その願いは、届かない
みなさんお久しぶりです、こんにちは、そしてこんばんは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 元気だったかな?
ずいぶんと時間がかかったけど、やっと、やっとの事第五話が完成しましたのでアップします。
あ、毎度の事だけどここはまえがきですので本編を読みたい人は
下までスクロールさせてねっ!
話は変わるけど間宮冬弥は先日、こんな愚痴を言ってました。
「マジでか。PSVRってカメラが必要なのかよ。えっ? PS4Kってなんなの?」って。
あれって結構高額なのにさらにカメラ代まで必要だから買おうかどうか迷ってるみたいだったなぁ、それに本体スペックが上がるかも知れない新型PS4も迷ってるみたい。VR対応の新型PS4はホントに発売するかわからないけどね。ああは!
では、間宮冬弥の愚痴なんて放っておいて第五話をお楽しみください。それではっ!
「さて、もうすぐ出口ですよ」
「はぁ……はぁ……」
大部屋から出て数分。少女と剣である精霊のマイラは魔王城の門がある一階に来ていた。
「城から出たらどうします? まずは近く村でも制圧しますか? って……魔王様ぁ〜なんかずいぶんお疲れですねぇ〜」
マイラは床に座り背中を壁に預けている少女に声をかける。少女は息があがっていて肩が上下している。そんな姿を見てあきれたようにマイラは少女の脳内に直接、語りかける。
精霊の言うとおり確かに少女の息はあがり、肩は上下している。呼吸も荒い。ここまで来るのに魔物達と戦っていたのだ。しかも少女は体力もなければ、剣術の心得もないのだ。ましては戦闘の経験など皆無といってもいいだろう。
ここまで戦ってこれたのは『一時的な魔王継承によって得た、歴代の魔王達の一時的な記憶と能力。そして一時的な身体能力の向上』だけなのだ。
あとは、体力に関してはふつうの少女となんらかわりはないのである。
「情けないですねぇ〜たった数体の魔物と戦っただけでこれですかぁ〜? う〜ん城を出たら、まず体力をつけましょう。今のままじゃ魔王継承した魔王様の能力を使うことはできませんから。それと戦術も学びましょう……えっと、とりあえず立ってください」
「はぁ……はぁ……うっ……はぁ……はぁ……む……り……」
少女は上下しあがる胸で無理矢理声を上げる。
「なら、体力を回復してください」
「お願い……休ま……せて」
せわしなく上下する肩と右往左往する胸。少女は絞り出したか細い声で精霊に訴えた。
「……ん? 何を言ってるんですか? 『瞑想』をしてください。あ、そうでしたね。『記憶の制限』がかかっているんですね。魔王様。申し訳ございません」
マイラはひとりで納得し自己完結して、少女に謝った。
「はぁ……はぁ……」
「しょうがないですねぇ〜特別に『思い出させて』あげます。魔王様。私の言うとおりにしてください」
「えっ……?」
「いいからいいから。では、まず目を瞑ってください」
「目を……」
「ささ、目を閉じてください」
少女は頭に直接響くマイラの声の言うとおりに瞼を下げる。
「いいですよ。そのままでお願いします」
少女は精霊のマイラに言われるとおり目を閉じ続ける。
「元気な自分を、体力全快の魔王様を想像してください。ゆっくりでいいですよ」
眠りに誘うかのようにマイラはやさしく、ゆっくりとした口調で少女に話す。
「元気な……自分……」
少女は目を閉じ想像して……思い出す。この世界に来る前の、自分が本来いた世界のことを。自分の日常を。友達と遊びに行っている自分を。
「えっ……」
すると、フワっとした感覚が身体中を覆い、その次に心地いい感覚が包む。
「目を開けていいですよ」
「なにこれ……」
そして、マイラに促され少女は瞳を開ける。
「さっきまでの疲れ……痛みが……嘘のようになくなってる……?」
床に座り込んでいた少女は立ち上がり、自分の足を見る。さっきまで立てないくらいに足が疲れ果てていたのだが、今はしっかりと立てるほどに回復している。さらに傷をいた身体に痛みもなくなっている。
「すごい……」
少女はその場でピョンピョンと垂直の跳ね上がり、自身の体力を確認するかのように何度もピョンピョンと跳ねる。
「これが魔王様の能力のひとつの『瞑想』です」
「瞑想……」
マイラの言葉を繰り返す。
「あ、私が使ってと言った手前これを言うのは何ですけど……瞑想体力回復と引き換えに思い出した『自分の記憶』を使用します。なので、本当に必要な時にしか使わないでくださいね。まぁ、想い出なんていらないというのなら、どんどん使ってください」
「記憶、を使う?」
少女はオウム返しにマイラに聞き直す。
「はい。今、魔王様が瞑想で使われた記憶はもうありません。さっき思い出した想い出を、思い出せますか?」
「えっ……あれ……そんな……どうして?」
少女は左手で軽く口を覆い隠し、先ほど自分が思い出した想い出を思い出しそうとしているがどうしても思い出せない。
「あ……わたし、さっき何を」
思い出したんだろうと、自問自答したが思い出せない。頭をフルに回転させるが、思い出そうとしている思い出がどうしても思い出せない。
「それが思い出を使う回復術の瞑想です。使用はあまりオススメはしませんけど。あ、それと歴代の魔王様の記憶は使用できません。使用できるのは『ご自分が体験した記憶』だけですので」
「うん、そう……だね」
マイラの言葉を耳に通さず、少女は自分が思い出していたであろう記憶を必死に思い出す。だが、思い出そうとするが、まったく思い出せない。すっぽりと抜け落ちている。そんな感覚が頭を駆けめぐっている。
(……どうして思い出せないの? とても楽しかったはずの記憶なのに……思い出せない)
楽しいと感じていた事は思い出せるが、それが何なのかは思い出せない。そんな状態のまま、少女はそれ以上考えるは無駄だと思い考えるのをやめた。
思い出せないものは思い出せない。そう結論と紐つけた。だからもう考えないことにしたのだった。
「では、体力も回復したことだし、行きましょう! 出口はすぐそこです!」
「うん……」
そして、少女は精霊と共に腑に落ちないままの魔王は出口に向かい歩き始めた。
◆
「さあ、魔王様。あの扉を出たら念願のこの城から抜け出せる出口ですよ!」
少女と精霊がたどり着いたのは一階にある大広間。広大なこの場所は遮るものがほとんど無く、強いてあげるなら二階部分を支える大きくて幅のある柱が数十本あるだけだった。
「やっと……だ……」
少女はその扉の向こうにある外の景色を思い描いているのか足取りが速くなる。
「クアァアア〜 クアァアァア〜〜〜!」
「ん? おやおや、魔物に見つかってしまいましたね」
マイラは少女に知らせると少女も立ち止まり、こちらに向かってくる魔物を見る。
その魔物はまるで少女いた世界にいる『カラス』のように真っ黒で、そのカラスを巨大化しているような風貌だった。
その大きく広げた肩羽の先端からは三本の指のようなモノが生えており、その指には一本の剣が器用に握られていた。
「そんな……すぐそこなのに……もうすぐなのに……!」
向かってくるカラスの魔物を睨みながら邪霊魔神剣メキドゾーマを構える。
「お、お? いいですよ、すごくいいですよ。心躍るような、心地よい殺意と絶望です。メキドゾーマを通して私にヒシヒシと伝わってますよ! 魔王さまぁ!」
マイラはうれしそう、雄弁に少女にささやく。
「魔王様。その殺意をあいつにぶつけてください。遠慮はいりません。魔王様の思うとおりに邪霊魔神剣を振るってください。『いつも』どおりに」
「いつもどおり……」
オウム返しに答えた少女は邪霊魔神剣構え、空中からのオオカラスの攻撃に備える。
「クアアアアアア!」
空からオオカラスの剣が少女に振り下ろさせる。
少女はその攻撃を読んでたかのように、サイドステップでひらりとかわした。
「はぁ!」
攻撃のスキを付いての横薙ぎの水平斬り。
しかし、オオカラスは羽根を羽ばたかせ、空中へと回避。
「かわされた!?」
一撃がかわされた、少女は驚く。
数少ない戦いの経験から、今の一撃は入ると思っていた。だが、その一撃は入らなかった。
「魔王様、集中を切らさないでください!」
一瞬の集中の切れた隙間をオオカラスは見逃さず、羽根を大きく羽ばたかせる。
「うっ! あうっ!」
大きな羽根の羽ばたきから起こる風で少女は体勢をくずし、後ろへと後転、横転を繰り返し、吹き飛ばされていく。
「くっ! 痛っ!」
壁に背中から激突し、止まる。
「あんな強風……防げないよ……」
「魔王様!」
「えっ!?」
マイラの切羽詰まった、叫びにも似た声に少女は、ハッ、オオカラスを見る。
「なに……なんなの……」
少女の眼に映ったのは、オオカラスが口の先端から大きな炎の玉が形成、生成される様だった。
「ぼぅっとしないで! 回避してください!」
「えっ!」
少女が意識したが、遅かった。オオカラスは口に炎を宿し、その大きな炎を放った。
「遅いです! こうなったら邪霊魔神剣であれを斬ってください!」
「で、でも!」
「私は剣ですから大丈夫です! だから早く!」
躊躇している少女にマイラは声を荒げ自分より格が上の主に指示を出す。
「ええ〜〜い!」
少女はマイラに言われるがまま、剣を振りかぶり、迫った炎に力一杯に振り下ろす。
剣と炎は接触し、そして剣は最後まで振り切れず、炎は空中で停滞。
そして数秒の均衡が生まれる。
「魔王様!」
「……弾けて、裂けろぉぉぉ〜〜〜!」
大きな声で叫び、剣を思いっきり振り切る。斬り裂かれた炎は一瞬、真っ二つになって、光が輝きを増し激光となる。
「えっ……き、きゃああああぁあああぁぁぁあああぁぁああああ〜〜〜!」
「魔王様さまぁああぁああああぁああ!」
斬り裂かれた炎は、少女の言葉通りに弾けて、大爆発を引き起こし少女とその手に持つ剣ごと吹き飛ばした。
◆
「〜〜〜〜あああぁあああぁああああああぁあああ〜〜〜〜〜〜〜!」
爆発のエネルギーで吹き飛ばされた少女は壁に激突。だがその勢いは止まることもなく壁にめり込み、壁を破壊し、突き破り外へと放り出された。
まるで木片が吹き飛ばされたかのように肩から地面に落ち、さらにそこから縦回転、横回転、頭や足の位置が天地になるのを繰り返しながら中庭を転がり、転がり、転がり、木に思いっきり当たり回転が止まった。
「魔王様!」
「あうぅ……マイラ? あれ? わたし……生きてるの……? どうして……?」
額や腕、脚や肩から血を流し、満身創痍で五体不満足な少女は血だらけ。上の世界から着ている制服も赤く真っ赤に染まっていた。
だが、少女は生きている。あれだけ大きく吹き飛び、壁に激突し、さらには壁を貫いたにも関わらず少女は満身創痍ではあるが生きている。
生きているその理由は魔王だけが纏う事が許される『闇の加護』だが、それを知るのは少し先のことだ。
「痛っ……痛い……ううっ……痛いよ……」
少女は痛みが走る体を起こし、左手で右腕を押さえ流れる血を抑える。
「申し訳ございません……まさか、火炎魔法に爆裂を仕込んでいたなんて……」
「こんなに痛いなんて……イヤだよ」
「魔王様?」
言葉ではそういいつつも、少女の左手は無意識に半身になり床に落ちている『邪霊魔神剣』を拾いあげ、力強く握り、正眼の位置で構える。
「痛い……痛い……痛い……痛い……もうヤだよ……」
剣を構えた少女涙を流しその場を動かない。だが口だけは小刻みに動き、『痛いよ、痛いよ、痛いよ、もうイヤだ、痛いのはイヤだよ……』と小言を漏らす。
「魔王さま、もう一度瞑想を!」
「ううん瞑想は……『想い出』は使わない……」
少女は即答で否定を返す。
思い出という記憶を使用する、瞑想に少女は恐ろしさを感じていた。自分の大切な想い出を使う。そんな恐ろしい回復術の『瞑想』に少女は否定と封印という解答を導いていた。
使い続ければ、少女の記憶はいずれ空っぽになる。それが恐ろしかった。記憶が空っぽになればそれは『ゼンマイで動くただの人形』とも思っていた。
「カアアアアア〜〜〜〜〜!」
少女の思いを知らずか、オオカラスがトドメをささんとばかりに上空から少女を強襲しだす。
「だから……もう終わりたい!」
少女は顔をあげ、迫り来るオオカラスを見据える。
空からのオオカラスは剣を振り下ろす。その振り下ろされた剣を少女は邪霊魔神剣で左から右にいなす。
「……!」
体勢を崩したオオカラスは勢いを止められず地面に激突、すぐさま羽根を羽ばたかせ空へと逃げる。
「逃がさないよ……」
少女はマイラにも聞こえない声でつぶやき、右手の平を空を飛ぶオオカラスにかざす。
そして、その手には黒く光る大きな光の球体が生成されていた。
黒く輝く球体を見たオオカラスは危険を察知したのか、さらに羽根をはばたかせ、上空へと飛び上がる。
黒く輝く球体は輝きを増し、大きく、大きくなっていく。
「……」
そして、少女は何も言わずに、輝く球体をオオカラスに放った。
放たれた黒い波動はスピードを増し、空を舞うオオカラスに一直線に向かう。
「クアアアアアア〜〜!」
しかし、オオカラスは大きく羽根を羽ばたかせ横へと回避し、黒い波動をやりすごす。
「クァ……?」
オオカラスは視線を戻すが、眼は豆鉄砲を喰らったかのように点になっている。
なぜなら黒い波動を放った少女が『いなかった』からである。
空から地上を見渡してもどこにも少女の姿はない。
「捕らえたよ」
「……!」
空を飛ぶオオカラスの真後ろ、いつの間にか上空にその少女の姿があった。
「お願いだから、もう邪魔をしないで」
まるでオオカラスを諭すかのように冷たく、感情のない声を発する少女。
その手には一振りの剣。紫色に輝く黒と赤の色で染められている剣が握られている。その禍々しい剣を下から上へと、空を、天を斬り裂くように薙払う。
薙払われた空には黒い砂が舞い落ち、空を黒く彩っていた。
邪霊魔神剣によって斬られたオオカラスは断末魔をあげる事無く絶命し、オオカラスの最後は『黒い砂』となって散った。
「あうっ……! はぁはぁ……」
空から地上に降りた少女は片膝をつき、そのまま息を整えるかのように肩を上下に動いている。
「や、やりましたね……まさか、『空間転移』を使用するなんて思わなかったですよぉ」
マイラの賞賛にも耳を貸さずピクリとも動かず息を整えている。
「やっとだ……わたしはこれで……」
少女はユラリと立ち上がり、フラフラの足取りで、城の城門まで歩みを進める。
「……あと、少し……もう少しで……」
一歩、一歩城門へと向かう足取り。
「あと、少しですね……」
目と鼻の先には城の入り口を守る大きな城門がある。あの門の向こう側は外へとつながっている。
踊る心を押し殺し、ゆっくりと警戒しながら城門へと向かう。
「マイラ? なんだが元気がなさそうだけど……大丈夫?」
少女はマイラの変化に気づき声をかける。
「ええ、ご心配には及びません……少し疲れただけです……」
「そ、そうなんだ」
その後も少女はいままで剣となり一緒に戦い、支えてくれた具合が悪そうなマイラを心配し声をかけるが、マイラは『大丈夫です』の一点張りだった。
「ここまでこれるとは、いやはや意外だったぞ」
「えっ……」
声は城門から響く。そして、『それ』は姿を現した。
「アウラ……さん?」
「さすがは我が父の力。いや一時的とはいえ魔王の力。と言ったところか。まさかクロウが倒されるとは夢にも思わなかったぞ」
黒い霧から姿を現したのは魔王の娘であるアウラだった。その姿は禍々しい黒い服装で鎧のようなモノも羽織っていた。
「なんで……」
「なんで? お前はなんでと問うのか? この私に」
「お願い。わたしをここから出して……」
「出たいのなら私を殺してから出ろ」
「そんな……」
「言っただろう。この城には凶悪な魔物や『凶暴な者』もいると」
少女は城門に立ち塞がる魔王の娘を絶望の眼差しで呆然と見ている。
「ちょっとぉ、ケチケチしないでここから出しなさいよぉ〜」
剣の姿から精霊の姿に戻ったマイラがアウラに文句を垂らす。
「だまれマイラ。私は今『魔王もどき』と話をしている」
「なっ! 魔王もどきってなんなのぉ! 魔王様はれっきとした魔王さまだぞぉ!」
「どうしたマイラよ。ずいぶんと魔力が落ちているな? 疲労でもたまっているのか?」
「ちっ! うるさいなぁ、アウラは」
「ふん。もどきよ。我が父上の思いに反してこの城から出ることはできん」
マイラの反論を聞き流しアウラは少女へと視線を向ける。
「約束が……違う……」
「約束が違う? いいや違わない。なぜならお前はまだこの城から出ていないからな。そして、私が最後の砦だ」
「……なんで……なの」
「なんで? とはおかしな事を聞くな。貴様は」
「魔王様やってやりましょうよぉ! ここが執念場ですよぉ!」
マイラは少女とアウラの話に水を差す形で、少女の眼の前で邪霊魔神剣の姿に戻る。
「私が与えた剣は無駄だったか……まあいい。その父の剣を取れ。魔王となる者よ」
アウラは地面に刺さった剣を抜き取る。それはさきほどまでオオカラスが持っていた剣。
アウラが持つとその剣はとても大きく、アウラ自身よりも背丈も幅もある巨大な剣をアウラは軽々と持ち上げ、肩にその剣を乗せる。
「瞑想する時間をやろう。全力全開でこい」
「……瞑想は……しません」
思い出を消費する事を拒否した少女の意志は固い。もしかすると瞑想するくらいなら死んだほうがいいとさえ思っているのかもしれない。
「ほぅ」
「ここが、執念場……ここから生きて出る」
少女は邪霊魔神剣を握り、上がる肩と息を整えアウラを見据える。
「手加減なし、私は全力でいくぞ。いいな」
「おしゃべりはいいです。こっちはしゃべる余裕なんて、無いんですよ」
「……参る」
アウラが駆ける。
「はぁ!」
「くっ……!」
アウラの横薙ぎの剣戟を少女はメキドゾーマで受け止める。
「よく受け止めたな……だがそのまま受け止めているだけでは、戻ることも進む事もできんぞ?」
「お……重い」
アウラの一撃を受け止めた少女はその剣の重さに受け止めたまま動けないでいた。いや、重くて動けないのではなく、『その後の対策がわからない』と、言ったほうがいいだろう。
「何もしないのならそのままじっとしていろ!」
アウラは少女の言の葉を巻くと、その手に持った剣を、腕を振り抜く。
「きゃああぁあああ〜〜〜!」
振り抜かれた勢いでメキドゾーマごと空へ吹き飛ぶ少女。
「魔王様、空中制御ぉ!」
「あうぅ……」
少女は言われるがまま、空中でなんとか体勢を立て直し、大地へと着地を試みた。が、
「あ……」
着地する大地では、アウラが手のひらを少女に向けている。そしてその手のひらには黒く禍々しい光の球体が生成されていた。
「うそ……」
そして、少女が着地する寸前で、その黒い球体は放たれる。
高速のスピードで迫り来る黒い光体に少女はメキドゾーマを防御の体勢で構える。
「く……! きゃあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
メキドゾーマを盾代わりに防ぐが、黒の光球の勢いはまったくとまらずに勢いを殺しきれず、再び後方へと少女は吹き飛ばされる。
「痛っ……」
吹き飛んだ先に緑の葉を纏う樹に背中から直撃して、地面に崩れ落ちる。
「戦い方も知らないこのような者を……魔王に……父はなぜ……」
大地にうつぶせに倒れピクりとも動かない少女を見下しアウラは姿無き父に問う。
だが、もちろん答えなど返ってこない。
「立て。城に戻るぞ」
見下したままアウラは少女に言葉を乱暴に投げる。
しかし、少女はアウラの声が聞こえていないのかまったく動かずに、うつ伏せている。
「死んだか? ふむ、さて困ったな継承者がいないではないか。いないなら魔王の座は私が受け継ぐ」
アウラが少女へと一歩、一歩近づく。少女の生死を確かめるために。
「生きているなら起きろ。死んでいるならそのまま寝ていろ」
眼下には動かない少女。アウラの問いかけにも動かない。アウラはひとつため息をついて『やはり死んだか』と続けた。
「マイラ。魔王継承者は死んだ。来い。すべては私が受け継ぐ。継承の儀を始める」
アウラは少女に踵を返し、城へと戻りはじめる。
「……困ったものだな。マイラの入れ知恵か? いや悪知恵か?」
一歩、歩いただけのアウラはおもむろに剣を水平線状に保ち天へとかざす。
「どうして……」
「どうして? いやはや、後ろからの奇襲とはな。なかなかどうして魔王らしく汚い戦法ではないか?」
一切少女に振り向かずに、振り下ろされた邪霊魔神剣を大剣で受け止めた。
「はうっぅ!」
邪霊魔神剣を受け止めたまま、アウラは振り向き様に高速で強烈な回し蹴りを少女の腹部へとめり込ませた。
吹き飛ばされた少女は先ほど同じ樹に背中からぶつかり、力なくダランと地面へと崩れ落ちる。
「貴様は『どうして?』 問うたな? 簡単な事だ。答えてやろう」
「ううっ……い、痛いよぉ……」
腹部を手で押さえ、苦痛の表情で立ち上がる。
「お前からは魔王の強大な魔力がだだ漏れだ。そんなに魔力を漏らしていたら生きている事なんてすぐにバレる」
「魔力……?」
「マイラ。お前ほどの精霊がそのような事を気づかないわけでもあるまいよ? ん?」
アウラは気づく。少女の手には邪霊魔神剣が握られていないことを。
「貴様、メキドゾーマはどうした?」
「はぁはぁ……」
少女は手のひらをアウラへと向ける。
「何のマネだ?」
「うっ……はうぅ……も、もう、動けないですよね……?」
「なんだと? むぅ!?」
アウラは剣を振り上げようとしたが腕が動かない。いや、身体全体がまったく動かないでいた。
「身体が縛られる……? これは……どういうことだ?」
見えない何かに縛り付けられ、動かない身体に混乱し困惑するアウラ。しかし眼だけは忙しなく動かし視線移動を繰り返し、状況を判断している。
「メキドゾーマ……そうか貴様、剣に『蛇影縛』をかけていたな……」
自分の真横。地面に刺さった邪霊魔神剣に気づいたアウラは何かを悟る。
「なるほどなるほど。影に刺さった剣を介しての魔法の遠隔発動……後ろからの奇襲はこの為の囮か? 自分の身を挺しての囮とは考えたではないか。見上げた『覚悟』だ」
「はぁ……はぁ……くっ」
右手はアウラに向け、左手は腹部を押さえる少女の顔はさらに苦痛で歪んでいく。
「だがな……魔王継承者よ」
少女の手のひらから黒く禍々しく光、黒い光球が生成されていく。
「魔王の娘を舐めてくれるな! 私を倒そうとするなら、殺すつもりで来い!」
アウラは黒い魔力を放出させ、魔力だけで束縛魔法を強引に斬り裂き、解除し、見えない縄を消し飛ばす。
「首まで縛り付けてこないのは優しさか? 哀れみか? そんなものはいらんのだ!」
「くぅ……わたしは……この城から出てるんだ……家に帰るんだから……邪魔しないで!」
少女の絶叫と同時に黒く光る球体をアウラに向かい放った。
「帰る?! 下らん!」
アウラは剣を薙ぎ、黒い球体を斬り裂く。
「ちっ、まさかアロンダイトの剣が砕けるとは!? 流石と言っておこう!」
斬り裂いた衝撃でアウラが持つ剣は粉々に砕け散った。柄から先の刀身は微塵も残っておらす、残った柄だけが剣だった名残を残す。
「ふぅ、マイラ!」
少女は息と吸い込み、吐き出すと同時にアウラに向かい一目散にダッシュをかける。
「はい、魔王さま!」
そして、少女の声を聞いた剣は、精霊に戻り、飛び立ち少女の元へと羽ばたく。
「はぁあぁあああ〜〜〜〜〜!」
マイラは空中で再び剣へと姿を変え、少女は速度を落とすことなく、さらに加速し、宙に浮く剣を掴む。
「貴様のその甘えた考え……考え改めさせてくれる! 来い! 地獄の大鎌よ」
アウラは大鎌の銘を叫び、その声に呼応するかのように斬り裂かれた空間から『大鎌』が姿を現す。
「はぁあああぁあああ〜〜!」
「うおぉぉおぉおおお〜〜!」
激しくぶつかり合う剣と鎌。空に響く金属音。
それと同時に発生した光と稲妻。
大地と大気は震え、土が塵になり空へ巻き上がる。
強大な魔力を纏った武器のぶつかり合いは空の雲をも吹き飛ばし、太陽の光よりも輝く光の奔流があふれ出している。
「どいてください!」
「くどいぞ! ここを通りたくば私を殺せ!」
「殺すなんて……できません!」
「なら……大人しく城に戻れ!」
「……くっ! わたしは……帰るんだ!」
「我が儘な……父上はなぜ、お前のような小娘を!」
アウラは両腕の握り、大鎌に力を篭める。
「帰るんだ! わたしは!」
「なん……だとっ! 押されている!? 私が!」
鍔迫り合い状態だった均衡が徐々に崩れていく。
黒いオーラを纏いつつある少女の剣が徐々にアウラに近づいていく。
「どいてください……」
「魔王とあろうものが……しつこいぞ?」
「なら……剣をこのまま振り切ります」
「殺れるものなら殺ってみろ!」
「……うわああぁああぁあああ〜〜〜〜〜!」
少女の周りにさらに黒いオーラが出現し、その周りに黒い稲妻がはとばしる。
しかし、少女が剣を振り切るその時、それは訪れた。
「申し訳ございません……魔王さま」
「えっ?」
マイラの力ない声が少女の脳内に響く。
「時間切れですぅ……」
その言葉を最後に邪霊魔神剣は精霊マイラへと戻った。
「えっ……なに……時間切れ……って?」
精霊に戻ったマイラは意識が無いのか、その黒い羽根は再び羽ばたくことなく精霊ごと地面に落ちた。
「剣が……? そんな……もう少しなのに……なんで、なんでなの……」
少女の両の手にはもう剣はない。何も握られていない腕はむなしく空を切る。
「魔王の息吹が……そうか終わったか」
「は、ぐっ!」
アウラの声が聞こえたと思った瞬間に少女の腹部に強烈な痛みが駆けめぐる。
猛スピードで吹き飛び、樹の枝を揺らし、または枝をへし折りながら再び、城壁へと背中から激突して勢いは止まる。
少女が激突した城壁はクレーターのように放射状に広がり、アウラの蹴りのすさまじさを物語っていた。
「ぐっ……がっ……はっう」
大きく吹き飛ばされた少女は城壁に激突しそのまま立ち上がることさえできなく地に伏せている。
「時間切れだな?」
アウラは少女を蹴り飛ばした脚を降ろし、ゆっくりと少女の下へと歩む。
「がっ……ぐっ、はぅ……うう……」
口から大量の血を吐き出し、左腕は痛みを押させるように腹部に当てられている。瞳は涙で溢れ、顔は汗と苦痛で占められている。
「さあ、立て。城に戻るぞ。」
アウラは腕を掴み強引に立ち上がらせるが、自力で立つことができない少女はアウラの支えがないと再び地面に伏せてしまった。
「あう……がはっ……ごほっ、うぐぅ……」
少女は息を吸い込むたびに、むせかえり吐血し、大地を赤く染め上げていく。
「肺をやってしまったか? まったく、魔王でなければこんなに貧弱で華奢な身体なのか……父上……なぜこの娘なのですか?」
アウラの何度も沸き上がる疑問に答える父はいない。
「マイラ、この者を立たせろ」
アウラは少女と同じく地に伏せている精霊に命ずる。しかし、マイラはピクりとも動かずに地に伏せたままだ。
「……魔力を使い果たしたか……主になるであろう者が、死にかけているのに気絶とはな……いいご身分なことだ」
マイラを一瞥するとアウラはイノシシ型の魔物を数体召還し、少女とマイラを城の魔王の間に運ぶように命じて踵を返した。
「待て……父上の間ではなく、まずは最上階にある『世界樹の涙』をそいつに飲ませろ」
振り向かずに訂正、再命令するとアウラは太陽が輝く天を仰ぐ。イノシシの魔物はひとつうなずくと城の中へと消えていった。
「ふぅ……まったく。次期魔王にも困ったものだ……」
アウラは青く澄んだ空を見上げてそう呟いた。その声の感情から今後もあの少女が『帰りたい』などと戯言を言うのか思うと気が重い。
「ん?」
天を仰いだ先には骨だけで飛ぶ小鳥サイズの魔物『骨鳥』がアウラに向かって滑空飛行して高度を降ろしていた。
「どうした?」
鳥骨はアウラの肩に留まり、首を伸ばしアウラの耳へとくちばしを持って行き、アウラも耳を骨鳥に近づける。
「そうか……勇者は逃げたか……深い追いをするなと皆に伝えろ。どうせ行き先は目と鼻の先だ」
骨鳥はアウラの命だけを聞くと、骨組だけの羽根を大きく振るわせ、空へと飛び去っていった。
「心を突き刺すくらい不快な空だな』
アウラは青く澄み切った空を見上げて皮肉混じりに声を漏らした。
第五話 その願いは、届かない 完
こんばんは、間宮冬弥です。
まずは、小説を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
第五話の完成が遅くなり申し訳ございません。なるべく早く更新できるようにしたいのですが、なにぶん忙しく難しい状況です。ご了承ください。
第六話もまだ執筆したばかりです。完成までお待ちください。
それでは、短いですがこれで失礼します。