも苦労しないのがミソだ。
草むらで暫く寝転んでいると、ふと傍にあったひとつの石ころに目が行く。その石ころは綺麗な白色をしていて、若干透き通って見えた。
気になって手に取ってみると、
《汝が力を欲するならば授けよう。ただし、その代価は決して少なくはないだろう》
突然、頭の中に声が響いた。
何がなんだかわからなかった僕は動揺のあまり「え、えぇ!?はい!!」と応えてしまった。
その瞬間、頭を木槌でぶん殴られたかのような痛みを感じ、その痛みに声をあげることもできずに草むらの上をジタバタと転がり回った僕は、暫くして痛みが引いてきたことを感じた。それと同時にまたあの声が聞こえてきた。
《汝に力を授けた。大いなる力には大いなる責任が課せられる。ゆめゆめ忘れぬように。》
と言い終わるとその声は一切喋ることがなくなった。
なんだかわからないうちによくわからないことが起きて何もわからずに終わってしまった。
そんな風に考えていると村の方から声がする。なにやら騒がしい。火事でも起きたのか?と思った僕は石を右手に握りながら草むらから離れ、村へと向かう。
「モンスターだ!モンスターが西の森から出てきたぞ!女と子供は村長の家に避難させろ!」
と子供たちを誘導しながら叫び声を上げる村人の声が聞こえてきた。
「モンスター!?なんでそんなもんが!?」
そこで石に触れたときに聞こえた声を思い出す。
「代価……責任……まさか!!」
代価はあの頭痛だけだと思っていた僕は頭を後ろから殴られたかのような衝撃を受けた。
僕の授かった力の代価、僕のせいで村に危険が迫っているのではないか。そう理解した途端、僕はモンスターがいるであろう村の西に向かって全力で走った。
村の西に到着すると、身長150cmの僕が二人でも足りないくらいの大きさのモンスターを中心に取り囲むように親父と村の大人たちが対峙していた。
目を凝らせば、血塗れになり倒れたまま動かない者もいることに気付いてしまった僕は、自分のせいであの人たちが死んだのだと瞬間的に察してしまい酷く動揺し、その場で膝をついて胃の中のものを我慢できずに口から戻してしまった。
その音に気付いたのかモンスターと僕との間にいた親父が僕に向かって振り返り、言った。
「バカヤロー!なんでこっちに来たんだ!」
という罵倒の声を聞きながら、親父に向かって血塗れの剛腕を振りかぶろうとするモンスターを見た僕は「親父ッ!」と叫ぶ。
(あのままでは親父も血塗れの死体になってしまう。助けなければ!)
震える足に喝を入れ、もんどり打って転びながら必死に走る。
いつもよりもずっと速く走れていることに内心で驚いていた僕は、もしかしたらこれが力なのか?なんて暢気なことを考える余裕すら見せながら親父のもとになんとかたどり着く。
しかし、モンスターの振り下ろした腕はもう目と鼻の先。全力疾走の慣性をそのまま利用して力の限り親父を突き飛ばした。
体格差を度外視したその飛距離にか、はたまた息子が自分を救うために身代わりになったことにか、親父が驚く顔をしながら僕に手を伸ばしているのを最後に見て怪我はなさそうだと安心した僕の視界は暗転した。
「……ィ……きろ……!……オィ!起きろ!」
目を覚ますと親父が僕の頭をひっぱたきながら怒鳴っていた。
「あれ?モンスターは???」
「何寝惚けたこと言ってんだ!さっさと仕事手伝え!」
と言い捨て、肩を怒らせながら仕事に戻る親父を見つめながら
「なんだ……夢だったのか……よかった……」
そう言って僕は右手に握っていた白く透き通った石ころを放り捨てた。
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